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エンペラー  作者:
7/32

6話 家族~かぞく・夫婦と血縁関係による共同生活の単位~

 目が覚めると見知らぬ所だった。


 枕に顔をうずめて2度寝に入る寸前、一気に昨日の事を思い出し目が覚めた。

 勢いよく起きてしまい目眩が‥‥おとっと。

 隣を見ると所長が使うはずのベッドは、使われた形跡は無いようだった。

 あれ?帰ってきてない?とクエスチョンだらけにしていると部屋のチャイムが鳴った。

 勢いよく何度も何度も。


「ハイハイハ~イ!今開けます!」


 僕は慌ててドアを開けた。


「ちょっと!まだ寝ていたの!」


「杏!何で?」


「所長から電話をもらったのよ。お泊まりをしたから勇気の着替えを持ってきてほしいって言われたの‥‥話は所長から聞いたわ。勇気!私は平気だからね!」


「杏‥‥ありがとう」


 僕は着替えをすませ朝食をとりに下に降りた。

 もちろん杏と一緒にね。

 でも杏の様子がおかしい様な気がする。

 思い詰めているような雰囲気があった。


「杏、所長は‥‥」


「うん。まだみたいね。今朝、電話があってね。勇気が起きたら電話がほしいって言っていたわ」


「わかった。でも電話の前にご飯だね。昨日もまともなご飯を食べてないから‥‥兎に角、ご飯が食べたい!」


「あはは!勇気は強いね!」


 そう言って2人で朝ご飯を食べた。

 食後のコーヒーを飲みながら他愛のない話をした。

 今の杏は普通なのにさっきの杏は何だったのだろうか?


「杏‥‥食べて来たって言わなかった?」


「うるさいわね。運動するから平気よ!それにファイアーは脂肪の燃焼がいいの!その証拠に太った人いないでしょう!」


「でも科学的根拠はないって聞いたけど?」


「細かいとこ気にしすぎよ!それより‥‥勇気に聞いてほしいことがあるの‥‥」


 と言ったきり、おしゃべりの杏が黙り込んでしまった。やはり何かあったんだ!


「杏‥‥」


「勇気あのね‥‥私、人を探していたの。私の幼なじみでね‥‥私のお兄ちゃんみたいな人だったの。

 私ね‥‥私の家族はとても珍しい家族なの。普通、親子でも同じ能力者はいないでしょう。でも私の家族は皆ファイアーなの。お父さんもお母さんも私も同じファイアーなの。でも同じ能力なのだけれど、威力が私だけ低かったの。何にも言わないよ!父さんも母さんも、でも明らかに落胆していたわ。

 勇気ならわかるわよね!能力の低い人はいじめの対象に‥‥私も例外なくいじめられたわ。そんなとき隣に住んでいたお兄ちゃんが私を助けてくれたの。

 でもお兄ちゃんの家に強盗が入って‥‥そのときお兄ちゃんは私と私の両親と4人でキャンプに行っていたの。本当はお兄ちゃんのご両親もくる予定だったけれど‥‥お兄ちゃんのお母さんが具合を悪くして‥‥こられなくなったの。だから私たち4人でキャンプを楽しんでいたの。楽しかったわ!今でもはっきり覚えているもの。でも‥‥翌日、家に帰ったら‥‥」


 杏が言葉を詰まらせむせび泣いた。

 僕が肩を優しく撫でてハンカチを差し出した。

 今は何も言わずに話を最後まで聞くべき場面だと感じた。

 けれどもここで聞いていい話ではないように思い一つ提案を入れてみた。


「杏‥‥大丈夫?無理に話さなくても大丈夫だよ。それに部屋に戻ろうかぁ?」


「ありがとう勇気。大丈夫よ。でも部屋で話した方がいいかしら?」


「そうだね!ジュースとおやつでも買って行こうかぁ!」


「うん!来るとき美味しそうなお菓子があったの!あれ買っていい?」


「もちろん!」


 杏はまだ涙目だったが笑顔だった。

 痛々しい杏の笑顔が僕の胸を締め付けた。

 お茶とおやつを買って部屋に戻った。


「これ美味しいね!皆のお土産に後で買って帰ろう!」

「いいわね!」


 2人しておやつを平らげた。

 お茶を一口飲んで杏が続きを話し出した。


「4人でキャンプは本当に楽しかった!今でも覚える!虫取りしたり釣りをしたり、楽しかった!でも‥‥でも‥‥帰ってきたら地獄だったわ。私はよく覚えてないの、あまりのことに記憶を消したのかしら?

