24話 想起〜そうき・思い出す事又は前にあった事を思い浮かべる事〜
話が飛んだ感じがしますがそのまま読み進めて下さい。
「勇気、おめでとうございます。これであなたも大臣ですかぁ?」
その台詞がバトルの合図。
翔は国会議事堂にある閣僚懇談室の窓ガラスを派手に吹き飛ばし侵入した。
彼は喪服姿で髪もオールバックにしていて、顔には不敵な笑みまで張り付いて浮かんでいた。
何だか所長の姿にとてもよく似ている。
「翔!何で!!」
「おめでとうを言いに来たのに“何で”とは失礼ですね。
それはそうと……確かに勇気の言う通り情報は武器になりますね。密かに情報収集しているのもなかなか楽しかったですよ。
それにココは僕が壊したところですよね。新しくしたのですね。でも前と同じような作り……古きよき日本の文化ですかぁ?笑っちゃいます」
そう言って部屋を縦横無尽に飛び回った。
部屋には各大臣や首相、もちろん警備の人も居たのに派手な飛び方に胆が冷えたよね。
続けざまに、僕の頭上をまるでピーターパンごとく飛び回る姿を目の当たりにして、呆気にとられたのは内緒にしたい。
僕は慌てて怒鳴った。
「翔!いい加減にしないかぁ!
それとも僕と向き合うつもりはないのかなぁ?降りてくる勇気がないのかぁ!翔!!」
「なに?今何といった!勇気!!」
彼の顔色が明らかに赤らめ沸騰寸前だった。
その彼が僕の目の前に着地をしたかと思うとその場でしゃがみ込んで叫んだ。
「マグニチュード9」
大きく大地が!建物が!……ほとんど揺れなかった。
そう並べられた椅子やサイトテーブルも倒れ無ことなく起立していた。
僕はその隙に翔が壊した窓に向かって大声を上げた。
「今です!」
僕の声が合図となり破壊された窓や入り口に黒くて太い大きな網がかかった。
翔はなにが起こったのか理解できずにしゃがみ込んだまま呆然と見ていた。
「翔!これでもう逃げられない。
あの網はどんな能力も遮断する素材で編まれている。焼くことも斬ることも出来ない特別製です。観念してください。
それとアースが使えなかった理由ですが……あなたが壊した後、改装するときこの部屋を耐震設計にしたのですよ。今の技術は凄いてしょう。ほとんど揺れなかったですね」
僕の話を聞いた翔は、スッと立ち上がり。
さぞかし慌てて逃げ出すだろうと高をくくっていたのにそうは問屋が卸さなかった。
僕の目と鼻の先にあった顔にはまだ不適な笑みが浮かんでいた。
「あなたはどこまでも甘い人だ。これだけの人がいるのに僕が人質をとらないとでも思ったのか!
それとも……勇気だけ残して……全員灰にしてくれよう!」
翔は最後まで言い終わらないうちに両腕を伸ばし、僕を抱きしめるかのような仕草をした。
僕は慌てて身構えたが、抱きしめようとしたのではなく僕の後ろにいた大臣たちを狙ったファイアー系の砲撃だった。
慌てた僕は思わず叫んでしまった。
「当麻さん!!」
「え!な!何!」
翔の驚きと僕の叫びが重なり相殺された。
砲撃の後に現れたのは、大臣たちの丸焼きではなくパチパチと音をたてて燃え盛るスクリーンだった。
「スクリーン?ココにいる大臣たちは映像?」
「全然わからなかったでしょう。さすがにあなたが飛んだ時はハラハラしましたよ」
僕はそう言って消し炭になってしまったスクリーンをチラッと見た。
間一髪スクリーンを立てていた黒い柱に隠れて難を逃れていたようだ。
安心した僕は翔から当麻さんの姿が見えないように立ちはだかっり、ちょっと好戦的に言い放ってやった。
「翔!僕がそんなヘマをすると思ったか!
お前が壊したこの部屋は、お前を捕まえるためだけの部屋に生まれ変わった!
もう逃げられないぞ!覚悟しろ!」
「勇気……あなたが僕を捕まえる……やれるものならやってみろ!」
そう言って翔はもう一度、両腕を伸ばし僕を抱きしめるかのような仕草をしたが今度は僕の横を上下にしならせた。
ファイアーではなくウォーターの鞭が僕を激しく打ちつけようとた。
その鞭攻撃はウォーターの壁で相殺したが反動で壁の後ろに吹き飛んだ。
ほんの数分のやりとりが僕の運命を大きく左右するバトルの幕開けとなった。
話は4ヶ月前に戻る。
暑かったあの夏の日。
丸山邸からの帰り道。
車中で僕は国立さんと福田さんと慎吾さんでこれからのことについて話をした。
「国立さん、福田さん、慎吾さん。もうどうしたらいいと思いますか?
