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エンペラー  作者:
23/32

22話 眷属~けんぞく・血のつながりがあるもの又は従者~

 丸さんのお爺さんが狙われている!でも本当に狙われているかどうかは謎のままだったが。

 それでも‥‥それでも丸さんの家族が狙われているのなら何としても助けなければならない。

 そんな使命感も持って僕は出かけた。


 丸山邸はすぐにわかった。


 だって静かな住宅街にシンボルのような大きさで、絢爛豪華にそびえ建っているお屋敷だったからだ。

 これが人が暮らす家なのかと疑いたくなるほどの豪邸。

 それが丸山一族の住まう家だ。


 丸さんは勝手知ったる仕草で裏に回り、当たり前のように辿り着く勝手口。

 僕たちには辿り着く事は出来ない所に裏口が存在していたものだから驚くよね。

 丸さんは呼び鈴を鳴らさず携帯を鳴らした。

 すると勝手口が開いて中から初老の男性が出てきた。


 60代前半の中肉中背で長年仕えている執事らしい風貌をしていた。

 眼鏡の奥からの視線は厳しいモノがあったが丸さんを見つけると顔がほころんだ。


「雷影坊ちゃま‥‥お元気そうで何よりです」


 涙ぐみ僕たちに深々と頭を下げた。

 僕たちもつられて頭を下げた。

 そんな僕たちをしり目に丸さんが声を落として、目の前の執事さんだけに聞こえるように話をした。


「栗原さんこそ元気で何よりです‥‥で、爺ちゃんはいますか?ほかの人たちはどこにいますか?」


 と矢継ぎ早しに質問をした。

 すると執事の栗原さんは胸ポケットから携帯電話を取り出しスケジュールを見た。

 ひょっとして、栗原さんは僕が思っているより若い?だって完璧にスマートフォンを使いこなしていたから。

 ややあって丸さんの隣にいた僕にかろうじて聞こえるくらいの声で話し出した。


「雷光様とご主人様は会議の為に本社へ行かれております。まだ戻られておりません。

 奥様とひかり様は3日前からハワイへご旅行に行かれております。

 大旦那様は寝室にてお昼寝をされておりましたがお目覚めになり今はリビングにおられます」


 そう言って僕らをリビングに連れて行ってくれた。

 外観も絢爛豪華だったが内装も外観と負けず劣らず豪華。

 美術館で順路通りに絵画を見て回る気分になるほどの美術品に驚きつつも僕らはついていった。

 でも丸さんだけは違っていた。

 いつもは飄々として明るい丸さんなのに今は、僕が見たこと無いくらいの暗く沈んだ顔。

 リビングに到着して中に入るとそこには割腹のよい怖そうなお爺さんが杖をつきながら窓辺に立っていた。

 丸さんが近寄ろうと歩き出した瞬間、僕たちが入ってきたドアとは違う入口から中年の男性が入ってきた。


「何でお前がこの家にいる。入ることを許した覚えはないが‥‥」


「と、父さん‥‥‥」


 丸さんの顔が今にも泣きそうな表顔に変わった。

 今、入ってきた男性が父親だと思うが‥‥似ていない?

 丸さんはお爺さんにとてもよく似ているのに‥‥母親似?

 お父さんは50代後半でスラリと背も高く、インテリジェントな雰囲気をしていた。

 一方、お爺さんは一見怖そうにしか見えないが。

 皆に慕われ、頼りにされたそんな優しさを感じさせる雰囲気を持った人。

 どことなく丸さんに似ていた。

 父親にではなくお爺さん似?

 そんな父親の後ろからもう1人の声がして入ってきた。


「父さん。どうしたの?‥‥‥ら、雷影!」


「兄さん‥‥」


 もう1人の男は丸さんを見てとても驚いていた顔をしていた。

 丸さんは泣きそうな顔をさらに曇らせた。

 お兄さんと言うことはこの人が雷光さん?

 確か一卵性の双子だったはずなのに、この人とも似ていない!

