7話 相棒~あいぼう・一緒に事をするときの相手パートナー~
僕たちはホテルで買った手土産を手に僕の家へと行った。
もちろん正月やお盆には‥‥帰った記憶がない。
帰らなくても電話やメールを‥‥した記憶もない。
まぁ~男子たるもの結果こそすべて何も果たすことなく故郷に錦を飾れるか!‥‥と言いたいが実のところ仕事が忙しく帰省どころではなかった‥‥と自分に言い訳をしながら久しぶりの帰路に着いた。
この時間なら母さんがいるはずなのだが、電話して来ればよかったかなぁ?と後悔をしながら玄関のチャイムを押した。
なんだか、胸騒ぎがした。
「お父さん!」
そう言って玄関から飛び出きた母さん。
「何だ、勇気なのね。え!勇気!あなた勇気なの!」
母さんは父さんではないことに落胆したあと、僕だった事の喜びでパニック状態だった。
「母さん連絡もなしに来たこと、ごめん。どうしても父さんと母さんと幸子に話したい事があるのだけど‥‥何かあったの?」
「え!と、とりあえずあがりなさい。あら杏さん。いつも手紙ありがとうね。さぁ杏さんもあがって」
「え?手紙?手紙ってなに?」
「そ、それは‥‥後から話すわ」
杏が笑ってごまかした。
手紙って‥‥と訝しく思いながら家へと入ると、明らかに母さんの様子がおかしかった。
僕は改めて聞いた。
「母さん‥‥何があったの?」
あんなにおしゃべりだった母さんが口を開こうとしなかった。
ピンポーン
突然チャイムの音が鳴り響いた。
「お父さん!」
母さんは玄関に走った。
もちろん僕たちも後に続いた。
「あら!幸子のお友達」
「おばさん、はいコレ。明日必要な物と授業のノートです。幸子は大丈夫ですか?学校を休むなんて無かったから‥‥」
「大丈夫よ。少し風邪をこじらせただけだから。コレありがとうね。渡しておくわ」
「はい。また明日~」
幸子の友達は帰っていった。
おかしかった?玄関には幸子の靴は無かった。
玄関で母さんを問い詰めた。
「幸子はいるの?玄関に靴が無かったように思うけど‥‥母さん!」
「はい!も~お父さんそっくりなんたから。びっくりしたわ!」
「そっくりなの!」
「も!勇気!喜んでないで!幸子ちゃんはどうしたのですか?お母さま」
「杏ちゃん!どうしましょう!どうしましょう!」
「えーい!お母さま!落ち着いて下さい!勇気に能力があったのです!特殊な能力ですがちゃんと能力者だったのです!だから話してください!幸子ちゃんに何があったのですか?」
「杏ちゃん?その話し本当なの?勇気にちゃんと能力があったのね!」
「勇気!本当なのね!」
「もう!母さん落ち着いて!僕のことは後でいいから幸子に何があったの?」
やっと落ち着いてくれた母さん。
何があったかを話してくれた。
とりあえず杏と母さんの関係は後回しにした。
絶対あとから問いただしてやる!
