27話 愁意〜しゅうい・うれい悲しむ心〜
静香さんと当麻さんがお世話になっていたビックマムこと岡部貴子さんの家ファミーユに来ている。
まさかそこで……。
そう、2人で食べるには多い量の昼食を食べる羽目になった。
1時間かけてなんとか食べ終わったあと食後の緑茶を飲んでいるとゲンさんが指輪と時計を持って現れた。
「あらためまして、俺はゲンこと高田弦八。俺のことはゲンでいいよ。まずはコレを返すよ。
それとさぁ……1つ質問していい?」
「はいどうぞ」
「俺はどうしても腑に落ちない!あの静香がこうもあっさり捕まるわけ無い!……と思うのだが……そんなにエンペラーは強いの?」
質問に答えるより先にいただいた静香さんの懐中時計をまたハンカチでくるみ内ポケットに入れ。
それからゲンさんの質問に答えた。
少しだけタイムラグがあり、その隙にゲンさんはテーブルにあったお茶をコーヒーに変えてくれた。
その手際は素晴らしいかった。
まさしくプロのワザだね。
僕と杏が見とれているとゲンさんは照れて恥ずかしかったのか頭をカキながら話し出した。
「そんなに見られると照れるなぁ~。まぁ~コーヒーでも飲んで。
それよりエンペラーてそんなに凄い能力なのかい?」
「違いますよ。静香さんは捕まえたのではなく投降しくれましたよ。
そもそもエンペラー自体に何の能力もありません。エンペラーは奪い与える能力です。僕がこの能力に気がついたのはついこの間ですから。
それよりも凄いのは、知り合いのお婆さんからいただいた能力トレースです。トレースを使用して静香さんの過去を少しだけのぞかせてももらいました。でも……僕がしたのは過去を診て泣いただけです……何とも情けない話です。
そして今はエンペラーに振り回されています」
「そうかぁ~。でもあの静香が投稿したんだろう。やっぱり凄いよ。
それはそうと……トレースて産婆のことかい?」
「はいそうです。現役を引退された方からエンペラーの事とご自分のトレースを僕にくださいました」
「トレースって確か、目で能力を見て、触って過去を診る能力の事だよね。だったら俺の能力、解る?」
突然、話を降られ驚いたが眼鏡を外してゲンさんを改めて見た。
するとそこには黒色に近い茶色?鉄のような色をしていた。
あの色はたぶん鉄黒でおそらく……。
「アース系マグネットですか?」
「当たり!凄いね!マム!勇気はトレースを持ってるって!じゃさぁ、マムは何の能力か解る?」
「え!」
そう言うとカウンターの奥にいたマムを引っ張り出し、まるで子供のようにはしゃぎだした。
仕方ないねぇ~と言うような顔つきでマムが僕たちの前にやってきた。
「へぇ~トレースを持っているのかい?確かに珍しいね。じゃ私の能力は何だい?」
近くにあった椅子に座りながら、不適な笑みを浮かべて僕に挑戦してきた。
僕はたじろぎながらかけ直した眼鏡をもう一度外した。
するとそこには見慣れた波打つ瑠璃色が現れた。
「ウォーター豪雨ですね。静香さんと同じです」
マムはひとつため息をつき、優しさを取り戻した顔をして話し出した。
「そうかい……そうだろうね。
静香に能力の使い方を教えたのは私だよ。私も若かったわ。もちろん静香や当麻も若かったわ。
まだ10代後半かしら?それくらい若かったわ。でもすでに黒く染まっていたのよね。まだ当麻の方はなんとかなりそうだったけれど……静香は厳しかったわね。だから私は静香達に裏の仕事をさせていたのよ。それがけしていいとは言わないわ。でもね……あの時の静香には過去を忘れる時間が必要だったのよ。許してやってね」
そこまで話して僕たちに頭を下げた。
僕も杏も驚いて慌てて頭を上げてもらった。
「マム!止めて下さい!分かってます!静香さんには哀しみを整理するだけの時間が必要だったことはわかります!……静香さんの過去は哀しすぎます……」
僕は下を向き両手で膝を握りしめた。
なぜ人は、それとも神は、試練を与えるのか?