 このお兄さんも父親には似ていない。

 この家族は丸さんとお爺さん以外、誰も似ていない‥‥この事が後に悲しき能力一統支配のほころびとなり悲劇が暴露されることとなる。


「兄さん‥‥」


「雷影‥‥」


 この場に居合わせた全員が、丸山親子が醸し出している悲しみと嫉妬とで息苦しさを感じ始めていた。

 そんな行き詰まる雰囲気を打ち破る出来事が起こった。

 お爺さんの後ろに広がる見事な夕焼けに黒いシミが見え始めた時。

 僕が「あれは何?」とその黒いシミに指をさしてみんなが注目したときだった。


 バリン!


 と天井まである大きな窓ガラスを割れる音が響いた。

 一番近くにいたお爺さんに駆け寄ろうとした瞬間、ガラスを割った犯人が誰よりも速く行動を起こした。


「勇気、遅いですよ」


 そう犯人は言わずもがなの翔だった。

 みんなが駆け寄るより速くお爺さんの額に左手を当てて叫んだ。


「奪う!」


 誰も止められなかった。

 お爺さんは目を見開き、ひざを突き、前のめりに倒れた。

 翔は僕を一瞥し口元に笑みを浮かべて割れた窓から飛んで逃げて行った。

 あっと言う間の出来ことに理解が出来ず、僕以外の人は誰も動けずに呆然としていた。

 僕は逃げた翔には目もくれず叫んだ。


「死なせない!」


 お爺さんに駆け寄り、仰向けにして心臓マッサージを始める。

 そして僕の声が起動スイッチボタンだったのか慎吾さんと杏と丸さんが動き出した。

 慎吾さんは逃げた翔の後を追い、杏と丸さんが僕に駆け寄ろうとしたので慌てて僕が指示を出した。


「杏!AEDを!丸さんは救急車を呼んでくたさい!」


「いや!微弱な電波なら俺が!」


「丸さん‥‥ではこことここに手を置いて電流を流して下さい。杏は救急車を!」


「わかった!」


「わかったわ!」


 そう言って杏は救急車を呼ぶために携帯電話をかけた。

 丸さんと僕はお爺さんの処置を始めた。

 普段、AEDのパットを張るところに手を置いて電流を流してみたが‥‥ダメだった。

 どうも丸さんの雷鼓では弱すぎたようだ。


「勇気!爺ちゃんが!勇気!」


「丸さん!落ち着いてください。だったら手を握り、ハンマーを振り下ろすように心臓付近を殴ってください。その時に電流を流して!」


「わかった!」


 早速してみると効果覿面。

 お爺さんの体は大きくバウンドして心臓が再起動した。

 僕はお爺さんの呼吸を確かめて、杏に救急車の事を聞こう顔を上げた。

 すると杏が困った顔をして僕の側にかけてきた。


「栗原さんが救急車を呼ばなくていいって?こちらに主治医がいるから呼ばなくていいんだって!でも‥‥」


「栗原さん!やはり救急車を呼んだ方がいいと思うのですが‥‥」


「勇気、杏。いいんだ。この近くに病院があって、何かあればそこから駆け付けてくれるようになっている。下手に救急車を呼ぶより速い。栗原さんそうですよね」


「はい、雷影坊ちゃま」


 そう言いながら栗原さんはテキパキと動き始めた。

 まずは数人の使用人たちと担架でお爺さんを寝室まで運んで割れた窓ガラスを片付けて修復作業を命じ。

 次にメイドたちに僕たちのお茶とケーキを用意するように指示を出し。

 丸さんの父親とお兄さんはお爺さんの寝室に消えた。

 もちろん執事の栗原さんも居なくなった。


 僕たちしかいなくなったリビングに慎吾さんが戻ってきた。


「慎吾さん!ナポレオンはどうなりましたか?」


「それがなぁ~‥‥どっちに行ったかは解ったのだが、どこに行ったのかがわからん。

 すまん!勇気!そっちは大丈夫だったかぁ?」


「はい、何とか息を吹き返しました。ですが、救急車を呼ばずに主治医の方を呼びました。どうも近くの病院にお勤めの方で救急車を呼ぶより早いそうです」


「そうかぁ。でも息を吹き返したのなら一安心だな。それじゃ~帰るかぁ!」


「ちょっと待って下さい。慎吾さん、能力が無くなった事をお爺さんとご家族の方に説明をしないといけませんし、それと気になることが‥‥」


 ガチャ


 入って来たのは丸さんの父親とお兄さん。

 開口一番、言った言葉は丸さんに対する怒りだった。


「雷影!お前は何をしている!どうせお前がまた何かしたのだろう!

