17話 諜報~ちょうほう・敵の様子を密かに探り知らせること~
いてもたってもいられない!
これ以上、犯行を食い止めたい気持ちと命を守りたい使命感で燃えていた。
僕は電車とタクシーを使って向かったが、車で熟知した道を走行した砂竹あかねさんとではお話にならないほど砂竹あかねさんの方が速かった。
ただ行き違いにならなかったのは彼女の兄にたいする想いがそうさせたのだと思う。
「嶋村勇気さん!良かった!会えた!補佐官がとても心配していましたよ。今すぐ電話しますね」
「ちょっと待った!電話はもう少し待って下さい。
今、国立さんに電話をしてしまうと砂竹慎吾さんを助けられなくなります。会議だ、何だと言っている暇は無いのに!ナポレオンはそんなに気の長い人ではありません。早くしないとお兄さんの命は‥‥兎に角、ここだけ調べさせてください。すぐ済みますから!お願いします!」
そう言って僕は頭を下げた。
「嶋村さん、わかりました。ここだけですよ。それと‥‥ありがとうございます。兄のためにそこまでしてくれて‥‥ありがとうございます」
僕は微笑んで砂竹あかねさんの肩を軽く叩いて倉庫群の中に入った。
そこは港町にあるレンタル倉庫で、同じような建物が並んでいる場所。
「嶋村さん、思い当たる場所があるのですか?」
「多分、お兄さんを監禁するには水が必要です。シャワーが動いている倉庫があるはずなのですが‥‥」
「でもウォーターの能力者ならシャワーは使わなくても兄を監禁する事は出来ると思うのですが。
それに私は複数犯だと思います。ここは応援を呼んだ方がいいのでは?」
「いいえ、おそらく単独犯です。ナポレオンは1人で砂竹慎吾さんをシャワー室に監禁していると思います。兎に角、水道のメーターが動いている倉庫を探して下さい」
「はい‥‥わかりました‥‥」
かなり不思議そうな顔をしていたがそれでも僕の気迫に負けて一緒に探してくれた。
「嶋村さん、ここメーターが動いています」
「本当ですね‥‥入ってみましょう」
「私の後ろからついてきてください」
「‥‥はい」
僕は砂竹あかねさんの後ろから中に入った。
僕らが入った場所は倉庫ではなく、今は使われてはいない食品の加工所だった。
入口は工事用のフェンスで閉ざしてあったが簡単に中にはいれたが、入ってみると水の流れる音と人の喋る声が聞こえてきた。
「いい加減、話してもらえませんか?そうしないと水槽に水がいっぱいになりますよ。
砂竹慎吾さん‥‥あなたは僕をどこまで調べたのですか?手帳には僕の事やエンペラーの事も書いてありませんでしたよ。な・の・に!あなたは僕が住んでいるところに現れた。早く話して下さい。僕はあなたをまだ殺したくありません。さぁ‥‥」
まさに尋問の真っ最中。
魚を入れる大きな水槽に砂竹慎吾さんらしき男の人が寝かされていて、頭から蛇口の水がかかっていた。
しかも水槽にはほぼ水が入っている状態で鼻と口だけが水槽から出ているありさまだった。
今にも飛び込んで行きそうな砂竹あかねさんを話が出来るところまで連れて行き作戦を伝えた。
「僕が裏から回ります。合図を送りますから砂竹あかねさんは中に飛び込んでナポレオンの注意を引きつけて下さい。くれぐれも無茶なことはしないでください。
詳しい説明は後からにしますから、今は僕の言うとおりにしてください。お願いします」
そう言って返事も聞かず、裏に回った。
水槽が置かれている場所は、ベランダに面した棚の上にあった。
窓硝子は割れていたので、ナポレオンに気づかれる事なく、外から水槽に近づけそうだった。
ただここから1階のベランダに行くのに骨が折れそうだ。
でも僕は何とかベランダに入り砂竹あかねさんに視線を送った。
目で合図をして砂竹あかねさんが飛び込むのと同時に水槽のベランダ側の硝子を割った。
バタン!
「手を挙げて大人しくしなさい!」
「おや?警察ですか?よくここがわかりましたね?」
「警察を甘くみないで!」
話している間に僕は水槽の正面から分からないところを割り中の水を外に流した。
さらにウォーターの能力でナポレオンの見える側だけに水を流した。
僕は小声で話し出した。
「砂竹慎吾さんですね。これから縄を解きます。砂竹さんを乾かし終えたら、砂竹あかねさんを連れて逃げて下さい。これが終われば全てお話します。僕は‥‥」
と言いかけて名乗るのを止めた。
グズグズしていると砂竹あかねさんの命が危ないからだ。
どうも砂竹あかねさんは純粋なファイアー人のようだ。
引き延ばすのがヘタ過ぎる。
もう話が尽きそうだ。
僕は砂竹慎吾さんの確認もせずに縄を解いて手袋を外し、服を乾かした。
服を乾かすなどの細やかな作業をするときは、どうしても手のひらで行わないとうまく行かないからだ。
僕が能力を完璧に使い慣れていれば、もしくは砂竹慎吾さんに詳しく説明していれば違った結末になっていたかもしれないのに!
