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共通 レッツ狩り・取り合えず硫酸で


「はあ、まずしい。つれーわ」


私の名前は‘アクアルナ

魔法学校に通う見習い魔法使い。


祖父が偉大な魔法使いで、実家は何不自由ない子爵令嬢だったんだけど、お金が底を尽きた。


学校はタダだが、私が住むドゥーブルフロマージェ星は爵位より金が物を言う。



「はい、授業ですよー」


今日の授業はチーム戦らしい。



【伯爵家の天才長男・ユベリス】

「このメンツなら、俺一人で十分じゃないか?」


【平民・コンファル】

「みんなよろしく。オレ、やれるか不安だけど頑張るよ」


【侯爵家次男・ミューティロギアン】

「ミス・アクアルナ、せいぜい僕らの足を引っ張らないように」



ラッキー! 優秀な彼等にまかせておけば、私は楽できるわ。



「まずは、ベタにモンスター狩りをしてきてくださーい」


「お前らいくぞ!」

「あ、まってよー」


「モンスター狩りねえ……あラウルなんとか」


そういえば彼はテラネスの貴族だったなあ。

女の子二人とドラゴン一体に囲まれてるし、問題児だから近づかないでおこう。



「ミス・アクアルナ、君は何ができる」


ミューテロギアンがいきなり聞いてきた。

てっきり私はいないものとして忘れられるかと思ったのに、一応は覚えていたようだ。


―――――私に何が出来るか?