 どうして、いつもいつも迷惑をかける!それに君達は何だね。関係のない人間は帰りたまえ!」


 父親はどう見ても上から目線で威圧的に僕たちを見て言った。

 でも僕には必死に何かを隠している気持ちが読み取れた。

 ただ丸さんに対する態度はいただけない、少しずつ僕の体に怒りが蓄積されて行くのが理解できた。

 慎吾さんが説明するべく前に出たのを僕が止めて、前に出た。


「すいません。紹介が遅れました。僕らは丸山雷影さんの同僚です」


 そう言って名刺を渡したらチラリと見て足元にあったゴミ箱に握りしめてから捨てた。


 この失礼な態度に杏と慎吾さんは丸さんの父親に掴みかからんばかりに飛び出そうとしていた。

 2人を止めるのに苦労していると、車椅子に乗ったお爺さんが戻って来た。

 何とか2人を静めて本来の目的である、お爺さんに会うを果たすことが出来たが‥‥意味合いが全く違うモノになってしまった。


 僕はお爺さんに近づきひざまずいた。

 傍から見れば僕はキリストに懺悔をしている修道僧か何かの様な格好をしていたと思う。

 まさしく僕の心は謝りたい気持ちでいっぱいいっぱいだったから間違いではないよね。


「お爺さん‥‥今なら僕の話を聞いてくれますか?と言っても遅かったですよね。もう少し早く来て説明すればこんな事にはならなかったかも知れません。本当にすいませんでした。実は‥‥」


 僕はそこまで話して、立ち上がり杏、慎吾さん、丸さん、丸さんの父親、お兄さんの顔を順番に見てその真ん中に一歩出て話を続けた。


「まずは丸さんのお父さんとお兄さんに謝ります。本当に申し訳ありませんでした。

 僕らがもう少し早く来て説明すれば手の打ちようもあったのに‥‥すいませんでした。そして、お爺さんに起こった事の説明ですが‥‥」


 僕はもう一度、お爺さんの前にひざまずき、目をしっかり見てからゆっくり話を続けた。


「お爺さん‥‥サンダーの能力は使えますか?」


「それが‥‥目が覚めると‥‥」


 お爺さんは恐れではなく不思議な顔をしていた。

 さすが年の功。

 能力が無くなったことには動じないらしい。


 僕はまたみんなの前に一歩出て話を続けた。


「今から話すことは国家機密です。無闇に話すことを禁じます。

 お爺さんの能力はコードネームナポレオンの特殊な能力エンペラーにより奪われました。

 僕たちがもう少し早く来ていたら奪われずに済んだのかも知れません。どちらにしても対策はたてられたはずです。本当にすいませんでした」


 するとお爺さんは能力を奪われた事より特殊な能力エンペラーと言う言葉に興味を持ったようだった。

 だって威厳のある厳しい顔立ちから、すがるような必死な形相に変わったからだ。

 僕は能力を無くし困惑しているお爺さんに安心してもらおうと話をした。


「エンペラーとは約100年前に実在した特殊能力で昔は皇帝と呼ばれていた能力です。でも安心して下さい。取られた能力は取り返します!僕が取り返します!」


「君が!‥‥どうやって?」


「実は‥‥僕もエンペラーの能力者です。安心して下さい。

 お爺さんの能力は僕が取り返します!能力が無いというのはとても不安なことです。ですが安心して下さい。100年に1人と言う珍しい能力ですが、僕もエンペラーの能力者です!必ず取り返します!」


 僕は繰り返し言って優しく微笑んだ。

 少しでも不安を抱えたお爺さんを和らげようと思って言ったこの言葉が、世界有数の株式会社丸山電工の暗部が浮き彫りになるとは思わなかった。


 突然お爺さんが立ち上がり何かを思い出したかのように話し始めた。


「エンペラー‥‥皇帝‥‥皇帝‥‥子どものころ母さんに聞いた事がある‥‥奪いそして与える能力‥‥!!

