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エンペラー  作者:
13/32

12話 隔離~かくり・へだてることへだて離すこと~

 2年前も歩いた道のり。

 何も変わらない道のりなんだけれど、何もかも違って見える。

 能力があって嬉しくて違って見えるのか?

 2週間ぶりの研究所に帰れる喜びに嬉しいのか?

 分からないけれど僕は嬉しかった。


 僕と杏は研究所に戻る前に所長に連絡を入れたが、忙しいようで電話はとってもらえなかった。

 仕方なしにお土産持参で研究所の帰路についた。


 夕暮れが空を赤く染め家路を急ぐ人達の影が伸び始める頃、僕は自分の居場所に帰ってこられる喜びに胸がいっぱいになっていた。

 しかしそこで待っていたのは‥‥。


「勇気、やっと着いたね」


「うん!何だか凄く嬉しい!」


「何で!たかが帰ってきたぐらいで?」


 そんな話をしながら入り口の戸を開けた。

 そこにいたのは竹井満子さんだった。


 彼女は所長と2人でこの研究所を設立した人で副所長を勤めている。

 気さくで明るい人で普段は研究開発の責任者をしている。

 サンダーの雷神で人望も厚い。

 所長がお父さんなら副所長はお母さんの役割をしている。

 でも副所長と呼ばれる事を嫌い、竹井さんか〝みっちゃん〟と呼ばせていた。

 その竹井さんが困った顔をして立っていた。


「竹井さん!ただいまです!」


「杏ちゃんおかえり。勇気は?」


「ただいまです。僕に用ですか?」


「えっ~と‥‥勇気‥‥気を悪くしないで聞いてほしいのだけれど‥‥みんなあなたのことが怖いの、わかってあげて。

 外から鍵がかかる資料室を勇気の部屋にしてほしいの。‥‥みんな見ていたのよ‥‥杏を助けようとしてあの犯人に勇気がしたことを‥‥ね」


「ちょっと!竹井さんどうして?勇気は私を助けようとしただけなのに!」


「杏ちゃんだって化け物と言っていたじゃない」


「私そんな事は言っていないわ!言ったかもしれないけれど、でも今は平気よ!なのに‥‥みんな酷い!勇気は‥‥勇気は‥‥」


「杏。僕なら平気だよ。竹井さん、わかりました。僕の荷物は‥‥」


「ごめんなさい。勝手に入らしてもらったわ。荷物は全て入れてあるから‥‥ごめんなさいね」


「いいえ、大丈夫です。大丈夫です。ほんの2年前までは似たような部屋に居ましたから。ただ鍵は無かったですけど。

 あ!資料室と言うことは‥‥本の読み放題!でもトイレはどうしょうかなぁ?」


「も!勇気!なにを暢気な事を言っているの!あなたを閉じ込めようとしているのよ!」


「杏、大丈夫だって。僕はね信じているんだ。能力が無かった僕を家族だと、仲間だと、言ってくれた人達を信じる。

 そうだ!杏!お腹ペコペコだから日替わり定食を僕の新しい部屋まで持ってきてね!あとお茶も、忘れずに!」


 僕は所長室の隣部屋にある資料室へ歩いていった。

 その後ろで杏がまだ文句を言っていた。

 今度は僕にね。


 翔の言うとおり皇帝は独りなのかもしれない‥‥と少し前の僕ならそう思ってしまっていただろう。

 でも今の僕は違う。

 何とかして所長に連絡をとってみんなと話をすればわかってもらえる。

 そう信じている、自分がいた。

 僕も変われば変われるものだね。


「アハハハ!どうしょう。僕はそんなに落ち込んでないやぁ!あ!コレは!『能力目録』能力の全てが網羅されている書物。悪用されることを怖れ発禁本になった本だ。所長しか読む事が許されていない本だ!所長が戻るまでなら読んでも構わないよね」