「今朝はいつもの通りに起きて学校に行ったのよ。あ!そうそう幸子はCAの専門学校に行くことにしたのよ。も~そりゃ真剣に勉強していたわよ。でもCAってスカイの能力はなれないらしいの‥‥心配だわ」
「母さん。話しそれている。幸子は今朝ちゃんと学校に行ったの?」
「あら!ごめんなさい。いつも通り行ったわよ。ところが8時頃、幸子からメールで勇気を学校廃虚に1人で来いって書いてあったの。冗談かと思っていたら、学校から電話があって幸子が来ていないからどうされたのですか?と言われてパニックになっちゃって。お父さんに電話をかけたら、今現場に出ているから戻ってきたら電話してもらうことにしたのだけど‥‥勇気‥‥どうしましょう」
「学校廃虚ってあの廃虚?」
「そうだと思うわ。でもあそこは老朽化が進んで中に入れないようになっているはずよ。たしかもうすぐ取り壊す予定だってお父さんから聞いたわ。消防署の方に申請が出ていたって話だわ。
まさか‥‥行くの?そんなのダメよ!勇気にもしもの事があったらどうするの!お父さんが帰って来るまで待ちましょう!ね!」
「母さん!そんな時間はないと思う。それに用があるのは僕で、たぶん相手もわかっている。僕が行かないと幸子は危ないし助けてほしいと頼まれたから。僕は行くよ!」
「私もついて行くわよ!」
「杏‥‥杏まで守る自信が‥‥」
「なめないで!私が勇気に守られるなんてありえない!自分の身ぐらい自分で守ります!それに‥‥」
「杏、わかったよ。でもけして危ない事はしないでほしい!それと少しだけファイアーを借りるよ」
「もちろんOKよ!」
「母さん!父さんが帰って来ても家にいてほしい!もし何かがあれば連絡するから!僕なら大丈夫!杏もいるし僕もホラ!」
右手の手袋を外し、炎を出して見せた。
「きゃ!勇気!本当なのね!」
「母さん!落ち着いて!今はファイアーだけど僕の能力はファイアーじゃない!詳しくは帰ってから話すから待っていて!」
「‥‥わかったわ。でもこれだけは約束して!絶対無茶なことをしないで!お願いよ!杏ちゃんも!」
「お母様‥‥」
「うん。必ず幸子と僕と杏の3人で帰って来るよ!待っていて!」
そう言い残して家を出た。
場所はすぐにわかった。
小学校が統廃合され、余った校舎や体育館をどうするかでもめている最中の建物で、僕が6年間いじめられ続けた母校だ。
確か体育館のかぎが壊れていたはず‥‥と覗きに行くとそこに縛られ猿ぐつわをされた幸子の姿があった。
その横で椅子に座り入り口を睨んだまま動かない眉目秀麗で黒のスーツを着たインテリ風の男の姿があった。
恐らく彼が鎌田静香だ。
僕と杏はその場から離れ作戦を練った。
「杏は右の体育館倉庫の窓が壊れているはずだから、そこから中に入っていてくれ。僕が倉庫のドアを破壊するから頃合いを見て幸子を助けてほしい。
鎌田静香の方は僕が何とかする」
「わかったわ‥‥無理なことをしないでね」
「わかった」
そして僕達は別れた。
杏は先ほどの場所に戻り僕は正面の入り口に向かった。
入り口のドアはやはり施錠されてはいなかった。
「約束通り1人で来ました。幸子を解放してください」
「本当に1人で来たのですか?」
そう言うと両腕を広げ横から前に動かした。
流れる水のように優雅な動きだった。
でも両手から出された水は優雅ではなかった。
体育館のドアと窓をすべて破壊した。
僕は杏が巻き込まれたかもと思い一瞬、息をのんだが大丈夫だったので安心した。
「ほお~本当に1人で来たのですね。関心ですよ」
「それはどうも。約束通り1人で来ました。幸子を放してもらってもいいですか?」
「私の質問に答えてくれますか?」
「約束が違いませんか?せめて幸子の無事を確認させてほしい。質問なら答えますから」
男は右手で僕を促した。
僕は猿ぐつわをされて彼の足元に転がっている幸子に近づき小声で話をした。
「幸子、大丈夫?僕が右側の倉庫のドアを破壊するからそっちに向かって走れ。飛んでもいいから倉庫に行け!そこに杏がいる。いいね!」
幸子は蒼白な顔で何度も頷いた。
僕は幸子を抱きしめて精一杯微笑んだ。
「大丈夫!お兄ちゃんが助けるから!」
幸子は泣きながら大きく頷いた。
その光景を黙って見ていた。
鎌田静香は林田当麻の言う通りの人かも知れない。
僕は手袋を両手とも外しポケットにねじ込んだ。
酸素を吸い込んで右手から火玉を右側付近に飛ばした。
「幸子!走れ!」
僕は叫んだ。
そして男に向き直った。
「やってくれましたね」
「質問には答えますよ」
僕の後ろでは右側が派手に燃えていた。
男は右手を鞭のように、しならせなから水を出して火を消した。
「まぁ~いいでしょう。彼女の役割は果たしました。さて、嶋村勇気さん。あなたは何者?」
「僕は‥‥僕ですよ」
「フハハハ!答になってないですよ!」
話を終える前に水の鞭で僕を打ちつけた。
何とかかわせたが、足がもつれて転んでしまった。
「大丈夫ですか?」
と言葉は優しいが行動は優しく無かった。
雨のように鞭を打ち続けた。
致命傷になるような傷は何とかよけられたが息が上がってしまった。
「私の質問に答えて下さい」
「ハァ、ハァ、ハァ‥‥僕は‥‥あなたに依頼してきた人は勝又翔と名乗っていませんでしたか?僕はその彼と同じ能力を持つ者です。
情報にたけたあなたの事です。知っていたのではないのですか?妹を人質に僕を呼びつけたと言う事は‥‥全て調べてあるのでしょう?」
「ほぉ~過大評価ですよ。ただわからないことがあります。あなたと依頼者、勝又翔の能力です。スカイ‥‥ではないでしょう。あなたが違う‥‥」
膝をついて息を整えてから立ち上がり正面から男を見据えた。
今の僕には考える余裕がなくなっていた。
時間を稼ぎをしなければ!杏と幸子を逃がさないと!僕にはそれしかなかった。
「エンペラーです。奪いそして与える能力です。この能力は‥‥」
そこまで話したとたん水の鞭で僕の左頬を斬った。
「当麻の能力を奪ったなぁ!そして殺したなぁ!」
「当麻兄ちゃんは死んでなんかない!」
声と一緒に無数のボールが飛んで来た。
逃げて欲しかったのに!
