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鴻鵠の志  作者: 大田牛二
第一部 動乱再び

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沛公

 最近、「蛇足伝」の更新のためにも短編を書きたいなあと思っているのですが、今、手元にある『漢書』と『三国志』に書かれている人物で見てみたいという人物はいますか?


 もしかしらたその人物を書くかもしれませんので、あったら教えてもらえると嬉しいです。

 陳勝ちんしょうの決起による混乱は瞬く間に天下を鳴動させた。


 この状況に動揺した沛令(県令)は沛を挙げて陳勝に呼応しようとした。その時、蕭何しょうか曹参そうしんの二人が進言した。


「あなたは秦の官吏でありながら、それに背いて沛の子弟を率いようとされていますが、恐らく人々はあなたの指示を聞くことはないでしょう。そこであなたは外に逃亡した者を集めるべきです。そうすれば数百人を得ることができます。これを利用して皆を脅せば、皆は必ずや指示を聴くことでしょう」


「そして、逃亡した者の中に劉邦りゅうほうがいます。彼を用いれば逃亡した者たちも集めやすくなるでしょう。彼を許して用いるべきです」


 沛令は二人の言葉に頷いた。


「わかった。しかし劉邦はどこにいるかわからないと聞いているぞ」


「場所を知っている者が沛にいます。樊噲はんかいです。彼を使者として送り、招きましょう」


「よし頼むぞ」


 二人は拝礼して承知の意を示した。


「劉邦は悪運に恵まれているようだ」


 曹参は皮肉そうに言った。


「それは昔からだ。昔から劉邦は悪運だけは強い」


 蕭何も同意しながら樊噲の元に向かった。


 さて、樊噲と言えば劉邦と共に逃亡していたはずなのになぜいるのかということを説明しなければならない。


 劉邦の元に少しずつであるが、彼の妻である呂雉りょちが食料を送っていた。しかし、実家が次第に食料を出すことを渋り始めた。


(全く父も薄情ね)


 劉邦を評価しておきながらこれである。しかし、彼女は支援をやめるつもりは毛頭なかった。子供たちを路頭に迷わせないためにも必要な行為なのである。


(そうだわ。もっと関係を深めれば支援を渋らなくなるんじゃないかしら)


 彼女が考えたのは妹を劉邦の元にいる誰かを嫁がせるというものである。因みに妹の名は呂嬃りょすという。


「ねぇ嬃。あなた、どんな人と結ばれたい?」


「男前な人」


 妹の言葉に呂雉はにっこりと笑い、


「ねぇ嬃。あなた、どんな人と結ばれたい?」


 と同じ質問を繰り返した。


「えっだから男前な」


「ねぇ嬃。あなた、どんな人と結ばれたい?」


「だから男ま」


「ねぇ嬃。あなた、どんな人と結ばれたい?」


 姉は笑顔である。しかし、言いようのない圧迫感を感じ始めた呂嬃はその圧迫感に屈したように、


「逞しい人がいいです」


 と言った。


「そう逞しい人ね。わかったは姉ちゃん。あなたに相応しい人知っているから結婚させてあげる」


 呂雉はやっと妹が質問に答えてくれたため、嬉しそうにしながら彼女と結婚させる男を選んだ。その選んだ男が樊噲であった。


 そして、婚儀を行うため樊噲を連れてきて、婚儀を上げさせたのであった。


「これで実家も渋らなくなるでしょう」


 娘二人の夫のためである。流石に家としては出してくれるはずである。


 そこに蕭何と曹参が訪れ、樊噲に劉邦を招く話を始めた。


 それを傍で聞いていて、


(しまったわ。手札を切るのが早すぎたわ)


 夫の帰りは嬉しいが思わず、そう思った呂雉は話についていけていなそうな妹を見て、


(ごめんね嬃)


 内心、謝った。


 さて、樊噲は事情を聞いて、劉邦がここに戻れると思って、早速劉邦の元に駆け込み事情を話した。


「よし、行くか」


 劉邦は冠を被り、沛令の誘いに乗ることにした。


 この時の劉邦に従っていた者は数百人であったというが、実際はそこまで多くはなかっただろう。


 だが、噂として沛令の元に伝えられた。


(劉邦を招いたのは失敗だったのではないか)


 沛令としてはあの劉邦の力を借りなければならない状況に憤り、更に劉邦は数百人連れてこようとしているという。


(劉邦のことだ。私を恨んで変事を起こすのではないか。きっとそうに違いない)


 こうして変心した沛令は城門を閉じて守りを堅め、蕭何と曹参を殺そうとした。


「これほど愚かな人とは思いませんでしたね」


「さっさと逃げることが先決だろう」


 蕭何と曹参は恐れて城壁を越え、劉邦の元に逃れた。同時に夏侯嬰かこうえいも逃走した。


「そうか……沛令はそう来たか」


「くそが、兄貴。殺してやりましょうぜ」


 樊噲がそう言ったが、劉邦はそれを無視して、


「夏侯嬰、お前は沛城に戻って父老たちを説いてくれ、手紙も射るからそれを読むようにとも伝えてくれ」


「わかりました」


 夏侯嬰は男の中の男と思われており、彼という色眼鏡によって劉邦をよく見せることができる。


 劉邦は夏侯嬰が城内に入ってから書帛を城内に射て沛の父老にこう伝えた。


「天下が秦に苦しんで久しくなる。今、父老は沛令のために城を守っておられるが、諸侯がそろって立ち上がり、沛城を落として皆殺しにしようとしている。今、沛の人々が共に令(県令)を誅殺し、子弟を選んで相応しい者を立ててから諸侯に応じれば、家室を保つことができるはずである。そうしなければ父子ともに屠殺されて何も残らず、価値は無いでしょう」


 父老たちはこれと夏侯嬰の説得より、子弟を率いて共に沛令を殺し、城門を開いて劉邦を迎え入れた。


「あなたが新たな沛令になってくだされ」


 父老たちは劉邦にそう言った。すると劉邦は謙遜して、


「今、天下は混乱したばかりで諸侯が並び立っている。今、将を立てる上で相応しくない者を立てれば、壹敗塗地(一朝にして敗北し、肝脳が地を染めること)となるでしょう。私は自愛しているわけではない。能(能力)が薄くて父兄子弟を守れないのではないかと恐れているのだ。これは大事であるため、改めて相応しい者を選んで推すことを願う」


 劉邦は蕭何と曹参の方を向いて、


「例えば、あの二人などはどうか」


 と言った。しかし、二人は自分たちは文官に過ぎず、


(失敗して家族が巻き込まれるのは困る)


 という思いで、断った。


 父老たちは皆、こう言った。


「以前からあなたにはいろいろな珍怪なことが起きていると聞いた。高貴になられる方に違いない。それに、卜筮を行った結果もあなたより吉となる者はいなかった」


 劉邦はそれでも何回も辞退したが、他に上に立とうとする者がいなかったため、同意した。そして、楚の制度に沿って、自らを沛公と称した。


 劉邦は沛庭(県の政府)で黄帝と蚩尤(戦神)の祭祀を行い、鼓旗に犠牲の血を塗り、旗幟を全て赤に統一した。これは白帝の子である大蛇を殺したのが赤帝の子だと言われたためである。


(殺した覚え無いんだよなあ)


 彼は赤い旗を眺めながらそう思っていると蕭何に呼ばれ、今後の方針を確認してから沛県の仲間たちを中心に兵を集め、二、三千人集めた。そして、劉邦は彼らを率いて、胡陵、方與(地名)を攻めてから引き返して豊を守った。


 乱世という荒波に劉邦はついに乗り出したのである。




次回は項羽の方の話。

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