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エンペラー  作者:
12/32

11話 合一~ごういつ・二つ以上の合わさって一つになること~

 国立さんと静香さん僕で杏が待っている部屋に入った。


 静香さんは手錠をされ、腰にロープをして僕の半歩後ろを歩いていた。

 一番後ろに国立さん一人がついて来ていた。

 杏のいる場所は比較的近い場所にある部屋で窓もありフカフカの黒い革張りのソファーが鎮座していた。

 そこに落ち着きのない杏の姿があった。

 僕ら入ると杏が飛んできた。


「勇気!大丈夫だった?どこも怪我してない?」


「杏、大丈夫だよ。ありがとう」


「うん!」


 杏の笑顔を見て安堵している自分がいた。

 その代わり杏の目には光るものがあった。

 あまり心配をさせてはいけないなぁ‥‥ごめん、杏。

 杏は繋がれている静香さんを見つけると顔が曇った。

 そんな杏に静香さんが微笑みながら楽しそうに話をした。


「知花杏さんですね。落ち着いてお話しするのは初めてですね。鎌田静香です。あなたのことは当麻から聞いていますよ。内弁慶で能力が低い事をとても気にしていると。当麻が心配していたのを覚えています。もう少し活発に外に出てほしいとも言っていましたね」


「私も初めまして知花杏です。も~お兄ちゃんたら!私のことをどんな風に話しをしたの!

 それに今はもう能力が低い事は何とも思っていません。そんなことより鎌田さん!当麻兄さんが言っていました。鎌田さんに救われたと‥‥ありがとうございます。鎌田さんがいなかったらお兄ちゃんはどうなっていてかと思うと‥‥」


「知花さん。泣かないで下さい。私の方こそ当麻には助けられました。そして今、勇気にも助けてもらいました。私は確かに家族を奪われましたが林田当麻と言う相棒をえました。さらに今、私に教えを請いたいと言う者も現れました。

 人生と言う者は面白いですね。妹が死んだ時に私も死んだと思っていたのですが‥‥私のウォーターを勇気にあげたとき私は生まれ変わったように感じました。もちろん私の罪は消えた訳ではありません。罪を見つめ直し勇気のお役にたてれば幸いですが‥‥どうでしょうね?」


「鎌田さん‥‥」


「下の名前で呼んでください。ついでに私のことも兄と思ってもいいですよ」


「え!いいのですか!凄く嬉しいです。静香兄さん!」


「いいですね‥‥」


 そう言いながら静香さんが涙を流した。

 僕は急いでハンカチを差し出した。

 僕を確認してハンカチを受け取り、涙を拭いた。

 静香さんは恥ずかしそうに微笑みながら涙の真相を教えてくれた。


「いけませんね。思い出してしまいましたよ。

 妹も生きていると知花さんのような方になっていたと思うと‥‥知花さんありがとうございます」


「私が静香兄さんと呼んでいるのですから私のことも杏と呼んでください。静香お兄ちゃん!」


「アハハハ!かないませんね!勇気と‥‥杏には負けましたよ」


 そう言いながら静香さんが杏を抱きしめた。

 え?抱きしめた?手錠は‥‥と思い国立さんを見ると、ハンカチで目頭を押さえながら手錠を持っていた。

 僕の目線に気がついてウィンクをしてくれた。

 国立さんは静香さんのことをそして僕のことを信じてくれた。

 僕はなんだか嬉しくなって杏を後ろから静香さんごと抱きしめた。

 静香さんと僕とで杏をサンドした形になった。

 すると杏がもがきながら訴えてきた。


「ちょっと!勇気!苦しい!」


「アハハハ!ごめん、ごめん。何だか嬉しくなってつい」


「つい!じゃないの!」


 杏を解放してから4人でひとしきり笑った。

 笑い終えて静香さんが考え深げに話し始めた。


「楽しいですね。さぁ杏、当麻に会ってきてください。私が今、会うわけにはいけませんからね。伝言をお願いします。塀の中で待っています、とね!」


「はいわかりました!」


「勇気‥‥妹を頼みましたよ」


 そう言って杏の背中を僕に押した。

 僕は杏の背中に右手を当てて大きく頷いて元気よく返事をした。


「はい!」


 と返答してから国立さんが留置場に連れて行った。

 戻ってきた国立さんと一緒に当麻さんの待っている特別室に案内された。

 部屋に入る前に国立さんから注意事項を受けた。


「知花さん、落ち着いて中に入ってください。先に言っておきます。中では林田さんが椅子に縛られた姿でいます。その周りにいる男性はウォーターの能力者です。戸籍ではファイアーの劫火と記載されていたので‥‥決まりなので落ち着いて私の指示に従ってください。勇気さんも同じです。お願いします」


