フェルシend S
「開けます」
私は鍵を差し込み、回した。カチリという音がするが、なにもおきなかった。
「開いて中を読んでごらん。きっと君の望む者の名がうつっているはずだ」
私は彼に言われるまま本を開いて中をみる。
そこに会った名は、フェルシ。
「……!」
――――目の前にいる。
「どうした?」
「あの、これに名前が移ったら運命の人なんですか?」
「どうだろうね」
「え」
「その時、君が望んだ者がうつっても、未来まではわからないさ」
―――逆にフェルシ様を想い続ければ、もしかしたら叶うのかな?
_____
「あれ?」
帰り道が霧と見えない何かに塞がれている。
屋敷の周りが外界から遮断されて、別の道を示していた。
「山?」
しかたなく私は空いている通路へ歩く。そこはカーサスに出てくるような崖だった。
足場の悪い岩のある崖――なんだかそこに、懐かしさをおぼえる。
「―――私なにかしたことあるかな?」
《第3の女神アクアルナよ》
突然ノイズがかった声が耳元でする。男とも女とも判断はつかず。人ならざる異なるなにかのものだった。
「誰!?」
《我はサクサージェ、汝に忠告に参った》
サクサージェ、たしか授業の神話に出てきた悪い神だ。
《メッドクレサンに気をつけよ》
「え?」
たしかメッドクレサンがアルテアナの魂を救って、私がいるんだったような。
詳しく追求してもサクサージェは答えなかった。
崖の近くに屋敷を構えるフェルシ先生ならサクサージェとメッドクレサンについて知っているだろうか。
翌日―――授業終わりに先生のところへいく。
「フェルシ先生」
「なんだい?」
私はサクサージェ神について話す。
「何百年も昔神話に出てくる神が今もなお存在したとは―――」
彼は驚いたようだけど、同時に面白そうだと話を聞いてくれた。
「今日の放課後、その崖に行こう」
「はい」
――――
『』
フェルシ様と崖の上の―――
「待ったかい?」
「全然待ってないです」
彼のことを悶々と考えていて、時間なんてすっかり忘れていた。
なんかいきなり空腹が襲ってきた。やばいお腹が鳴りそう。
「おや、そろそろ夕食の時間だ」
「そっそうですね」
「近くの店にでも食事にいこう」
「え!?」
あれ、もしかしてこれってフェルシ様とデート!?
――高そうなレストラン。こんな格好でドレスコードは大丈夫!?
フェルシ様が店に入ると、周りの女性客や富裕家族がチラッと“なんであんな小娘”と言いたげに見ている。
フェルシ様、かっこいいから仕方ないよね。
「可愛いな……」
「え、なにか言いました?」
「なんでもないよ」
とにかく頑張って彼を落城<ろうらく>するぞー!
【大団円end・・遠くない未来】




