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エンペラー  作者:
20/32

19話 狐福~きつねふく・思いがけない幸運又は信じられない様な幸い~

 不思議なお客様を迎えてから2日後。

 扉の鍵となる人物が1人で訪ねてきた。


 確か重森さやかさんでキリリとした狐顔の美人さん。

 彼女の真の目的って何だろう?


「すいません。どなたか居られませんか?」


「はい‥‥あなたは‥‥」


「この間はありがとうございました。

 実は別の用件であなたとお話がしたくて来ました。時間はありますか?嶋村勇気さん」


 名指しされてしまった。

 ちょうど杏は自宅に帰省中で所長は予算会議に出席中のため出かけていた。

 僕が留守番役だったのだが、ちなみに副所長も丸さんも研究中の為にこの場にはいなかった。

 本当なら連絡して来てもらうのが適切な対応だった、だろうけれど‥‥僕には彼女がどうしても気になった。

 僕は重森さやかを応接室に案内して改めて用件を聞いた。


「僕に何の用があるのですか?」


「う~ん‥‥こちらも色々あるからニュースソースを教える訳にはいかないけれど。そうね‥‥とある人から、この研究所とあなたの名前を聞きました。

 調べて見ると、あなたの去年と今年の能力欄が違うのはなぜですか?それと、研究所の職員ならご存知かと思うのですが『皇帝』と言う能力を知っていますか?どんなに調べてもよく解らなくって‥‥あなたなら何かご存じかと思ったもので‥‥」


「えっ!~と‥‥“とある人”とは誰ですか?それと『皇帝』の能力なら知っています。古の能力で、すでに失われた能力です。古い文献などの中でしか存在しない能力ですよ。その『皇帝』がどうしたのですか?」


 お互い探り合いの会話が続いた。

 しびれを切らしたのは僕だった。

 どうも僕には策略やら腹の探り合いやらは無理みたい。

 本音でぶつかり話し合う方が僕の性格に合っているよね。


「探り合いの会話を止めませんか?重森さんは僕に何を聞き出したいのですか?」


「‥‥それもそうね。嶋村さん。私の過去を視てみますか?」


「え?!」


「私にあなたの情報を教えてくれた人も了承してくれると思うし‥‥説明も面倒くさいから。それにトレースがどんな風に過去を視るのかも気になるし。どうぞ」


 彼女は両手をテーブルの上に出した。

 僕は迷った。

 まさか自分から説明が面倒くさいので過去を視てと言う人は誰もいなかった。

 でも僕の事を話した人が気になるし‥‥人の口には戸は立てられぬ‥‥それでも僕の事を話した人が分かるならとの思いで視ることにした。

 この後、少しだけ後悔したのは内緒にしたい。


「では遠慮なく視させてもらいます」


 そう言って僕は手袋を外して重森さやかさんの両手に手を合わせた。

 物凄い情報量にめまいがして手を放した。

 トレースで過去を視るとどうなるのかとの質問だったが、それは手から電気信号を出して脳にある過去を視る。

 もっとわかりやすく言うなら‥‥パソコンとパソコンをコードで繋ぎデータをコピーする感じに似ている。

 僕の脳に、コピーされた相手の過去画像を保存して必要な箇所だけ再生する。

 パソコンやスマホで気軽に動画を見る感じで視ることが出来るが、情報量が多く処理速度が遅くなり僕自身がフリーズ状態になる。

 まさに今がその状態だよね。

 目を瞑り脳の処理速度を上げるためにチョコを一粒口に入れながら椅子に深く座り瞑想した。


 重森さやかさんの場合、僕に関連のあるキーワードでヒットした過去動画が多く混乱してしまった。

 僕はさらにしっかり目を閉じ、チョコをもう一粒食べた。

 何故、僕に関連のある動画が多いのか?

 彼女は何者でどんな人なのか?