楽しい思い出より辛い現実が人の心を癒やすとでも言うのかぁ!僕はいたたまれなかった。
するとマムが僕の握りしめた手を優しくほどき諭すように話し出した。
「勇気は静香の過去をトレースで診たんだね。そうかい。それは辛い思いをしたね。でも今は辛くないと思うよ。私に“今を生きています”と言っていたんだろう?それは言葉の通りだよ。
静香はやっと前を向いたのさぁ!やっとね……ありがとうね勇気……本当にありがとうね」
マムはまた泣いていた。
僕の両手を握ってまだ泣いていた。
僕も杏もゲンさんも泣いていた。
するとゲンさんが思い出したように話し出した。
「勇気!静香の過去を診たならなんで俺らの事を知らなかったの?」
「それは……もちろん思い出そうとすればわかったと思います。ですが、静香さんが会った方がいいよ!と教えてくれたので思い出すことは止めたんです。
それに、どんな思い出でも大切な宝物です。無闇に覗いていいことではありません」
話を聞いていたマムが感心したように僕を見た。
「勇気はちゃんとした両親に育ててもらったんだね」
「え!あ、ありがとうございます!」
両親の事をそんな風に誉められたことなど無かったので何だか照れくさかった。
でも少しだけ“ちゃんとした”に違和感を感じた。
でもそこには理由があった。
ここではこれ以上、この話題に触れなかったのは大人の嗜みだよね。
僕たちは細かい打ち合わせをしてファミーユを後にした。
後日、静香さんと当麻さんにマムの事や懐中時計事などを報告に杏と2人で出かけることにしたのだが。
本来なら国立さんか慎吾さんについて来てもらいたかったのに仕事が忙しく連絡だけ入れてもらったて、僕たちだけで出かけることに、少しだけドキドキしながら刑務所へ出かけた。
本当は所長も行く予定にしていたのに……定番のお仕事で断念。
公共の電車とバスを乗る継いで行ったのだが時間通りに着くことはなく大幅に遅れることに。
もちろん静香さんと当麻さんはこの間のテーブルに座って待っていてくれた。
「静香さん!当麻さん!遅れてすいません!何よりも……いろいろありがとうございました!
そして静香さん!……懐中時計は本当にいいのですか?」
「勇気、私たちも今来たところです。その時計は、もちろん差し上げますよ!私が持っていても仕方のない物です。でもオーバーホールをしないと使えないでしょう。
それはそうと勇気……マムのしていることにはあまり口を出さないでいただきたい。勇気は養護施設『フアーミユ』の話を聞きましたか?」
「いいえ何も聞いていません?でも何となく理解しています」
「そうですか…………まぁ~私が話してしまってもいいでしょう。
元からあったのは喫茶店だけだったようです。マムの祖父がビルのオーナーで父親が喫茶店を開いたそうです。マムがまだ子供の頃の話だそうで、小さい頃からお手伝いをしていたせいかそのまま喫茶店を継いで、ちょうどその頃に喫茶店の常連客だった人と恋に落ち結婚。
結婚は今で言うところの“授かり婚”でマムの両親も祖父も大反対だったのを既成事実で仕方なく認めざる終えなかったらしいです。
でも反対されるだけの理由があったのですよ。その男は無類の女好きで金に汚く子供が嫌いと、どうしょうもないろくでなしだったようで、私は写真でしか見たことはありませんがお世辞にもいい男ではありませんでしたよ。
その日は夏の真っ盛りでとても暑い昼間、かき氷がよく売れたそうです。
そんな日の夕方、子供の泣き声、大きな音、いつの間にかいなくなっていた夫、そして静かになった部屋。マムは不安を感じ喫茶店が落ち着いてきた午後3時頃バイトの子に任せ、部屋に行ってみたそうです。そこに広がっていた光景は今もはっきり覚えているそうで……流石にそこまでは話してくれませんでしたが想像は容易に出来ます。
マムの一人息子は6才になったばかりで小学校に行くのをとても楽しみにしていたそうですが……おそらく父親に殴られ左側頭部をタンスに打ちつけ鼻から血を流し、倒れていたのをマムが発見。それでも殴った時にすぐ病院に行けば何とかなったかもしれませんが、マムが気づいた時には血が乾いていたそうで。救急車で近くの病院へ行ったそうですが、せめて10分早く!と言われたそうです。
それから先のマムは生きていく気力をなくし、いっそうのこと息子の所に行こうかと思ったようですが。そんなときにがぎって聞こえてきたのは弱々しく泣く声。行って見ると薄手の毛布に包まれた赤ちゃんがいたそうです。そこには--名前は高田弦八で能力はマグネットです--たったそれだけ書かれた紙切れが一枚あったようで。マムはその子を抱え上げ、ふと前を見ると繁華街をうろつく子供の姿が目に飛び込んで来たそうです。亡くなった子のためにもこの子たちを何とかしなければ!その思いで立ち上げたのが養護施設『ファーミユ』です。
30数年前は能力の有る無しや強さや珍しさで子供の取り替えや売買、果てには放棄、ようは捨て子です。そんな時代だったんですよ。でもマムはそんな時代だからこそ私がするんだよ、そう言って小さい子供の面倒を見ていましたよ。当麻も覚えていますよね」
「あ!もちろん覚えてる。そもそも、静香と出会ったのもこのファミーユだ。勇気は養護施設だから国がやっているだろう。普通は県や市がやる事業かもだけど、でもマムは非営利団体?でほぼボランティアでやってんだぜ!そんなん出来るわけ無いじゃん!そこでマムは地の利を生かし裏家業を始めたんだ。元々、才能があったみたいだぜ!
