2話 仲間~なかま・一緒に物事をする間柄~
人に能力が身に付くようになって約100年、たくさんの能力が判明し分類された。
大まかな分類としてファイアー系・ウォーター系・アース系・スカイ系・サンダー系の5系統に分けられ、さらに細かいレベルが存在する。
ファイアー系なら火力の大きで分けられる。
最弱から蝋燭・焚火・猛火・劫火の4段階。
ウォーター系なら水量の多さで分けられる。
最弱から霧雨・地雨・暴風雨・豪雨の4段階。
アース系なら地震強さのマグニチュードをそのままで分けられる。
最弱から3・5・7・9の4段階。
スカイ系なら速度で分けられる。
最弱から気球・ヘリコプター・飛行機・ジェット機の4段階。
サンダー系なら雷鳴の轟く大きさで分けられる。
最弱から雷鼓・雷鳴・稲光・雷神の4段階。
それぞれ大きさだったり強さだったり速さだったりと分かりやすいのだが、なぜかサンダー系だけ雷でしかも最強が雷神って雷の神様?理解に苦しむけれど当時の担当者の苦しむ顔が浮かんでしまい笑ってしまった。
研究所に行く道すがら教えてくれた。
所長さんは用事があるとかで杏さんと2人、僕の新しい居場所に向かうこととなった。
「では改めまして、知花杏です。杏って呼んでね。今年二十歳になったばかりです。え~と能力はファイアーです。でも‥‥火力は弱いの。蝋燭ね。一応、炎を操る事は出来るのよ。え~とこのぐらいでいいかしら?
あとわからないことがあれば何でも聞いて、私があなたの教育係だから!」
「はい。大丈夫です。え!杏さんは僕より歳上だったのですね」
「杏さんはやめてよ!勇気とは2つしか違わないのだから!私も勇気って呼ぶから杏さんは止めて!ついでに敬語も止めてよ。似たような歳なのだしタメ口でOKよ。私も敬語は苦手だし小難しいのも嫌い!気楽に行こう!ね勇気!」
「アハハハ!はい!じゃ、そうさせてもらいます。でも‥‥何だかくすぐったい。今までタメ口や、呼び捨てなんてしたことないし‥‥少し練習が必要かも?です」
「そっかぁ~。大変だったね。私さぁ~。私の力が弱い事が悲しかったの。でも勇気に比べたら私なんてまだいい方ね。こんなことで比べたらいけないのだけどね」
「確かにね。でも今思うと僕は幸せだったのかも?だって捨てられてもおかしくなかったのに、育ててくれた。ありがたいよ。それに今はタメ口を話せる友もいるし、平気だよ。色々言われるのは、なれているし平気さぁ」
「友かぁ!うん友達ね!」
友達呼ばわりしてしまったが、思いのほかすんなり受け入れてくれた。
涙が出るくらい嬉しかった。
そんな他愛のない話をしながら、小1時間で能力開発研究所に着いた。
東京都心でもこんな田舎はあるのだ!と断言していいほどの長閑な風景にビックリした。でも広さだけは十二分にあるようだ。
周りには何にも無いけどね。
畑や果樹園がチラホラある程度。
建物自体はとても立派だ。
さすがお役所仕事は完璧なようだ。
「建物は立派でしょう。本当は市役所になる予定で建てたらしいのだけれど、いざ完成したら、市町村合併で村自体がなくなって建物だけが残ったの。で、建物ごといただいたの。勇気はついているわ。だって去年までオンボロだったのよ!それにしても凄いわよ~中身!」
目の前の建物を見ながら言った。
確かに少しだけ威圧感のある建物だった。
「確かに凄そうだね」
「中はリフォームをして使いやすいのだけれど‥‥外観はね~。まぁ~案内するからついて来て」
市役所のような建物に入っていった。
中に入ると明るくてとても使いやすそうな空間が存在していた。
入り口は学生寮のような玄関が広がっていて、その奥には光が降りそそぐ中庭になっていた。
ロの字型の2階建ての建物。僕が見回していると杏が指をさしながら説明してくれた。
「外と中が全く違うでしょう。隣は研究施設で‥‥近寄らないほら身の為よ。コッチは1階が食堂と所長室で2階が男子寮で女子寮は‥‥秘密!」
可愛くウィンクをしてくれた。僕はドキマギしてしまった。
「食堂に行こう!満智子さんの料理はバッグンに美味しいのよ。誰かいるかもしれないから、紹介するわ。そんな事より、お昼はまともに食べられなかったからお腹ペコペコ。行きましょう」
