5話 簒奪~さんだつ・帝位や政治の実権などを奪い取ること~
僕の前を颯爽と歩き出した所長、その凄さがわかったような気がした。
警備は顔パスだし何だか偉い人と話しをしたかと思うとさらに奥に進んで行くし、所長って何者なのだろう?
僕にはどこに向かっているかなんてさっぱりわからなかった。
ただ大変な所に行くことだけはわかった。
だって警備員の数が半端なかったからだ。
たどり着いた所は両扉の前だった。
所長は軽くノックして返事が待ち、中に入った。
もちろん僕も遂行したが‥‥僕的には帰りたかった。
だって総理大臣から各大臣までの揃い踏み、誰だって二の足を踏むよ。
それなのに所長は真ん中をわき目もふらず総理大臣まで進み頭を下げた。
僕は流石に着いて行くことを躊躇われ入り口で固まっていた。
「ご会談中に申し訳ありません。至急お話したいことがありまして。各大臣の方にも聞いて頂きたいことがございます。あの者とは別のエンペラーを見つけました。彼ならあの者に対抗しうると断言します。勇気こちらに‥‥」
と僕を紹介しょうと後ろを向いた瞬間、大きな窓に人影が写った。
バリン!
窓ガラスが割れる音が盛大に響いた。
この音を聞きつけ扉の外にいた警備員が入ってきたが、その警備員の足も止まるほどの大きな声で彼が話し出した。
「そいつが嶋村勇気かぁ!あいつら役にたたねぇなぁ~殺しとくかぁ?」
と独り言のようにつぶやいていたかと思うと浮いたまの姿勢で所長の前まで行き、かぶってはいない帽子を脱ぐ仕草をして頭を下げながら話しを続けた。
「これは、これは、お久しぶりですお父様。あの者とは僕のことですかぁ?これはまた大きく出ましたね。思わず笑ってしまう。おっと誰も動かないで下さいよ!」
そう言ったかと思うと炎の壁が部屋を包んだ。
僕の目には赤色のオーラが見えた。
でもよく見てみると薄い?
さらによく見てみると赤色だけではなく色んな色が見えた。
どの色も薄い?
と言うより霞がかかっているような薄さ?
どんな能力かさっぱりわからなかった。
そんなことよりも驚くことに、そう彼は空を飛びながら炎を出したのだ。
これの意味は大きい。
1人の人間に1つの能力。この事は覆す事が出来ない事実のはずなのに‥‥あれ?今‥‥お父様???
「翔!止めなさい!お前は何をしている!いいかげんにしないか!」
いつもの冷静な所長とは全くの別人だった。
ジリジリと翔と呼んだ人にすり寄ったとしたが‥‥。
「動くな!と言ったはずですよ!」
そう言うとあっという間に首相の首根っこを掴んで引き倒した。
「あははは!可笑しいなぁ!こんなに弱い人間がこの国のトップかよ!笑うしかないね。だったら僕がなってもいいよね。ぷぷぷ‥‥あははは!」
と首相を踏みつけながら高笑いした。
そして僕の方を見た。
「お前が嶋村勇気だなぁ。どんな能力を手に入れた?どうだ、僕と一緒行かないかぁ?我々の能力は世界を支配する事のできる能力。愚鈍で能力の低い者を減らし、もっと住み良い世界にしょう!まぁ~もっとも世界にふさわしいのは皇帝である我らエンペラーの能力者だけ!
そ・れ・と・も‥‥エンペラーと言うのは嘘かなぁ?奪ってみればわかる!僕と一緒に来るかここで死ぬか、好きなほうを選ばせてやる」
首相の上に乗ったまま僕に右手を差し出した。
僕は意外に冷静だった。
100年に1人と言われた能力に孤独を感じていたからかもしれない。
もう1人いた!と言う事に安心したのは事実だ。
それと所長があまりにもいつもの所長ではなかったので僕がしっかりしないといけない気がした。
そのおかげでこのトラップにはすぐに気がついた。右手で僕を引き寄せ能力を奪うつもりなのだろう。
だったら‥‥僕は両手の手袋を脱ぎ捨て、差し出された手を取ろうと左手を出しかけた。
「勇気!止めなさい!」
「所長‥‥すいません」
この会話で勝ったと思った翔と呼ばれた男はニヤリと笑った。
僕が左手で男の右手を握った時、先に僕の方におもいっきり引っ張った。
翔はバランスを崩し首相の上から転げ落ちた。
「炎を操れるのはお前だけじゃない!」
そう僕は叫び、翔が出した炎の壁に手を入れて炎を消した。
騒ぎを聞きつけ警備員がもんどりうって入ってきた。
「それがお前の答えか」
「そうだ僕の答えだ!僕は弱い人間だった。そんな僕に仲間と言う力をくれたのは所長だ!確かに所長は父親としては失格だったかもしれない、でも僕の親友になってくれたのも所長だ!
