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鴻鵠の志  作者: 大田牛二
第二部 楚漢戦争

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彭城

 斉の田栄でんえいの弟・田横でんおうは散卒を集めて数万人を得ると。田栄の子・田広でんこうを斉王に立てて楚に対抗するために城陽で挙兵した。


 項羽こううは斉地に留まって斉軍と連戦し勝利を収めていったが、田横はどれほど倒されようとも立ち上がり、抵抗を続けたためなかなか鎮圧することはできなかった。


 項羽が斉に目を向けているため、諸侯の兵を持って五十六万を率いる劉邦りゅうほうの軍の進撃は止まることはなく楚に進攻し、外黄に至った。


 劉邦が外黄に至った時、彭越ほうえつが兵三万余人を率いて帰順してきた。


「彭将軍は魏地(梁地)を収めて十余城を得たため、急いで魏の後代を立てたいと思う。今は西魏王・ひょうこそが本当の魏の後代であると言える」


 劉邦は彭越を魏の相国に任命し、自由に兵を率いて魏の地を攻略するように命じた。よほど彭越を傍に置いておきたくないようである。


 その後、そのまま劉邦の軍は楚都・彭城を攻め落とした。


 ここから正に目を覆いたくなる光景が広がった。諸侯の兵によって貨宝や美人は奪われ、政治を顧みることなく、日々酒宴を開いて騒ぐという有様であった。


「秦を落とした時と同じだ」


 張良ちょうりょうは眉をひそめる。


「漢王はこういうところは甘いようですね」


 荒れ放題の状況を眺めながらも二人は特に劉邦を諌める動きを見せない。


樊噲はんかい曹参そうしん韓信かんしんといった軍部の上位にいる人たちはおらず、蕭何しょうか殿もいらっしゃいませんし、中々に難しいですね」


 軍部の彼らや蕭何ならこの状況での諫言もしやすいが自分たちは諫言するとなると劉邦に無用の警戒心を抱かせてしまう。


 因みに先に挙げた三人は章邯しょうかんとの戦いに奮闘している。章邯はここまで抵抗を続けており、それらの三人の将軍は派遣されていたのである。


「さて、どうしたものか……」


「ここは沈黙でよろしいでしょう」


 陳平はそう言った。彼からすると劉邦のこの光景を見せられても劉邦への失望が無い。彼からすれば必要な時に必要なことを聞いてくれれば良いのである。


「まあ、そうですね」


 張良としてもこの状況で諫言を行うのはあまり利益が出ない。


 二人は静かに盃を交わした。


 一方、陸賈りくかはある人物と会っていた。叔孫通しゅくそんとうである。


「久しぶりだね。お爺ちゃん先生」


「相変わらず、じゃのう」


 陸賈はかつて叔孫通の講義を受けたことがある。


「お爺ちゃんお弟子さんいっぱい抱えているんだね」


「まあのう」


 陸賈は弟子たちを見回す。


「やけに年長の人がいるね」


 弟子の中にやけに年を食った男がいる。


「学びに年齢は関係ないんじゃ」


「ふうん」


 陸賈はその弟子を見続けた。










 かつかつ


 足の音が宮中の中に響き渡る。


「項羽には愛妾がいると聞いたが……」


 父である劉邦の命令で項羽の親族などを捜索するよう命じられていた劉肥りゅうひは宮中を探っていた。


「妙だな。生活感が無い」


 いくつか高貴な身分が過ごす部屋を見て回り、その一つを開いて中に入った時、劉肥はそんな感想を抱いた。


「寝室のようだが……」


 それにしても生活感が無い。


「ふむ」


 劉肥が顎を撫でた時、すっと首に何かが触れたのを感じ、思わず飛ぶ。首から血が僅かに流れる。


「ふうん、よけれるのね」


 女の声が聞こえた。それはそれは美しい黄色い目をした女であった。


「化物」


 劉肥は剣を抜き、一閃する。


「女に向かって化物とはいやねぇ」


 女は剣を片手で受け止める。


「女だと、何を言っている()()()()


 女は目を細めた。そして、目の前の男の目が黄色いことに気づいた。


「ふうん。あなた、その目は元々かしら。それとも……」


 女はそういうと剣を砕くと手が鋭く伸び、劉肥の胸を貫こうとした時、


「そこまで」


 胸に貫こうとする手を黄色い服の男が掴んで止めた。女は手を振り払うが、黄色い服の男は布を広げると自らと女を包み込み。女もろとも消えた。


「なんだったんだ。あれは……」


 劉肥は呆然としたまま砕かれた剣を持っていた。


「あんたね」


 女が黄色い服の男と共に城の一番上の部分にいる。


「何がだ?」


「あの男の目よ。目。あんたよくもまあ目を与えたものね」


 女……虞姫ぐきはそういう。


「ああ、あれか。そうだあれは私が与えたものだ」


「あなた仙人でしょう。あんな真似が許されるというの?」


 黄色い服の男……黄石こうせきは空を眺める。


「私は知りたいのだ。人は常に同じ答えを出し続けるのかどうかを」


「あなた何様のつもりよ」


 虞姫は不快そうな表情で彼を見る。


「だからこそ私は力を与えた。いや機会を与えたのだ。別の答えを出すための機会をな」


「あの男を使っての実験というわけね。くだらない」


 彼女は吐き捨てるようにいった。


「見よ」


 黄石は彭城へ向かってくる軍勢を指差す。


「覇王の軍勢が来る。天の運命が導いたのか。人の答えによって今があるのか。汝はどう思う?」


「知らないわよ」


 虞姫は手を刀のようにすると黄石の首を飛ばした。


「やれやれ、困った女子よ」


 飛ばされる首を手を伸ばして受け止めた黄石は首を角度を調整しながらくっつける。


「人を随分やめてるわね」


「修行の成果さ」


 黄石はそう言って布を広げて自分を包み込むと消えた。





 




叔孫通のとこで講義を受けている時は陸賈はくそ真面目ですが、それ以外はサボります。

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