ナポレオンが先へ先へと行ってますよね。慎吾さんがせっかく居所を突き止めても、僕たちが行く頃には姿を消しているし。金銭面の供給源からの情報は……彼らがナポレオンを恐れていて何も話してはくれないし。
八方塞がりのような気がしませんか?」
「ですよね……私もそう感じていました」
「福田さんもそう思いますか!何かよい手はありますか?」
車の中に沈黙が流れた。
僕は何も出来なかった喪失感が強く先の事なんて考えられなかったけれど……みんな同じ気持ちを感じていた。
だって僕と似たり寄ったりの顔色をしていたから。
その陰鬱な流れを止めたのが国立さんだった。
「勇気さん、ここは犯罪のプロに相談してみませんか?どうも煮詰まっているように思うのですが……」
「犯罪のプロですか……!!静香さんですね!
すっかり忘れいました!静香さんならヒントをくれるはずです!今から行きましょう!」
「今からですか……ちょっと待って下さい。係の者に連絡をしてみます」
「お願いします!国立さん!」
僕は失念していた。
自分から“相談役”をお願いしておきながら、忘れるだなんて……は!今寒気が!!
でも思い出したからにはすぐにでも相談したい!そうはやる気持ちで国立さんを見つめていた。
「……わかった。今から行くからお二人を談話室で待たせといてくれ。今からすぐそちらに向かうから」
そこまで話して携帯電話を閉じた。
助手席に座ったままで国立さんが結果を報告してくれた。
「勇気さん。今から会うようにしましたが……よかったですか?」
「もちろん!ありがとうございます。……あの、慎吾さんは会われたことがありますか?」
「俺ですか?いいえありません。お噂はかねがね聞いてはおりましたが、なかなか会うチャンスに恵まれずいまだ会っていません」
「ひょっとして……怒ってますか?」
「え!勇気さんには怒っていませんよ。俺が……言いたいのは国立補佐官ですよ。
俺の退職届が何故か受理されないのですか?」
車を運転している慎吾さんが声だけの威圧で国立さんを攻めていた。
バックミラーに映った慎吾さんの顔を怒りではなく困惑の色合いが濃かったけれどもね。
その隣で国立さんはとぼけた顔をして言い放った。
「それはだなぁ……使えるコマを失いたくないからだ!
お前は俺預かりだ!こき使ってやるから気合を入れ直せ!!」
「え!」
してやったりの国立さんと驚きを隠せない慎吾さん、そんな二人の会話は上司と部下の縦割り社会の会話ではなく、先輩と後輩のような学生会話だった。
僕は“ひょっとして”と思って聞いてみた。
「あの……国立さんと慎吾さんは……」
僕の疑問に答えてくれたのは福田さんだった。
しかもニヤリと笑いながら話してくれた。
「私も含め義明と慎吾は同じ大学のサークル仲間です。ちなみにテニス同好会です」
「テ……テニスですか!」
「今、想像しましたね。当時も爆笑の渦でしたよ。
慎吾のテニスルックは今でも語り継がれている傑作です」
「キ先輩までやめてください。あれは先輩たちが無理やり俺を同好会に入れたでしょうが!
それにテニスウェアーだって先輩たちが勝手に買ってきましたよね。俺は着たくなかったのに……」
「え?キ先輩?て……」
「あ~、勇気さん、それはですね。私のこと福田喜朗のことですよ。
ほら私も国立も下の名前よしあきと同じ読みをするでしょう。そこで私、喜朗の喜ぶを音読みで“キ”と読み……」
「で私、国立義明の義を音読みで“ギ”と読みますよね。そこで私がギ先輩で喜朗がキ先輩といつしか後輩が呼ぶようになりました」
「へぇ~、面白いですね。確かに同じ読みですものね。でも……名字で呼べば済むことなのでは?」
「勇気さん!フレンドリー差にかけますよ。あだ名で呼ぶ方が親密さが増しませんか?」
「国立さん。まぁ~確かにそうですけど……だったら僕も“ギさん”と“キさん”で呼びましょうか?」
「「やめてください。中国人になったようです」」
2人とも同じ事を言って、同じように困った顔をしていた。
何だかおかしくて僕は笑っていた。
血のつながりは無くても、福田さんも国立さんの持っている雰囲気がとても似ていた。
同じ音の名前を持つ2人には同じ時間が流れているのかもしれない。
「ハハハハ。中国人とは中国の方に失礼ですよ!
さぁ~着きましたよ。東京刑務所です。おそらくお待たせしていると思います。急ぎましょう」
「え!慎吾さん。東京刑務所ですか?確か刑務所は都内にあったと思いますが……?」
「はい。昔は都内にありました。ですが各能力での拘留となると都内では場所が確保出来ないので、埼玉県寄り、ギリ都内のこの場所に建設しました」
「ちなみに、スカイは今も都内ですよ。スカイは空に逃げられる恐れがありますからね。
捕らえてすぐに窓のない部屋に拘留されます」
言い返したそうにしていた福田さんと国立さんを置き去りにして慎吾さんが先頭に立ち僕を案内してくれた。
何としても翔より先に!
何としても翔より賢く!
何としても……何としても……翔を捕まえてやる!!
でもその前に存在を忘れていた静香さんと当麻さんからの洗礼に耐えなければ!
僕に明日は訪れるのか!?




