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エンペラー  作者:
4/32

3話 隔世~かくせい・先祖返り~

 

 僕が能力開発研究所で働くようになって2年経つ。


 研究所での僕の仕事は、能力の種類や分布などを調べるリサーチアシスタントをしている。

 能力のない僕に何が出来るか?と悩みもしたが助けてくれる仲間がいる。

 こんなに心強い事はなかった。

 電話でも問い合わせは出来るが、個人情報のためになかなか答えてくれない。

 しかし直接行くと答えてくれる場合もある。

 現実問題、出向く方が調査しやすかった。


 僕のパートナーはスカイの能力者で相田サリー。

 サリーはスカイでもパワーは弱い気球。

 気球の特徴として、自分より軽い人なら抱えて飛べるが重い人なら無理なようだ。

 もちろん僕はサリーより重い。

 サリーは動けなくなったときの緊急用。

 もしもの時に助けを呼んでもらうために一緒に行動してもらっている。

 でも、緊急用だけではなく夏の青空みたいなカラットした性格に助けられていた。


「勇気、落ち込まないで!そりゃ~2年もあっちこっち探し回っても収穫なしでは‥‥落ち込むよね」


「ありがとうサリー」


「あ!そうそう。今思いだした。私のおばあちゃんが産婆をしていたのね。産婆って能力は知っている?」


「もちろん!今はトレースと呼ばれている能力だよね。

 昔は血液検査での能力判断が確立されてなかったから。トレース‥‥能力を見る能力で判断していたって言う。え~と、子供を取り上げるときはこのトレースの能力がないといけないことから、産婆と言われていた能力だよね。でもトレースは能力者人口が減っていて、さらに血液検査が確立してきて病院ではそちらを採用しているんだよね。だから産婆ではなくトレースと呼び名も変わった。今では占い師になる人が多いって言うヤツだよね。その産婆がどうかしたの?」


「そう!そう!それ!私のお婆ちゃんが産婆で今は引退しているのね。お婆ちゃんに会ってみる?今はいなくても昔ならいたかも?それにひょっとしたら勇気は何かしらの能力があるのかも?血液検査ではわからない能力が!うちのお婆ちゃんに見てもらったらどうかしら?」


「え!いいの!是非とも会いたい!だってトレースの能力は珍しいし、確かに見てもらいたいかも?でもいいの?大丈夫?」


「今から電話で聞いてみる。実家なら近くだから!」


 携帯を鞄から取り出し電話をしてくれた。

 ここは横浜のファミレス。

 僕とサリーは横浜市の病院をしらみつぶしに当たっていたのだ。

 電話では埒があかなくなって来た。

 直接出向く事にしたのだが‥‥空振り続き。

 休憩&お昼でファミレスにいると言うわけだ。


「勇気、OKだって。今から行くって話しをしといた。よかったよね?」

「もちろん!」


 僕たちはバタバタと身支度をしてファミレスを出た。



「勇気ってさぁ~真面目だね?」


「そう?コレくらい普通だと思うけど、プリンじゃダメだった?」


「いや~プリンでいいけれど‥‥手土産。まさか自分の家に帰るのに手土産を持参するなんて‥‥私、お土産なんて持って帰ったことないわ」


「変かなぁ?でも貴重な話を聞きたいし、気持ちよく話をしていただきたいしね!」


 ウィンクして見せた。それを見たサリーは吹き出しながら話しをした。


「勇気は強いね。私なんてスカイはスカイでも気球だし‥‥本当はパイロットになりたかったの。パイロットになるにはスカイ系で最低でも飛行機クラスでないとなれないの。

 実はね‥‥ずっと好きだった人がね‥‥スカイ系のジェット機クラスでパイロットが夢だったの。側にいたら私もパイロットになるのが夢になっていたのね。告白したら気球だろ!みたいな事を言われて相手にもされなかったわ。それから何もかもが嫌になって高校も辞めてしまって引きこもっていたの。そうしたら父さんが研究所を紹介してくれて働きだしたの。勇気から見たら贅沢な悩みかもしれないわね」