僕の目論見は見事に外れた。
僕は男を見据えたまま叫んだ。
「杏!何で逃げなかった!」
「勇気を置いて逃げる訳ない!」
「そうよ!お兄ちゃん1人じゃ頼りないもん!」
「幸子まで‥‥」
と言い終わらないうちに男が動いた。
一歩ずつゆっくりと歩き杏と幸子のいる倉庫に向かっていた。
僕は止めようと左腕を掴んだ。
もちろん男の過去を視るために掴んだのだが‥‥その瞬間、鎌田静香の闇を視た。
僕は思わず我を失った。
「うぅ‥‥わぁぁぁ!!」
大声を張り上げむせび泣いた。
突然、何が起こったのかわからなかった男は足を止め僕を一瞥し、また歩き出した。
僕が視た鎌田静香の闇は深かった。
一瞬、思考も動作も止まってしまったが、それでも何とか僕は慌てて鎌田の後を追った。
「幸子ちゃんは下がっていて!」
「きゃー!来ないで悪魔!あんたなんて‥‥きゃー!」
「杏!幸子!」
僕は何とか鎌田さんと杏の間に割り込んだ。
まさしく水の鞭が鎌のように変化して杏に襲いかかろうとしていた。
僕が割り込んだおかげで杏に怪我は無かった。
その代わり僕が左肩から右下に向けて斬られてしまった。
でもそんなことより僕は林田さんとの約束を守れないことに焦っていた。
痛みなんて忘れていた。
「杏も幸子も止めろ!この人、鎌田さんの闇には誰も入れない‥‥」
僕は涙が止まらなかった。
後から後から涙が流れ落ちた、拭うことも出来ずにただひたすら泣き続けた。
「勇気!」
「僕なら大丈夫!このくらいの傷たいしたこと無い。鎌田さんの悲しみに比べたらかすり傷だよ」
「お前に何がわかる!」
「杏、林田さんに謝らないといけない。僕には無理だ。鎌田さんの悲しみはあまりにも暗くて憎しみしかない。僕にはどうすることも出来ない‥‥ごめん」
僕は鎌田さんと杏の間で泣き崩れた。
「どう言うことだ?」
「勇気はトレースの能力を持っているの!勇気は当麻兄ちゃんにお願いされたのよ!林田当麻にあなたの事を頼まれたの!救ってほしいと‥‥そこで勇気はあなたの過去を視たと思うわ。何を視たかは‥‥勇気にしかわからないけど?勇気‥‥大丈夫?」
「私の過去‥‥?」
そう僕は鎌田静香の過去を視た。
過酷な過去に絶句した。
鎌田静香は両親と妹の家族4人で裕福な暮らしをしていた。
視た家が大きかったし、とても楽しそうな笑い声が聞こえた気がした。
彼が高校生のとき父親が騙され全てを失った。
さらに闇金から借りた金が焦げ付き、両親は彼と妹の残し夜逃げをした。
それから彼はヤクザの構成員としてこき使われ、妹は売り飛ばされた。
彼は時間を見つけては妹のことを探し回った。
やっと見つけた妹は見るも無惨な姿だった。
あのかわいかった妹ではなく、やせ細り麻薬中毒者になっていた。
兄のこともわからず麻薬をねだる売春婦になっていた。
全力で妹を助けようと足掻いたがむなしく亡くなった。
彼は善も悪も関係無く全てを憎んだ。
独りでアンダーグラウンドを生きる道を選んだ。
その道すがら同じ悲しみの目をした林田当麻と出会い分かち合い仲間になった。
「私の過去を視る?‥‥私の過去を視たのかぁ?」
僕は静かに頷いてうつむいた。
それしか出来なかった。
もちろん涙はまだ止まっていない。