「はい、わかっています。杏は僕の後ろにいて。大丈夫だから」


「わかった」


 そう言って杏は僕の背中に手を当てて一緒に中に入った。

 中はやはり静香さんと同じような風景だった。

 静香さんの時にはサンダーの能力者だったがファイアーの当麻さんにはウォーターの能力者が3人いた。

 杏は僕の背中の服を握り締めた。


「国立さん、当麻さんに能力はもうありません」


「はい、わかっています。ですがこれも決まり事なのです。すいません」


「いいえ、国立さんが謝る必要はありません。杏‥‥大丈夫かい?」


「‥‥大丈夫」


「じゃ、行こうかぁ」


 僕と杏は慎重に近づいた。

 その姿に怒りを覚えた。

 決まり事だとはいえ、能力のない人に静香さんと同様に後ろ手に手錠をされ椅子に縛られ目隠しをされていた。


「国立さん!当麻さんは能力がないのに!この仕打ちは酷いのではないですか!!

 当麻さん!大丈夫ですか?」


「その声は勇気かぁ!」


「はい、僕です。杏も一緒です。今、目隠しを取りますね!」


 と僕が言うより早く国立さんが目隠しを取ってくれた。

 けして明るいとは言えない室内だったけれど、当麻さんはそれでも暗闇からの光でまばたきを繰り返していた。


「国立さん、ありがとうございます。でも‥‥」


 と僕が言い出す前に、杏が飛び出した。


「当麻兄さん!」


「杏!無事かぁ?」


「もちろんよ!」


 当麻さんは杏の無事を目で確認すると顔を上げ僕と目があった。


「勇気は怪我をしたんだってなぁ。大丈夫かぁ?」


「はい大丈夫です。でも2週間ほど入院しました。今は何ともありません」


「そうかぁ‥‥よかった。なぁ~静香は‥‥」


「はい、静香さんと当麻さんは簡易裁判の結果、永久無期懲役と決まりました。表向きは脱獄を恐れ僕がエンペラーの能力で静香さんからウォーターを奪いました。でも本当は僕のために‥‥僕に力をくれました。

 当麻さん、本当にこれで良かったのですか?」


「勇気。静香がそうしてほしいと望んだんだろう。だったらそれで良かったんだよ!」


「当麻兄さん!私ね、静香さんの事を静香兄さんと呼ぶ事にしたの!そしたらね!静香兄さん私のことを妹だって言ってくれたの!」


「なに!その話は本当かぁ!」


「うん‥‥そうだけど?」


「それはマズい‥‥静香の方が俺より誕生日が早い!俺が静香の弟かよ!ありえねぇ!」


「も!当麻兄さんたら!そんな事どうでもいいでしょう!くだらないわ!ね!勇気もそうおもうでしょう!」


 僕と国立さんは思わず笑ってしまった。

 その声を聞いて当麻さんも杏も笑った。

 笑いあう光景は殺伐とした風景に不釣りあいだった。


「勇気‥‥ありがとなぁ」


「当麻さん。まだ杏にファイアーを与えていません。少しの間ですがファイアーを使っていて思ったのですが、コントロールが難しいです。あと力加減も大変です。それだけではありません。僕は誰にも能力を与えた事がないんです。受け取った側にどのように出るか正直わかりません。杏にもしものことがあったら‥‥僕は‥‥」


「勇気!私なら平気よ!当麻兄さんだって勇気だっているんだもの!周りにいる人はウォーターなのでしょう?それに私、蝋燭だけどファイアーのコントロールには自信あるの!なんとかなるわよ」


「杏は楽観視し過ぎだよ」


「も~そんな事は置いといてサクッとしよ!勇気はウダウダと悩み過ぎ!もう少し柔軟にならないとね」


「杏は柔軟過ぎるよ‥‥はぁ~」


「「アハハハ!」」


 と国立さんと当麻さんの笑い声がかさなった。

 そんなに笑わなくても‥‥と周りを見ると黒服の男性の肩も震えていた。


「いいですね!面白いです。でも知花さんの言うとおり勇気くんは何でも悩みがちですね」


「そんな事ないと思うけど、だって俺からファイアーを奪った時は速かったぜ。何をされたかわからない間に病院のベッドの上だったぜ」


「と、と、当麻さん!やめてください!そんなことより早くしましょう!」


「アハハハ!勇気が慌てている!」


「も‥‥杏‥‥はぁ~」


 不毛なやりとりのあと国立さんが当麻さんの手錠を外した。

 静香さんの時も思ったが国立さんは僕の事を信用してくれたから手錠を外してくれたのだと思う。

 人から信用をされる、こんな嬉しいことはないのだと実感した。

 心から感謝。


「勇気、どうしますか?私達は側にいない方がいいですか?」


「はいそうですね。国立さんと当麻さんは離れていてください。周りの方はウォーターの豪雨なのでもし杏が暴走したとき、僕と一緒に杏を止めるのを手伝ってください。お願いします」