何とか話が尽きる前に作業を終えたが‥‥砂竹慎吾さんに手袋を奪われてしまった。
『あ!』と思った時にはすでに遅く砂竹慎吾さんは砂となり翔と砂竹あかねさんの間に立っていた。
今度は僕が大声で叫びながら飛び出した。
あ~も!僕はただ守りたかっただけなのに!
この時はど人に理解してもらえる難しさを知ったよ。
「翔!お前の欲しがっている情報は僕が持っている!」
「勇気!いたのか!」
飛び出してみると僕と翔と砂竹あかねさんとで二等辺三角形の形をなしていた。
砂竹慎吾さんは目測を誤り僕らの三角形の中に立っていた。
翔は僕を攻撃して来ると考え、氷の刃でナポレオンの首もとを狙った。
静香さんに言われていたのだ。
『本気で人を止めたいのなら致命傷を与えなさい。そうすれば足は止まりますよ』と。
ところが間一髪でかわされてしまった。
「勇気!そうくると思った!」
その通りだった。
翔は僕を狙わずに砂竹あかねさんを炎の玉で攻撃したのだ。
彼は不適な笑みを浮かべて高らかに話した。
「勇気の大切な仲間が死にましたよ」
「それはどうかあなぁ?あかねさん!大丈夫ですか?」
「私なら平気です!」
そう言って炎の壁越しに砂竹あかねさんが出てきた。
彼女の服が所々、焦げていたのはご愛嬌。
本人はにんまりとご満悦だった。
「翔!君の敗因は情報力不足ですよ。さぁ!大人しくして‥‥」
「ちぇ!仕方ない!マグニチュード9!」
彼は自分が不利だと考えアースの能力を使い地面を割った。
「きゃー!お兄!」
「あかね!」
「アイスフィールド!」
僕は揺れている地面に両手をついて氷の床を出した。
ちょうど揺れている地面に蓋をした感じになった。
僕らがアタフタしている間に翔は悪役に、お決まりのセリフを言ってスカイの能力で飛んで行った。
「仕方がないですね。今日引き上げます。勇気‥‥覚えていろよ!」
「お決まりのセリフを言うなんて悪役みたいですよ!」
「あはは!ではお元気で!」
そう言ってジェットのスピードであっという間に姿が見えなくなった。
地面の揺れは納まったのでアイスフィールドを溶かした。
そして国立さんに連絡をする、前に砂竹兄弟に話をするために向いた。
「砂竹慎吾さんですね。初めまして嶋村勇気です。すいませんが手袋を返して下さい」
「‥‥どうぞ‥‥」
と素直に返してくれるかと思ってホッとしたのが甘かった。
砂竹慎吾さんは腐っても警察官だった。
彼が左手に僕の手袋を持っていたので何も考えず右手で受け取ったがその手を取られ逆手に回し、僕はあっという間に身動きがとれなくなった。
しかも痛い!
タップ!タップ!
「あかね!手錠だ!嶋村勇気が今回の犯人かそれに近い人物だ!」
「お兄!違うの!嶋村さんが独断で動いてくれなかったらお兄はヤバかったの!
この人は違うの、放してあげて!」
「あかね‥‥え?」
この砂竹あかねさんの言葉が効いたのか、僕を縛っていた手が緩んだ。
その隙に砂竹慎吾さんの手から逃れ無事、手袋をする事が出来た。
でも眼光鋭く痛いくらいに僕を睨んでいた。
完全に僕のことを疑っている目だった。
僕はあきらめてある程度、話すことにしたが‥‥怒られるのは僕だ!ここは我慢だね。
「あまり時間がありませんから‥‥僕がこれから言うことに対する質問は受け付けません」
そう前置きをして話した。
ただ全てではなく、個人情報は話さなかった。
でも砂竹兄弟なら全て突き止めそうだけどね。
「理解できましたか?