 誰もいない部屋なのに、思わず誰かに言い訳をするかのようなことを言ってしまった。

 僕が一心不乱に本を読んでいる間に杏と丸さんと所長が竹井さん達と話し合いをしていた。


「竹井さん。ただいま戻りました。勇気くんの事について‥‥」


「あ!所長!聞いてください!竹井さんが勇気を閉じ込めたの!何とかしてください!今、丸さんと私で竹井さん達を何とか説明していたのですが私しか詳しく知らなくて‥‥私では無理です!」


「杏くん!それは本当ですか?竹井さんはどこにいるのですか?私が話します」


「食堂にみんな集まっています」


「わかった。すぐに行くこう!」


 食堂に行くと竹井さんを筆頭に主だった人がいた。

 2つに別れたテーブルをはさんで丸さんVS竹井さんで戦々恐々と睨み合いをしていた。

 そこに杏と所長が入ってバトルが始まった。

 もとい話し合いが始まった。


「所長!ダメですわぁ~。俺でさえ勇気の能力についてはよくわからんし‥‥でも閉じ込めると言うのは勇気の能力とは別のことでしょう!」


「私もそう思う!」


「杏ちゃんや丸の言っている事の方が理解できない。確かに私も閉じ込めるのはどうかと思うけど、正直言ってあの光景はゾッとしたわね」


「まぁ~落ち着きなさい。皆も落ち着いてほしい。ここで勇気くんに直接、説明してもらったらどうだ?」


「でも何かあってからでは遅いと思うの。どんな能力なのかもわからないのに‥‥私たちはどうすればいいの」


「竹井さん!勇気くんは怪物でも化け物でもない!1人の人間だよ。ただ少し、他とは違う能力があるだけじゃないかぁ。特殊な能力がある者などここにはたくさんいると思うが‥‥ちがうかなぁ?

 これまでは特殊な能力者がいる場合、研究開発班が調べて対策を話し合ってきたのに、なぜ勇気くんだけそれをしない!彼は特別でも何でもない!この2年間の勇気くんを一番知っているのは私なんかより君達だと思う。

 改めて聞くが勇気くんは誰彼かまわず能力を振り回す人か?勇気くんは言っていたよ。能力があるって大変だと‥‥私は皆に頼みたい。どうか勇気くんを助けてほしい。今こそ皆の力が必要なときだと思う。だからお願いだ、助けてほしい」