「そんな事ないよ。苦しみや悲しみに優劣はないよ。僕には好きとか嫌いとかよくわからないけれど、サリーにとっては辛い事だよ。ねぇ~サリー。サリーにとってパイロットになる彼が好きだった?それとも彼がパイロットになるから彼が好きだったの?」


 僕の質問にはてなマークいっぱいの顔で立ち止まり顔をまじまじと見つめた。

 先を歩いていた僕も立ち止まり、振り返った。


「サリーは明るくて優しい人だよ。何も言わなくても側にいてくれる才能を持っている。サリー‥‥パイロットになれなくてもサリーは空にいなくちゃダメだよ。サリーならCAでも十二分に出来ると思うけど?」


 サリーの返答を待った。サリーは困ったような顔をしていた。


「ありがとう。勇気。勇気は優しいね。CAかぁ~。私も考えたの。でもCAは‥‥パイロットはスカイ系でCAはファイアー系などの調理が出来る人なの。だから私みたいに中途半端なスカイ系には用がないのよ」


 俯いて僕の先を歩き出した。


「そうなの。知らなかったよ。でも決まりではないんだろ。それにCAだってチームで業務をこなすと思うから、全ての人がファイアー系では逆に仕事が出来ないよ。サリーだって料理ぐらい出来るよ。

 サリー‥‥スカイ系の能力者は空に愛された人だと僕は思う。空に愛された能力だから飛べるのだろう。空にいるなら空に愛された人がいなくちゃいけないような気がするよ。それに飛んでいるサリーは綺麗だよ。楽しそうだ。

 定説を覆すのは大変かもしれないが今のサリーなら大丈夫だと思うよ。だって苦しみと悲しみを知っている人は打たれ強いし我慢強い!それはちゃんと証明されているよ!だって僕がその証だからさぁ!」


 僕はたくましいとは言えない胸を叩いた。


「アハハハ!勇気!ありがとう!そう‥‥だね!うん勇気の言うとおりだね!苦しみと悲しみを知っている人は打たれ強いし我慢強い‥‥うん勇気が証明している!そうかぁ!そうだね。CAだってチームだもん!サンダー系やウォーター系がいても断然OKだね!それはそうと綺麗は言い過ぎよ」


 真昼の太陽がサリーの顔をキラキラと輝かせていた。眩しいね!サリー。


「あ!ここよ!お婆ちゃんは105歳なの。電話したらお母さんがいてお婆ちゃんに話を通しておいてくれるはずだから‥‥起きているとは思うけど?」


「105歳!お婆ちゃん凄いね。もし寝ていたらまた出直すよ」


「大丈夫!私が帰るって言ったら、たいがいは起きているもん!」


 公園を抜けた先にある住宅街に向かって歩き出した。

 2階建ての家にサリーは入っていった。


「ただいま。お婆ちゃん!起きている?」


 いつものサリーにしては聞いたこと無いほどの大きな声で話していた。


「はい、はい、起きていますよ。明子さんは買い物に行ったよ。すぐ戻ると思うから‥‥あらサリーの彼氏かしら?」


「なに言っていんのよ!勇気が彼氏だなんて!杏に悪いわ。大切な親友よ。私にとっては‥‥先生かしら?」


「え!!‥‥先生ですか。初めまして嶋村勇気です」


「お母さんから聞いてない?彼が能力のない人なのよ。お婆ちゃん視てあげて。それと勇気の他に能力の無い人見たことある?」


「はい、はい、いいですよ。えっと、能力がない人?昔は沢山いましたよ。でも今はそんな人、知らないね。そして、あなたが勇気さん?視てもいいかしら?」


「は‥‥い、おねがいします」


 僕は緊張していた。

 僕より頭一分小さく背中がほんの少し曲がっていて、ふっくらした可愛らしいお婆さんだった。

 そのお婆さんの目が少しだけ金色に輝いたように見えた。


「あら?‥‥なるほどね。あらあら、コレは大変な事になったわね。勇気さん、産婆の能力にはもう一つ使い道があるのね。でもそれをするにはあなたの許可が必要なの。いいかしら?難しい事ではないなよ。ただ触らしてくれるだけでいいの。そしたらあなたの過去が視えるのね。

