23話 眷族~けんぞく・血のつながりがあるもの又は従者又は身内の者~
「私はただ‥‥守りたかった。ただただ丸山電工を守りたかっただけなんだ」
そう言って生きる雷信、丸山雷が一筋の涙を流した。
「父さん!」
駆け寄ってこようとした丸さんの父親、丸山雷輝さんを手で制止して話を続けた。
「初めは10人足らずで始めた電化製品販売所だったんじゃが、いつしか自社ブランドの電化製品を作り、今の丸山電工にした。
私の能力がサンダーの雷神だったから成し得た事だ。今では海外まで手を広げ世界でNo.1の電化製品メーカーにした。そんな会社を守るため、社員の生活を守るため‥‥仕方のない事だった!」
僕は思わず近くにあった机を叩いて怒鳴った。
バン!
「そんなのは詭弁だ!自分達のプライドを保つために‥‥保つためにだけに‥‥子供を金で買っていた!!
僕は視た‥‥病院で赤ちゃんを買っていたんだ」
とうとう僕は我慢が出来なかった。
お爺さんの言っていることは言い訳にしかすぎない、それをグダグダと話している姿に限界を超えてしまった。
僕の言った言葉の意味が通じなかったのか、誰も言葉を発しなかった。
そんな重たい沈黙を打ち破ったのは丸さんのお兄さん、丸山雷光さん。
「嶋村さん‥‥あなたの言った事は事実。確かにあの病院でサンダー雷神の赤ちゃんをお金で譲り受けていますよ。僕が次期当主と決まったときに全てを聞きました。
それと、今現在、私の両親がどうしているかも聞きましたよ」
雷光さんは一歩前に進み出で、みんなの中心に立ち、更に話を続けた。
「私が産まれたとき、両親は生きるか死ぬかの瀬戸際だった。でも私を手放した事で一生遊んで暮らせるだけの金を手にすることができた。今は郊外に妹と家族3人で喫茶店を営んでいますよ。
嶋村さん‥‥あなたの言っていることは正しい。でも一家心中するよりましではありませんか?
それに血のつながりが無くても私を立派な経営者として育ててくれた、そんな父と母を尊敬していますよ。でも‥‥でも‥‥雷影だけは違う!雷影は‥‥お爺様の子供だから私とは違う‥‥」
このあまりにも違和感がある告白。
それと説明になっていない話の内容にそれぞれが色んな顔色をして黙り込んだ。
お爺さんと秘書の栗原さんは終始、下を向き暗い顔をしていたし。
雷輝さんと雷光さんは晴れ晴れとすっきりした明るい顔をしていた。
当の本人である丸さんと全く関係のない杏は雷光さんの言った最後の言葉と病院での子供の買い取りにハテナマークがいっぱい見えていて脳味噌をフル回転しているのかほんのり赤い顔をしていた。
最後に残った慎吾さんは‥‥何にも変わらなかった。
流石!警察官だね。
この中で全ての事を理解し落ち着いてわかりやすく話せるのは僕だけしかいようだった。
でもその僕も怒りに打ち震えていたけれどね。
僕は席を立ち雷光さんの横まで進み出て、話の主導権を奪った。
「雷光さん。あなたの話しでは誰も理解しませんよ。僕が変わって話をします。
間違えがあれば後から訂正してください」
そう言って雷光さんを睨みつけた。
僕の剣幕に押されたのか、たじろぎながら僕が座っていた椅子に座った。
「なるべく主観的に僕が視た事実を話します‥‥フゥー‥‥」
僕は目を閉じ深呼吸した。
そうしなければ頭の中にあるお爺さんの記憶を言葉に変換、出来なかったからだ。
僕は目を開け話し始めた。
「丸山雷さんが生まれた頃は能力を持たない人もたくさんいた時代です。能力者の地位が認められ始めた頃で、まだまだ迫害もあったと思います。丸山雷さんのご両親は下町の電機屋さんで主に修理や取り付けをしていた方です。ご両親、共に能力者ではありませんでしたが親族に能力者がいたと思われます」
と僕はここで話を止めて水を一気に飲み干した。
「雷さんは能力があると言うだけで迫害やいじめを受けます。でもが、ご両親の愛情と持ち前の質実剛健な性格もあり、雷さんは能力者でありながら自分の地位を確立していきます。
さらに自身の能力サンダーがお父様の仕事に役立つとわかり、手伝い始めます。そしてお父様は電化製品を修理するのではなく作る側にシフトしてき行きます。これが丸山電工の始まりです。
雷さんはお父様から丸山電工を譲り受け大きくしていきます。
時代が変わり、能力を保有する人が増え始めた頃に雷さんは『跡継ぎは自分と同じサンダーの能力を持つものがいい』と結論付けて行動を起こします。
今なら周知の事実ですが、親子でも同じ能力者は産まれませんよね。当時はその事に気付く人はおらず雷さんは色んな方と子をなしましたがサンダーの子供は産まれません。
どうしてもサンダーの能力を持った子供が欲しいと思った雷さんは財力にものを言わせ病院を移築します。大きい病院などなかったこの地区に大病院が来たのです。町の住民は大いに喜びます。
そして町は発展し大きくなり、町民全てが雷さんに感謝します。ですがその裏でサンダーの能力を持った子供を‥‥赤ちゃんを金で譲り受けていたのです」
僕はここで話を止めてお爺さんを見た。
車椅子に座り目を閉じ僕の話を黙って聞いていた。
その後ろで栗原さんも同様に話を聞いていたが、丸さんのお父さん雷輝さんとお兄さんの雷光さんは不服があるのが文句を言いたげな顔をしていたが、僕の説明が間違っていなかったせいもあり何も言えずに黙っていた。
ただ杏だけは怒りを爆発させた。
「信じられない!子供を!赤ちゃんを!