 黒服の男性は国立さんを見た。

 国立さんが頷いてくれたので僕に協力してくれるようだ。

 3人の黒服の男性はそのままで椅子があった場所に杏を立たせた。

 その杏の前に僕が立った。


「杏、行くよ!」


「わかった」


 お互いが頷きあい、僕は右手の手袋を外してポケットの中に入れた。

 目を閉じ深呼吸をして心を落ち着かせた。


「杏、何があっても守ってみせるから!僕を信じて」


「もちろんよ!勇気を信じる!」


「じゃ~行くよ!」


「はい!」


 僕は杏を抱きしめた。

 杏は目を閉じされるがままになっていた。

 僕の右手を杏の背中に添えて目を閉じ、大きな声で叫んだ。


「知花杏に林田当麻のファイアー劫火を与える」


 このとき僕の右手が杏の背中の心臓近くに当てる事が重要だとお婆さんからお借りした書物に書いてあった。

 僕は書いてあった通りにした。

 僕の右手が真紅の炎を出し杏の背中に吸収された。

 どうもその光景を見ていたのは僕だけだったようだ。

 なぜなら、僕以外の人は時が止まったかのように動かなからだ。

 真紅の炎を吸収した杏から突然、火柱が上がった。

 それが合図だったかのように僕以外の人の時が一斉に動きだした。


「きゃ!」


「杏!落ち着いて!」


「違う!杏!思いっきり力を入れろ!持てる力を全て炎に変えろ!

 勇気!ウォーターの壁を杏の周りに張れ!他の奴らも水の壁を作れ!!」


「はい!」


 当麻さんの的確なアドバイスで、僕は両手を広げ力を込めて杏の周りに水の壁を作った。

 その僕の後ろで3人の男性が両手を広げ、僕と同じように壁を作ってくれた。

 多重の水のドームが出来上がった。

 その中で杏が力の限り炎を出した。

 火柱が水に触れドームの中が水蒸気で真っ白になってなにも見えなくなった。

 10分ほどたったとき何かが倒れる音がした。


 ドサァ!


 僕は水の壁を無くし手袋をした。

 白い水蒸気の中、手探りで杏を探した。

 目の前にいたはずなのでそう難しくもなく見つかったが杏は気を失っていた。

 僕が水の壁を無くした事で外の水の壁も無くなった。

 僕は着ていた上着を杏に掛け抱き起こした。

 軽く頬を叩き、杏を起こした。

 国立さんと当麻さんも急いで側に来てくれた。


「杏!杏!しっかりしろ!杏!」


「うぅ‥うん~‥‥ゆ、勇気?」


「杏!」


 僕は当麻さんに杏をたくした。

 そして、その場に尻餅をついた。

 そんな僕に国立さんが左手を差し伸べた。


「大丈夫ですか?」


 僕はその手を取って立ち上がった。

 少しふらついた僕を支えてくれた。


「おっと!大丈夫ですか?」


「はい大丈夫です。なんだか力が抜けました」


「緊張の糸が切れたのですね。1人で立てますか?」


「はい!大丈夫です。ありがとうございました。皆さんが無事でよかった」


「知花さんは大丈夫です?」


「杏は大丈夫です。当麻さんのアドバイスで助かりました。たぶん大きな能力を受け入れたのでバランスを崩したのだと思います。一度発散させることで安定したのだと思いす」


 僕は自分の服を絞りながら話をした。

 杏が目を覚まし当麻さんに抱きしめられていた。

 すると僕の方を見て当麻さんが当たり前のことを当たり前に話をした。

 でも僕にとっては当たり前ではなかった。


「勇気!服を乾かせ」


「え?」


「な~んだ!静香のヤツ教えて無いのかよ!