 あなたの過去を少し視てもいいかしら?」


「僕の過去ですか?それで何かわかるなら是非ともお願いします!」


 向かいあった、お婆さんが僕の両手を包むように両手でしっかりと握った。

 するとお婆さんは静かに涙を流した。


「そう‥‥大変だったわね。あなたなら大丈夫ね。あなたの能力は100年に1人と言われた、とても珍しい能力なの。その能力は皇帝と呼ばれる能力よ。そうね‥‥あなたならこの能力を使いこなせるわね」


 1人で納得して、手を離した。

 そしておもむろに僕の左手を取ってお婆さんの額に当てて。


「この体勢のまま私が言う通り言ってね。いいかしら?いくわよ!」


 呆気にとられている僕に気合いの入る音量で言ったお婆さん。

 思わず僕も声がオクターブ上がって言ってしまった。


「は!はい!」


「うん。いい返事だわ!じゃ~行くわよ!はっきりと『奪う』と言うのよ!さぁ!言ってごらん」


「はい。では言います!」


 真剣にお婆さんが言うので僕は素直に従った。

 まさかコレが全ての始まりだとは知らずに‥‥。


「奪う!」


 たった一言‥‥僕自身には何も変化はなかったのだが、突然お婆さんが膝から崩れ落ちた。


「きゃー!お婆ちゃん!」


 サリーの悲鳴で僕は正気に戻った。

 すぐさまお婆さんを支えた。


「お婆さん!大丈夫ですか?え!!呼吸をしていない!サリー!救急車!」


「え、え、あ!うん!」


 電話に走って行ったサリーを確認もせずに人工呼吸を始めた。

 5分もしないうちに救急車が到着したのだが、僕は救急隊が来たこともわからずひたすら人工呼吸を繰り返していた。

 なぜだか死なせてはいけないような気がしたからだ。

 どんな事をしてでも生きてくれ!その想いしかなかった。


「どいて!」


 救急隊の言葉で初めて周りを見た。

 サリーが泣いていた。

 僕はサリーに駆け寄った。


「救急隊が着たから大丈夫だ。サリー‥‥大丈夫?お父さんかお母さんは?」


「グスン‥‥お父さんはまだ仕事だと思う。お母さんは‥‥買い物?」


「わかったよ。サリーはおばあさんに付いて行って、僕はここでお母さんの帰りを待って病院に駆けつけるから!大丈夫!きっと大丈夫だよ。」


「うん!」


 サリーとお婆さんを乗せた救急車は病院へ急いだ。

 もう一度、今起こった事を整理してみた。

 ファミレスからサリーの実家へ来て、おばあさんに会い‥‥おばあさんが突然。


『あなたの能力は100年に1人と言われた、とても珍しい能力なの。その能力は皇帝と呼ばれる能力よ。』


 そう言ってお婆さんの額に手を当てて僕が一言。


『奪う』


 うん?奪う!奪う!僕は‥‥まさか!命を奪う?え!でも‥‥と悶々と考えていると玄関の戸が開きどことなくサリーの面影がある年配の女性が入ってきた。

 サリーのお母さんだ。


「サリーのお母さんですか?」


「え‥‥はいそうですが?あなたは?」


「僕は相田サリーさんの同僚の嶋村勇気といいます。突然おばあさんが倒れられ救急車で病院に運ばれました。サリーが同伴しています。お母様も早く行きましょう!」


 簡単な概要を説明し、サリーのお母さんを急かした。

 外に出たとき、お隣さんが追加説明をしてくれたので僕の事を信じてくれたようだ。

 しかもその人は僕が人工呼吸をして救急車が来るのを待っていたと余計な事まで言っていた。

 不信がっていた目が一気に変わった。

 話しやすくなったのはありがたかったが、僕がお婆さんの命を奪ったかもしれないと思うといたたまれなかった。