やっば、自慢できることがないわ~。

自慢じゃないけど、肩書きは偉大な魔法使いの祖父がいて没落した貴族の娘だ。


ただし、魔法ダメダメだけど。


学費がタダだからこの学園に通っているだけで、実質何もしていないのと同じことである。



「何が出来るっていえばいいの?」


ミューテロギアンはモンスターと戦うために戦術を考えたいから私の能力をたずねたのだろう。

それはわかるが、彼に限らず祖父のことを知るものなら誰しも孫の私に期待をしている。

だから、きっとすごい技が使えるとか、そんな答えを望んでいるに違いない。


「たしかお前の祖父は偉大な魔法使いだったな

きっとすごい力を使えるんだろう?」


ユベリスが言った。



――――私には才能も努力する気もない私がいまから頑張るなんてありえない。

才能のある魔法使いならもう存在する。


じゃあ、その分野で頑張る必要はない。


「ユベリス君、きみが一人でやれるんじゃなかった?」


「そうだな、グダグダと話す前にモンスターを狩るとしようか」


コンファルは助け船を出してくれたのかもしれない。

―――――


私たちは黙々と森の奥地に進んだ。

喧嘩はないが、仲がよくもなく、会話などまったくない。



「モンスターを狩ると言っても、この辺りにはドラゴォンやセイレェンの類いが彷徨いているのだが」


ようやくミューティギロアンが口をひらいた。



「俺がいれば問題ない。お前達は黙って見ていろ」

「……そういうわけにはいかないだろう」


ユベリスがワンマン、ミューティロギアンはチームで戦おうとしている。


「なんだ、侯爵だからって偉そうに……」

「ユベリス……! 学園内では爵位の話は関係がないだろう」


学園では生徒はどんな星の生まれでも関係は平等となっている。

なにも、いまその話をする必要ないのに。


「まあまあ二人とも落ち着いて……」


コンファルは仲裁しようとしている。


なんだか面倒なチームになっちゃったな。



「キシャアアアアアアアア」


「こんなときに……モンスターが!!」


「邪魔だ。どけ」

ユベリスが私たちの前に出る。


「おい!一人でつっぱしるな!!」


いくら彼らが成績優秀でも、こう連携がとれないんじゃあ。

不意をつかれてやられてしまうんじゃないだろうか。



ひとまず彼らが前な出ている間、私はモンスターを観察しよう。

やつがまっさきに狙うのは、きっと騒いでいる彼等だから。



私も昔は真面目に魔法の修行をしていたなあ。

……雨、雪、あられ、ヒョウもどきを降らせる地味な魔法しか使えなかったけど。



「くらえ……!」

ユベリスは手から光球〈こうだん〉を放ち、モンスターに叩きつけた。


しかしタフなモンスター、簡単にやられない。


「どうした天才なんじゃなかったのか」

「手を抜いただけだ。一発で終わらせたらお前たちの活躍がなくて可哀想だからな」


「いらない気づかいどうもありがとう。

いいわけするくらいなら一撃で仕留めてほしかったなぁ天才君」


コンファルは耳を疑うような事をにこやかにいった。


「なんだと……?」


彼は二人の仲裁をしていたが今、ユベリスの怒りを煽っている。


いったい何を考えているんだろう。


「キャアアアアア!ドラゴンよ!!」

「なに……?」


森の向こうから、他生徒が走ってきた。

竜が出たと騒ぎになっている。


「まさか、どうせ手乗りサイズのミニドラゴンで……でっかああああ」


小さいサイズの竜はこのあたりで買う人もいるが、ゾゥ二頭分くらいでかい。


「それに一体や二体じゃないぞ……」


ユベリスがニヤリと笑っている。

攻撃魔法を得意とする彼からすれば、問題なく倒せるレベルということか。


「なぜドラゴンの大軍が……?」

コンファルがすごく驚いている。


「もしかして、ドラゴンを見るのははじめてだったりするの?」

「え…ああ、そうなんだ……」


「楽しく会話しているところわるいが、逃げなくていいのか?」

「なにを言うミュギロギアン」

「ミューティロギアンだ」


――――私も忘れていた。



「奴等を倒し、結果を出せば俺、ついでにチームの勝利だろう」

「ついでか。」


「まあ、たしかに勝てばいいんじゃないかな?」

「ミス・アクアルナ、何か策はあるのか!?」


「ううん。ないよ」

「だろうね

カッコつけたかったんだよね。わかるよその気持ち」


どうしよう、頼みの綱のユベリスは口のわりにはサクッと行動してくれないしなあ。



――――なんでこんなチーム分けになったんだろ。

――――――――



「龍は放たれた―――――神々の造りし星は、滅ぶ」

――――――――



「薬品でも散布してドラゴンを一網打尽に駆逐できればいいのになあ」

「……君には血も涙もないのか」


ミューティロギアンが引き気味になっている。


「薬で眠らせるだけだし、ユベリスの魔法でボコボコにぶっとばすよりは優しいと思うけど?」


どっちにしろドラゴンを倒すのだからやり方なんてなんでもいいはず。



「眠っちゃいなよ、永遠に!」


私は格好よく薬品のビンを投げた。


とりまドラゴンを眠らせたので学園に帰る。



「おい。フテ寝するなミューギロリアン」

「……まったく、誰が運ぶの……」


眠ってしまったミューティロギアンをユベリスとコンファルがかついで帰った。


チーム戦の結果はどうだっただろう。


――



「おはようみんな」


精霊の羽鐘(フェアリーベル)が鳴り、担任のルネークスが来た。


「はーい。皆揃ってるね~

それじゃあ授業を始めまーす」


ルネークスは教卓にツボを置く。

今日の授業に使う魔道具だろう。



「先生、眠いので医務室に行って仮眠をとってもよろしいだろうか?」


「ユベリスくん、君がいくら優秀でも、それは許可できないなあ」


「なぜか?睡眠は神経をすり減らす我々魔法使いにとって重要なカテゴリーなんだが」


「……真面目に参加しないと~

隣のクラスのラウルくんのような問題児になってしまうよ?」


ルネークスは表では笑っているが、たぶん違うと皆は察したはず。


「……しかたないな」ユベリスは医務室にいくのは諦め、机に顔を伏せた。


「まあ彼は授業は真面目に受けているがね~」


隣のクラスからよく破壊音が聞こえているが、彼は全属性魔法を使えるようだが、魔法は使えても、形式を破るからテストの成績が悪いらしい。


才能あってもルールで落とされるのはもったいないなあ。


まったく才能のない私が、人の心配してもしかたないけど。



「気を取り直して、今日の授業はご覧の通りツボです」


というか、昨日の騒ぎや、結果はどうなったのか、まったく話されていないし。


なにより皆スルーしているというか、私も今の今まで忘れていた。


なぜドラゴンが大量発生したかとか、説明があってもいい筈だけど。



「先生、質問いいでしょうか?」


「はーい、アクアルナさん。なんですか~?」


「昨日のチーム戦のことなんですけど」

「チーム戦? なんのことですかねえ~」


ルネークスは、はぐらかして教卓のツボを弄った。


――――めちゃくちゃ白々しい。

後で根掘り葉掘り聞いてみよう。



「……はあ、もう質問はないですねー?」

「ないでーす」


「はい。このツボは空です」

ルネークスはツボの中を見せた。


たしかに中はすっからかんだ。

ついでに私のサイフもすっからかんだ。


「先生、手品ですか?」

ミューティロギアンが控えめに手を上げた。


「別に手品じゃないけど」

「じゃあ錬金術ですか?」

続いてコンファルが気だるげに質問した。


「なんで?」

ルネークスが疲れた顔をしている。


「錬金術士といえば壷ですからね」

コンファルは静かに笑っている。


「それ、釜じゃねー?」

クラスメイトAが言った。


「釜は魔女だろ」

クラスメイトBが言った。


「はい。もういいですよー授業を真面目に聞かない子たちには……」


「やばい!逃げろ!!」



「―――お仕置きです」

――――――――――



「なんか溶けてるんだが……」

クラスメイトCが言う。


クラスごと惑星ヴィサナスへ送られてしまったらしい。


ここは硫酸の雨が降り、本来立ち入り禁止となっている。



「でもヴィサナスは美男美女ばかりらしいぜ!」

「よし、ナンパしにいこう!」

クラスメイトDとEが離れた。


「ちょっと男子いい」

クラスメイトFが腰に手を当てていかにも学級委員長な雰囲気を出している。


「すいませんでしたあああああ」

「助けてください先生えええ!!」


クラスメイトGとHが命乞いを始めた。


「なんだお前たち、授業を放棄で雨遊(あまあそ)びとは」

ユベリスは寝起きらしい。


「この状況下で寝ていたのか」

「は……お前に言われたくないな」


「なんだと?」

「俺は昨日お前を運んだせいで筋肉痛なんだぞ!」


うわシップ臭い。


「ねえクラスメイトI」

「なんだい?」

「昨日のチーム戦のこと覚えてる?」


「HAHAHAHA昨日は普通に教室で授業だったじゃないか~」


クラスメイトIは去った。


「ねえコンファル、ミューティロギアン、ユベリス」

「なんだ」


「昨日チーム戦はあった?」

「うん、それがどうかした?」


「ドラゴンって暴れたよね」

「ああ」


「誰が倒したの?」

「なにをバカなことを……お前はドラゴンを倒した張本人だろう」


クラスメイトたちに聞いてみたが、チーム戦について覚えている生徒は三人と私以外はいなかった。


どうなっているのだろう。




「ビィルは未成年が無理でも硫酸は飲めるんじゃね?」


クラスメイトAが突然わけのわからないことを言い出したせいか、周りが一気に静まった。


「ほら、なんかヴィサナスって黄色いしさ」

「イメージだろ。地面は壁色だぞ」


クラスメイトBがいう。


「ねえ、どうやったらドゥーブル星に帰れるんだろ」

私は三人の顔を淡々と見つつ、訪ねた。


「それはもちろん、先生を見つけてボコボコにしてやるだけだろう」


ユベリスが平然と教師をボコるとか言い出した。


「……ちがくね?」

クラスメイトCが言う。


「とにかく先生を見つけて謝ることが、最善策というかそれしかないのではないか?」

とミューティロギアン。


「それが一番手っ取り早いよね。

……といいたいところだけど、先生がヴィサナスにいるとも限らないし

僕らを忘れて他の生徒の授業中ってことも

なきにしもあらずだよね」


コンファルの話が、なんだか一番ありえる気がする。


「あはは。まさかぁ……」

さっきまで元気満々にバカなことを言っていたクラスメイトAが沈黙した。


「まあ、ポイゼェン星でないだけまだマシだろう」

「あの星は毒ガスと熱風が吹き荒れていて、さすがの俺でも塵と化すな」


「武勇あるマージルクス人でも耐えられないならテラネス人やマキュス人も……」


「そういやここは硫酸の雨が降るんだったよな」

「それやばくね?」

「皆、今のうちに建物の中に入るぞ!」


―――なんだろう。

なにか違和感がある。このままクラスメイトを建物に入れて良いのかな。


だって、ヴィサナスにはたくさん住民がいる。

美男美女揃いなのは、星が開けており多種多用な星と交流したから。


なのにここには私たちしか、住民がいないのだ。


「みんな待って!」


「どうした。お前溶けたいのか?」

ユベリスが笑っている。


「違うけど。何かおかしいと思うの

クラスメイトの……なんだっけ、とにかく二人がナンパから戻ってこないし」


「ああ、クラスメイトナンバーなんだっけな?」

「あ~たしかDとEじゃないかな」

コンファルが言った。


「そうその二人!」

「どうせ美女のいる店で豪遊でもしているんだろ」

ユベリスがサイフの中身を確認しながら言った。

あ、コエマドゲルポの札束。


「……」

ミューティロギアンが何かに気がついたように、考え込んでいる。


「――――君はバカだとは思っていたが、腐っても同じマキュス星人ということだな」

ミューティロギアンがコクコクと頷く。一体どうしたんだろ。



「ここは、ヴィサナスではないかもしれないな」

「……なんだと?」


ユベリスはただ、たずねるだけで喧嘩腰になっている。


「はいはい。どういうことか説明してくれミューティギアン」




「ああ、まずヴィサナス星人はフリーダムで他星から来たものにも寛大だ。つまりこんな街中に誰もいないのはおかしい」


「ああ……言われて気がついた。

周りをまったく見ていなかったからな……」


「つまり先生はわざと、ヴィサナスに似た星へ私達を送ったってこと?」

「だろうな」


「じゃあここどこ?」

「ヴィサナスに似た星……だが、これは本当に硫酸か?」


ミューティロギアンは地の液を見て言った。


「あ、硫酸は黄色くないよね

私魔法より液体調合が好きだから、それくらいは知ってるよ」


「とりあえず溶けてもいい物を、この液にぶちこんでみよう」


「おいコンファル。それはなんだ?」

「1コエマドゲルポ硬貨だけど?」


「コエマドゲルポを1コエマドゲルポたりとも捨てるなんて絶対ダメ!」

「じゃあ、あげようか?」

「ちょうだ「おいやめろ、お前にはプライドがないのか!」


「髪の毛を一本抜いて、それを落としたらいいんじゃないか?」


クラスメイトBが冷静に言う。


男子の短い髪をそのまま落としたら埋もれるだけなので、私は髪をすいて、抜けたのを浸した。

長い髪のほうが液体と距離もあるし、確認しやすい。


「あ、溶けないよ?」

「ではヴィサナス星ではないことが確定したな」


「ますますここがどこかわからなくなったね」



「この液体、アニアモアに近い刺激臭があるな」


「ほんとうだ」

じっくり嗅ぐと鼻が痛くなる。


「じゃあ硫酸の雨は振らないってことで、そこらをざっと歩こうぜ」


元気を取り戻したクラスメイトAが言う。


「なにかこの星の特徴はわかるか?」


「―――あれ? 今思い出したんだけど、ここに来たばかりのとき、硫酸の雨は降ってたし何か溶けてたよね?」


だからあのときはてっきりヴィサナスだと思って疑わなかった。



「そうだな……」

「じゃあここはやっぱりヴィサナスなんじゃないか?」


『なんか溶けてるし!』


「そういえばクラスメイトCがなにかが溶けてるっていうから

みんなヴィサナスだと思ったんだよね」


「クラスメイトC、あのとき何が溶けてたんだ?」

「え? ああ、人みたいなのが部分的な雨にうたれてて、マネキィン人形が溶けてんのかと思ったんだ」


私はそれは見ていないが、来た場をさほど動いていないので、探せばクラスメイトCの言うマネキィンの残骸は見つけられるのではないだろうか。


「どこにあったの?」

クラスメイトCの目が泳いでいる。


「まあまあ。大声出して皆から、注目されたかっただけなんじゃない?」

コンファルが笑う。


「そっか……じゃあ気にしないことにする」

これ以上追求するのもかわいそうだし。


「……あ、ありがとう。俺DとEを探してくるよ」

Cはこの場から去った。


「なんでやつらの名前はイニシャルのままなんだ?」



ミューティロギアンが言う。

私も気になってたけど、彼らが名乗ってくれないからそう呼んでいる。


「いいじゃないか。聞いても覚える気ないしな」

「そうだね」


ユベリスの意見にコンファルも頷いた。


「よし、気を取り直して、この星を調べるぞ」


私達は固まって移動した。


「というか、なんでこの人数なのに、みんなバラバラに行動しないの?」


一チームでも早く帰れれば、後から迎えにいくこともできると思うんだけど。


「だってさ、俺達ザコだしさ」

「君らは強いからいいけど、僕達は自分の身すら守れそうにないから」

FとGがすがるような目で見ている。


――――はたして彼らがついてきて、ピンチになったらこの三人は守ってくれるのか?