 強盗だったみたい。犯人はまだ捕まっていないの今だにね。その事件の後からお兄ちゃんの性格は変わったわ。凶暴になって暴れ回ったの。そんなときでさえ私には優しかったわ。でも傍若無人な振る舞いが祟ってとうとう警察に捕まって、それ以来、会ってないわ。

 私‥‥怖かったの‥‥私‥‥ショックだったの!おじさんとおばあさんの事件で変わってしまったお兄ちゃん。何もかもが怖くて怖くて‥‥部屋に引きこもってしまった。元々いじめられていたから、人がね……怖かった。それがさらに加速して、お父さんもお母さんも部屋には入れなかったわ。ご飯すら食べなくなって私、衰弱して救急車で運ばれてたの。そのとき初めてお兄ちゃんがいなくなっていた事に気がついたの。

 私、お兄ちゃんに会いたい!そのお兄ちゃんの名前は‥‥林田当麻‥‥勇気が能力を奪った男がお兄ちゃんなの!お兄ちゃんが生きていたの!昔のお兄ちゃんに戻らなくてもいいから生きていてほしかったの!私‥‥私‥‥お兄ちゃんに会いたい!勇気どうすればいいの‥‥」


 杏の想い人のことは知っていたけれどまさか犯罪者になっていたとは思わなかった。

 思い詰め下を向いてしまった杏。

 僕は杏を助けたい!

 想い人が目の前にいて会えないなんて‥‥でも犯罪者‥‥でも犯罪者‥‥でも‥‥でも今なら!


「杏‥‥僕のエンペラーは奪いそして与える能力。僕は‥‥人は悪ではないと思っているんだ。それにファイアーは返すことも出来る。

 だって僕には親友と言う力があるから!ちょっとクサかったかなぁ?でも杏、僕はすでにトレースと言う能力をサリーのお婆さんからもらった。お婆さんは僕ならって言って譲ってもらったんだ。僕ならって!僕はこの20年間、能力無しで生きてきた。突然、2個も3個も能力は使えないよ。一つでいっぱい、いっぱいだからね。だからファイアーは返すよ。

 ただ昨日、チラッと聞いたんだけれど‥‥あの男、林田当麻はデスウォーターの幹部だったようだよ。デスウォーターと言うのは国内最大の犯罪グループで、誘拐から殺人まで依頼があれば何でもする犯罪組織らしいよ。警察でわかっていることは、リーダーがウォーターの能力者で右腕がファイアーの能力者と言う事だけわかっていたらしい。

 僕はどうしょうかと悩んでいる。その事を所長に相談したかったんだけれど‥‥杏‥‥会いたいよね?」


「うん!会いたい!お兄ちゃんがどんな犯罪者でも会いたい!私が目をそらしたばかりにお兄ちゃんは独りになったの‥‥私‥‥側にいたのに!私がいじめられたときは側にいてくれたのに!」


「杏の気持ちはよくわかったよ。所長に相談してみる。能力を返す、返さないに関係なく会うだけなら出来ると思う。それに今なら能力がない状態だから会うだけならいけるかも?所長に電話をしてきていいかい?‥‥僕は会うべきだと思うよ」


「勇気ありがとう!」


 僕は杏の頭をポンポンと叩いてから携帯で所長に電話をかけた。


 杏からの告白には正直驚いた。

 いつも明るく元気いっぱいの杏。

 人は誰でも悲しみを抱えているけど杏の悲しみは深いような気がした。

 杏を救いたい。

 僕に手を差し伸べてくれた最初の人が杏だ。

 彼女が僕の家に来てくれなければ今の僕はいないように思う。

 何とかしなければ!