 僕とサリーのお母さんはすぐさま病院に向かった。

 病院はすぐにわかった。

 道すがら何が遭ったかと、サリーの働きぶりなどを話しをした。

 サリーのお母さんはお婆さんに何が起こったのかはよくわからなかったようだ。

 でもサリーの事には楽しそうに僕の話を聞いていた。

 サリーが病院の待合室にいた。


「サリー!」


「お母さん!」


 サリーは母親を見つけ駆け寄った。

 僕は後ろから離れてその光景を見ていた。


「お母さん!お婆ちゃんは大丈夫!救急車で心臓も動いて意識も戻ったわ。今は薬で眠っているの。え~と、先生の話では心不全だろうだって。でね、勇気が心臓マッサージをしていたから助かったらしいの!勇気ありがとう!」


 と僕に言ってくれた。

 その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。


「サリー。本当に良かった。助かったのはお婆さんが頑張ったからだよ」


 僕はハンカチを渡しながらこれからの事を話した。


「サリー大丈夫かい?僕は研究所に戻るよ。所長にこの事を話しておきたいし、それに皇帝と言う能力についても調べてみるから。おばあさんが目覚めたら皇帝と言う能力について聞いといてほしい、出来るかい?」


「もちろんよ!まかして!本当にありがとう!勇気がいてくれたから助かったんだよ!本当にありがとう!」


 僕はいたたまれなかった。

 もしかしたら、お婆さんが倒れたのは僕のせいかもしれないからだ。

 僕はそんな事をウダウダと考えながら帰路についた。


「所長はいる?」


「所長?いるわよ。多分、所長室にいると思う。呼んでこようか?」


「いやいいよ。僕が行く。ありがとう」


 誰と話をしたのかなんて考えている余裕はなかった。

 自分のなかでサリーのお婆さんを殺してしまっていたかもしれないと言う事実に対して心がはち切れそうだった。

 話しかけてくれたのは杏だったが、顔を見ずに所長室に向かった。


「勇気?大丈夫?」


 と杏が僕を心配してついてきた。


「大丈夫だよ。所長に話がある。後から話すから‥‥」


 そう言ってドアをノックして所長室に入った。


「失礼します。所長。今日、サリーの実家でサリーのお婆さんに会って‥‥うぁ~ああああ!」


 僕は頭を抱えて泣きながら叫んだ。

 所長は何かを感じ取り、僕をしっかりと抱きしめてくれた。

 何も言わず、ただ僕が治まるまで待っていてくれた。

 その間、杏が入ってこようとしたのを所長が止めたようだ。


「勇気‥‥何があった?」


 子供をあやすように優しく話してくれた。


「すいません。あまりの事に動転してしまって‥‥」


 僕は大きく深呼吸してから、ことの顛末を話した。


「‥‥で、お婆さんの話しでは、僕は100年に1人の珍しい能力で皇帝と言うそうで。僕の過去を視たお婆さんが「あなたなら大丈夫ね」と言って、お婆さんの額に僕の左手を当てて奪うと僕に言わせました。そしたら心肺停止状態になって倒れてしまって、僕は、僕は‥‥死なせてはいけないと思って!ただひたすら人工呼吸をしました!すぐに救急隊の方が来てくれて一命をとりとめました‥‥僕が死に至らしめたのですか?皇帝と言う能力は何なのですか?」


 僕はちゃんと話せたのかが不安になりつつも話を続けた。

 ここまで話して初めて所長の顔を見た‥‥あれ?所長の回りに青色よりも濃い色の瑠璃紺色のオーラみたいなモノが見える?コレはなんだ?と不思議な顔をしていると‥‥みるみる所長の顔色が変わりだした。


