序
都会から少し離れた閑静な住宅街より、さらに奥。
鬱蒼とした木々に囲まれた平屋の屋敷。
その瓦屋根に単調な音律を響かせながら降り続く雨。
時季は夏に差し掛かる頃。
久々に降る雨である。ここ数日、茹だるように上がっていた暑さを少しばかり和らげるかのよう。
しかし、そんな雨を忌々しげに見る人物がいた。
年の頃は二十代前半であろう女性。漆のように深い黒髪は腰に届かない程度まで長い。白い単衣に淡い青の羽織を肩に引っかけており、よく黒髪が映える。
外を忌々しげに見る瞳は深い蒼。首には桜の花弁ととんぼ玉があしらわれた首飾りがある。
彼女はこの屋敷の主である月夜。
「・・・最悪ね。今日は出かける用事があるのに」
女性にしては多少なりとも低い声音で紡がれた言葉。
今一度、雨が降り続く様子を一瞥し、深く息をついた。
あれから、どれ程の時が流れたのだろうか。
長い時が流れた分だけ、私は成長できたのだろうか。
偽善という名の刀を持ち、罪なき人々を罪とし、血にまみれた姿。
こんな姿でも、貴方は・・・ーーーーーー。
「・・・っ何をいまさらになって・・・」
まだこんな感情があるなんて・・・。
ふっ、と自らを嘲るように笑い、頭を振る月夜。
くるりと身を翻し、彼女は奥へ進む足を進めた。
雨が降るといつも思い出す。
貴方と出会い、別れた日を。
望まなければ失うこともなかった。
けれども。
求めずにはいられなかった。
全てが過ちとなってもかまなかった。
たとえ貴方が望んでいなくとも。
たとえ貴方が赦さないとしても。
それが報われない想いだとしても。
私は、貴方を・・・・・・ーーーーーーーーー。