28話 防守〜ぼうしゅ・防ぎ守ること〜
“これからの対策”と称して杏と2人で訪れた刑務所の談話室。
もちろん“これからの対策”の話も懸念材料も対応も話し合った、が本当のところは話が盛り上がってしまい時間を忘れていた。
僕たちを心配をした慎吾さんが迎えに来てくれるまで楽しくおしゃべりしていました……すいません。
慎吾さんは笑って許してくれたが、所長はご立腹だった。
その所長の怒りが治まった約1週間後、ゲンさんが研究所へ来てくれたのだが。
「勇気……来ましたよ……」
「きゃー!!泥棒!!誰か!泥棒ですわ~~」
「え!違う!泥棒と違う!!ひぇ~」
麗子さんの悲鳴とゲンさんの泣き声が同時に聞こえた。
僕が慌てて玄関に駆けつけると、そこには玉瑛くんを背負子でからった昇さんがゲンさんを羽交い締めにしている姿が!
買い物帰りの麗子さん達にゲンさんが見つかってしまい、婚約者の昇さんに拿捕されていた。
でも、拿捕されても仕方がないよね……何故にそんな姿で来るのかなぁ。
白いパンツに白のセーラー柄のTシャツ、頭には白いバンダナに黒縁眼鏡。
さらに大きな沢山の荷物を風呂敷に包んで、両手に1つずつ持っていた。
もちろん今の状況は……荷物は放り出され、後ろから両手をロックされて宙に浮いていた。
捕獲されたタワライカのような姿に思わず笑ってしまったのは内緒。
それでも漏れてしまった笑い声。
もちろん大声ではなく忍び笑いで笑ってしまった。
「昇さん!僕の知り合いです!放して下さい!」
「しぃ~えぇ~」
ゲンさんの変な悲鳴に笑いをこらえながらも昇さんから救出。
とりあえず食堂に案内をしたが、どうしてもこらえる事が出来なかった。
僕の顔は締まりのない笑みが口元に漂っていた。
「勇気……今この場は笑うところかぁ?え!」
「ご、ごめんなさい!そ、それにしても……凄い荷物ですね」
「コレかぁ!確かに……ね」
でも僕的には荷物も凄いが服装も凄い!とはけして言えなかった。
しかもその荷物の半分は肉まんや飲茶などでマムからお土産。
「温めて食べるんだよ」
と言われたらしい。
この間から気になっていたことで、何故マムの作るご飯は中華料理なんだろう?
その質問をやっと(笑った事を)許してくれたゲンさんから聞いた。
話によると、マムの母親は日本人だけれど中華料理のシェフで本番、中国でも認められた有名シェフだったようだ。
そして日本でお店を開くとき資金を提供したのが父親の親、祖父だったらしい。
その事がきっかけで結婚をしてマムが産まれたみたい。
マムにしてみれば“母の味”なんだね。
そんなことをしみじみ思っていたらゲンさんが食堂のテーブルに何やら並べ始めた。
一番目に付いたのが閣僚懇談室の模型だった。
その他にも模型に繋がっているボタンの付いた箱やら難読困難の文字が書かれているコピー用紙やら何やらをテーブルに一通り出して話し出そうとしたゲンさんを僕が止めた。
「ゲンさん!もう少し待って下さい。副所長兼開発班班長竹井と開発班の丸山を呼んで来ます」
そう言って食堂を出ようとしたとき竹井さんと丸さんが、こちらも何やら沢山の荷物を持って現れた。
あれよあれよと言う間にゲンさんが広げたテーブルの向かいに、透明な箱の中の真ん中あたりにネットを張ったモノや難読困難な文字が踊っているコピー用紙の束を広げて、今まさに僕には理解不能な(健全な)話し合い……だったらいいのに!が始まろうとしていた。
もし大喧嘩になって計画自体が頓挫してしまったら……そう考えてしまうとアタフタしてしまう僕。
まともに話し合いは出来るのだろうか?