冷蔵庫か電子レンジのようにお金で買うだなんて‥‥跡継ぎにするためだけに‥‥人の命を何だと思っているのですか!!信じられない!丸さんはどう想いますか!」
「杏‥‥そう怒るな。
俺は何となくわかっていたけどなぁ。だっておかしいだろう。血の繋がった人間で、祖父、父親、兄、そして俺、コレだけサンダーが揃い踏みは絶対に無い!
俺だって家を出るまでは気付かなかった‥‥けどね。この家の異常さにね。
でもそれだけじゃない。この家族には家族としての繋がりが全く無い。まだ研究所のみんなの方が家族としての繋がりがある。俺はこの家では全くの孤独やった。勇気の話を聞いて納得したね」
そう言って丸さんは悲しげな目とあざけた口元で笑った。
その光景に我慢が出来なかったのが雷光さんだった。
今にも飛びかからんばかりに腰を浮かしていた。
でも立ち上がる前に僕の悲痛な叫びが雷光さんの動きを止めた。
「丸さん!違う!‥‥丸さん‥‥‥丸さんだけは違うんだ!」
僕は目を堅く閉じて拳を握り、話を続けた。
「‥‥病院から雷輝さんを譲り受けた雷さんは成人式の日にすべてを話します。
初めこそ戸惑った雷輝さんでしたが、3代目として丸山電工を背負って行くと誓います。その当時、婚約していた優子さんにも話し、最初の子供は病院から譲り受ける事を承諾してから結婚します。そして譲り受けたのが雷光さんです‥‥ですが‥‥皮肉なことに雷光さんが産まれた翌日に、もう1人のサンダーの子供が産まれます。この子が雷影さんです。丸さんです。
雷光さんはサンダー雷神で雷影さんはサンダー雷鼓‥‥本当なら雷光さんだけでよかったのに雷影さんまで譲り受けます。
なぜなら‥‥雷影さんは‥‥後に栗原さんの妻となる穂純ルイさんと雷さんとの間の子供だったからです。産まれてくるはずのないサンダーの子供。
自分の血を分けた、同じ能力者の子供‥‥雷神ではなくても側に置いておきたい。親なら誰だってそう想いますよね。
そう考えた雷さんは雷光さんと雷影さんを双子として役所に届けさせます。病院も最大の出資者である雷さんには逆らえず、双子として産まれたと診断書を偽造します。
その事に危機感を覚えたのが雷輝さんです。雷光さんが10才の時に全てを話します。
雷輝さんは怖かったのだと思います。血のつながらない父親、雷さんに捨てられるのが怖かったのです!だってそうでしょう‥‥血のつながった我が子が可愛いに決まっています。
雷さん?その事に気がついていましたか?
雷輝さんの焦りと寂しさに気がついていましたか?‥‥気がついてなどいませんでしたよね。
気がついていないから雷輝さんの行動に理解が出来なかったはずです。10才になったばかりの雷光さんだけに全てを話し丸山電工の4代目にしたのです。
10才の幼子に雷輝さんの言葉はどれだけ理解出来たでしょう?
‥‥あなたに‥‥雷さんに‥‥子供を奪われた親の気持ちと親を奪われた子供の気持ちをあなたは踏みにじった!