 それは私の能力をこの栗原に与える事が出来るのか?」


 始めは独り言のようにつぶやいていたのに突然、座っていた僕の胸ぐらを掴み引き寄せてからそう言った。

 僕は苦しくなってお爺さんの手をタップした。

 すると慌ててお爺さんが手を離してくれた。


「色んな制約と条件がありますが可能です」


「なら、これから生まれてくる私のひ孫に与える事は可能か?」


「はい、可能です‥‥が、ちょっと待ってください。

 能力を奪うときに奪われた方は心臓が止まります。そして与えられた方は、同じ能力なら吸収され、違う能力なら能力の優劣で弱い方が消えて無くなります。それもまだ確定した事ではありません。それに人道的・倫理的に誰彼、構わず行える事ではありません。ご了承下さい」


 そう僕は気が付いてしまった。

 お爺さんの言わんとしている事に!


 お爺さんは自分の能力サンダーをひ孫に与えようと考えている。

 そんなお爺さんに僕は釘を刺した。


「お爺さん‥‥僕はエンペラーの能力を使う時、必ず奪う人と与える人の過去や因果関係を視ます。

 僕はエンペラーとは別にトレースも保有しています。昔で言うところの産婆です。僕自身で納得してからエンペラーを使います。

 能力は人の命と同じす。誰彼、構わず命を奪うのは犯罪でしょう。

 僕は犯罪者になりたくはないし、利用されるだけの王様にもなりたくありません!」


 僕はそこまで言ってお爺さんの目を睨みつけた。

 するとお爺さんの後ろから、丸さんの父親が横やりを入れてきた。


「父さん、騙されてはいけません!

 あの雷影が連れてきた連中です。嘘偽りを並べ立て、私達から金を巻き上げようとする詐欺師です!

 だいたい私はエンペラーなんて言う能力は聞いた事がない!

 雷影!さっさと出て行け!お金を渡すからここから出て行きなさい!」


「父さん‥‥」


 と丸さんが声を振るわせ、俯いた姿を見たとき僕と杏は我慢の限界に達した。

 初めから丸さんに対して冷たい態度をとっていた父親。

 親子なのに‥‥血のつながった家族なのに!

 そんな父親に文句を言ってやろうと、僕と杏が一歩前に出た瞬間。

 地響きがするほどの大きな声に足と怒りが止まった。


「やめんか!雷輝!」


 丸さんの父親を一喝して下がらせたのはお爺さんだった。

 そして僕の方を向き、落ち着き払った声で話し始めた。


「過去をお話しすれば皇帝の力を使っていただけるのですか?」


「え!え~っと‥‥話さなくてもいいですよ。トレースの能力を使う許可さえいただければ大丈夫です。

 誰にでも話したくないことはありますし、話さなくても僕だけ知れればいいですから」


 そこまで話して、僕は丸さんの父親を見て話を続けた。


「人1人に能力1つが当たり前の事ですよね。ところがエンペラーはいくつもの能力を保有する事が出来ます。この事こそがエンペラーの能力の証明になりませんか?」


 僕は横のテーブルにあった紅茶を飲み干し、空であることを見せた。


「まずはウォーター」


 話しながら紅茶のカップを水で満たした。

 それをみんなに水が入っていることを見せてから。


「次にアイスです」


 カップの上を手で滑らし水を氷らせた。

 その光景はまるで手品師のようだったけれど能力を理解してもらうには打って付けだった。

 僕は氷ったカップをみんなに見せてからテーブルに戻した。

 もちろんカップの氷は水に戻して、そして丸さんの父親に向かってもう一度、同じ事を言った。


「人1人に能力1つが当たり前の事ですよね。ところがエンペラーはいくつもの能力を保有する事が出来ます。この事こそがエンペラーの能力の証明になりませんか?」


 今度は驚いて口開かない顔をしていた。


 そんな丸さんの父親はほっといて、お爺さんの前に戻った。

 車椅子の前にひざまずきお爺さんの顔を見てもう一度、丁寧に説明をした。

 エンペラーを使うならどうしても理解してもらいたかったからだ。


「僕にはもう一つ能力があります。サンダー系トレースです。

 トレースは目で能力を見て、手で過去を視る能力です。僕はまだこの能力を使いこなせていません。ですから、丸さんじゃなくて、雷影さんに磁力を遮断するこの眼鏡を開発してもらい、この手袋は僕にトレースをくれた方に頂いたものです。もちろん能力を遮断する素材で作ってあります」