「初めまして能力開発研究所の副所長兼開発班をまとめています。竹井満子です。
こちらは今回の開発担当の丸山雷影です」
「丸山です」
まずは竹井さんが名刺を差し出しながら自己紹介と丸さんの紹介もした。
当の丸さんは挨拶と軽く会釈をしただけで終わった。
ゲンさんは受け取った名刺をマジマジと見つめ皮の表紙が付いたノートに挟んだ。
そして軽く会釈しながら自己紹介?をした。
「高田弦八です」
の一言で席についた。
マムの事はどんな風に、どこまで話して良いのかが分からず棚上げにしたようだ。
静香さんと当麻さんの知り合いと言うことで話を通していたが……雰囲気悪いよね。
お互いが対面し会うように座り、沈黙がまるで無言の鍔迫り合いかのようだった。
そんな中、重たい雰囲気を打ち破ったのは丸さん。
「だ~!!もうやめましょう!俺たちだけでは無理だから頼んだんでしょう!それに見てくださいよ。もの凄く精巧な模型ですよ!本物そっくりです!」
「丸!そんな事はあなたに言われなくてもわかっています。
ですが……開発をよそに出すだなんて……丸も知っていたでしょう!私がアースの研究をしていたことを!!
私の父は地質学者だったのよ!誰よりも詳しいのは私だわ!それを……それを!」
この言葉でにらみ合いの原因が能力によるものではなく開発をゲンさんに頼んだ事によるものだったと知った。
竹井さんにそんな想いがあったなんて知らなかったなぁ。
いつもいつも飄々として優しく、冷静でいて、俯瞰で視野を広くして物事を判断する人。
そんな竹井さんの熱い想いを僕は知らなかった。
僕はただ、アース系の能力者であるゲンさんに頼んだだけなのだが……どうしょう。
僕がオロオロしていると火に油を注いだのは当のゲンさんだった。
「なるほど!面白いね。
国がしている施設だと思って馬鹿にしていたけど……そうでもないね。どうせ天下りで出来た施設だから能力のない人の集まりかと持ったよ。うん!面白いね!」
面食らったのは竹井さんで、大笑いしていたのが丸さんで、僕は冷や汗をかいていた。
確か丸さんは年下でも竹井さんは年上のはず?
その年上の竹井さんに敬語無視のタメ口で上から目線。
そりゃ~僕も敬語が使える訳ではないが時と場所と場面に合わせてお話しする事ぐらいは出来る。
竹井さんはそこまで気にする人ではないが……今回は内容が酷かった。
僕は恐る恐る竹井さんを見た。
その顔はみるみる沸騰していった。
初めて見る竹井さんの赤い顔に引きった目。
でもそこに現れた救世主は丸さんの笑い声だった。
「 ぎゃっはっは~うひゃ~うひゃ~うひゃひゃ」
「丸さん……笑いすぎです。笑う場面ではないと思いますよ!」
「いゃ~すまん、すまん。勇気の言う通り。笑う場面じゃ~ないね。でも高田さんはいいよ!
アース系だと聞いていたから、遠回しにオブラートで包んだモノの言い方をされると思っていたのに……見事に裏切られましたね。
確かに高田さんの言う通り、ここは国の出資で運営されていますよ。ですか国の言いなりに天下りを受け入れる施設ではありません。そうしないためにも勝又所長は国会で闘っています。そしてこの施設を守っているのが竹井副所長です」
ゲンさんに言ったかと思うと丸さんは竹井さんに向きを変えて話し出した。
いつもの丸さんではなく真剣でいて真面目だった。
「竹井さん、あの模型を見てください。写真だけであれだけのモノを作ったんです。凄いですよ。腕は確かです!……竹井さん……俺は勇気に返せないほどの大きな恩があります。お願いです!何も言わずに力を貸して下さい!高田さんと一緒にアースを防ぐ方法を探って下さい。俺はスカイで逃げないように何とか考すから」
そこまで話して、席を立ち頭を下げた。
突然の事に僕とゲンさんは理解出来ずに間抜け面をさらしてしまった。
でも竹井さんだけは理解出来たようで下を向き考え込んでいた。
ほんの数分黙り込んでいたが、何かを決心したかように話し出した。
「丸……わかったわ」