 服を乾かすときはファイアーでするよりウォーターで服の水分を取る方が、乾きが早いし服を痛めない。あるいみ常識でしょう!さっさとやれよ」


「難しい事を言わないでください!静香さんからウォーターをいただいたのは今日なのですよ!すぐには無理です!」


「アハハハ!可笑しい!久しぶりこんなに笑いましたよ!服を乾かすのはほかの者にさせましょう。出来ますか?」


「はい」


 と言うと国立さんが黒服の男性達に指示を出した。

 彼らは両手で首下から足先を10センチほど浮かせ服の水分を手から吸収し始めた。


「あの~どうやったらいいのですか?」


「え!あ!はい。え~っと‥‥」


「勇気さん、困っていますよ。後で静香さんに聞いてください」


「はい‥‥そうします」


「すみません。説明が難しいので」


「いいえ、僕こそすみません。ウォーターにこんな使い方があったとは知らなかったものですから。便利いいですね」


「そうですね」


 黒服の男性達も人なのだ。

 話せば返してくれる優しい人達。

 僕は嬉しかった。

 服はすっかり乾き僕が杏に掛けて上げた上着も乾いて返ってきた。


「勇気ありがとう!」


「杏、無事でよかった。うわ!」


「え!なに?」


「いや~杏のオーラが赤橙色から真紅色に変わった!ファイアーの劫火だ!あ!福田さんに連絡をするのを忘れた!‥‥どうしょう‥‥」


「大丈夫ですよ。私ならここにいます」


 入り口の近くから声がした。


「福田さん!いらしたのですか?‥‥すみまん。待たなくて始めてしまいました」


「いいえ大丈夫です。義明が連絡してくれましたから。これで知花さんのファイアーはファイアーでも蝋燭から劫火に変わったのですか?」


「はいそうです。間違いありません。杏のオーラが真紅色をしています」


「すみません。知花さん少し炎を出してみてください」


「はいやってみます!」


「ちょっと待って!」


 僕は慌てて少し大きめの水の壁を作った。

 僕は壁を出すのは得意みたい。


「も~どうして水の壁をしたの?」


「だって、暴走したら大変だからね」


「何でそうなるの!大丈夫なのに!!」


 文句を言いながらも杏は炎を出した。

 杏は僕が出した水の壁の内側に炎の壁を出した。

 しかも左手で炎の壁を制御しつつ右手で炎の鞭まで出して見せた。

 見事な炎だった。

 ただ、室内が一気にサウナと化した。


「杏!凄い!さすが俺のファイアーだぜ!」


「確かに凄いけど‥‥暑いです」


「そうかぁ?これぐらいは普通だろう!勇気は貧弱だなぁ!」


「このぐらいでいいですか?」


「はい知花さん結構です」


 杏は満足したようで炎を消してくれた。

 僕も水の壁を消した。

 福田さんは驚いた顔をして話し出した。


「本当に能力の受け渡しが可能なのですね。知花さんも凄いですが、勇気さんの能力も凄いですね。

 ですが諸刃の剣ですね。使い方を間違えてしまうと勇気さん自信を傷つけそうです。勇気さん、もし何かあったときは必ず私達にも連絡をください。義明!口止めの方を頼む!勇気さんの能力は絶対に外に漏らすなよ!」


「わかっている!喜朗こそ!しっかりしろよ。何かあったときは俺にも連絡をしろよ」


「はい、国立さんと福田さんに何かあったときは必ず連絡します。それにしても、お二人とも仲がいいのですね」


「「ただの腐れ縁です」」


 と国立さんと福田さんの言葉が重なった。

 同じ能力者は意気投合しやすいと言うけれど本当だったようだ。

 だったら僕と翔も意気投合するはずなのだ!

 やはり翔を止めるのは僕だけだ。

 所長でも政府でもない嶋村勇気、僕だけだ!

 そう堅く心に誓った。


「当麻兄さん!私はもう大丈夫!これからは勇気の力になってあげて。当麻兄さんからもらったファイアーは勇気のために使う!私もね、勇気には助けられたの。勇気の前を向いて歩いている姿に私も助けられちゃった!それとね。当麻兄さん‥‥父さんと母さんもね、当麻兄さんのこと探していたの。見つかったって報告していい?父さんも母さんも当麻兄さんのこと気にしていたの‥‥ダメ?」


「杏‥‥」


「私ね!引きこもっていたときこの世の全ての人が怖かった。父さんと母さんでさえ怖かった‥‥このまま死んでしまいたかった。

 でも、死のうと思ったとき当麻兄さんの顔が浮かんできて会いたくなったの!私の小さい頃なんていじめられた記憶もあるけど、寂しい記憶はないよ!だって私の側には当麻兄さんがいたもの!寂しくなかった。当麻兄さんに会いたくて外に出たのに私‥‥私‥‥」