いや、想像もつかない。“足手まといだ”とバッサリ言われて置いていかれる姿しか見えない。


まあ、役に立たないお守りということで。

近くに誰もいないよりいるほうがいいしね。


「みんな、名前なんていうの?」

気がむいたから聞いてみた。


「おれはアルベルド!」

「ビィフロンスだ」

「HAHAHA~いないやつは代わりに私が答えるよ~

クレーメルグ、ディモンデ、エルマギエル。

ちなみに私の名前はイオクルシス=グリーゼさ」


「俺はフィクシエルス」

「僕はグレグリウス」

「……ハルオスメル」


「へー無駄にオシャレだね」

―――――――――



「あれ、なんか扉があるよ?」


暫く歩いていたところ、隙間から光が差す扉があった。



「やったあ帰れた!?」


―――――いつものプリマジェール学園だ。



「みんな、おかえり。随分早かったね」


木の近くで三人が休んでいる。

おそらく自力で逃げられたんだろう。


「ルネークス先生!!

悪いのは私達だけど、ヴィサナスみたいな星に飛ばすのはやりすぎだと思います!!」


「ヴィサナスみたいな星?

おかしいな……先生は君達を超絶優しい星であるアテラスに飛ばしたんですよ~?」


「アテラスってテラネスみたいな星でしょ?

私たちがいた星は黄色かったんですけど……」


「溶けたんですか?」

「いや、幸い硫酸ではなかった

地にはアニモニアのような液体があったが」


「ほう……

では間違えてジュプスに飛ばしたのかもしれませんね……」

「HAHAHA~先生でも魔法をトチることがあるんですね!」


「そうですねぇ……」


ルネークスは肯定も否定もしなかった。



「はあ……

せっかくのコエマドゲルポが……」


やはりコンファルに1コエマドゲルポを貰えばよかったと、しみじみ思う。


「まだ言うか」


「おい、1コエマドゲルポ寄越せ」

「君にあげるコエマドゲルポはないよユベリス」


「お前もか!!」

―――――――




「遅刻遅刻!」


私は寝坊して、寮から校内へダッシュしている。


こんなとき隣のクラスのラウルくんのようにホウキでビュンビュン飛べたらいいのに。


「きゃっ!」

「……おっと」


通りがかり、男性とぶつかって、地面に尻餅をついてしまった。

見かけない顔だけれど、新任の教師かしら。


挿絵(By みてみん)


「申し訳ないね」

「いえ私のほうこそ」

差し出された手をとって、私は立ち上がった。


「私は君のクラスメイトFの知り合いなんだが」

「そうなんですか……あ、ごめんなさい私急いでいますから!」


なんとか教師が来る前に教室に入れた。


「はーいみんなちゅうもーく」


間髪入れずにルネークスがやってきた。


「今日はネモニアス公爵が学園の視察に来ます」


―――――ネモニアスっていったらドゥーブルフロマージェ星でも随一のお金持ちじゃない!


「というわけで、案内人を……」


これはお金持ちの夫人になるチャーンスの予感。


「はいはいはい! 私やります!」


「アクアルナさん。なにかよからぬ事でも

……たくらんでいるんですか?」


こわっ。


「まあ、ご本人に決めてもらいますか」


ルネークスが指をならしてドアをあける。


「あ……」


彼は今朝ぶつかった男性だ。


「彼女が良いなら、私はかまわないよ」

「もちろんでございます!」


というわけで、私は案内することになった。



「私はフェルシ=ネモニアスだ」

「アクアルナです」

まさかクラスメイトFの親戚が公爵とは、盲点だったわ。


「……つまり君は偉大な、魔法使いサンドラマの孫か。」

「……はい」


なんだかトゲのある言い方。

祖父は皆から尊敬されていて、話題にする者は皆、その力に憧れている。


誰かがこんな反応をするのを見たのは初めてだ。



「私は大魔法使いサンドラマの弟子だったのでね

君のこともよく聞いたよ」


――さっきのは気のせいだったのだろう。


「ど……どんなことでしょう?」


どうか木登りをしたことや剣遊びで男の子を泣かせたことだけは言われていませんように―――


「とても自慢の孫だと。家族に関心が無いタイプだと思っていたから、意外な一面に驚いたよ」


「え? あの他には……例えばおてんばとかじゃじゃ馬とか……」

「聞いたことはないね」


―――よかった。


「ここが庭園です」

「ほう……」


なんか向こうで楽しげにお弁当を食べてる女男女がいる。


邪魔をしないように、というか問題児ラウルくんだし近づかないようにしよう。


「フン、たった50000コエマドゲルポくらいで……」


ラウルくんはお金持ちか―――今度ぜひお友だちになりにいこう。


―――――――――



調合場、グラウンド、講堂やプゥルなど色々な場を案内した。


「あまりの出来に、公爵になどならず

教師になればよかったと、後悔してきたよ」


――公爵でも教師にはなれるのではないだろうか、志願すれば魔法の実力でなれるはずだろうし。

祖父の弟子ならやはり魔法の腕もあるに違いないし。


「今日はありがとう」

「いえいえ~」


彼はユニクゥンの馬車に乗って学園を後に――――――――しまった。


私の計画では次に会う約束とかゴールインまでのプランがあったのに、彼に近づく前に帰られてしまった!





早朝、木登りして木からハニィを強奪。


「ふー一週間ぶりの食事だぜ……」


蜂〈ブーン〉どもは地にひれ伏した。


「あーお腹すいたなあ……」


なにやら水色頭の女学生が徘徊している。


「おい」


「ぐー」


どうやら眠りながら歩いている。


「お腹すいた……」


腹を鳴らしながら眠っている。


「おい起きろ……」


だめだまったく起きやしねえ。


「ががが」


夢遊病〈ハゥイージビョウ〉


「しかたねえ。運んでやるか……」


「スクープの予感……!」

――――――――――



「ふぁ~あ……よくねた」


今日は休日〈ヤッスミデェイ〉、好きな時間に起き、好きな時間遊べる日だ。


「…って、ここどこ?」


なんか頭から足まで全体砂まみれになっている。

なんで私こんなところで眠ってたの。


「ぐがー」


ボサボサ頭のマント男――――誰このMr.ホームレッス。なんで隣にいるの。


まあいっか。私は部屋に戻って風呂〈バスタァイム〉しよう。

―――――――――



「ふーいいお湯だった」


お風呂あがりはアイスクリンムもとい氷らせた水道水〈ノンピュアウォータ〉もとい〈コォルィ〉を食べる。



さて寝……せっかくの休日、私ったらなに寝ようとしてるんだろう?


よーし友達〈フレンズゥ〉に会いに――――――


「私……友達いなくね?」


ほら元は貴族だったし、偉大なじい様いたし。


作ろうとしても女子少ないし、高プライド高飛車〈タッカビッシャ〉貴族か木登り天然ちゃん、超美人だけど手から硫酸吹く子ばっかでまともな子いないし。


「コマッターレブーン?」


なんか蜂の音が窓のほうからきこえる。


なんか超きったねぇ男性が窓にへばりついている!


彼を入れたら最後、大漁の蜂が部屋に入ることまちがいなし。


無視に限る。よし、寝よう。



休日を寝るだけでなにもなくすごした。




早朝、私は寮から校舎へ歩いている。

――――なにやら門前で男子がウロウロ。


「どうしたの?」

声をかけると、彼はにこりと微笑んだ。


薄く紫がかった白髪に紫の目をしている。

たぶんプルテノ星人だろう。

プルテノ星人は冥界〈メェカイ〉と繋がっているという悪い噂があるが、金持ちが多い。


「オレはディアーノ・ディーノ・プルテノ。

今日からこの学園に通うことになったんだけど、校舎はどこかな?」


「えーっと、とりあえず先生のところへ案内するね」


校舎がわからないんじゃ、クラスも知らないだろうし、学園長に会うとかしないといけないだろうから。


「ルネークス先生~」


ちょうど良いところで会った。

私はディアーノをまかせて教室へ向かった。



「おっはようみんなー!」

「おはようミス・アクアルナ」

「アクアルナちゃん、おはよう」

「フン……朝から元気なやつだ」



皆はいつもと変わらない。


「さっきね、ディアーノ・ディーノ・プルテノっていう男子に会ったんだ」

「へー」

コンファルは興味なさそうに顔だけこちらを見て目線は窓の外。


「それがどうした。俺はお前の交友関係に興味はないぞ」

ユベリスが机につっぷした。


「ちょっと待て、プルテノといったか?」

「うん」

ミュートロギアンがなにやら気になったようだ。


「星の名がつくということは王族ではないか?」


「はよー」

「あ、クラスメイトD」

「お前は名前にディがついているし、プルテノ星人だったな?」


「そうなの?」

「え? うんそうだけど、おれなんかしたか?」


そういえばプルテノは一度なぜか滅んで、魔法使いたちが復興を頑張って復活したらしい。魔法使いってやっぱすごい。


「プルテノの王族の名はディストア、ディアーナ、アディール、アディーラ、ベルディスなどがいる」

「そうなんだ。よく知ってるなミュートロギアン」


クラスメイトDが驚いている。


「ねえディモンデ、ディアーノ・ディーノって知ってるかな?」

コンファルが聞いた。


「ああ、きっと王弟の息子だな。

おれより一つか二つ年上で隣の隣のクラスのアルディラ・ディーラ嬢の兄でもあるみたいだぜ」


「そっか、用は済んだから席についていいよクラスメイトD」

コンファルは微笑む。


「3年かな4年かなー」

「ふん、どうでもいいがなぜ今頃通うんだ?」


「どうでもいいと言うなら、そのどうでもいいことを僕に聞くな」

「まあ、確かに怪しいよね。何か、たくらんでいそうだよ」


コンファルが面白そうに笑っている。


「何かってたとえば?」

「学園をのっとる?」

「幼等部の作文か?」


ミューティロギアンはあきれている。


「俺は、学園どころか星ものっとることもやろうと思えばできる」

「お前のように自尊心が高い脳筋戦闘族は創造神ゴッドが間違いなくお怒りになる」


「だろうな、文献によるとゴッド=シェゴルダンはかなり性格悪い。父神と争ったり自分の思い通りにならないとキレるし天使の女にうつつを抜かしているとかなんとかで良い伝説はない」