「バカバカしいそんな話があるか!だったら言ってみろ!俺の家族構成は?え!」
と口調が崩れた鎌田さんは座り込んでいる僕の襟首をつかみ顔の近くに引き寄せた。
僕は首を降り続けた。
「本当に‥‥視たのかぁ?」
僕は大きく頷いた。
ただただ泣くしか出来なかった。
鎌田さんは力をなくし僕と一緒に崩れ落ちた。
「本当に視たのですね。どうでした?私の過去は」
「はい‥‥ヒィク‥ハァ~スゥ~ハァ~」
座ったまま深呼吸し、涙を袖で拭いて偽らざる僕の気持ちは話した。
僕にはそうするしかなかったから。
「すみません。僕は幸せ者です。比べる事ではないけれど‥‥あなたの‥‥鎌田さんの過去は辛いです。悲しくて苦しかったです。
林田さんにあなたを助けてほしいと頼まれましたが僕では無理です。‥‥鎌足さん、僕を助けてくれませんか?僕はエンペラーと言う100年に1人の能力者です。この左手から能力を奪い、右手から能力を与える能力です。さらに僕、1人でいくつもの能力を持つことが出来ます。100年に1人なのにもう1人エンペラーの能力者がいます。そうです。勝又翔です。
彼も父親に捨てられ母親を殺してしまい、世の中を恨み復讐を狙っています。全ての能力を奪い弱い者を切り捨て、強い者からは奪い殺していく‥‥僕も同じ能力者です。僕には彼の気持ちがわかる気がします。でも‥‥でも!恨み続け復讐を果たした先に何があるのですか?
僕は父さんに、逃げるな!言いたいことがあるならちゃんと言え!と教えてくれました。僕にわからせようと父さんも苦しみました。
僕は守られていた。みんなに、それは今も変わらない‥‥鎌田さん‥‥僕は‥‥翔も助けたい‥‥彼は‥‥僕‥‥だか‥ら」
言い終わらないうちに僕は気を失った。
その後のことは後から杏に聞いた。
杏は気を失った僕に手袋をして、僕を後ろから支えていたらしい。
「杏?‥‥ひょっとしてあなたは知花杏ですか?」
「はい」
「当麻は無事ですか?」
「はい無事です。当麻兄ちゃんは警察病院にいます。‥‥勇気のバカ!むちゃをしないと約束したのに‥‥」
「本当にむちゃをしましたね。そうですか、当麻は生きているのですね」
「勇気が言っていました。苦しみと悲しみを知っている人は打たれ強いし我慢強い‥‥と。
勇気は18年間、独りで苦しみ続けてきました。私からもお願いです!勇気を助けてください!鎌田さんなら大丈夫です!だって当麻兄ちゃんを助けてくれた人だもの!」
「フゥ‥‥フフ‥‥おかしな人ですね。私は犯罪者ですよ」
「そんなこと知っています!でも勇気が鎌田さんに助けてと言いました。私はその言葉を信じます!」
「おかしな人たちだ‥‥でも私はそんな人が好きですよ。まずは勇気を助けましょうかね!」
そう言って僕をお姫様抱っこした。
僕は気を失っていたから‥‥不可抗力であったと叫びたい!
そしてみんなの記憶も失っていてほしい。
杏が警察と救急車、そして僕の自宅に連絡をしてくれた。
僕は病院に運ばれ、鎌足静香は警察に連行された。
僕は林田当麻と鎌足静香を助けたい気持ちだけで口走っただけだったけれど今思うと、我ながらいい考えだった自画自賛したのは秘密だ。
僕の選択は間違っていない!と思いたい。