ジャリ共の世話から裏の仕事の斡旋、派遣、人材育成……マムは全てをこなし、今の地位になったんだ。俺たちなんか手も足もでねぇよ」
隣で静香さんも大きく頷いていた。
すると静香さんは僕と杏を諭すようにはなしだした。
「勇気、杏。マムのしているとはけして良いことではありません。いくら金が無いからと言って犯罪に手を染めるのはいけないことです。ですが……そればかりではないのですよ。少しだけ昔の話をしましょうか。私がファーミユに行ったときにはすでに」
「俺がいたなぁ」
「えぇ、いましたね。ですが怖くて誰もそばにはいませんでしたけどね」
「そう言う静香のそばにも誰もいなかったじゃん!」
「そうですね……」
と剣呑な雰囲気になりだしたので、先が聞きたかった僕としては2人の話を元に戻した。
「あの!静香さんより先に当麻さんがいらしたのですね。それからどうされたのですか?」
「「え!あぁ~」」
と2人の声が重なって笑いあって、静香さんが話を進めてくれた。
「私が……確か……17か18才の時にファーミユで保護されました。
私はヤクザに追われ、公園で行き倒れでいたのをマムに拾われました。その時には当麻はいましたね。今でもはっきりと覚えていますよ。弱っていた私と派手な喧嘩をして……私が寝ていた部屋を丸焦げにして……水浸しにして……気絶して、目が覚めたのは病室でした。
もともと火と水ですよ。能力的には不利だったようでコテンパンと言うヤツですね。でも喧嘩をしながら同じ悲しみを感じていたと思いますよ。
でも!でも!でも!負けたままと言うのが許せなくてマムに能力の使い方から体裁きなどの事を教えて、いただく代わりにファーミユへ入居するように言われました。ずいぶん昔のことのように思いますねぇ~」
「あ~物凄く昔のことだが俺はあの初戦いらいしか勝ててないが……」
「おや?そうでしたっけ?」
また楽しそうな言い合いが始まってしまった。
2人の間には話さなくても通じる想いがあり、悲しみも苦しみも共有してきたに違いない絆があるように思えた。
静香さんと当麻さんを見ていると、悲しみは時間が癒してくれるのではなくて、悲しみにを受け入れる時間が必要なのかもしれない。そんな風に思えた。
僕は何だか嬉しくて言い合いをしている2人をただ見ていたのだが、杏が申し訳無さそうに手を挙げ言い合いを止めてしまった。
「あの~静香兄さん!ちょっとだけ質問してもいいですか?」
「何ですか?」
「え~っと……オーバーホールてなんですか?」
「あ!それ僕も知りたかったです」
さすが杏だ。
場違いな質問で話を先に進めてしまった。
まぁ~僕も賛同したけれど。
質問をされた静香さんは優しさ全開の笑みで話し出した。
今の今まで当麻さんと言い合いをしていたのにピタリとやめて杏に向き合った。
当麻さんは少しだけつまんなさそうな顔をしたけれど質問したのが杏だったので、当麻さんも静香さん同じような顔をしていた。
僕には見せてはくれない笑顔……だった。
「オーバーホールは分解掃除のことですよ。
古い懐中時計は掃除をしてあげないと時を刻んでくれなくなるのですよ。ゲンさんに頼めばしていただけますよ。ただ……能力がマグネットなだけに少しだけ磁力を帯びますがすぐになくなります」
「はい!ゲンさんには研究所の方に来ていただくことになっています。その時にホールオーバーをしてもらいます」
「オーバーホールですよ。それよりゲンさんが研究所に行くのですか?とても珍しいですね。ゲンさんは自分のテリトリーを出ない人だったはずですよ」
「はい……実は説得するのに大変でした。でもスカイ対策は研究所の開発班が請け負うので、どうしても開発班との話し合いをしないといけませんから……とお願いをしてもダメで……」
「だったら私達がこちらに伺いますよ!」
「と杏が今のように言ったらゲンさんが研究所の方に来てくれる事になりました。杏の力です」
「ぎゃっはっは!杏は昔と変わんねぇ~!力技だ!」
「当麻、笑うのは失礼ですよ……」
と言いながらも静香さんの肩も震えていた
当麻さんも静香さんも大いに笑っていたけど僕は内心、不安でいっぱいだった。
そもそもアース系とサンダー系は仲があまり良くない。
もちろん例外はあるけれど、丸さんが言うには……。
『サンダー系はアース系に憧れを持っているし尊敬もしている……が!
あの寛容な態度と広い心を持ってます的な言い方に腹が立つ!』
らしい。
これはあくまでも丸さんの意見であり、アース系の人が全てこの意見に当てはまるかと言えば……僕は少し違う気がする。
確かにアース系の人は泰然自若な方が多い。
あまり物事に動じず、どっしりと構えている方は大抵アース系の能力者だったりする。
後は体系のいい方が多いのもアース系の特徴。
もちろんどんな事にも例外はつきもので……ゲンさんは確かにアース系だけれどもアースはアースでもマグネットだし……はぁ~何事も起こらなければいいのに……はぁ~。
もめ事しか思いつかないよ……はぁ~。




