4話 強奪~ごうだつ・強引に奪い取ること~
サリーとは病院で別れた。
僕は能力と言う響きにワクワクとドキドキを混ぜたような不思議な心をしていた。
そんな心を引きずりながら所長のスカイでサクッと帰路についた。
すると研究所の方で爆発音が鳴り響いた。
僕は一気に現実に引き戻された。
バリン‥‥ガラガラ!
爆発音と砂埃が視界を遮った。
職員たちがワラワラと部屋から出てきた。
ちょうど僕と所長も玄関先にいたので、何事かと思い中に入ろうとした。
その時、中庭から悲鳴が聞こえた。
「キャー!」
杏の声だ。
僕と所長は急いで中庭に向かった。
我が目を疑った。
中庭の天窓を打ち破り2人の男が舞い降りていた。
半歩後ろの男が杏をヘッドロックで捕まえている最中。
僕には何が起こったのかを、すぐには理解が出来ないかった。
呆然としている僕よりも所長がいち早く動こうとした。
そこを目ざとく、気が付かれてしまったのは痛かったよね。
「おっと!動くな!動くとこの女の命はないぜ!」
その言葉と同時に杏と犯人の周囲に炎の壁が出現した。
杏を捕らえている犯人とは別の犯人が話し出した。
「すみませんね。お騒がせしています。我々は人殺しから誘拐まで何でもするデスウォーターです。こちらに嶋村勇気さんと言う方はおられますか?」
口調はとても丁寧だがしていることは非道極まりない。
犯人は2人。
どちらも20代後半の男性。
杏を捕まえているのがファイアーの能力者で短髪でガラの悪い男。
もう1人は丁寧だが哀しい影のある男。
こちらは‥‥瑠璃色で波を打ったようなオーラが見えた。
色から考えればスカイ系だが波を打っているようなのでたぶんウォーター系の能力者だと思う。
そんなことを考えていると所長が僕を制しつつ話しを始めた。
「嶋村勇気に何のようですか」
「あなたでは無いのですよ。勝又春樹所長さん。用があるのは嶋村勇気さんなのですが‥‥出てこなければ仕方ないですね。やれ!」
この一言で僕が慌てた!
その場の勢いで、左手の手袋を投げ捨てた。
「杏を離せ!!」
誰かが動くよりも速く僕が動いた。
まさしく火事場のなんとやらで僕は炎の壁があるにも関わらず飛び込んだ。
そして有無を言わず男の額に左手を当てて簡潔に叫んだ。
「奪う!」
その時、僕には冷静と言う言葉を忘れていた。
「杏?」
「え!当麻兄ちゃん?」
杏を捕まえていた男は後ろに倒れた。
あっという間の出来事だった。
もちろん能力を奪われた男はその場で心肺停止。
もう1人のウォーターと思われる男は1人では不利と見るやいなや退散した。
ここで僕は冷静を取り戻した。
「死なせない!」
僕は自分に喝を入れるために大声で叫び、男の心臓に打撃を1つして心肺蘇生を試みた。
もちろん心臓マッサージも始めた。
「所長!警察と救急車を!」
「今、している!」
所長はとても冷静だった。
男は警察と救急車がくる頃には蘇生に成功たが意識は無かった。
もちろん駆け付けた警察に引き渡した。
杏は茫然自失だった。
僕は手袋をしてから杏に話しかけた。
「杏?大丈夫?」
「触らないで!勇気、当麻兄ちゃんに何をしたの?当麻兄ちゃんを返してよ!」
明らかに錯乱していた。
そこでハタと周りを見ると遠巻きに他の職員が化け物でも見るかのような畏れた目で僕を見ていた。
「杏‥‥」
「杏くん。落ち着きなさい。さっきの犯人は生きているよ。
勇気は特殊な能力者だったのだよ。勇気が助けなければ杏くん、君が死んでいただろう。他の職員も聞いてほしい!勇気は確かに珍しい能力者だったが勇気は勇気だろう!他の誰でもない!」
「その通り!それにさっきの犯人は勇気が助けたように思うけど?なぁ~勇気、後で詳しい説明の前に血液検査させて?」
と丸さんが助け舟を出してくれた。
さらに場を落ち着かせようと大ぶりな仕草でみんなの前に出てきた。
さっきまで犯罪者がいた場所だ。
「杏!落ち着きぃ~なぁ。皆もよぉ~見てみぃ!突然の襲撃を助けてくれたのは勇気だし、犯人でさえ命を救った。オレは怖くない!だって勇気は勇気だし。平気だよ」
「はは~丸さんの中途半端な関西弁を聞いて正気に戻りました。さぁ!おもいっきり血を取ってください!でもこの前のように1回で終わらしてくださいよ。なかなか痛いんだから!」
僕は右腕を差し出した。
その光景が凍り付いた場を和ました。
丸さん流石です。
「そうよね‥‥ごめんなさい。私どうかしていたわ‥‥ごめんなさい。私‥‥私‥‥」
「杏、大丈夫だよ。僕はね。100年に1人の‥‥」
と説明をしょうとしたとき所長が割って入った。
「勇気、詳しい事は後からにしょう。今から一緒に来てほしい。今すぐにでも行きたいのだが‥‥行けるなぁ?」
「はい大丈夫です。痛かったですよ!もっと練習しといてくださいね。丸さん!」
僕はウィンクして見せた。
「参ったなぁ。勇気にはかなわないなぁ。勇気‥‥オレは勇気を1人にしないからなぁ!オレにも何かできることないかぁ?何でもするぞ!杏、お前はどうする?」
「もちろん、私もよ!私も勇気を1人にしない!」
「2人ともありがとう。やっぱり僕は幸せ者だよ。」
僕は純粋に嬉しかった。
確かにエンペラーは大変な能力だ。
でもそんな化け物じみた能力でも側にいてくれる友がいる。
本当の親友だね。
「勇気!すまないがすぐに行こう!」
「はい」
いつものように所長に連れられて行った先は‥‥国会議事堂だった。
「え!!国会議事堂!なぜですか?」
「勇気!本当にすまない。ただ私を信じてほしい」
所長は突然、僕に深々と頭を下げた。
「もちろんです!」
「ありがとう!私に付いてきてくれ」
顔を上げた所長はどこか切羽詰まった顔をしていた。
僕はどこに連れていかれるのだろう?
誰と会うのだろう?
不安はあるけれど、ここは所長を信じるしかない!
でも僕の能力エンペラーってとんでもない能力だ。
まずは自分の能力は把握しないといけないなぁ。