「あ!所長ですか?よかった。あれからずっと官邸ですか?所長に相談があるのですが?今、大丈夫ですか?」


『え~と、私も勇気くんには話をしたいことがあるのから‥‥もう少し時間が、かかるので‥‥』


 と言い淀んだ隙に僕が先に話をした。言ったもん勝ちだね。


「所長、杏が探していた人のことをご存じですか?」


『も、もちろん知っているよ』


「その探していた人は研究所を襲った二人組でファイアーを使っていた人が、杏が探していた人だったようです。杏はとても会いたがっています。今なら能力を失った状態です。ファイアーを保持している僕も同行しますから会わせる訳にはいきませんか?」


『そうかぁ!あの男が杏くんの探していた人だったのかぁ!‥‥わかった警察には私から話しておこう。会うだけなら大丈夫だと思う。ただ警察官も同席すると思うけど、それでもいいかい?』


「はい杏もOKサイン出しています。それと、父さんと母さんに僕の能力の事を話してもいいですか?僕にも能力があったことを話しては駄目ですか?」


『ちょっと待ってくれ‥‥‥‥待たせてすまない。え~と、ご両親なら話してもいいよ。本来は私から話さなければいけないのだが‥‥私も同行した方がいいかなぁ?』


「お忙しいそうなので僕だけで大丈夫です。多分、杏も同行してくれると思うので‥‥2人で行ってきます」


『そうかぁ。すまないね。改めて伺いますと伝えてくれ。では警察病院の場所を‥‥』


 杏の想い人がいる病院を教えてもらい電話を切った途端、杏が飛びついて来た。


「勇気!ありがとう!」


「おとっと!杏、危ないなぁ!でも僕と警察官が一緒だよ」


「もちろん!本当にありがとう!」


 杏は泣いていた。

 僕はちょっとだけ複雑だった。

 また杏が傷付くような気がしたからだ。

 自分が探していた人は犯罪者だった。

 僕が杏なら堪えられないと思うから。

 それでも会いたがった杏。

 僕に今求められているのは能力ではなく杏の心を支える優しさだ。


 僕らはホテルをチェックアウトして警察病院をめざした。


「杏1つ聞いてもいい?」


「なに?」


「その‥‥大丈夫かい?」


「え!?」


「だって探していた人が犯罪者と言うのは‥‥その‥‥」


「うん‥‥会ってみなきゃわかんない。でも心のどこかでそうなっているかも?とは思っていたの。

 初めはお兄ちゃんだとは気がつかなかったわ。でも勇気が私の名前を言って、私が杏だと気がついたときの顔は、私の知っているお兄ちゃんだった。

 私と別れてからのお兄ちゃんに何があったかはわからない。でも今度は逃げない!でも‥‥正直言って1人で会う自信は無かったけれど勇気が一緒なら大丈夫なような気がする!ありがとうね」