 そう言って所長は立ち上がり頭を下げた。

 食堂にいる全ての人が唖然とした。

 普段あまり喋らずニコニコと静に話す所長が熱くそして力強く話しをしていたらしい。


 そのころ僕は『能力目録』を読みふけっていた。

 そこに杏と竹井さんが扉を開けてくれた。


「勇気!」


「え!!杏?」


 突然、扉が開き僕は思わず本を落としてしまった。

 慌てて棚に直すが時すでに遅し。


「勇気!その本は‥‥」


「すいません!竹井さん。所長が戻るまでなら‥‥誘惑に負けました。すいません」


「まぁ~いいわ。今はそれどころではないの。いいから来て」


「はい‥‥杏、所長は戻ってきたの?」


「うん。戻ってきて‥‥」


 簡単に説明してくれた。

 所長は僕の知らないところで僕を守ってくれていた。

 ひょっとしたら静香さんと当麻さんとのことで所長はいろんな人と闘っていたのかもしれない。

 これが本当の強さだと思った。


 食堂に行ってみると、恐怖に満ちた目をした人が半分で困惑しきってキョロキョロと見回している人が半分といったところだった。

 ちなみに竹井さんは困惑していたがキョロキョロはしていなかった。

 所長が僕の所に来てみんなの態度に謝罪してくれた。


「勇気くん‥‥すまない。まさか資料室に閉じ込めているだなんて思わなくて本当にすまない。私がもう少し早く帰宅していれば、こんな事にはならなかったのに‥‥すまない」


 所長は頭を下げた。

 僕は慌てて頭を下げている所長を起こして話をした。


「所長、やめてください。僕なら大丈夫です。大丈夫です。全然平気です」


 そう言ってニッコリと笑ってみた。

 杏は憤怒の顔をしていた。

 まったく、美人が台無しだよ。

 そんな事を思いながらみんなと対人する側のテーブルに着いた。

 僕はゆっくりみんなを見回して微笑んでみた。

 笑顔は恐怖を溶かす魔法だからね。

 杏と所長も含め全ての人がキョトン顔になっていたが僕は以外にも平常心で話し出せた。


「杏も所長も丸さんも、仕方ないよ。怖いものは怖いよ。僕自身だって怖いもん。ただ僕が入院中に妹と父さんに教えてもらったことがあります。

 妹からは、能力で人を傷つけてはいけないことと能力を誇示しないこと。それに僕の能力は珍しいからみせびらかしてもいけないことを教えてもらっいました。

 父さんからは、逃げるな!信念を貫け!そして人にたいして優しくなりなさい、その優しさが強さになるからと教えてもらいました。

 僕は全ての人を守れるほどの強さが欲しい。能力が無かった僕に優しくしてくれたみんなを守りたい。みんなを守るには力が欲しいし強くなりたい。だから僕は優しくなりたい。‥‥みんなが僕の事が怖いと思っているのなら僕はどこにでも行くよ。それでもまだ怖いなら、研究所から出ていっても構わない」


 そこまで話したとき杏の顔が蒼白になっていた。

 まさに言葉が出てこない状態だった。

 言葉が出てこない状態は杏だけではなく食堂にいる人、全てだった。

 沈黙の中、話し出したのは竹井さんだった。


「ちょっと待ってよ!勇気!誰もあなたを追い出そうとはしていないわ。そんな悪者みたいに言わないで!」


「アハハハ~すいません。そんなつもりは無かったのですが、気を悪くしたのならすいません。ただ僕はみんなが怖がるのは当たり前で、僕自身でさえわからない能力だから‥‥そうかぁ!今わかっているエンペラーの能力を説明します。え~と‥‥」


「ぷっーぷっぷっ‥‥アハハハ!勇気!今の所は怒る場面だと思うわ。私達はあなたを閉じ込めようとしたのよ。何で怒らないの?」


「それもそうですね。怒る事は考えた事、無かったです。ただ資料室に居たとき落ち込んでいない自分が居ました。今、思うと僕は強くなっていたんですね。能力の有るなしではなく、僕1人ではないという思いが僕を強くしたのかもしれません。

 話せばわかってもらえるし、所長や杏や丸さんもいるから大丈夫だろうと楽観視していました。たとえ研究所を出たとしても近くに部屋を借りればすむことだし、そう難しく考えていませんでした。それに資料室は思いのほかすごしやすかったですよ。何と言っても本が読み放題!こんな素晴らしい場所はないですね。出来ることならこのまま資料室を僕の自室にしてはダメ‥‥ですかぁ?」


 僕は場の空気を考えずに何とかして資料室を自室!との思いに口走ってしまった。

 するとまた竹井さんが大笑いした後、みんなの方を向き直りよく通る声で話し出した。


「みんな!私達が間違っていたみたい。でもわからない事は怖いわ。

 そこで提案!勇気の能力、エンペラーの研究が終わるまで資料室を勇気の自室とする。もちろん資料室には大切な文献や書物もたくさんあるから鍵をかけない訳にはいかないわ。そこで内側からも同じ鍵をかけられるようにして、その鍵は勇気にもっていてもらう。今までと変わらないわ。