まぁ~信じてもらえないのは無理ないと思います。でも僕の能力はエンペラーだし、砂竹慎吾さんを誘拐したのは翔ことナポレオンです。彼もまたエンペラーです。100年に1人のエンペラーなのですが何故かこの時代に2人いる‥‥どういう意味なのでしょうね。ちなみにこの事は国家機密です。マスコミにリークしても笑われるだけですよ。その前に警視官たちがつぶしにくるかも?‥‥です。他言無用でお願いします」
僕はここまで一気に話し、2人の顔を見た。
兄の砂竹慎吾さんの方はニヤリとしていて、妹の砂竹あかねさんの方は口を開けてポカンとしていた。
妹のあかねさんは本当にファイアーの人で、お兄さんの慎吾さんは『ほら!俺が言った通りだったろう』としたり顔をした。
僕は砂竹慎吾さんの方を向き率直な感想を話した。
「砂竹慎吾さん‥‥あなたは凄い人ですね。あれだけの情報収集とカン働きは賞賛に値します。僕の事が知りたければ能力開発研究所にきてください。僕の知っている事なら全てお話しますですが‥‥協力してください!
ナポレオンが何処にいて何を企んでいるのか教えてくれませんか?その‥‥断片的な情報だけでもかまいません。僕だけに教えて下さい!
僕はナポレオンを止めたい。もう止めるなんて甘い事は出来ないかも知れませんが、それでも僕は‥‥ナポレオンはもう1人の嶋村勇気何です。僕だって一歩間違えば彼のようになってもおかしくなかった。でも僕には助けてくれる仲間がいました。翔には‥‥ナポレオンには、始め同じ能力者である僕を仲間に誘いましたがそれを僕が蹴ってしまった。だって、僕にはすでに大切な仲間と僕の事を心配してくれる家族がいました。それらを置いてナポレオンの所に行くわけにはいきません。僕はどうすればよかったのですかね‥‥。ナポレオンはこれから珍しい能力者を狙うと思います。何か知りませんか?」
「その根拠は?」
「ファイアー・ウォーター・スカイ・アースと基本的能力を手に入れているからです。残るはサンダーですが、実はサンダー雷神の保有者は珍しい分類に入ります。ですので、サンダーを視野に入れつつ珍しい能力者の所にナポレオンが現れると僕は考えています」
「ナポレオンと会ってどうする?」
「捕まえます!」
「殺さずかぁ?」
「はい!」
僕は真っ直ぐ砂竹慎吾さんの目を見て言った。
そんな僕の真剣な眼差しに砂竹慎吾さんは微笑んで話した。
「そうかぁ!殺さないのかぁ!捕まえるのかぁ!
‥‥わかった、協力しょう。俺に任せておけ!情報や調べものなら全て俺に言え!何でも調べてやる!」
そう言ってニコッと笑って左の手のひらを顔の横に出した。
ハイタッチの要求だった。
もちろん僕は右手で勢いよく叩いた。
パチン!
叩いた音が大きく鳴り響いた。
それから笑いあった。
そしておもむろに砂竹あかねさんを見て重大決心を話し出した。
「あかね!俺は刑事を辞める!そもそも俺には縦社会は無理だった。
あかね‥‥おやじとおふくろは犯罪者に殺された。その恨みから刑事になった。犯罪者を捕まえ真相を暴いたが、俺たちの恨みは晴れたのか?俺は哀しくなるばかりだった。悲しみは俺の中に積もっていき耐えきれねぇよ。俺は勇気のいる研究所に行くよ。そこで一つ一つ哀しみに向き合い俺なりの答えを出す!
捜査に行き詰まったらアドバイスぐらいならしてやるぞ!」
「もう!お兄!‥‥仕方ないなぁ~。一度決めたら梃子でも動かないんだもん‥‥仕方ないわね」
そう言って笑った。
その後、砂竹あかねさんは花村課長に電話をした。
そして僕は国立さんに電話をした。
もちろん2人とも怒られた。
でも砂竹慎吾さんが無事だった事で命令違反は免れたようだ。
一応大事をとって砂竹慎吾さんは病院に入院し僕は自分の容疑を晴らし研究所に戻った。
もちろん杏や所長にも怒られた。
麗郷さんの言っていた気をつけるべきファイアーは砂竹あかねさんの事だったと思う。
僕を捕まえた人だしね。
ファイアー系は猪突猛進で思い込んだら一直線‥‥でも他人のために一生懸命になれつる人。
今回の事も含め情報はすべてを制する大切なセクションだと強く感じた。
僕には情報収集や解析・考査・決断エトセトラ‥‥足りないものばかりだ。
まぁ~僕には補えてあまりあるだけの仲間がいるから心強いのだけれどね!
ありがたいね。
でも僕は僕で強くならなければいけない‥‥そう感じた。
もうすぐそこに蝉の大合唱が聞こえ始めていた。
夏がやってきた!