竹井さんは所々に焼け焦げを付けた白衣から高田弦八と書かれた入構書を取り出した。
ご丁寧に名刺ホルダーに入れて首から下げる紐まで付いていた。
そして席を立ちゲンさんに名刺ホルダーを渡して、シゲシゲとゲンさんが作った模型を見つめて言った。
「それは仮だから後で正式な物を用意するわ。
……確かに……凄いわね。でも振動に振動をぶつけて打ち消すやり方には問題があるのよ。普通の地震ならこれでいいのだけれど、アース系マグニチュードにはダメね。能力マグニチュードには縦揺れを起こす人と横揺れを起こす人がいるのよ。それにコレだと壁を伝って揺れるわ。……しかたないわね!作る能力は認めるわ。設計図は私が作るから後でラボに来なさい。
それと……大切な人を守るにはお金が必要なの。あなたならわかるでしょう!悪いルートで手に入れた金より正規ルートで手に入れた金で守りなさい!」
そう言って竹井さんは部屋を出ていた。
竹井さんも丸さんもファミーユの裏の顔を知っていたようで、ある程度理解もしていたかもしれない。
そんなことは知らない僕は相変わらずの間抜け面。
ゲンさんはゲンさんで真剣な眼差しで入構書を見つけていたが、その目は大きく見開いていた。
僕も見せてもらい得心がいった。
その入構書には“能力開発研究所開発部 高田弦八”と書かれていた。
僕は驚いて丸さんに詰め寄った。
丸さんはたじろぎながらも嬉しそうに話したくれた。
「丸さん!コレはどういう事ですか!何でゲンさんが職員になっているのですか!」
「杏と所長が動いたんだよ。
そうそうファーミユはウチの支援グループとして国からの援助金をもらえるようになったから。養護施設としての機能は残しつつウチと連携して能力開発をしていく事になったらしい。少しムリクリ臭いけど、妥協点としてはここいら辺だろうね。
それと、あまり大開に悪いことはしない方がいいよ。ち、な、み、に!このこのとは岡部さんも承知してるよ。ただ『ウチとの窓口は杏と勇気だけ!まぁ~ゲンも』と頑固だったけどね。
あ!忘れる所だった。岡部さんがゲンさんに『しっかり働いておくれよ!』だってさぁ。ある意味、最強のご婦人だね。会ってみたいようなぁ~怖いようなぁ~う~ん~」
最後の“最強のご婦人”には思わず笑ってしまったがゲンさんも笑っていた。
でもその目には涙が溢れそうになっていた。
ゲンさんは入構書をしっかりと握りしめて嬉しそうな、悲しそうな顔で溜め息混じりに話し始めた。
「なるほど……静香がやられるわけだ。まいったね……でも……でも……ありがとう……」
「ゲンさん……僕は何もしていません…何も……」
ゲンさんの涙には、これまでの苦労と後悔と世の中に対する憎しみが感じられた。
それでも大切な人達を守るためどんな事でもして来たのだろうと想うと僕も涙が溢れてきた。
そんな僕らに丸さんが、僕の肩を叩きながらあえて朗らかに話し出した。
「勇気~ちがうね!勇気が暖かい方に連れてきてくれた。その優しさがみんなを繋いだんだぜ。
俺だって……、まぁ~なんだ、え~っと……とりあえず、初めまして俺は丸山雷影ってさっき言ったかぁ!丸さんか丸と呼んでくれ。俺は……ゲンでいいかぁ!」
「ま、丸さん!ゲンさんは丸さんより年上ですよ!」
「な!な!なに~!あの顔で俺より年上だって!!マジかよ!」
「 ぎゃっはっは~ いいよ!いいよ!ゲンでいいよ!俺も丸って言うし。それに敬語がどうしても苦手で、使うのも使われるのも好きじゃない。ざっくばらんに行こうやぁ!」
「おう!いいねぇ!ゲン!」
「おう!いいねぇ!丸!」
と久しぶりの旧友と再会したような意気投合ぶりに僕が驚いた。
丸さんが言った意味は僕にはよくわからない。
“暖かい場所”とはどんな意味なのだろう?
まぁ~そんなことは今はどうでもいい事。
ゲンさんにとって守りたい人達を守れる強さを手に入れた。
もしそうなら僕は嬉しい。
でも……ゲンさんの守りたい人達って……マム?
必要ないよね。




