項梁
遅くなりました。ちょっとパソコンが使えず、パットで書いていました。
楚の項羽と沛公・劉邦は定陶を攻めていたが、攻略できず、西の地を攻略しながら進み、雍丘に至った。そこで秦軍と戦って大勝し、三川守・李由(李斯の子)を殺した。
その後、兵を還して外黄を攻めたが、なかなか攻略できなかった。
項羽は城攻めが苦手のようで、劉邦は項羽を差し置いて勝手な戦もしなかったためにこのような状況であった。
二人が攻略に上手くいっていなかったようだが、一方の項梁は秦将・章邯を東阿で破ってから兵を率いて西に向かい、北に移った。その動きを見て、章邯は定陶に移動した。
しかしそれは項梁の狙いであった。密かに定陶へと進撃し、再び章邯が率いる秦軍を破った。
これで立ち直ることはないだろうと考えた項梁は再び、斉、趙との交渉を始めた。これに悠長ではないだろうかと考えたのは宋儀であった。
「戦に勝利してから将が驕って卒が怠惰になった者は敗れるものです。今、士卒に少しずつ怠惰の心が生まれています。秦兵は日に日に増えていますので、私はあなたのために畏れます」
項梁は諫言を聴かなかった。彼には驕っているというつもりは一切無かっただろう。逆に慎重なぐらいだと思っている。近くに控えている范増も同じ認識である。
(ただ慎重しすぎるのではないだろうか……)
そう思わないでもないが、項梁としてはしっかりと斉、趙との連携を取りたいのと万が一、後方を乱されるようなことがないようにしてもらいたいと考えている。
(今後の関係も考えながら戦することも大切だろう)
少なくとも項梁は秦打倒の後も考えている。そのことは決して間違いというわけではないだろう。
しかしながら兵たちはどうだろうか。そのことが項梁と范増の頭から抜け落ちていたことは確かだろう。また、この時の二世皇帝・胡亥が無理やり兵を徴兵して送っているという事実を知らなかった。
項梁は斉との交渉のため宋義を使者として斉に派遣した。道中で斉の使者・高陵君・顕(顕が名)に遇った。斉の田栄は最初は断固として、楚に従わない意向を示していたが、秦軍を再び破ったことを知り、
(これは……秦打倒が成されるのだろうか……)
だとすれば、この勢いに乗らなければ、斉という国が本当に滅ぼされてしまう。そう考えて使者を出したのだろう。
宋義が問うた。
「あなたは武信君(項梁)に会いに行くつもりでしょうか?」
「そうです」
「私は武信君が必ず敗れると断言しましょう。あなたはゆっくり行けば死から免れられますが、速く行けば、禍が及ぶことになります」
高陵君・顕は彼の言うとおりにした。
章邯は二度破れたことで意気消沈していたが、そんな彼の元に兵が本国からやって来た。胡亥の数少ない良い判断であったと言えるかもしれない。
「これでまだ戦える」
章邯にとって戦場こそが生きる場所である。その戦場にまだいることができる。戦うことができる。彼は項梁の動きを見た。
「定陶に居続けている」
絶好の好機というべきである。彼は行動に移した。
その頃、項梁に進言を行っている男がいた。その男は若く、地図を多く持っている。
「こことここの地点は兵を隠しやすい地点です。ここに兵を派遣し、防御を固め、秦軍の奇襲に備えるべきです。もっと良いのはこの城を出ることです。この城から出るべきなのです。ここに奇襲をかけられますと逃げる時が大変です。なぜならここは守りやすいものの、逃げるとなると大変な地形だからです。それでも逃げなくともこことここにさえ、兵を置けば、だらしなく逃げることはないのです」
怒涛の口上で彼は兵の置いて奇襲に備えるように進言を行った。しかし、項梁はこれを聞き入れなかった。秦軍に奇襲するだけの余力は無いと考えていたのである。
進言を受け入れられなかった男は舌打ちして、一人項梁の元から離れていった。
「くそ、私の言うことさえ聞けば負けることは無いのに」
男は自尊心が強く、自分が考えた戦こそが最高の戦であると考えている。自分の思い通りにならないことに憤りながらさっさとこの城から逃げようとばかりに行動を始めた。
自分の考えこそが一番という傲慢さを有し、聞かないと見ればさっさと離れるという義理堅さの欠片さえも無いこの男の名を韓信という。そんな男に天は最上の戦の才覚を与えた。
天は滑稽を好み、喜劇を好む。
韓信逃げ出す準備をしようとしている頃、章邯は馬に牧(声を出さないためにくわえる板)を銜えさせて項梁のいる定陶に夜襲を仕掛けた。予期しない夜襲に楚軍は混乱した。いやただ一人、韓信だけは予想しており、それみたことかと呟きながらさっさと脱出した。
この混乱の中、項梁は戦死した。彼は次の時代の担い手としての才覚を有し、その勢いもあったが、章邯の執念がそれを打ち砕いてしまった。しかしながら彼の残した功績は大きなものであったことはたしかであり、新たな時代への道筋は彼が作ったと言って良いだろう。