「杏!頑張ろうね!」


 そんな事を話しているうちに僕らは病院に着いた。

 受付で僕の名前を言うと係の警察官が来てくれた。

 病室に入るや否や杏がベッドに駆け寄った。


「お兄ちゃん!」


「やはり杏だったかぁ」


「お兄ちゃん‥‥うぅ~」


 杏がベッドに泣き崩れた。

 僕が杏をベッドから起こし少し離しながらハンカチを手渡した。


「杏‥‥」


「大丈夫、ありがとう」


 そう言って手渡されたハンカチで涙を拭い。

 ベッドの縁に手錠をされたまま横になっていた杏の想い人が杏を睨んでいた?どうも、緊張していて自分がどんな顔をしているかわからなかったようだ。


「杏、緊張しないで。大丈夫だから。ほら!深呼吸して、僕も一緒にするから」


「うん‥‥そうだね」


「吸って~吐いて~吸って~吐いて~」


 2人で深呼吸をした。

 あまりの場違いに呆然とする警察官と大爆笑に変わっていた杏の想い人の姿があった。


「いい!いいよ!杏は明るくなった!あんた、嶋村勇気だろう?」


「はい」


「やっぱりそうかぁ!昨日は突然で悪かった。と言っても信憑性にはかけるけど。それにしても杏は元気になった。俺は安心したよ」


「お兄ちゃん!私‥‥ごめんなさい。私がいじめられたときはずっと側にいてくれたのに私‥‥お兄ちゃんが側にいてほしいときはいなかった‥‥ごめんなさい」


「杏‥‥もういいよ。犯罪者に未来はない。わかっていたのに俺は負けた。

 いろんな事をした。俺は人を傷つけすぎた。命すら奪った。ただ信条としては依頼があってでしか命はとらなかった。でも奪った事には代わりはないかぁ。

 杏のことは心配していた。杏が衰弱していくのを遠くから見ていることしか出来なかったからなぁ。原因は俺と俺の家族の事件だとわかっていたのにどうすることも出来なかった‥‥ごめんなぁ~杏」


 杏の想い人、林田当麻はベッドに起き上がり上半身を曲げ、頭を下げた。


「俺がしてきたことは自覚している。よくて無期で悪ければ死刑だろう。そんなことよりも嶋村勇気!あの能力はなんだ?」


「それは‥‥研究所を襲うように依頼してきたのは誰ですか?僕に何の用があったのですか?」


 暫しの沈黙のがあった。けれど厳しい顔をしたのもつかの間、頭を掻きながら話してくれた。


「まぁ~言ってもいいだろう。その顔では予想は出来ているようだしなぁ。

 多分そいつだ。嶋村勇気にエンペラーの能力があるのか無いのか?もしあるのなら連れてこいで無いなら研究所ごと破壊して、皆殺しにして来いと言うのが依頼内容だ。そして依頼をしてきたのは勝又翔だ。それ以外の事は知らん。

 なぁ~エンペラーと言うのはどんな能力だ?俺は死んだのかぁ?実は俺の能力が全く使えない何故だ?」


 僕は迷った。

 話をしてもいいかどうか本当に迷った。

 けれど、話している内容は合っていたし杏の想い人に嘘をついても、言わないのもいけないような気がした。

 警察官も杏も僕たちの話について来ていない事をいいことに独断で話をすることに決めたのだが‥‥僕は杏の目を見た。

 そして僕は杏を信じた!


「僕の能力はエンペラーと言います。奪いそして与える能力です。勝又翔の持っている能力と同じ能力です。この能力は奪うとき、奪った相手の心臓が止まってしまいます。でも僕は絶対に誰も死なせません。相手が誰であれ、僕に命を奪う権利が無いからです。

 本当は‥‥話すかどうか迷ったのですが、でも杏が信じている人だし、嘘も言ってはいないと思ったので話しました。あの‥‥内緒にしてください!」


「アハハハ!嶋村勇気!気に入った!あんた俺の事を信用した!俺はろくでもない男なのに‥‥俺は人の命を奪い続けてきた。残される者の悲しみを知っておきながら俺は奪い続けた!

 もちろん命だけじゃない色んな人から色んなもんを奪った!それなのに‥‥それなのにこんな俺を信じた!なぜだ!」


 そう言って僕に掴みかかってきた。

 もちろん手錠をされていたので僕の所までは届かない。

 すぐさま警察官が抑えようと近づいたが僕が制した。

 だって彼の顔は涙でぐちゃぐちゃだったからだ。

 僕に向かって突き出された両手を取り、膝にそっと置きながら僕も隣の椅子に座った。


「僕はあなたを信用した訳ではありません。林田当麻を信用している杏を信用しただけです」


「な!」


「杏は独りぼっちだった僕に手を差し伸べてくれました。僕は18年間、能力無しのレッテルを貼って生きてきました。そんな僕に、友達になろうと言ってくれたのは杏が最初だった。