「それは創造神ゴッドでなくても神は大体皆そういうものだ」


彼らはまた喧嘩している。あ、フェアリーベルがなった。


「はーい授業はじめまーす。なにか質問は?」


みんなこの前のことで学んだので何もいわない。


「ないですね? ないんですよね? はい、ではいきますよ~」


しつけーな。早く授業進めろ。と皆思ったに違いない。


「ここに燃える草がありますね」


(燃える雑草〈フィード〉に見えますがそれは村長が勇者にくれる薬草ではないんですか?)

(なんで燃える雑草なんですか? ただの薬草じゃだめなんですか?)


「……あーめんどくさいのでなんか魔法を使ってください。ミュートロギアン君、基本の風をやってみてください」



「はい。風の精霊よ来たれ」

ゆるやかなものが頬を抜け、軽く髪がそよいだ。

まあ教室内だし、あまり強い風は起こせないよね。


「さすがは学年一位。じゃあ次、ユベリスくん。お得意の火をお願いします」

「ふ……」


ユベリスは呪文詠唱なしで炎を出した。


「おお、さすがは学年一位。

じゃあ次はコンファル君、なにかテキトーに出してください」


二年の成績表で毎度同率1位だからなのだろう。

でもコンファルはあまり成績がよくないみたい。

もちろん私よりは上だけど。


さっきの二人はどの属性でも使えそうだと思うけど、コンファルはどの属性魔法が得意なんだろうなあ。


「はあ、こまったな……」

パッと思い付かないようだ。


「まあ得意な、のをテキトーにやってくださーい」

「じゃあ土を出します。豊穣なる大地よ、来たれ」


園芸に使えるくらいほどよく湿った土が床から這い出てきた。


「じゃー次アクアルナさん」


「え!?」


私魔法なんて使えないのにどうしよう――――――。



「おや、もう授業終了のようです」


ありがとうフェアリー!


―――――



「あー500人中200位かー」


私はテストの結果パネェルを見ていた。


「まったく君は、僕と同じマキュス星人なのだから優秀な成績をとれる筈だろう」


「え、ミューティロギアンってマキュス星人だったの!?」


「知らなかったのか?」


知らなかった。というか全然興味なかった。



「ミョーティロギアン、今回の成績はどうだ」

「どうしたもこうしたもマージルクス星人のお前だけには負けないが!」


またいつもの喧嘩が勃発。


なぜユベリスとミュートロギアンの仲が悪いのか、合点がいった。


……知性派のマキュスと武力派のマージルクスは気質があわない。


信じられないが私と同じマキュス生まれらしいミュートロギアンと、マージルクス生まれのユベリスでは尚更だろう。


いや、私がマキュス星人らしくないだけか。

そんなこといったらユベリスも戦闘好きのわりに魔力戦で肉弾戦派のマージルクスらしくないし。

コンファルは何星人だろう。


「ねえコンファルはどこの星から来たの?」

「ジュプス星だよ」


「へージュプス星ってたしか木や植物が多いんだよね」

「いいや、それはグリーンティア星だよ」


コンファルは首を振ってタブレッティオの地図を見せた。


「あ、そうだっけ?」


昔見たアニメェションの影響でジュプスには緑色のイメェジがあったから勘違いしていた。


「あ、ルネークス先生ってどこの星から来たんですか?」

「生まれはネプテュスですが、ドルゼイ星からですよ」


ルネークスはサラッと教えてくれた。


「ええっ!?

ドルゼイ星って三大悪星で評判のマッフィーアのたくさんいる危険な星ですよね!?」


――そんな危険な星から来たなんて、彼の強靭な精神力はそこで鍛えられたのかも。


「そう思うでしょう?

案外土や植物が多く、暴風が吹き荒れ氷りついたネプテュスより住みやすい気候なんですよ」


「ネプテュスってことは先生は人魚なの?」


私は水テッポーを用意。ルネークスへ向ける。


「残念ながら水をかけて人魚になれるのは王族だけですよ~」

「なーんだつまんない」


「大体そんなものを買うお金があるなら、食物を買いなさい~はい水テッポー没収」

「あー!」

「放課後に返してあげますよ~」


そっ……そんなアアアア。


「なぜ水テッポーを没収されたくらいで

そんなドラマティックなシーンになる?」


「あーお腹すいたなーチラッ」

「オレ、口でチラッ……とかいうやつ初めてみたよ」


「コンファル、貴様平民だが金はあるだろ

哀れな子羊へ100コエマドゲルポ施してやれ」

「施しなら君がやりなよ貴族様」


「ユベリス、サイフにあんなに札束入ってるくせにケチだよね」

「ならこの中で一番の爵位の息子のお前がミューティロギアソ」


「残念ながら……」「カード……」


「よし、そこらへんの砂でも食べよ」


「まてまてまてまて!! 君には貴族どころか人としてのプライドないのか!?」


「あはは~プライドなんて、ウィラネス星の公爵令嬢のプライデアにとられた~」

「そういう問題じゃないだろう!?」


「うるさいぞミューティロギアン。

サバイバル中なら砂だって食えるだろ」

「さっすがケチデスくん」


フェアリーベルが鳴る。


「あ、次の授業なんだろう」


「今日の授業は……」

「はーい先生」

「またですか、なんですか?」


「今日の授業はなんですか?」

「今から説明しますから」


「はーい!」

「なんですか?」

「もしかして本を使いますか?」


当てられたからか、ルネークスは本を閉じた。


「……今日の授業はとりあえず実習でーす

タブレッティオを見ててくださーい」


私達がまた質問攻めで授業を飛ばすだろうと考えたルネークスは授業を放棄した。



皆がタブレッティオを見る。


〔はーはっはっはっ〕


変な男の顔がドアップになった。


「電波ジャック!?」


「誰だこいつ!?」


よく見ると案外イケメンだ。


〔余の名はドルゼイだ!!〕


―――――ドルゼイ星のトップにしてマッフィーアの首領<ドォン>じゃない!!


「いったい何が起きてるんだ!?」


コンファルが驚いてタブレッティオを窓に投げた。


「いでっ」


なんか声がした。


「皆、とにかく逃げよう」


え、こういうときどうするんだった!?


「机ェの下へ潜る? おさない、かけない、はしらない……」


「違うだろ! 先生を探すんだ」

「私ずっとここにいましたけどね」


いじけて教室の角にまるまっていた。


「先生、ドルゼイが攻めてきました!!」

「……え、マジですか? 授業サボるために遅めのエイプレルフィールのネタですか?」


「ほらタブレッティオにいます!」

「あ、でけータンコブゥ作ってぶっ倒れてる男がうつってますね」


ルネークスは動じないし、平然としている。


「どどどどうするんですか?」

「落ち着けミューティ口ギアン」


ユベリスは早弁をしている!