何が世界だ!エンペラーは奪うだけではない、与えることも出来る能力だ!1人で生きてきたお前に何がわかる!奪う事しかして来なかったお前に何が出来る!
…………翔!お前が奪うのなら僕は与える!そして戦う!僕は1人ではない!」
僕はトレースの能力で勝又翔の生い立ちから今までを一気に視た。
衝撃的だった。
勝又翔は所長の1人息子。
僕と同じ日、同じ時間に産まれた子供だった。
ただ僕と違うのは、翔が産まれた病院で不可解な事故があった事。隣に寝ていた赤ちゃんから突然死した事と看護師もその場で亡くなっているのが発見された事。
そして5才ぐらいの時に訳もわからずに母親からスカイの能力を奪っている。
母親はそのとき死亡した。父親である所長は畏れ、目をそらし逃げた。
僕はそこまでを一気に視た。
もちろんすべてを視られるのだが‥‥‥視なくても分かるような気がした。
可哀想な翔‥‥比べてはいけないかもしれないが僕は幸せだった。
だからこそ、僕だからこそ翔を止めてみせる!
「ファイアーだけではないなぁ?どんな能力を手に入れた!‥‥そんな憐れむような目で僕を見るな!」
「翔‥‥」
今度は僕がまだ倒れている翔に右手を差し出した。
「あははは!」
と床を叩きながら笑い転げていたかと思うとピタリと動かなくなった。
「わかったよ。勇気‥‥勇気なら僕の気持ちがわかるかと思ったが‥‥皇帝は所詮独り。全ての能力を奪いこの世界を僕の物にしてやる。仲間だとか親友だとかほざいていろ!」
そう捨て台詞を言って、割れた窓ガラスから飛んで行ってしまった。
僕は手袋をして、所長を見た。
所長は膝から崩れ落ち、静かに泣いていた。
所長は息子の翔に出来なかった事を僕らにしていたのかもしれない。
「所長‥‥」
「勇気‥‥すまない」
立ち上がり僕にそう言って抱きしめられた。
すぐに説明を求めて、えらい人がワラワラ来た。
所長が良いように説明してくれた。
もちろん僕も協力した。
翔の事については余計な事を言わないように気をつけながら話しをした。
「はい僕の能力はエンペラーです。今、僕が保有している能力は僕の同僚、相田サリーさんのお婆さんから頂いたトレースとここに来る前にデスウォーターと言う犯罪グループの男から奪ったファイアーです。ちなみにお二人とも生きています。お婆さんからは本人の承諾で頂いきました。ファイアーの方は警察の方と本人の意向でお返しします。
そのトレースで翔の能力は‥‥大丈夫ですか?」
僕は思わず気を使ってしまった。
僕の話を聞いていた職員の男性が軽いパニック状態になりアフアフしていたからだ。
まだ若いその男性に僕が覗き込みながら肩に手を置こうとしたその瞬間。
「うぅ~わぁ~!触るな!化け物!」
と腰を抜かして尻餅をついてしまった。
僕はその男性の前にしゃがみこんで諭すように話をした。
「大丈夫です。この手袋は能力を遮断する素材で作ったものです。ほら!」
僕は手から炎が出ないことを証明して見せた。
「エンペラーの能力は手のひらで行うものです。他の能力のように全身からではないのですよ。怖がらせたのならすいません。確かに怖いですよね。能力を奪う‥‥確かに怖いですね‥‥すいません」
僕なりに微笑んでみた。
僕はこのとき笑顔って凄い力を秘めていると思った。
だって今の今まで恐怖の対象でしかなかった僕に、この人は落ちを取り戻したのだから。
職員の男性は立ち上がって、深呼吸を2回ほどしてからゆっくり話し出した。
「すいません。あまりの事にパニックになって失礼なことを言いました。本当にすいませんでした」
「いいえ大丈夫です。恐れられたことは初めてですが、それ以外なら言われ慣れているので平気です。
このエンペラーと言う能力は使い方一つで善にも悪にもなれる能力です。でも僕は全ての人間も善にも悪にもなれる能力を秘めていると思います。僕は前者でありたいです」
「あなたなら出来ますよ。私はもう怖くはありませんよ。さぁ!あの男の能力を教えて下さい」
「はい!ですがトレースでの判別が出来ていないので。わかる範囲でお話をします。翔は‥‥」
僕はやはり泣いてしまったようだ。
少しだけ目頭が熱かった。
だって怖くないとはっきり言ってもらえた。
正直、嬉しかった。
この後、深夜まで新たな敵の話し合いが続いた。
そして明け方やっとの思いで話をまとめたようだ。
「どうでしょう。勝又翔の問題をコードネーム『ナポレオン』として、能力開発研究所に一任してはもらえますか?‥‥そんな事を言っている時ではありません。私が親として失格だったばかりにこんな事になったと自責の念にさいなまれています。息子の尻拭いは親の私にさせてください」
と所長は頭を下げた。一瞬の沈黙の後、おもむろに首相が話し出した。