 所長の言う通り勇気は勇気ね。私達の知っている勇気だわ。能力の有るなしに関わらずあなたはあなたね」


 納得したように何度も言ってテーブルを挟んだ僕の肩をバンバン叩いた。

 いつもの明るい竹井さんだった。

 豪快で優しい、研究所のお母さんの顔に戻っていた。

 それを皮きりにみんなの僕に対する視線が変わった。


 結局、資料室に内鍵を付けて僕の部屋とした。

 それからエンペラーについて竹井さん率いる開発班と一緒に調べることとなった。

 そこから分かった事がいくつかある。


 1つは、いくつもの能力を保有する事ができること。

 でも能力どうしの融合は出来ないようだ。

『能力目録』にそう記載されていた。


 さらにもう1つ、能力を与える時に気を付けなければならないことがある。

 僕の中に同じ能力があった場合に『○○に○○から○○を与える』と言わないといけないようだ。

 用は同じ能力でも違う能力でも僕自身が整理した能力タグを口にして言ったほうが確実に能力の受け渡しで出来るようだ。


 ここでわからない事も出てきた。

 杏に当麻さんのファイアーを与えたときは杏が持っていたファイアー蝋燭と当麻さんの劫火は蝋燭が劫火に吸収された形になったと思う。

 同種の能力なら強い方に吸収される?

 だったら違う種類の能力の場合は?

 などと掘り下げれば下げるほどわからなくなることばかりだった。


 普段は能力の研究や開発は周りに迷惑がかからないように別棟があり。

 実験や開発が出来るような大掛かりな施設が隣接しているのだが、僕の能力エンペラーはみんなに理解してほしいがために食堂のホワイトボードに資料を持ち込み、僕を含めみんなで研究していた。


 それと同時に僕のウォーター訓練も始めたかったのだが研究所にウォーターの豪雨は誰も居らず結局、静香さんに習いに行くことにした。


 静香さんと当麻さんは拘置所から刑務所に移っていた。

 何だか嬉しくてワクワクしている自分がいた。


「静香さん、すいません。意外に誰もウォーターの人がいなくて。そもそも研究所には能力の低い人や特殊な人が多くて、ポピュラーなスカイやファイアーやウォーターの人が極端に少なかったので‥‥すいません」


「アハハハ!私は構いませんよ。勇気のお役にたてるのなら喜んで。そうそう当麻も会いたがっていましたよ」


「当麻さんと同室になれたのですか!」


「はい。他の受刑者と同じですが私と当麻は同じ刑務所の同室です。私達は能力が無いから一緒に出来たのでしょう」


「でも‥‥大丈夫なのですか?」


「ふふふ‥‥誰にものを言っているのです。私と当麻が2人いて、能力に頼った人達など相手になりませんね。そんな事より勇気。体は鍛えていますか?」


「はい!とりあえず毎朝、走っています」


「走るのは良いことですよ。心肺機能を上げますからね。ではまず当麻から言われた服を乾かす‥‥と言うより物に含まれる水分の調整から教えましょう」


「はい!よろしくお願いします!」


 僕は国立さんに連絡をして、静香さんからウォーターを奪った部屋でサンダーの能力3人に囲まれながら教えてもらっていた。

 窓の無い殺伐とした風景の中で和気あいあいとした雰囲気があった。


 1ヶ月かけてやっとの事で静香さんから卒業と言われた。

 予想通りのスパルタでした。

 静香さん塾に通う間に国立さんから聞いた話によると、静香さんと当麻さんの怖さと凄さを垣間見てしまった。

 静香さんと当麻さんはあっという間に刑務所内の受刑者を掌握してしまい監修さえ手懐けてしまったようだ。

 刑務所内は概ね平和?みたい。

 国立さんもすっかり静香さん贔屓となっていた。

 本当のカリスマは静香さんみたいな人の事を言うのだと思った。

 静香さん塾に通っている間に黒服の人が一人減り、二人減り、三人減り、していき4日目には静香さんしかいない始末。

 そのおかげでいろんな話や能力の使い方に体の鍛え方など、学べることが出来たのは僕にっとって僥倖だった。


 僕にとって初めての先生と言える人。

 他愛ない話や研究所での出来事を楽しそうに聞いてくれる人。

 無茶をして怒ってくれる人。

 呼び捨てやため口をしてくれる人達。


 本当に僕は幸せですね。


 これからどんな大変なことが‥‥起こるの?‥‥起こらないよね!

 そんな風に安寧としてしまった。

 そんなときに限って問題が発生する。

 まさにテンプレだね。



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