汁なしタンタンメェンを食べている。


「おいミス・アクアルナ、どこへいく」

「ドルゼイってお金持ってそうだし、ちょってコレおねだりしてくる!」


私は窓からジャァンプした。


「いって!?」

「あれ、ドルゼイじゃない?」

「……誰だお前?」


黒皮ジャケット、濃い紫髪の男をふんずけてしまったらしい。


「わーイケメン」

ジャンルは狼タイプだ。


「つーか早く降りろ」

「降りてほしかったらコエマドゲルポをあるだけ出しな~なんて」

「……しかたねえな」

「え、マジでコエマドゲルポくれちゃうの?」

「どっこいウチカワチセイ」


懐からサイフを取り出すかとみせかけ私を持ち上げて下ろした。


「100ポやるから、オレがここにいたこたぁ黙ってろ」

「うんわかった。」


さーてドルゼイ探そう。


「ドルゼイならもう帰りましたよ」

ルネークスが言った。


「えー!?帰っちゃったのおおお!?」


「隣のクラスのラウルくんがおっぱらってくれたって」


まあいいか、100コエマドゲルポなにに使おう。


「今日は学園長の突然の思い付きで全生徒、臨海学校でーす」


―――――ということで私たちはアクアルド星に来ている。

普通に綺麗な海がある。だが魚はいなそうだ。


「なぜそんなことを思いついたんですか」

ミューティロギアンは海に怯えている。


たぶんクラゲェとか海の中にイルカンジだからだ。


「なんでも隣のクラスのラウルくんが学園長に海に行きたいと言ったそうです」


またラウルくんか。


「ふん、海の上ではともに戦えんな」

ユベリスはパラソルの元くつろいでいる。


「そうだね、君に爽やかな海は似合わなすぎて、背景にできないね」


海からあがったコンファルが髪をかきあげると別のクラスや学年の女子達が騒いだ。

水もしたたるいい男というやつか。


「あ、ヤキソォバ」

海の家だ。コエマドゲルポの無い私は、たかるしかない。


「先生~私ヤキソォバ食べたいんですけど……」

秘技、上目使いで渾身の媚び。


「そんな目で見ても、買いませんよ~」

ルネークスはカキゴォリのレーモン味を食べている。

ユベリスはスチョォベルィ味、ミューティロギアンがメッロン味、コンファルがグレープ味を食べている。

私もブルーハァイが食べたいなあ。


「……チッ」

私は海に潜って食べ物を捕りにいくことにした。


「皆のドヤ顔、ムカつくイラつくチラつく。

ギンギラサニュ、照りつく焼けつく焦げつくHEY!」


イエーイ。ザックザックと貝類をゲッツした。


「あ~魚のプリンスとかいないかなー」


マキュス星人はヒッフコッキュだけどやろうと思えばエッラコッキュとやらもできそうだし。

海底の女王様もいいんじゃないの。


「……?」

なんだろう。プカプカと浮いているデカイ魚が。


「マーメイドプリンス?」

なぜ人魚が溺れているの。というか普通逆だよね。

まあいっか。とにかく助けよう。


「よっこい小学生。ふー重かった」

プラチナブロンドの美少年ショッタ人魚だ。

なんか誰かに似てる気がするけどまあいいや。


「お前……少年ゆうか……」

あのユベリスが何か失礼なことを言おうとして、気を使って口をつぐんだ。


「おやその少年は、どうしたんですか」

「拾いました」


「そういえば、なんかルネークス先生に似てい……」

「ははは……。身代金請求でもするんですか~?」

ミューティロギアンが何かをいいかけて黙った。


「あ、もしかして先生の隠し子ですか?」

コンファルが冗談を言う。


「…………」


ルネークス先生が悪しきオーラを纏い、筆舌尽くしがたい顔になった。

子持ち扱いが気にさわったようだ。


「やだな……冗談ですよ先生。親戚の子ですよね!!」

「そうですよ~」

「そっか、ルネークス先生の兄弟姉妹の子か~」


あれ、なにか忘れているような―――――


「……というかこの少年を放置しておいていいのか?」

ミューティロギアンが指を座した。


「あ」


とりま人魚の少年は医療エリアに運ばれた。

―――――



「あ、私とった貝類持ってくるね」


暗くなった海岸。砂浜で貝を探しながら私はあの人を思っていると―――――――


彼から肝試しに誘われたのでいってみることに。



「あれ、チーム分けしないんだ?」

「ルネークス先生に見つかってな」

肝試しに参加したはいいが、4人で一気に回ることになった。


先生まで参加するようなので、必然的に数が会わなくなったかららしい。

そう簡単には彼と急接近、不自由ない生活へ直行とはいかないようだ。


「せっかくの洞窟ですミリオン物語をやりながら進みましょうよ~」

ルネークスは率先して穴蔵へ入る。


「先生、キャンドゥルを百本も持ちながら洞窟を探索することは不可能だと思います」

ミューテゥロギアンが言った。


「マージン星の研究者がかつて滅ぼされた異界のアニメェションに影響されて開発した……次元ポケットかカプセルに入れていけば……」「マジでやる気?」

「むかーし、むかし……」


ルネークス先生がおどろおどしい語り口調になりながら怖い話大会を始めた。


「いち、にい、さん…く……1コエマドゲルポが足りなあああああい!」

「キャアアアアアアア」


「うわああああ」

「なっなんだ!?」

「……!?」

「……お前だったのか!」


「くわばらくわばら……1コエマドゲルポが足りないなんて超こわい!」


「なんだ?」

ミューティロギアンが後ろを振りむく。


「どうしたの?」

「いま、誰かに肩を叩かれた気がしたんだが」

気のせいだろうと歩き進んだ。


「なんだ!?」

「今度はユベリス?」

「俺の後ろに近づくな!!」

ユベリスが洞窟で炎魔法を使おうとしたので、コンファルとミューティロギアンが必死に抑える。


「まったく……?」

「コンファルも?」

「うん。なんだか変な感触がしたよ」


変な気配を感じ、背後をふりむく。


〔やっほー〕

「うわああああ!」

でかいインギンチャクみたいな変な物体がいる。


〔わたし触子、いまあなたたちの目の前にいるの〕

「メスかよ」

「見ればわかる。なぜ俺達に来やすく触れた。燃やすぞ」


〔きゃーこわーい。わたしいま未来のダーリンを探してるんだ~〕

触手はうごめいた。


「俺たちはまだ学生だ。当分婚姻など考える気もない」

「先生って独身?」

「そうですがなにか?」

「じゃルネークス先生、触子ちゃんとまずはお友達から……」


〔えーやだよ。その人見た目は若いけどオッサン通り越して枯れ枯れジジイじゃん〕

「ははは……触手なんて人類の敵はとっとと硫酸の海へぶちこみましょう!」

「落ち着いてルネークス先生!」


〔ねー誰かいい男紹介してよ~〕

「いや、触手なんだから触手を探そうよ」


〔わたしいまはこんなナリだけど、昔は超美少女だったんだからね!〕

「へーよし、みんな帰ろう」


〔あ~まってよ~〕



「なんだか戦いより疲れたな」


もうなんか疲れたし、いいや早く部屋で寝よう。



臨海が終わり、帰還した。


――【ドラゴン退治!】


次の日になる。



「……さすがにこれは無視できないんだが」


ミューティロギアンが、伊達眼鏡をかけたりはずしたり。いつになく焦っている。


「はあ……」

ユベリスが財布の中身を数えている。気を落ち着かせようとしているんだね。


「あのさあ、アルベルド。謎のループしたんだけど……」


「は?なに言ってるんだ。ループなんてフィクションでもないかぎりあり得なくないか……?」

クラスメイトAが両手をカモンのポーズにして驚いている。

めずらしくまともなことを言われて、ループより怖い。


「……そうだね」

コンファルは冷静、というか落胆している様子。


「先生はどうせ気づいてないんだろうなあ」

私達は最初のチーム戦の日に戻ったのだ。

私達四人にはチーム戦や臨海学校の記憶があるのだが、他のみんなは知らないと言っている。

いったいなにがどうなっているんだろう。


「はい、みなさん森の中の水辺には注意してくださいね」


「みず……」


―――ああそういえば先生に水鉄砲を没収されて、いたんだった。


なかったことになったなら有るはずの水鉄砲が私のところにはない。

ということは、どうしよう先生のところに取りにいってみようかな。



◆ やめよう。


――【森】


「なぜ時空が巻き戻ったのかはわからないが、受け入れる他あるまい」

「そうだね。なぜ僕らだけ覚えていて皆には記憶がないのか気になるね」

「はーどうしよう」

「簡単だろう、前回と同じ行動をすればいいだけなんだ。」


「……ごめん。あの薬持ってない」

前は森でドラゴンが暴れて私が薬品を撒いてなんとかしたわけだけど、今は薬を持ってないんだよね。


前と違う行動になるってことは、うまくいくとは限らないかも?


「……なら俺が魔法をぶつけるだけか」

「またお前のワンマンにさせる気はない」

「まあ足くらいは殺るところを残してもらいたいな」


――――三人がいればなんとかなるよね。よし、森の奥へ進もう。


“ドガァアアアアアア”


いきなり森の奥が大爆発した。森は火で燃えているわけじゃないが、ぷすりぷすり木が焼けた。



そこに行ってみると、見覚えのある男がいた。


「あー!100コエマドゲルポの人だ!」

「よう、元気そうだなこの前落下女」


「?」

三人はわけがわからなそうにしているが、説明している暇はない。



「なんでこんなことを!?」

敵の立場で考えたら普通に狙うべき学校側じゃなく森を狙うなんておかしい。

それにドラゴンが暴れていないのも気になる。


「上の指示だ。ドルゼイ様の命らしい」

「貴様ドルゼイ軍の一人か!」


「見ればわかんだろ」

「いや、わかんないよ」


パッと見ただのガラ悪いその辺の兄ちゃんだし。


「俺の名はグルテド。ドルゼイ軍第三部隊のリーダーだ」

「1部隊じゃないんだ……」

「あのさ、かっこよくキメてるとこ悪いけど、アンタの後ろ」


コンファルが指を指す。


「あ?」

グルテドがふりかえると、いつのまにか彼の背後にドラゴンがいた。


どうしよう助けようかな。


―――100コエマドゲルポの恩があるから助けよう。


といっても眠らせる薬がないので、やむおえず痺れ薬だ。


ドラゴンに痺れ薬をなげつけると、悶絶する間もなくヒクヒク状態。


「サンキューたすかった」

「目の前でスプラッタァは勘弁だし」


どちらにせよあのままだと私達も危なかったわけで。


「ミス・アクアルナ。そこは嘘でも人助けと言ってくれ」


私がやらなくてもなんだかんだミューティロギアンやユベリスがやろうとしていたようだ。


「こいつ捕まえて先生に引き渡す?」

コンファルが笑顔でグルテドを指差す。


「あ、そうだね!」

私はそのへんに落ちてたツタを拾ってグルテドを捕まえようとした。


「あ、空飛ぶ1000コエマドゲルポ紙幣が」

「えっ!?」

コエマドゲルポ紙幣!?どこだろ?