「わかりました。ではコードネームを『ナポレオン』とします。ナポレオンに関することは全て秘密事項として能力開発研究所、勝又春樹に一任することとします。各大臣、依存はないですかなぁ?」
誰も何も発言は無い。
やっと話がまとまったようだ。
やれやれと思ったのは僕だけだったのかもしれない、僕以外の人は今もあちらこちらで話し合いをしていた。
もちろん所長も。
肩を叩かれ振り向くと僕から話を聞いていたあの若い職員の男性だった。
「勇気さん。お疲れさまです。勝又所長さんと私どもの法務大臣があちらに行かれました。勇気さんもこちらにどうぞご案内いたします」
別の部屋に通された。
所長はまだ法務大臣と話していたし、僕はこの間に研究所に電話をしょうと考え所長にその旨を話そうと声をかけた。
「お話のところすみません。研究所に‥‥」
「勇気かぁ。遅くまですまないね。今日はもう遅いから近くのホテルに泊まろう。研究所には後から私が連絡をしておくよ。先にホテルに行っといてくれないか」
「はいわかりました。え~と?」
当たりを見回すと僕を案内してくれた人が何か袋を持って現れた。
「勇気さん。ホテルまで案内します。それとこんな物しかなくてすみません。お腹が空かれたでしょう。お腹の足しになるかわかりませんが食べてください。」
「ありがとうございます。ありがたいです」
手渡された紙袋には缶コーヒーとコンビニおにぎりが入っていた。
「こんな物しかなくてすみません。申し遅れましたが私、法務省付きの大臣書記官、福田嘉朗と申します。先ほどは本当に失礼しました。それと‥‥これは私の個人的な質問なのですが。トレースと言うのはどんな能力ですか?」
「いえいえ、気にしないでください。僕なら平気です。それとトレースですね?サンダー系に分類されます。占い師にこのトレースの能力者が多いと聞いています。まず目から見た人、全ての人に能力がオーラのような見え方をします。それと手のひらで触ると触られた人の過去を視る事ができます。
お婆さんから頂いたとき、この手袋も頂きました。どうも電気信号を遮断する布で作られているようです。まだよくは解っていないのが現状です。でも目から見えるオーラに関しては‥‥訓練が必要だそうです。僕はまだまだで‥‥実は今も見えています」
「え!今も、ですか!私の能力も‥‥ですか?」
「はい。ですがオーラの色と能力とがまだ結びついていないので宝の持ち腐れです。え~と、ちなみに福田さんは黄色系だからサンダー系で‥‥うぅ~ん‥‥淡黄色だから雷鼓ですか?」
「正解です。サンダーです。しかも雷鼓です。何でわかったのですか?」
「雷鼓の人を1人知っていたのでわかりました」
「便利いいですね」
「そうですか?何だか世界がぼやけて見えます。まだまだ、コントロールが出来なくて辛いです。産まれてから20年間、能力が無いダメ人間……そんなレッテルを貼って生きてきた僕なので、逆に不慣れな事ばかりです」
「勇気さん‥‥勇気さんならナポレオンに勝てるような気がします。倒して下さい。」
「はい頑張ります。僕は1人ではないし福田さんだっています。心強いです。でも本当は翔の気持ちもわかる気がします。彼も1人で僕も1人でしたから。1人は寂しいです。僕は‥‥僕は彼も助けたい‥‥そう思ってしまう僕はやはりダメ人間なのでしょうか?」
「‥‥勇気さん。勇気さんはお優しいですね。私はそれでいいのだと思います。法律も罰するだけが法ではありません。私は、人を信じる心が法だと考えます。あ!着きましたよ。ホテルはここです。チェックインしてきますから少しお待ちください」
「ありがとうございます」
「お待たせしました。205号です。勇気さん‥‥ 私に何が出来るかわかりませんが出来る事があれば声をかけてください。私は勇気さんを信じます」
「ありがとうございます。何から何まで本当にありがとうございます。僕は幸せ者です」
僕は右手を差し出した。
福田さんは躊躇せず僕と握手をしてくれた。
お互い涙目で照れ笑いしながら別れた。
本当にありがたかった。
福田さんがあの場で僕の事を認めてくれたから僕の心も決まったように思う。
僕は助けたい!
僕が翔のようになっていても不思議ではなかったのだ。
杏や丸さん、サリーやサリーのお婆さん、父さんに母さん、全ての人が僕を助けてくれた。
今度は僕が皆を守る番だ!そう堅く心に誓った。
それにしても今日1日とんでもない日だったなぁ。
はぁ~疲れたやぁ。
所長を待ってこれからの事を話したかったのになぁ。
父さんと母さんにこの事をどう伝えたらいいのかなぁ?
とウダウダと考えているうちに僕は寝ていたようだ。
考えなければいけないことだらけなのに‥‥あぁ~眠いzzzz