それだけじゃない!踏みにじった事に気付きもしないで我が子の雷影さんを溺愛します。
その行為がさらに2人を追い詰めます‥‥もう終わりにしませんか?だいたい馬鹿げています。
会社の社長にサンダーの能力者が立たなければならない理由など、どこにもありません。もう‥‥止めて下さい‥‥悲しすぎます」
僕は大粒の涙をこぼし雷さんに向かって頭を下げた。
誰も何も言えなかった。
辺りは一瞬、静寂に包まれた。
僕はおもむろに頭を上げ袖口で涙を拭き、雷輝さんと雷光さんに向き直った。
「雷輝さんと雷光さんの気持ちは理解できます。
雷輝さんは寂しかったのですよね‥‥悲しかったのですよね‥‥だって‥‥家族としての絆を尊敬してきた父親に踏みにじられたのですから、それでも我慢出来たのは丸山家を守るため。そのためだけに今を生きてきたのですから我慢もでたはずです。
ですが‥‥雷さんの血を分けた子供、雷影さんの存在が全てを狂わせてしまったのですね。ご自身の居場所が無くなると思った雷輝さんは10才の子供に全てを話し雷さんに4代目は雷光さんだと宣言したのですよね。
僕は雷さんの記憶で全てを視ました‥‥雷輝さん‥‥その時の雷光さんの顔を覚えていますか?覚えていませんよね。だってあなたは雷さんの顔しか見てはいなかったのですから!
10才の子供に何が解りますか!その時、理解できたのは父親の悲しい顔と弟の雷影さんとは兄弟ではないと言う事だけです。そうですよね‥‥雷光さん」
僕は雷光さんを見た。
雷光さんはただ目を堅く閉じて何も言わなかった。
答えをもらった僕は話を続けた。
「雷輝さん。あなたはご自身の居場所を確保したいがために自分の家族の絆を踏みにじってしまったのですよ。その事に気がつきましたか?そして雷光さん‥‥知らない事が罪だと言うのなら、知らせない事も罪にはなりませんか?雷影さんは何も知らなかったのです。本当に何も!
ただ自分だけがサンダーの能力が低い。能力の違いで差別を受けている、そう思っていたのですから」
僕は少しだけ丸さんを見た。
丸さんは正面を見つめていた。
僕の声が聞こえているのかさえ定かではない。
僕はちょっとだけ声のボリュームを上げた。
「僕は20才になるまで自分の能力が何なのかわかりませんでした。
20年間、能力ナシのレッテルを張られて生きてきました。いじめなんて生やさしいものではありません。人間扱いはされませんよね。社会全体が僕の事を抹殺しているように感じていました。
そんな僕に手をさしのべてくれたのが能力開発研究所でした。さらにエンペラーというとんでもない能力だとわかったときは研究所内で孤立しました。でも丸さんが助けてくれましたよね。あの時はなぜ助けてくれたのか謎でしたが、今ならわかる気がしますよ。
丸さんは家族が欲しかったのですよね?血のつながりや能力の差で優劣が決まる家族ではなく笑って泣いて時には怒って、それでも側にいてくれる家族が欲しかったのですよね!」
僕は知らず知らずに丸さんを抱きしめていた。
抱きしめられた丸さんはハッと我に返り泣き崩れた。
僕は丸さんを椅子に座らせ背中を二度三度さすった。
そして雷光さんに向き直り話を続けた。
「雷光さん‥‥今のあなたなら雷影さんの気持ちを理解出来ますよね」
僕はそう言って丸さんの前から一歩下がった。
雷光さんは涙でヒクヒクしている丸さんを正面から見つめ、崩れるように膝をつき抱きしめた。
その声は涙でかすれていた。
「雷影‥‥雷影‥‥ごめんよ‥‥雷影‥‥」
「兄さん‥‥俺の方こそ‥ヒク‥‥ごめん‥‥何にも知らなくて‥‥ごめん‥‥」
2人は人目もはばからず泣いていた。
僕は丸さんと雷光さんから離れ雷さんの前にひざまずいた。
「あなたが犯した末路です。これでもまだサンダーの跡取りを望みますか?」
僕の問いに答えてはくれなかった。
その代わり一度だけ首を左右に振り、両手で顔を覆った。
それが答えだった。
僕はこの報告をどうすればいいかを悩んだ。
すると丸さんが、決心したように話し出した。
「兄さん‥父さん‥爺ちゃんの能力は必ず取り戻す!‥‥勇気‥‥助けてくれ‥‥やっと本当の家族になれた!
バラバラだった俺の家族が一つになれた‥‥勇気‥‥お願いだ!もう一度‥‥一度だけでいいから家族としてやり直したい‥‥勇気‥‥頼む‥‥勇気‥‥頼む」
そう言って僕に向かって土下座をした。
いつの間にか丸さんの後ろで雷光さんと雷輝さんも土下座をしていた。
この光景に一番驚いていたのは僕ではなくお爺さんだった。
顔を上げ、目を見開き土下座をしている三人を呆然と見つめていた。
僕はそんなお爺さんに微笑みながら話した。
「雷さん‥‥家族って良いものですね。この家族にはあなたも入っています。抜けることは許されませんよ。雷さんの能力は必ず僕が取り戻します!