「あ、逃げた」

「紙幣は!?」

「あるわけないだろ!」


「まあとにかくドラゴンは退治したんだ……戻ろう」


部屋に戻る。窓にコツリと石が投げられた。よく見ると綺麗な宝石。窓をあけて、拾った。売ったらいくらするんだろう。


「いやいや、待てよおい」「あ、グルテド」

裏庭のほうからこそこそと出てきた。


「そのへんに石がないから宝石を投げたんだ」

助けた恩返しに宝石をくれるなんて太っ腹。やっぱドルゼイってコレ持ってるんだなあ。


「なにしにきたの?」

「話せば長くなるが……」

「長くなるならいいや、宝石ありがとう」


「とびら開けたんだから返せよ」

「サイーフが、寒くなるわ……返せっていうくらいなら私のところに宝石投げないでよ。はぁ……」


「ちっしょうがねえな……そいつは前金としてやるよ」

「前金?」


「お前、ドルゼイ軍に入る気はないか?」


「は?」


急に現れて、なにかと思えば、私は彼に勧誘されている。


「金無いんだろ?」

「いきなり軍とか言われても……」


断るべきか、もう少し考えるべきだろうか。



やめよう。


――【勧誘拒否】


「ごめんね悪いけど軍には入れない」


私は宝石をつっ返した。


―――――翌日。


「はーいみなさん席についてくださーい」

ルネークス先生はお決まりの台詞を言いながら、教室へ入ってくる。


「今日は新しい先生が、このクラスの副担任として入ることになりました」


―――――ガラリ”


入ってきた新人教師は黒髪に黒いローブ――――


「フェルシ=ネモニアスだ。これからよろしく頼むよ皆」


―――――ネモニアス公爵様だった。


――【目指セレブ妻】



神様これはチャンスですか? 公爵夫人になれということですよね? うん、きっとそうに違いない。


でもループしたということは、私が学園内を案内したことを忘れているんだろうなあ。


『……学園長は家を出た姉なんだ』


(―――彼がここの教師にならないのは気まずいからか)


『本来は姉が公爵になるはずだったんだが……逆に自分がこの学園を作れるか、そう考えると、これでよかったのかもしれない』

_______



―――と前回は言っていたが、どうして教師になったんだろう。


「……」「…」

ネモニアスの名に教室内がザワザワとしている。


「はいはい、静かに~」

ルネークス先生が手を叩く。

ようやく静かになると、授業が始まった。


「今日の授業は珍しく真面目に、科学魔法知識からいきますよ」

自分で珍しくとか言っちゃうんだ。


「はーい」

フェルシ先生が怖いのか、皆は真面目に授業を聞くたいせいだ。


「……では後はよろしくお願いします」

ルネークス先生が落ち込み、教室の端でいじけている。


「――ユベリス、治癒魔法はどの属性か、わかるかい?」

フェルシ先生はユベリスに問う。


「木属性と光属性の複合です」

迷うことなくそくざに答える。

え、なんで治癒魔法が木と光なのよ。


「そう、正解だ。

ではミューティロギアン、なぜ光と木が治癒になるかわかるかな?」

「光に含まれる聖と木に含まれる生及び人の要素、それらが合わさるからです」


―――ますますわからなくなった。


「そう、光と聖は同じようなものだ。……ではコンファル、なぜ木が人間にかかわるのかわかるかな?」


「はい。木の遺伝子<ゲノンマ>と人間の遺伝子の仕組みは古の時代から似通っていて先人達がそれを用いて独自の魔法を作り上げたからだと思います」


―――つまりは昔の魔法がそういう風に作ったってことね。


なんとなく理解した。



――――


授業が終わると、ルネークス先生はまだいじけていた。


もうお昼ご飯の時間だけど、私はこれからどうしようかな。

____

【もちろん公爵に特効】

【ルネークスを慰める】

【ユベリス、ミューティロギアン、コンファルとご飯代わりに水を飲む】




→ 【もちろん公爵に特効】


アクアルナはフェルシを探すが、いつの間にか姿を消していたので、彼にタカるのはあきらめた。

―――――


彼との昼食後に、再びフェルシを探していたアクアルナ。

しかし、見当たらなかったため、またの明日にするのだった。

――


お昼が終わり次の時限になる。

「はーい、次の授業を始めまーす」

――――次の授業、なんだろう。


私達は先生に先導されながら、教室を出た。

野外でスケッチとか、魔植物の観察かな。


――――廊下を渡って、離れについた。

ルネークス先生が、離れの鍵をあける。


扉を開くと、部屋の真ん中には円形のリンクに剣や甲冑があった。


「闘技場?」

「今日は剣術の授業をやります」


――――――えええええ!!


