なんか色々混ざってる昔話
昔々、あるところに子宝に恵まれないお爺さんとお婆さんがいました。
お婆さんが川で洗濯をしていると、桃が流れてきました。お婆さんは川の水があまり綺麗ではない事を知っていたので無視しようか迷いました。
ですが、お婆さんの目の前まで来たところでぴたりと桃が止まりました。川の流れで流れていたのではなかったようです。
お婆さんはこの珍しい桃から捨てられた犬のような雰囲気を感じ取ったので、取りあえず持って帰ることにしました。
家に帰ると、お爺さんの頬にあったこぶが無くなっていました。
「お婆さんや、儂は山で鬼と踊ってこぶを取ってもらったよ」
お爺さんが年齢を感じさせる萎れた声でそんなことを言い出しましす。
鬼は恐怖の象徴、見つかれば喰われてしまうと言うのが人間の中での共通認識です。お婆さんは、ついにボケてしまったかとお爺さんの事が心配になってきました。
「いつまで寝ぼけてるつもりですか? そんなことより、川から流れてきた桃を拾ってきましたよ。今、切りますから一緒に食べましょうか」
お婆さんはそう言い、台所に向かいました。言ってから私もボケているみたいだと思いましたが、嘘は言っていないので気にしないことにしました。
「わざわざ川に流れているような桃を拾ってこんでも……」
お爺さんが小声で呟きましたが、お婆さんには聞こえませんでした。
「おぎゃぁぁおぎゃぁ」
包丁を持って桃を半分に切ろうとしたところ赤ん坊の泣き声が聞こえました。お婆さんは驚いて、辺りを見回します。そうすると、桃の横に三センチほどしかない赤子が泣いていました。
赤子を見つけると同時にお爺さんが泣き声を聞いて台所にやってきました。
「お婆さんや、赤子のように泣くようなことがあったのかい?」
お爺さんは状況が良くわかっていないのか、そんなことを言います。お婆さんは、完全にボケてしまったみたいだと思いました。
状況を説明するとお爺さんは大層喜び、この子を育てようと提案してきました。お婆さんも確かにこのまま捨てるのも後味が悪いと思ったので賛成します。
それから二人は赤子に桃太郎と名付けて、大切に育てました。
しかし、桃太郎は不思議なことに何年経っても身長が三センチから一切伸びませんでした。お婆さんは奇妙な桃太郎をいつしか敬遠するようになりました。
本人もその事にに気付いていたため十六才になった日、お爺さんに針とお茶碗を貰い十六年前に桃が流れてきた川から旅立ちました。
数日後、桃太郎は山の中を歩いていました。山を越えたところにある村を目指していたのです。
「じいさ……うもあ……よ。おれら……れ…………こ……るよう……ん……らな」
暫く歩いていると突如、誰かの低い声がかすかに聞こえてきます。
桃太郎は、こんな山の中に誰が何をしているのか気になったので声を頼りに探します。山の中は自分の背丈より高い雑草が生い茂っているため、進むのが困難でしたがやっとのことで声の主を見つけました。
そこでは、七人の鬼に囲まれたお爺さんが楽しそうに『大きな古時計』を歌いながらブレイクダンスをしていました。桃太郎は鬼に呪いでも掛けられてしまったのかと思いました。
お爺さんには今まで良くして貰っていて長生きして欲しいと思っていたので、何とかしなければと必死に考えます。ですが、鬼は恐怖の象徴です。普通の人間でも成すすべなく喰われてしまうのに身長が、三センチしかない自分では何も出来ないではないかと桃太郎は、自分の力の無さを悔みました。
そうして考えていると、お爺さんが桃太郎のことに気付きました。
「おぉ、桃太郎ではないか。どうだ、一緒に踊ってみるか?」
今の発言で鬼が全員、笑顔で桃太郎を見ています。桃太郎は食料が増えたことがそんなに嬉しいのかと心の中で悪態を吐きます。
不意に桃太郎はお爺さんとお婆さんとの思い出が頭を過ぎりました。二人はこんな奇妙な自分に色んなことを教えてここまで育ててくれた事を思い出していると、桃太郎の何か心につっかえていたものが取れました。
「お爺さんが殺されて、何も出来ずに後悔して死ぬより、戦って死んでやる!」
桃太郎はそう叫び、針を握り締め一番近くにいた鬼に向かって走り出しました。それを、鬼は見た目から大した脅威ではないと判断したのか、全く動きません。次の瞬間、桃太郎は驚異的な脚力で鬼の頭上まで飛び上がります。そしてその勢いを全て針に乗せ鬼の額に向かって飛んで行きます。
この戦闘術はお婆さんが考案し、教わったものです。桃太郎が身を守る術を身につけたいと悩んでいると、徹夜で考え出してくれました。
鬼の額に針が当たると、突き刺さることは無く針が折れてしまいました。そして、桃太郎は鬼に捕まってしまいます。
「小さき人よ、我らの話を少し聞いてくれ」
桃太郎は、鬼が人間の言葉を話したことに驚きました。そして、何故捕まえたのに食べないのかと不思議に思い、先を促します。
「すまないな。あの爺さんとは十六年ほど前に知り合ってな、それからこうしてたまに集まって遊んでいるのだ。取って喰ったりはせんから安心せい」
桃太郎は自分の耳を疑いました。人を喰うと有名な鬼が人間と遊んでいるのです。
「お、お爺さんこれは、本当なのですか?」
「あぁ、そうじゃよ。お前を掴んでおるブルーマウンテン……鬼の言う通りだ」
桃太郎は『ぶるーまうんてん』が何か分かりませんでしたが、どうやらお爺さんは正気のようです。
おじいさんが鬼に誑かされているのではないと言う事実からか桃太郎の肩の力が抜けました。
「そうだったのですか。それは、本当に申し訳ありませんでした」
「いやいや、私たちは鬼だからな。そう思うのも無理はないだろう。だが、私達は人間と仲良くしたいと思っているし、喰ったりはしないんだ」
桃太郎が謝罪すると鬼は快く許してくれました。
その後、桃太郎は山を越えた所にある村から時々、鬼に会いに行きお爺さんと一緒に鬼と遊びました。いつの間にかそこにはお婆さんの姿もあったとかなかったとか。
めでたしめでたし。
初投稿です。思いつきと勢いで書いたものですが、少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
小説のジャンルは童話と迷いましたが、幼年、児童に向けと言うわけでもないのでコメディにしてみました。