「勇気‥‥お婆さんの能力は何だった?」


「トレースです」


「では勇気。私は勇気からどんな風に見えているかね?」


「え!はい‥‥そうです!今、気がついたのですが、所長の回りに青色よりも濃い瑠璃紺色のオーラみたいな靄が見えます。コレはなんですか?」


「そうかぁ‥‥では間違いないなぁ。勇気はどうも、産まれた時から能力はあったようだ。ただ気が付いていなかっただけのようだね。

 勇気‥‥勇気の能力は100年に1人の能力。世界が変革の時に必ず1人現れるとされている能力。今では忘れ去られた古の能力。その頃は皇帝と呼ばれ。今ではエンペラーと呼ばれる能力だよ。エンペラーは奪いそして与える能力だと言われている。能力を奪う時に心臓が止まるそうだ。それでお婆さんの心臓が止まったようだね」


「そんな‥‥今見えているのはトレース‥‥僕はお婆さんの能力を奪った!所長!どうしたら‥‥いいのですか!」


「勇気‥‥落ち着きなさい。大丈夫。エンペラーは奪うが与える事も出来る能力。今から私と一緒にサリーのお婆さんの所に行こう。それよりも勇気、目を閉じて深呼吸してごらん」


「は‥‥はい」


 僕は所長の言っていることがよく理解出来なかったが、目を閉じて深呼吸をしてみた。

 すると所長の靄は一瞬消えたが‥‥コントロールが難しい!


「所長‥‥ダメです。一瞬は何とかなるのですが‥‥コントロールが出来ないです。能力があるって大変ですね」


「あははは!大変かぁ!」


 そう言って僕を抱きしめた。

 僕はキョトンとしてしまった。

 そんな僕をしり目に所長が感極まって話し始めた。

 その声と手には力がこもっていた。


「勇気‥‥ありがとう。勇気の存在が私を強くする‥‥ありがとう。勇気と勇気を育て愛してくれたご両親に感謝だ。ありがとう!」


「所長?」


「はは‥‥すまない。ではサリーのお婆さんが入院している病院はわかるかい」


「はい!」


「うん!いい返事だ。では行こうか!」


「はい!」


 いつもの所長に戻ってくれたことで、僕も平常心を取り戻した‥‥と言っても目はまだおかしいままだ。

 所長室を出ると、前で杏が不安そうに待っていた。

 そんな顔の杏を見たら赤いと言うよりオレンジ色に近い赤橙色のオーラが見えた。


「杏って、赤橙色をしている。綺麗な色だね。ファイアー系は赤色が基本なのかなぁ?所長は瑠璃紺だった。スカイ系は青色?ふ~ん、なかなか面白い!能力の違いで色も違う!」


「は?何言ってんの!も!!心配したのよ!何なのか説明して!説明してくれるまでここを動かない!」


 僕と所長の前に両手を広げ、確実に怒っていた。

 怒った杏は怖いなぁ。

 知っていたけれどね。


 所長が掻い摘んで説明をした。

 でもなぜかエンペラーのことは言わずにトレースと言う珍しい能力があったとだけしか言わなかった。


「‥‥と言う訳で、これからサリーのお婆さんが入院している病院に勇気と2人で行ってくるよ」


「杏、心配をかけてごめん。」


「うん、本当だよ!心配した。それにしても、勇気にもちゃんと能力があったのね!」


 杏は涙を流して喜んでくれた。

 僕には最低でも4人の人が僕のために涙を流して喜んでくれる。

 父さんと母さんに話したら、やっぱり涙を流して喜んでくれるに違いない。

 あ~僕は幸せだなぁ!

 能力があるないにかかわらず僕を愛してくれる人達がいる。

 僕もこの人たちのために何かしたい。


「じゃ、杏、行ってくるよ」


「うん行ってらっしゃい!」


 僕にしてはくすぐったい心地で研究所を出た。

 所長と一緒だったのでスカイの能力であっと言う間に病院に到着した。

 改めて思うけれとスカイの能力は便利だね。

 ただ乗り心地?運び心地?は最悪だけれどね。


「サリー!お婆さんの様子は‥‥大丈夫?」


「勇気!それと所長もわざわざありがとうございます。勇気の処置が早かったおかげでお婆ちゃんは助かりました。改めて勇気、ありがとう」


 サリーが握手を僕に求めてきたのでその前に訂正をしないといけなかった。


「ストップ!サリー!違う!お婆さんが倒れたのは僕のせいだ。僕がお婆さんの能力を奪ってしまって、それで倒れてしまったんだ。しかもお婆さんのようにコントロールが出来ないから、今の僕に触るとサリーの過去を視てしまうから、触らないで!」