 そして僕は眼鏡を少しだけズラして、お爺さんの後ろに立っていた栗原さんを見た。


「栗原さんはスカイのジェットだったのですね」


 その言葉に驚いたのは当の本人栗原さんで、お爺さんからは確認の会話をした。


「栗原、能力の事は話したのか?」


「いいえ話しておりません」


 僕はその言葉に満足し、さらに話を続けた。


「僕が手袋を外してお爺さんに触れば、お爺さんの過去を視る事が出来ます。

 お話しするのが嫌なら僕が視ましょうかぁ?」


 お爺さんは驚いた顔をしていた。

 それでも僕が気を使った事が嬉しかったようで優しく微笑んで頷いてくれた。


 僕も頷き手袋を外してお爺さんと握手をした。

 いつもは2、3分でせいぜいかかっても5分のはずが‥‥10分以上もかかってしまった。

 そしていつもより多い情報にフリーズした。

 さらに処理速度を上げるために目をつむりチョコを一粒食べて集中をアップして、何とか全てを視る事が出来たが‥‥僕は絶句した。

 立ち上がり丸山家の人々を見た。

 みな一様に下を向いていたけれど丸さんは何にもわかっていないようだった。

 きっと丸さんだけには何も教えていない‥‥そう思ったらなおのこと怒りがこみ上げてきた。


「あなた達は自分たちのプライドのために非人道的行為を行っている!

 金にものをいわせ能力一党支配をしている!」


 僕はワナワナと震えながら言い放った。

 丸さんにわからないように言葉を選んだつもりだが‥‥これ以上話すと傷つけかねない。

 僕は目を閉じ深呼吸してから話を続けた。


「雷影さんに全てを話して下さい。僕がエンペラーを使うかどうかはそれから決めます。拒否するのなら能力を使いません」


 そう言って手袋をしてから椅子に深く腰掛けた。

 腕を組み、お爺さんの顔をじっと見つめた。

 するとお爺さんが目配せをして丸さん以外の丸山家の人々が部屋を出て行った。

 ものの5分ほどで帰ってきた。

 でも明らかに3人、いや栗原さんを入れて4人の顔が先ほどとは違い厳しい色合いが濃かった。

 僕は口を真一文字に結び、何も言わなかった。


「‥‥全てを話します」


 お爺さんはそう言ったが丸さんの父親は不服そうな顔をしていた。


「ですが、父さん!本当に話すのですか?」


「黙りなさい!‥‥決めた事だ」


 その一言で親子の言い争いは終わった。

 そして僕は立ち上がり杏に近づいてそっと話をした。


「杏、盗聴器の電源を切ってくれないか。外に漏れてもいい話ではないんだ」


「え!‥‥あ!‥‥うん」


 杏はイヤリングを外して電源をオフにしようとしたとき丸さんがそれを止めた。


「杏、電源を消さないでいいよ。どうせ話すんだし」


「え!‥‥でも‥‥」


 杏は僕を見た。

 僕はどうしたものかと思い慎吾さんを見ると、慎吾さんは僕の気持ちをくんでくれて、さやかさんに電話をしてくれた。


「さやかか?話は聞こえていたな。他言無用だそうだ。

 え!‥‥わかった。杏ちゃんにそう言えばいいんだなぁ」


 そこまで言って通話を切って杏に向き直った。


「杏ちゃん、右ではなく左だそうだ」


「え!あ!はい」


 杏は慌ててイヤリングを両方外し、裏にあるボタンを左右と順番に押してまた耳にイヤリングをした。

 何の事がわからなかったが、今はそんな事を気にしているゆとりはなかった。


 あとから杏が教えてくれたことには、あれは右が無線で左が録音の機能があるイヤリングで右の無線が使えないとき用の保険が左の録音だったそうだ。

 右の無線を切って左の録音のスイッチを押した‥‥それがあの動作だったようだ。


 僕はお爺さんをしっかり見据えたまま話を促した。


「では‥‥全てを話してください」


 お爺さんは頷き、丸さんに向き直った。

 そしてゆっくり、ゆっくりと話し出した。


 能力に囚われ人道的に侵してはならない罪を犯してしまった一族。


 僕は悲しかった。


 家族なのに丸さんだけが何も知らされていなかったことに‥‥僕は悲しかった。



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