私剣術は幼い頃好きでやっていたが、わけあってやめた。

ちょっとどころか、10年はブランクがあるし、できればやりたくない。


「ルネークス先生って、剣術とかできなそうな雰囲気ですよね」

悪気はないように言うコンファル。


「ええ、ごらんの通り全然できません。先生ホウキより重いものを持ったことないんで」


なら誰が、と思っていると、フェルシ先生が黒の鎧兜を着て、リンクにあがる。


「黒騎士とか……超かっけえ」


うん、わかる。

―――――――――――



水色<すいしょく>髪のあどけない少女は、藍髪の少年ニルスに木製の剣できりかかる。


『ほらほらニルス~そんなんじゃつよくなれないわよ~』


少女はおずおずとするニルスを鼓舞した。


『うわあああん! 僕に剣術なんて無理だよアクアルナ~!』

『しょうがないなあ』


ニルスは泣き出し、少女アクアルナは泣きじゃくる彼を見て、剣を下ろした。


『うう…』

『同い年なんだから、私と同じくらいもっとメンタル強くならないと』

『それ剣術より無理だよ』


ニルスはアクアルナのイトコ。彼女の父であるアルドナンドの義兄でニスルク・ビィンズ家の子。


『やーいお転婆アクアルナ~』

『お嫁の貰い手ないぞ~』


遊びにきていた従兄弟たちは、アクアルナをひやかす。


『なんですって!?』

『お? なんならオレと勝負するか?勝ったら貰い手がないってのは撤回してやんよ』

『望むところだよ!!』

『……それ、逆じゃないか?』


『くっ……』

『マジかよ……』


アクアルナは二人を倒した。


『んまあ! アクアルナお嬢様!! ……なにをなさってるんですか!?』


アクアルナは一先ず部屋で反省することになる。

従兄弟達は両親等に問いただされるも、従姉妹のアクアルナに負かされたなど恥ずかしいと否定した。


しかし、明らかに無傷のアクアルナが木製の剣を持っていたため、周囲は何があったかおおよそ解っていた。


『……申しわけない』

アルナンドはただ謝罪した。


『まったく……躾がなっていないんではないですか義兄上』

彼の義弟は息子に危害をくわえられたと不満を露にする。


『おおめに見てやれ。

大した怪我でないし、挑発したのも悪いんだ』


反対に義兄は双方に非があるという。


従兄弟達が屋敷から出ると、両親はアクアルナを呼び出した。


『おじい様……』


そこには祖父のサンドルマもいたのだ。アクアルナは驚く。


『父様がなぜおまえを呼んだか、わかるね?』

『ええ……』


自分が彼等にたとえ軽いとはいえ怪我をさせたのは事実だと、アクアルナは眉を下げる。


『相手に挑発されたからとはいえ、本気になってはいけないよ。

たまたま相手が同い年程度の子だったからいいものの、もし大人相手にそんな真似をすれば、酷い怪我を負うのはおまえんだ』


『ごめんなさい……』

『父上、アクアルナも反省しているようですし、あまり叱らないでやってください』

アルナンドは父であるサンドルマにいう。


『――――剣術はお前の心が大人になるまで、禁止じゃ』

『そっそんなあ!!』


――――――――――



「はあ……」

あれから大好きな剣術をとりあげられた私は、父の得意な薬学で気を紛らわせていた。


「まあまあ落ち込むなって、オレも剣術とか苦手だし。オレ拳派だし」

クラスメイトAが私を励ましてくれた。


「フン、オレの得意中の得意分野だな」

ユベリスは機嫌よさそうにアルカイックスマイルする。


「にげちゃだめだにげちゃだめだ……」

ミューティロギアンは剣術が苦手なようで、現実逃避を始める。


「だるいな……ピストゥルのほうがいいのに」

コンファルがなにか小声でぶつぶつ言ってる。


私達はフェルシ先生に順番に挑むことになった。


皆ウォーミングアップを始めた。


「えっと……」

クラスメイトAはBのみよう見まねで武骨にふっている。


「よっ!ほっ」

Dはお坊っちゃんらしくこなれている。


ユベリスはただ開始を待っている。素振りなどする必要なさそうだ。

ミューティロギアンはやはりおどおどしている。


コンファルはタブレッティオを隠すことなく堂々と弄っている。



「これはあくまで訓練。刃はついていないから、大丈夫ですよ」

ルネークス先生は皆に説明する。


「なんで魔法学園なのに剣術なんかあるんだろ」

クラスメイトEがなにげなく呟く。


「いくら魔法が上手くても、唱えている間に物理攻撃をくらったら

魔法なんて宝の持ち腐れになるからな」


ユベリスはこたえた。


―――これ、一人一度は挑まないといけないみたいだなあ。


「時間が勿体ないな、オレからいく」

ユベリスがリンクへあがり、フェルシに剣を向けた。


彼はマージルクス星人だし、こういう戦いには慣れているようだ。

相手の強さはわからないけど、一撃くらい余裕で当てられるだろう。



――――――カキィン”


ユベリスの初撃はブレェドに防がれた。


「……これが、選ばれた者とそうでない者の差か」


ルネークス先生は呟く。たぶん彼等の対戦とは違うことに、ではないだろうか。


―――しばらくして、ユベリスが踏み込み、フェルシが剣を放した。


「なかなかの腕前だ」


フェルシはユベリスに勝ちとられたことで、驚くでも悔しがるでもなく。


それが当然、と予想していたような反応だ。


――学年一位だもんね。次はミューティロギアンがやるみたいだ。


ユベリスと同じく一位として、やらないわけにはいかない。といった感じなんだろう。


さすがに剣を持ち慣れないわけではないだろうけど、彼はどうやったら勝てるかを計算してから戦うタイプだから、予測のつかない本気の戦いでは剣に向かないんじゃないかな。


「君はあまり戦いが好きなタイプではないようだね。」

「ええ、戦いを好むのは頭の悪い者、無い知恵を絞って目立とうとし、自分の力では何もできないから軍を作る。

そういう野蛮な人間が引き起こすものだと僕は思います」

ミューティロギアンは言った。


「……戦士に対する侮辱か?」

観戦していたユベリスは顔をしかめる。彼等は仲がよくないがいつもとは違う雰囲気だ。


「ユベリスには悪いけど、オレは三ューティロギアンの言うことは間違ってないと思うな」

いつも中立のコンファルが珍しく、自分の意見を言った。


たしかに争いはいけないけど、あんな聞く人が聞いたらキレかねない言い方はまずいと思う。

私にはミューティロギアンの言うことは理解できても納得はできないな。


「でもこれは授業ですし、いくら戦いは良くないと言っても。多くから見れば綺麗事ですから」


ミューティロギアンは踏み込んだ。回数を叩くユベリスよりは振り方が軽めで、打ち込みが少な目だ。

二人の剣の使い方は例えるなら本職と優等生ぼっちゃまのたしなみ。


しばらくして、ミューティロギアンのブレードが落ちる。


「く……」


腕が疲れて、剣が握れないみたいだ。無理にやると後に響くので、ミューティロギアンはリンクを降りる。


雰囲気に飲まれてつい真剣に観ていたけど、これはあくまで練習。

正式な試合じゃないから負けても悔しがる必要もない。


―――だからそんな必死になる必要はないよね。


しばらくして他のクラスメイト達がフェルシに破れていった。


「次はオレかな……」

ずっと観戦していたコンファルがリンクへ。彼の次は私、いかなくちゃ。かな。


コンファルはやる気なさげに、テキトーに剣をとる。あれは剣術をやったことない感じがする持ち方だ。


「君は武器をもちなれているけど、扱い方を学んではいないようだね」

「はい、オレ庶民なんで、こういう戦いなんてやったことないですけど」

コンファルの目付きが変わっている。いつもの愛想笑いが、まったくない。


早速コンファルは剣を振り下ろした。キイィン!という高い音がする。

彼はデタラメに剣を振り当てる。初撃<しょげき>以降はガン、と鈍い音が繰り返された。

「やっぱり先生には勝てないです」

コンファルは剣をひいて、リンクを降りた。


「私もやらないとだめだよね……」

「うん、ていうか君が最後だよ」

とコンファルは笑っていった。


「え?」


――――私、最後だったの!?


------


「これは実戦じゃない。そうかたくなるな」

ユベリスがアクアルナを落ち着かせた。


「頑張れ~」

クラスメイト達が応援している。


(私が最後なんて、めっちゃ皆から注目されてる!!)


―――お姫様気分である。


(ちょっといいかも……)


普段は子爵家という伯爵や男爵より目立てない空気的立場だったからだ。


―――アクアルナは剣をとり、リンクへ上がった。

―――――――


「……」


(フェルシ先生の前だし、可愛く持とうかな、いやでもわざとらしいと嫌われちゃうかな)


(―――どうしよう。もういい、普通に持とう)


「……フォームはいいね」


(やったー褒められた)


剣を振る。軽々とかわされてしまう。


(――――ちょっと悔しい)


闘争心を刺激され、剣を振る速度をはやめた。


三日月<クレシェント>を描くようにして、左右から剣を当てる。


さすがに避けられなかったのか、フェルシは二度剣で受けた。


(しばらくやってなかったけど、うまくいってよかった)


アクアルナは続いて雨粒の雫を描くようにした。


予想外の技にフェルシが怯み、後少しのところで、フェアリーベルが鳴った。


授業も終わり皆は闘技場を後にした。


「やはりサンドルマの孫、といったところかな……」


「!」


(たしかに剣術はお祖父様に教わったけど……)


フェルシはサンドルマの弟子。であればわかってもおかしくはない。


アクアルナは複雑な気持ちで闘技場を出た。



「フェルシ、君はベルが鳴らなかったら、本気になるところでしたね」

「ああ、懐かしくなった。まさか息子ではなくその孫が技の継承をしているとはな」


――――早朝。


アクアルナは森を徘徊していた。


(あ、ドラゴンの卵みたいなのが落ちてる。食べたらなくなるからあとで孵化させて増やそう)


アクアルナが森から出ると、男がうろうろしていた。


(お、めっちゃモブ顔だ。なにしてるんだろう)

―――――


「お忍びで来たはいいが――――まよった……」

「どうしました?」


モブ顔の男にたまたま通りかかった水色髪の少女が声をかけた。


「道にまよってしまったんだよ」

「じゃあプリマジェール学園の先生に案内してもらうといいですよ」


水色髪の少女はモブ顔を学園に引き渡し、颯爽と去っていった。


「なんと美しい方だろう……」

―――――――


「あーはらへったー」


アクアルナは朝から空腹で、金が落ちていないかと歩いていたところでモブ男を助けた。


「人助けしたらいいことあるよね!ね、ドラ太郎」

そこらで拾ったドラゴンの卵に話しかける。

――――――――



「おはようみんな」

「はよー」


今日も平和だなあ。


―――と思っていたら、なにやら学園前が騒がしい。


「……なにごと?」

「あ、でっけーなー」


門の前に、どっかの大富豪様の乗る名称のわからないアレがとまった。


「どうやら王子が学園に保護されてたらしいぜ!」

クラスメイトAが言う。


「へー王子が、別に学園に通ってる王子もたくさんいるし、あんますごいことじゃないよね(ぜひお近づきになりたい)」

アクアルナが言う。


「いったい誰が連れてきたんだろうな」

クラスメイトBが言った。


「アクアルナさん!」

「?」


隣の担任のレディ=パルワー先生に呼び出された。一体なにごとだろう。



学園長プリマジェール、副園長、なんか仰々しい感じのモブが待っていた。

----


「アクアルナの様子を見に行かない?」とコンファル。


「ああ」ユベリスが頷く。

「聞き耳なんて……」ミューティロギアンは真っ先に廊下に出ていた。

―――



「今朝のお嬢さん!」

「あ、今朝のモブ顔男さん」

「この方はワキヤク星の王子なのです」

「え!?こんなモブ顔が!?」

「ワキヤク星ではモブ顔こそが素晴らしいのです」

「で、モブ王子が私になんのご用なんですか?