 サリーを牽制した。

 しかしサリーは平然と僕の手を握った。


「平気よ!だって視るのは勇気でしょう。それに、勇気の言っていることはよく理解出来ないけれど、勇気のせいでお婆ちゃんが倒れたとしても助けてくれたのは勇気じゃない!やっぱりありがとう!だよ!」


 と僕の手を力強く握った。

 その瞬間、サリーの悲しい過去が視えた。

 暗い部屋の中で膝を抱え、震えながら静かに涙を流すサリーの姿が視えた。

 その光景には見覚えがあった。

 昔の自分だった。

 みんな悲しみや苦しみを抱えているだからこそ他人の痛みが理解できるのかもしれない。

 僕は静かに目を瞑り頭と心の整理をした。

 その間はサリーは僕の手を離さないでいてくれた。


「サリー‥‥みんな同じだね。僕も同じだよ!サリーの悲しみを僕もよく知っているよ」


 何も言えなかった。

 悲しみがあるから喜びを感じる。

 辛さがあるから幸せがある。

 サリーの今があるのはこの悲しみがあるからかもしれない。でも‥‥‥‥辛いね。


「サリー‥‥ありがとう」


 僕に過去を視してくれたサリーに思わず言葉が出てしまった。

 サリーは微笑んでいた。

 そんな、サリーから手を離した。


「お婆さん、起きているかなぉ?起きていたら会いたいんだけれど‥‥大丈夫?」


「起きているわよ!お婆ちゃんも勇気に会いたがっているの。所長もわざわざすいません。それと後から相談したいことがあります。お時間を取ってもらえますか?」


「もちろんいいとも!」


 そう言って僕ら3人はお婆さんの病室に入った。

 お婆さんは起きていた。

 背中が丸まった可愛いお婆ちゃんだ。

 初めて会った時から変わらない、優しい笑顔が僕らをとらえた。


「お婆さん!大丈夫ですか?僕が!」


「大丈夫よ。私こそごめんなさいね。まさかこんな事になるなんてビックリしたわ。」


「お婆さん、所長から皇帝と言う能力について聞きました。僕がお婆さんの能力を奪ってしまったのですね。知らなかった事とはいえ‥‥すいませんでした。この能力は与える事も出来るので、産婆の能力をお返しします。」


「あら?私、ちゃんと言わなかったかしら?あなたなら使いこなせるって!なかなか難しいかも知れないけどあなたなら大丈夫!この産婆の能力は触ると過去を視る事が出来るの。あなたならこの能力を存分に使う事が出来ると思うの。あなたなら大丈夫よ。だって1人ではないもの!でも訓練は必要かしら?」


 と可愛らしくウィンクしてくれた。

 本当に可愛らしい人だ。


「私にはもう必要のない能力だもの。あなたにあげるわ‥‥勇気‥‥あなたにかかっているわ!でもけして1人ではないから。みんながいることを忘れないで!」


 そう言って僕の背中に気合いを入れてくれた。

 痛くはなかったが、魂が入ったような気がした。

 これからは僕がしっかりしないといけない。

 でも僕に使えるのだろうか?