 僕は‥‥僕は‥‥杏の力になりたい。あなたにファイアーの能力をお返しします。杏が、昔のお兄ちゃんに戻らなくてもいいから生きていてほしいと‥‥言ったので」


 杏は僕の肩に手を置いたまま何度も頷いていた。

 林田当麻は静かに涙を拭いながら僕の言葉を噛みしめている様子だった。


「なぁ~嶋村勇気‥‥誰にでも俺から奪ったファイアーを与えることは可能か?」


「大丈夫だと思います」


「そうかぁ‥‥勇気、俺のファイアーを杏にやってくれ」


「お兄ちゃん!それはダメよ!」


「はいわかりました」


「ちょっと勇気!ダメよ!」


「杏、林田さんは‥‥お兄ちゃんは妹の悩みを解消したいんだよ」


「‥‥お兄ちゃん‥‥勇気‥‥」


「でも能力無しのレッテルを張られてしまいますよ」


「そんな事はどうでもいい。俺は奪い続けてきた。だからこれでいい。これでいいんだ。‥‥‥‥勇気‥‥もう1人助けてほしい男がいる。

 杏が勇気を助けたように俺を助けてくれた男がいる。その‥‥その男は俺と似た生い立ちをしている。でも俺には杏がいた。そして、その杏もこんなに元気だ。勇気と言う仲間もいる。

 その男には何もない。家族も唯一生きていた妹も‥‥もういない。でも俺にとっては大切な仲間だ!相棒なんだよ!そいつがいてくれたから俺は生きている!その男の名は鎌田静香。デスウォーターのリーダーだ。冷静沈着で冷徹な男。でも静香はそんな男じゃない!優しくて家族想いのいいヤツなんだ。

 なぁ~勇気‥‥頼む静香を助けてくれ!」


 ベッドの上で林田当麻が頭を下げた。

 顔は確認出来なかったが最後の方は涙声だったので泣いていることは確かだと思う。

 僕は杏と頷き合い林田当麻の肩に手をやり、起こしながら今できることをやるべきだと思った。

 それがあんな事になるなんて夢にも思わなかったけれど、このときはこれがベストだと感じたからの言葉だった。


「林田さん‥‥僕にどれだけの事が出来るかわかりませんし2人の罪を軽くする事も出来ません。ですが一緒に泣いてあげることなら出来そうです。

 僕はエンペラーの能力を持っていますがもう一つトレースの能力も持っています。とあるお婆さんが僕にくれた能力です。

 能力を目で見、手で過去を視る能力です。共感し共に泣き、共に笑い合える事ならできます。やれるだけの事をやってみます。それに、笑うのに能力はいりませんね!」


 そう言って微笑んでみた。すると泣き顔だった林田当麻の顔が笑顔になった。


「勇気‥‥ありがとう!」


 そう言って手錠をしていない方の手で握手をした。

 その手に杏が両手を重ねてきた。

 そのときの杏の顔は泣き笑い顔だった。

 3人が笑い合い手を放した。


「お兄ちゃん‥‥ファイアーありがとう!これで本当の兄弟だね!」


「おう!‥‥杏!勇気の手を離すなよ!」


「何で勇気が出てくるの!」


「そうですよ!何で僕?」


「アハハハ!ダメだ、こりゃ~!」


 と言ってまた笑った。

 よく見ると警察官も笑っていた。

 何で?と不思議な顔をしていたのは僕と杏だけだった。

 警察病院なのにこの病室だけ春のような暖かさがあった。

 僕達は病院を後にした。

 林田当麻とデスウォーターのことは所長に電話をしたのだが、繋がらずに後からかけ直すことにした。

 大切なことだから、直接会って話をしたかったからだ。

 そのあと僕たちはお土産を買って、僕の実家に向かった。


「勇気ありがとう!勇気のおかげで昔のお兄ちゃんに会えた!本当にありがとう!」


「そんなこと無い。今の杏がいてこそだと思う。それはそうと僕の用事までつき合わせてごめん」


「そんな事ないよ。勇気のお母さんと話をするの、久しぶりだし楽しみ」


「ありがとう」


 僕は嬉しかった。

 だって杏の笑顔を守ることが出来た!

 この喜びに浮かれていた。

 そして父さんと母さんに話が出来ると思うと嬉しくて、嬉しくて‥‥待ち受けている試練に気づきもしなかった。

 警告は鳴っていたのに!!

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