戸籍の件は僕が何とかします。少し時間がかかるかも知れませんか‥‥何とかします!
だから家族の絆を紡いで下さい」
そう言ってお爺さんの両手を一度だけ強く握って離した。
お爺さんはヨロヨロと立ち上がり、土下座をしている三人の側まで行って泣き崩れた。
口から漏れる言葉は謝罪と泣き声だけだった。
僕はそっと廊下に出て福田さんに電話を入れた。
「もしもし勇気です。福田さん、実は‥‥」
僕は丸山家で起こった事を全て話した。
もちろん翔の事も含めて全部。
福田さんなら法務省の人だしどうすればいいのか、法の抜け道を知っていると確信しての連絡だったが‥‥電話の向こうで怒オーラが見えるようだった。
「あの‥‥福田さん‥‥怒っていますよ‥‥ね?」
「はい!とても!勇気さん!どうして、いつもいつも後回しなのですか!そこに行く前に一言、連絡を入れて欲しかったです!」
「はい‥‥すみません。」
「勇気さんはご無事なのですね?」
「はい!どこも怪我などはしていません。福田さん!本当にすみませんでした」
「‥‥わかりました。勇気さんが無事なら結構です。後の事は私と国立に任してください」
「はい!お願いします!」
そう言って携帯に向かって頭を下げた。
見えなくても感謝の気持ちは伝わっている‥‥と思う。
その後の2人の動きは完璧だった。
後日、福田さんと国立さん、そして僕と慎吾さんで丸山家を訪れ事情聴取をした。
丸山家には家族が勢揃いしていた。
もちろん丸さんも含め全員。
その前に福田さん達とは話し合いをしいて、やるべきことは全て終わらしていた。
事情聴取と言う名の結果報告だった。
で!どうなったかと言うと、丸山雷さんは戸籍の改ざんで逮捕されるが当時のカルテを病院側が紛失してしまい証拠不十分で不起訴となった。
雷輝さん、雷光さん、雷影さんはいつの間にか丸山家に養子縁組みをしたことになっていて、雷影さんは雷さんの実子だったが、雷さんたっての希望で栗原夫妻からの養子縁組みとなった。
雷輝さんと雷光さんの生みの親への資金提供は仕送りと名前が変わっていた。
言葉って不思議だね。
しかし世界有数のトップ企業の逮捕劇は大きく報道されてもおかしくない大事件のはずが、そこは翔が力を貸してくれた。
と言うのも、翔は雷さんを襲ったあと資金繰りに困り東京近郊の非営利団体を襲ったようでしかも派手に爆破までやったので、警察も報道もそちらの事件にかかりきりとなった。
爆発事件の方が派手で紙面も良かったらしい。
笑いながらさやかさんが教えてくれた。
この時ばかりは翔に感謝したのは内緒だね。
「勇気さん‥‥何から何まで‥‥ありがとうございました」
「雷輝さん‥‥僕は何も‥‥間違えていることを間違えていると言っただけです。
ですが、お爺さんのサンダーは必ず取り戻します!あ!そうそう新しい名刺です」
僕は雷輝さんと堅い握手をして、改めて名刺を差し出した。
だってクシャクシャにしてゴミ箱行きだったのでね。
ところが雷輝さんは僕が差し出した新しい名刺を断ってポケットから綺麗に伸ばした名刺を取り出した。
そして少し照れたように話した。
「ここにあります。あの時は大変失礼しました」
そう言って頭を下げた。
僕は慌てて下げた頭を上げさせて、さり気なく胸ポケットに新しい名刺を差し入れた。
「雷輝さん!もう大丈夫ですよ。それよりよかったですね!一緒に暮らすことが出来ますね!」
僕がそう言うと、さらに雷輝さんは照れくさそうに微笑んだ。
一緒にと言うことは文字通り、丸さんが研究所の寮を出て実家から通う事にしたのだ。
少し遠いのだが、家族が家族として再出発するのに家族が欠けていては、との所長判断で実家から通う事に決まった。
丸さん自身も照れくさそうにみんなへ報告していた。
その照れ笑いが何となく今の雷輝さんに似ている。
血のつながりは無いけれど想いは血となり肉となり心と言う体になるのかも知れないそう強く想った。
それは夏真っ盛りの盆を迎える少し前の出来事だった。
僕たちは行き詰まっていた。
後手、後手に回る翔とのバトルに。
どうすることも出来ずにただ手をこまねいて見ている事しか出来なかった自分に。
苛立ちながら、蝉の声が僕を罵倒しているかのような錯覚にとらわれながら真吾さんの運転する車に乗り込んだ。
みんな考えていた‥‥どうするべきかを‥‥。