私なにか悪いことしたわけじゃないし。むしろいいことしたし。なんか粗品とかくれるのかな。


「私と結婚してください」


「ええええええええええええ」「ええええええ」


「……おお」

「なっ…!?」

「へえ……」


王子と結婚したら、以前のように何不自由なく幸せな生活が遅れる。


だけどそれって王子が好きだから金のために結婚するようなものだし、私は嫌だ。


それに生活のことを考えたら、本当は断りたくないけど、お妃様になったら、この学園から去ることになる。


―――私は、皆と学園を卒業したい。


「ごめんなさい王子様、私は貴方と結婚できません!」

「ええ!?」


「私は落ちぶれ貴族です。王子様とは釣り合わないです」

「そんな……」


王子様はどんよりしながら、お供の人と帰っていった。


というかワキヤク星って何?地図に載ってないんだけど。




――――


あれから私は普通に授業へ戻った。


――次の日、寮から学園へ戻ると、クルルホルムを嗅がされた。


「なんなの!!?」

いきなり背後から私に襲いかかるなんて、ムカつく。


―――誰かと思えば、黒服ニンジャだ!!


「こいつぁなにもんだ薬がきかねー!」

「マキュス星人は薬が元から効かねえらしいぜ!」

「なにをトロトロやってるキサマら」


―――首の後ろをトン。とされて私は意識を失った。

――――



「王子! アクアルナ嬢をお連れしました!」

「え!?ほんとうかい!?」


「ええ、お支度がありますので、しばらくお待ちくださいませ」

--


「聞きまして?」

「ええ、聞きましてよ!」

「なんでも王子様が一目惚れなさったとか」

「わたくしたちを差し置いて、妃になろうだなんて許せませんわ!」


―---

「……え?」


目をさましたアクアルナはあたりをキョロキョロ見渡した。


「あれれ?私なんでここにいるんだろう?」


広いへや、テンガイツキノベッド。


「ていうかここはどこ?」

―――



そのころ学園ではアクアルナが行方不明になったと大騒ぎになっていた。


「おい!大変だ!!」

「アクアルナが誘拐されたって!」とコンファル。


「なんだって!?」

とミューティロギアン。


「……きっと心変わりして王子のところへ行ったんじゃないか?」とユベリス。


「お前というやつは……」ミューティロギアンは教室を出ようとする。


「待て、どこへいくんだ」ユベリスが呼び止めた。


「彼女を助けにいくにきまっているだろう」

「相手はワキヤクーザ・カレプレン・アクヤーク星の王子だぞ!?」


「―――なに?」

「なにそれ」クラスメイトCがいう。


「ドルゼイ星やダークブルームエンゲージ星の影に隠れてはいるが、とてつもない悪のいる星だという。マージルクスでさえ手がつけられない」


「なら、彼女は騙されているんだろう。尚更助けにいく」

「お前らしくないなミューティロギアン」

「一応大事なクラスメイトだからね。オレもついていくよ」


「ユベリス、お前は行かないんじゃなかったのか」

「誰も行かないては言ってない」

――――



アクアルナは自分が拐われたことを思いだし、部屋を出る。


「そこの貴女、お待ちになって」

「なに?」

「少々お話よろしいくって?」

「ちょっと顔<カンバセ>をおかし<レンタァル>あそばせ」


「やだ」

これお約束のあれじゃん


あくあるな は にげた!


「みつけたぞ!!」


アクアルナは逃走したが、とらえられてしまった。


(剣さえあれば……)

こういうとき、魔法をちゃんと学んでおけばよかったと後悔する。



「お食事をおもちしました」


アクアルナが部屋につめられると、女中が食事を運びに入る。


朝食にピッタリの焼きたてベェグルゥ、コゥンスゥプ。朝限定のポテト


「うああ…美味しそう……食べていいの!?」

「はい」


アクアルナは数年ぶりに味わうまとも以上な食事に感謝する。


「おいしー」

「……では」

―――――



「ふふふ……よくやったわ」

「あとは待つだけね」



―――



「さーて、武器でも探して逃げるかー」


アクアルナは部屋からスキップしながら出る。

こうすれば逃げたとは思われないと、判断したからだ。


「え!? なんでですの!?」

モブ女はピンピン歩くアクアルナの姿をみるやいなや、驚きの声をあげた。


「え、なにが?」

アクアルナはいぶかしむ。


「しかたありませんわね、少し予定より早いけれど……お前たち!!」


「ふぇ!」「へい!」


屈強なゴロツッキ野郎達が令嬢の後ろにならぶ。


「やっておしまい!!」


―――こうなったら戦うしかない。けど武器がない。それにこの服いつの間にかドレスだし。


薬さえあればなんとかなったけど、荷物は制服にいれていたのでここには無い。


――――どうにか剣を奪うしかないかな。


こんなに囲まれていたら“あ、ユーフォ”は使えない。


どうしたら――――


「はーっはっはっは!!」


どこかで聴いたことのある高笑いがする。


「何者だ!?」


―――あれは電波ジャックのマフィーアのボス・ドルゼイ!?


「よってたかって、か弱い娘を取り囲むとは……貴様等、救いようのないクズだな!!」


ドルゼイがチンピラを煽る。


「おい、アクアルナ」

「グルテド!?」

彼は私を抱えてチンピラから距離をとる。


その後植物のツルがチンピラを拘束した。


「大丈夫か」

「うん……ありがとう。でもどうしてここに?というかこの星どこだろ?」


「この星はワキヤクーザ・カレプレン・アクヤーク星だ。幹部の一人がスパイで、俺達を裏切ったから粛清に来たというわけだ」


「前から気になってたけど、ボスのドルゼイが星を抜け出して大丈夫なの?」

「ああ、ドルゼイ様のあれは分身らしい」


「へー」


チンピラホイホイが終わり、ドルゼイがこちらにくる。―――これはチャーンス。


「どどドルゼイ様」

「む、なんだ?」


「1千コエマドゲルポ(紙幣)でいいのでください」

本当は万札がよかったが、かなり控えめに言った。


「……悪いが余には惚れた女がいるのでな。愛人も要らない」

「いや、彼女の座とかいいんでコエマドゲルポください」

「お前、あのドルゼイ様に面と向かって話すなんてすごいな」

――――


グルテド達とは別行動。私は帰路に着く手段がないか、城を探索。

武器庫から剣を一本ハイシャーク。


「うけけ……」

ついでに宝物庫―――いや、さすがに宝石ドロンボはだめか。


宇宙船ハッケーン。


これで帰れ――――


「おっと、うごくなよ」



「あなたは王子の後ろにたぶんいたモブ!もしかしてドルゼイ軍を裏切ったスパイ?」


「知らんな、俺はドルゼイ軍なんていうデケーメジャー組織になんか入れねえ。

お前を始末するために、雇われたしたっぱさ」


ドルゼイがスパイを逃がしたのかと思ったが、どうやら別件のようだ。


剣をふれば、頭がピストルに撃たれる。


【絶対絶命!からの起死回生?】



どうしたら―――と思っていると、助けが入った。


敵もいなくなり、アクアルナは彼等の乗ってきた宇宙船に乗り、皆で学園に帰還するのだった。


「殿下、逃げられました!!もうしわけありません!」

「がああああん!」

―――――――



無事学園に戻ってきたアクアルナは、周りに注目される。

ちょっと気恥ずかしさのある反面、偉い人になった気分を味わうのだった。


―――彼に助けられた。それを思いだし、偶然とはいえ、妙に意識してしまう。


「!?」


いきなり強い風がふいた。ひらり、なにか落ちてきたのを拾うと地図だった。


【プリマジェール魔法学園】

ドゥーブルフロマージェ星にある。レギアス星を除き、惑星唯一の学園で、魔法以外も教える統合型学校。


【ドゥーブルフロマージェ星】

創った神は別にチーズやチョコが好きなわけではない。

アクアルナが通うプリマジェール魔法学園の拠点がある星。

中立、平等、平和、多民族が入り交じる。


【マキュス】

知性といえばこれ。

アクアルナ、ミューティロギアンの生まれ育ったた星。

古きより記述には知識力が高いとある。


【マージルクス星】

ミューン星の光線からゴリラになったりしない。

ユベリスの生まれた星。

記述には軍系星なため好戦的とある。


【ジュプス】

コンファルの育った星。

記述には穏和な星柄。ということになっている。


【ネプテュス】

ルネークスの出身地。何者かが暴風を起こして以来凍りついたまま。


【ドルゼイ星】

三大悪星の一つ。旧サタナス星をドルゼイが征服したが、元々悪人が占拠した星を更に悪人が奪っただけである。


【ミューン】

ウサターンがいる。ブルー光線派が出ているのでカット眼鏡をかけよう。


【プルテノ】

金持ちしかいない。なぜなら彼等自身がコエマドゲルポだからさ。

―――


なんだろう。まあいっか、取り合えず持っておこう。

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