「お婆さんお久しぶりです。サリーの入社以来ですね」


 そう言って所長とお婆さんが握手をした。


「お婆さん、あなたは‥‥」


「そうよ、革命軍の生き残りなの。父も母も革命軍の幹部で私も可愛がってもらったわ。あの頃はただ見ているしかなかったわ。だって子供だったもの。そんな私でさえ理解しているわ。皇帝の力で私たち能力者の地位が確立した事をね。所長さん、この能力は使い方によっては善にも悪にもなることの出来る能力よ。勇気の力になってあげてね。」


「もちろんです。勇気は私にとっても大切な仲間です!」


「これで私の仕事も終ね。やっと解放されるわ~!サリー、アレ持ってきてくれたかしら?」


「ええ~これでいいのかしら?」


 サリーが黒革の手袋をお婆さんに渡した。

 それを僕の手の中にそっと置いた。


「産婆の能力は手のひらで触った人の過去を視る事が出来るのね。皇帝の能力も手のひらで奪ったり与えたりするの。そこでこの手袋をあげるわ。これはね、能力を遮断する性質があるの。

 これを着けてれば安心ね。この手袋は年代物よ!革命軍の戦利品!あと目から見えるものは‥‥慣れる事ね!」


 とまた可愛らしくウィンクしてくれた。

 僕は知らないうちに笑っていたようだ。


「大丈夫そうね。安心したわ。さぁ~これで能力もなくなったし‥‥心置きなく社交ダンスに専念出来るわね!」


「社交ダンス‥‥ですかぁ?そうかぁ!この手袋ではドレスに合いませんね。

 お婆さん!ありがとうございます。お婆さんからいただいたこの能力、大切にそして有効に使いたいと思います。手袋までありがとうございます。何から何まで本当にありがとうございます。僕にどれだけのことが出来るのかはわかりませんが精一杯がんばります。でも能力者って大変ですね。使いこなすには訓練が必要です」


 思わずボヤいてしまった僕にみんなが笑った。

 するとサリーがおもむろに話し出した。


「勇気も聞いて。所長、私‥‥研究所を退社します。今からでは遅いかもしれませんが自分のやりたいことをしたいと思います。退社してCAの専門学校に通いたいと思います。なんせ私は空にいる方が綺麗らしいので!」


 と僕にウィンクしてくれた。

 このウィンクはお婆さん譲りだったんだね。

 そっくりだよ、サリー!


「もちろんいいとも。心から応援するよ。それにしても空にいる方が綺麗だとは臭い台詞だね。そんな事いったい誰が言ったんだい?」


 ニヤニヤ顔の所長が座っている僕を見下ろした。


「だ、誰がそんな事を言ったのでしょうね?」


 ごまかしてしまった。

 僕の全力がどこまで通じたかは謎だけれど‥‥ごまかした。


 もう一度、お婆さんにトレースの基本的な使い方とエンペラーについて詳しく聞いてみた。


「私も詳しくは知らないの。でも手のひらを相手の額に当てて『奪う』そして抱きしめて『○○を誰々に与える』と言う、事ぐらいかしら?確か父の遺品に詳しく書かれた文献があったはず‥‥見つけ次第お送りするわ」


「ありがとうございます。私の方でも古い書物や文献を探してみます。では、あまり長居してはお婆さんがお疲れになる。そろそろ御暇しょう。サリーはここに残ってお婆さんの身の回りの世話をしなさい。退職の事は落ち着いてからにしょう。私の知り合いにCAの専門学校をしている人がいるから紹介しょう。今はお婆さんの事を頼むよ。では勇気、行こうか」


「はい!お婆さん何から何まで本当にありがとうございます。お婆さんからいただいた能力と手袋は大切に使わせていただきます。サリーも頑張って!辛く悲しいことが遭ったら必ず教えて欲しい。どこにいてもサリーは僕らの親友だよ。」


「うん。勇気!私も勇気や杏の親友よ!うまく行っても行かなくても会いに行くわ!研究所は私の帰る第2の家だもの!」


 サリーとはここで別れた。


 僕にとって初めての能力。

 フワフワした気持ちとドキドキした高揚感が僕の中で渦を巻いていた。

 それにしてもエンペラーと言う能力はどんな力を秘めているのだろう?

 トレースは知識としては知っている。

 昔はポピュラーな能力だったけれど技術の躍進で廃れてしまった能力だったはず。

 トレースかぁ~‥……僕に使いこなせるのだろうかぁ?


 そんなことを考えながら所長のスカイで研究所に帰ってきた。



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