「杏‥‥もういいよ。俺は静香と出会って1人じゃ無くなった。でも杏の事は探していた。もし静香の妹みたいになっていたらと思うと、堪らなく焦った。

 そんなとき翔から依頼があった。初め見たときわかんなかったよ。見違えるほど元気になっていた」


 そう言って当麻さんは杏の顔を両手で包み頬ムニムニした。


「も!当麻兄さん止めてよ!痛いじゃない!」


「元気だ!杏は元気で綺麗になった。‥‥杏、俺の事は誰にも言うな、おじさんやおばあさんにもだ。迷惑をかける。」


「当麻兄さん、それは違うわ。父さんも母さんも心配しているの。知っていた?テレビで何か犯罪のニュースがあるたび、犯罪者の名前に一喜一憂するのよ。

 父さんも母さんも後悔をしていたわ。自分達がしっかりしていれば当麻兄さんを犯罪者にしなくてすんだかもしれないと。実家に帰るたびに言うんだもん。

 当麻兄さんには帰る場所があるの!待っている人たちがいるの!生きているだけで喜んでいる人たちがいるの!当麻兄さん、おじさんとおばさんのお墓がある事、知らなかったでしょう!

 父さんと私で建てたのよ。私、おじさんとおばさんにも報告したい!」


 杏は精一杯、持てるボキャブラリーを駆使して話しをした。

 当麻さんは俯き両手をダラリと下げて杏の話を聞いていた。

 すると今度は目を瞑り、拳を握り締め、杏の言葉を心に刻み込むかのようにつぶやいたかと思うと杏を力の限り抱きしめた。

 その目には涙が溢れていた。


「杏、おじさんとおばさんに俺は大丈夫だから1人じゃないしもう心配しないでくれと伝えてくれ。そして‥‥ありがとうと‥‥。

 それと父さんと母さんにも、ごめんそっちに行くのはまだ先になりそうだからと話をしといてくれ」


「うん!」


 杏も泣き顔で元気よく答えた。

 もちろん僕も泣いていた。

 杏を抱きしめたまま当麻さんが僕に話をした。


「勇気!杏を頼む!」


「はい!」


 僕は涙を袖で拭い元気よく答えた。

 その答えに満足した当麻さんは杏を放し国立さんのところに戻り手錠と腰にロープをして部屋を出て行こうとしていた。

 そんな当麻さんに僕は声をかけた。


「当麻さん!静香さんから伝言です。塀の中で待っています、と言っていました!」


 当麻さんはこちらを見ずに手錠の手をヒラヒラさせて出て行った。

 いつの間にか黒服の男性もいなくなっていた。

 残された僕と杏と福田さん。


「知花さん。知花さんは戸籍にファイアー劫火と記載されます。それから勇気さんはトレースと記載されます。それともウォーターが良かったですか?」


「え!僕はエンペラーですよ?」


「はい、確かにエンペラーですがその事は秘密事項となりました。今日エンペラーの能力を拝見して勇気さんを守るためにも秘密にしておく方が良いと判断しました。

 勇気さん‥‥正直言って私は犯罪者よりあなたを守りたいです」


「福田さん、ありがとうございます。でも僕は全ての人を守りたい‥‥ってちょっと無謀かもしれませんね。それでも僕1人なら無謀でも福田さんや国立さんに静香さんと当麻さん、それに杏もね!

 まだまだ僕に力を貸してくれる人はいます。僕はその和をもっと広げたいと思っています。福田さん‥‥協力してくれますか?」


「勇気さんはずるい人です。そのように言われてしまっては我々では断れません。勇気さんの能力はトレースでもウォーターでもなく話術と記載します」


「福田さん!止めてくださいよ!トレースと記載してくださいよ!それにしても話術は酷いなぁ~」


 そう言いながらも福田さんの目は笑っていたし、杏に至ってはお腹を抱えて大爆笑。

 もちろん僕も笑った。

 みんなでひとしきり笑って、僕らも部屋を後にした。


 福田さんは法務省に戻っり、僕と杏も研究所戻ることにした。


 なんだか入院していたこともあり研究所に帰れる事が嬉しかった。

 何よりも研究所のみんなに会える事が嬉しくてたまらない。


 ちなみに僕の戸籍の能力欄には、一番初めにお婆さんからもらったトレースを記載してもらうことにした。

 サリーのお婆さんから僕なら大丈夫と言われて、いただいた能力だったからだ。

 僕という嶋村勇気を認めてもらったようで純粋に嬉しかった。


 喜び勇んで帰った研究所で僕は現実を垣間見る事になる。




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