闇の声
波瀾万丈 過酷な人生経験が生み出す世界を!
雨は嫌いじゃない 小学校六年の時に父親と母親が離婚し父親に引き取られる事になった日も雨だった いつも暗く静かな子を演じてる自分を周りは大丈夫? そう思っていただろうが他人は他人 時がたつと忘れられる
無口な父親も仕事ばかりでテーブルに毎日 置いていく金 それで朝 昼 晩と食物を買い食べる 余った金は俺なりに貯めていた その頃から俺にしか聞こえない不思議な声が聞こえるようになった 中学に入り不良グループに囲まれた時に初めて不思議な力を使った 学校帰り呼び止められ目つきが悪いと因縁をつけられ体育館の裏に連れて行かれ 気に入らないと何発も殴られた その時 突然体が震え頭にノイズが走った そしてアノ声が聞こえた「どうする?」と聞かれ俺は初めて答えた「助けてほしいと…」その時 時間が止まった感じがした 何も聞こえなくなり歯をくいしばる俺の体からみなぎる力を感じた 不良グループの一人一人と目を合わせ拳を握り歯をくいしばる そうすると奴等は何もしていないのに気を失い倒れていった 全員が倒れて我に戻った俺は その場を走って去った
家に帰り自分の部屋で一人 笑みを浮かべ震えた 普段は何も聞こえないが 頭にノイズが走ると声が聞こえる それが何故かは分からないがその声に答える俺には特別な力があるという事は その時 知った しかし普段 ほとんど何も聞こえない 俺の持つ力はいったい何なんだ?
あれから 俺はネットや本で色々調べる事にした 超能力なのか? 分からないが偶然ではない事は確かだった アノ声は小さな頃から聞こえる事はあったし正義を感じる声ではない事は俺なりに分かっていた だから今まで答えず黙っていたんだ 一つだけ分かっている事は邪悪な者というか 闇の世界を感じる声だということだ
あれから数日 学校へは行かなかった そんな ある朝 警察が家にきた 不良グループ数人の名前を読み上げ知ってるかと聞かれ 俺はうなずいた 父親が降りてきて俺の胸ぐらを掴み怒鳴っていたが 全く耳に入ってこなかった 警察に止められ俺は警察署に行き事実を知った 不良グループ4人のうち2人が意識不明のまま 他の2人は記憶喪失になり病院から出られないでいるらしい
事情聴取が始まり 俺は信じてもらえないことは分かっていたが素直に全て話した そして思った通り少年院 異常者あつかいされ精神病棟へと連れて行かれた 俺は前よりも人との会話を避けるようになり アノ声にも返答せず 医者の言う通りにした
勉強も運動も人並みにしたが あれから親父は一度も顔を出さなかった それもそのはず 意識不明だった2人は帰らぬ人となり マスコミが事件を取り上げ新聞の一面になったからだ 親父は俺の事件から会社には行かなくなり酒に溺れ家で首をつり死んだと言われた その事は俺が病院に入ってから3年 退院の6ヶ月前 16歳になり知らされた 悲しい現実に涙は出ない 俺は昔からそうだった 感情がないわけではないが どんなカウンセリングを受けても変わらない現実がそこにはある全て理解したフリ それがここを出る一番早い方法 何もかも失い絶望を演じてる俺は言われるがままうなずき 医者が言う新しい人生を歩むべく道?実際よくわからなかったが 伊豆の山奥にある寺の住職に引き取られる事になった 事件から約4年後の6月中旬 天気は雨
この寺の住職は玄海 たった一人で寺を守り生きて来た人 俺の第2の父親となる人で何故 俺を引き取り育てて下さるのかは分からないが感情を外に出さない俺に「源安」ゲンアンという名前をくれた それから俺は頭を丸め禅の心と武術を学び修行の道を歩んだ 厳しい日々にアノ声は聞こえてこなかった 来る日来る日も己を磨き心を洗い一年が過ぎた真夏の夜 俺は お師匠様にアノ声の事 事件の事を全て話した するとお師匠様は言った「源安となり仏様の前では その声は聞こえん しかし禅と悪がひしめき合う社会に帰れば又 同じ声が聞こえ 新たな惨劇がおこる ココにいればよい」とおっしゃって下さった
俺は「ありがとうございます」とだけ答えた
その夜 寝付けない俺にアノ声が聞こえた
「住職は敵だ… その目で確かめろ」俺は焦りを抑え汗をふき部屋を出た そして 電気のついた玄関に引き寄せられるように向った
こんな夜中に虫の鳴き声しか聞こえない寺で小さな話し声が聞こえて来た 電話だ お師匠様が誰かと話をしている
「まだ早い その時は必ず来る 大丈夫だ彼は私を信用してる もう少し待つのだ」
その最後の会話だけが聞こえた 俺は又 分からなくなった でも黙って部屋に戻るしかなかった 分からないまま朝を迎え いつもと同じ1日が始まった その日の夜は寝てなかったせいか 横になり数秒で寝てしまった
息苦しさと噴き出す汗で目が覚めた俺は眩しすぎる光に驚いた 武装した数十人の男達に囲まれている 「どうすればいい?」
武装集団の中で囚われ膝をつくお師匠様が目に入った お師匠様は俺に対し何かを叫んでいる なんだ? 何をおっしゃりたいのだ?分からない
その時 アノ声が聞こえた 「助けてほしいか?」