自分のお腹をさすりながら僕の手を引き食堂に案内してくれた。
さほど広くはない部屋には明るく日差しが差し込んでいた。
白を基調した部屋で、長方形のテーブルが横に2個ずつに別れて置かれていた。その奥にカウンターを挟んで業務用の大きい厨房設備があった。
思いのほか本格的な食堂だった。
「杏!新人が入ったらしいね。そいつなん?」
細身の体系でボサボサ頭、厚い眼鏡をかけた優男が立っていた。
どこか飄々としていて、なにを考えているのかわからない、つかみ難い人のように見える。
ただ着ていた白衣はところどころ焦げていたし薬品が付着していて変色していた。
「やっぱりいたわ!こいつ丸山雷影。能力の研究をしている職員で‥‥たんなる変態。気にしない方がいいよ!」
「はぁ!何言っていんの!変態って‥‥ヒド!まぁ~サンダー系は根暗の変態は多いけれどオレは‥‥‥‥まぁ~いいわ!そんなこと。
それより君が能力のない人?本当に能力がないのか血液検査してもいい?」
「何言っていんの!勇気、気にすること無いよ。血液検査もしなくていいよ!何かの実験体にさせるつもりよ!やめた方がいいよ!」
「大丈夫だよ!杏。初めまして嶋村勇気です。僕から行こうと思っていました。定期的に血液検査をしてください。本当は何かしらの能力があるのかも?徹底的に調べて下さい。お願いします」
「偉い!偉いわ!この人!ではお言葉に甘えて、とりあえず朝と晩に血取らしてもらうわ。うん!気に入った!もし何か欲しいものがあればオレに言え!人間以外なら揃えられる!」
「嘘言っている!この人。あの丸山電工の息子よ!人間だって揃えられるわよ!私なんて‥‥キィ!」
頭を抱えてしまった杏。
よほど酷いことさせられたようだ。
「あ~!そんな事はどうでもいいわ!勇気ここの日替わり定食が美味しいの!行こう!」
僕の手を引っ張りながら歩き出した。
僕は引っ張れながら丸山さんに苦笑いして手を降った。
「杏!待て、待て!オレも行くから!」
慌ててついて来た。
確かに日替わり定食は美味しそうだった。
「あんたかい?新人さんは?ヒョロヒョロだね。これオマケしとくかね。お腹いっぱい食べるのよ」
手羽先の照り焼きにポテトサラダに豆腐の味噌汁にご飯、そしてオマケの餡掛け冷や奴。
ご馳走だった。
「いいなぁ~私もちょうだい!あ!これお土産のお菓子。勇気からいただきました。ここわね。お土産のお菓子は早い者勝ちなの。って‥‥どうしたの?」
杏が僕の顔を覗き込んだ。僕は泣いていたようだ。
知らないうちに‥‥今日は本当によく泣いた。
「ハハハ‥‥ごめん。なんで泣いたんだろう?ご飯が凄く美味しいからかなぁ?変だなぁ?も~恥ずかしいやぁ!」
ごまかしきれたかは謎だがごまかした。
原因はわかっている。
みんなで食べるご飯が初めてだったからだ。
こんなにご飯って美味しいものだったんだね。
知らなかったよ。
僕が照れているところに麻婆丼定食をかかえて丸山さんが僕の左側に座った。
「そんなにうまかったかぁ?やっぱりそっちにしとけば良かったかぁ!一口ちょうだい」
「ちょっと!だめよ!一口とかいって全部食べちゃうから!も~勇気も笑ってばかりじゃなくて何とか言ってやりなよ!」
「あははは!大丈夫。杏。全部食べられたら丸山さんからもらうから!」
「怖いなぁ~。一口は一口だって。それはそうと丸山さんだなんて他人行儀だなぁ?みんなは丸さんか雷さんかそのへんでOKよ。それと敬語も不要。オレはそこまで偉くないし賢くもない。それにここにいる人間は家族だ!家族に敬語は不要!仲良くしようぜ!勇気!」
「はい!ありがとうございます。じゃないなぁ~。すいません。タメ口にまだ馴れていなくて‥‥。丸さんありがとう。みんなで食べるご飯って美味しい!」
僕は知らなかった。
人ってこんなに暖かいものだった。
それに僕は愛されていた。
優しい人達に。
僕はどれだけ人を愛する事ができるだろうかぁ?
人に優しくできるのだろうかぁ?
僕にどれだけのことが出来るのだろうか?
そう思わずにはいられなかった。