 その答えを探すために処理速度を上げ、ゆっくり重森さやかさんの過去を視た。

 僕は目を開け、手袋をしてから、いつの間にか流れていた涙を無視して彼女を見た。


「すいません。電話をかけてもいいですか?」


「どうぞ。でも携帯、大丈夫?」


「大丈夫です。防水携帯です」


「あら~そうなのね」


 トゥルルル~トゥルルル~ガチャ


「慎吾さん‥‥勇気です‥‥すいません。

 今、重森さやかさんの過去を視ました。慎吾さんとあかねさんの了解もなしに大切な思い出を視ました‥‥すいません‥‥」


『勇気‥‥さやかがそっちにいるのかぁ!あいつ!あれほど先走るなと言ったのに!なんで俺の周りには先走るヤツが多いんだ!折を見て会わせつもりだったのに何でそこに居るんだよ!

 今からそっちに行くから、さやかにベラベラ喋らず静かに待っていろ!と伝えてくれ。

 それと勇気‥‥いつか話そうと思っていたから気にするな!じゃなぁ!』


 慌ただしく電話を切った慎吾さん。

 砂竹慎吾さんは警察を辞めて研究所に入り能力分布調査と称して翔の後を追ってもらっていた。

 研究所に入所したからには下の名前で呼ぶこと!と宣言されてしまい仲間になった。

 僕は本人の了解なしに大切な思い出を視てしまった‥‥慎吾さんは気にしないと言ってくれたので僕も気にしないことにするけれど、やはり少しだけ痛いよね。


 僕は袖口で涙を拭き重森さんに微笑んだ。

 すると重森さんが呵々大笑に笑いながら。


「アハハ!慎吾、声デカ!丸聞こえやちゅう~の!」


 と今も大笑いしている重森さん。

 ひとしきり笑った後に説明をしてくれた。


「私と慎吾は幼なじみでね。おじさんとおばさんが亡くなってからは私の両親が親代わりだったの。ショックだったわ‥‥とてもね。

 慎吾とあかねちゃんのご両親は暴力団の抗争に巻き込まれて亡くなったのよ。相手の幹部と間違われてね‥‥警察が犯人を捕まえても同じだったわ。

 だって暴力団だもの!捕まえたって意味ないわ!ハクがついて終わりよ。

 泣き寝入りするのは被害者よ!悔しい思いをするのは被害者よ!もちろん慎吾もあかねちゃんも私も泣いたわ!そして、慎吾とあかねちゃんは警察官となって暴力団と戦う事を選んで、私はジャーナリストを選んだの。ペンの力で戦う事にしたのね。コレが意外と効くのよ。これから先が面倒くさいのよ。視たのよね!だったら説明はいらないわね。じゃ~私、帰るわ」


「ちょっと待って下さい!重森さん!」


「あら!さやかでいいわよ♥私も勇気と呼ぶし。じゃ~ね♥」


 そう言って立ち上がりかけた。

 僕は正直言って驚いた。

 だってさやかさんの過去には、翔の情報が溢れていたからだ。

 すぐにでも確かめて所長や静香さんや福田さん達に知らせたい、でもその前に直接本人から説明を受けなければ理解に苦しむ!

 それくらいの情報量なのだ。

 僕は慌てて、さやかさんの手を取った。


「さやかさん!帰られたら困ります!確かに視ました。でも情報量が多くて混乱しています。勝又翔の情報だけでいいですから話をしてください。お願いします!」

 

「まぁ~仕方がないわね。どうせ慎吾を待たないと後で何を言われるかわかんないしね。話してあげるわ」


 そう言って座って話してくれた。

 少し高慢な感じもするけれど、美人は役得だね。


「では改めて話をすると‥‥私と砂竹兄弟とは幼なじみで、慎吾のおじさんとおばさんが亡くなってからは3兄弟として一緒に育ってきた仲なの。それと皇帝についてだけど‥‥実はあんまり分かっていないのよね。私の祖父が日記にそれらしい事を書かれていただけなの。ここまでは理解できた?」


「はい‥‥大丈夫です」


「じゃ、ここから本題ね!え~っと、2年前の話になるわ‥‥」


 そう言って核心部分を話しをしてくれた。



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