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冒険者ギルドの用心棒(ポリスマン)

作者: 結城藍人

 ボカッ!


「うぎゃああっ!!」


 俺は悲鳴をあげてぶっ飛ばされた。ドテ、と転ぶ。ポキ、と骨が折れる。グシャ、とテーブルに突っ込んで崩れる。俺が注文した料理と酒がテーブルごと崩壊した中で、頭を下にしてひっくり返り、目を回した…ように見えるだろう。


 冒険者ギルド併設の酒場の入り口では、俺をぶん殴った黒目黒髪の美少年が冷ややかに俺を見据えている。その脇には、鮮やかな銀髪碧眼の美少女が不安そうに寄り添っている。


「外見だけで()めて欲しくないな」


 視線と同じような冷ややかだが、涼しげな声。年の頃はせいぜい12~3くらいで、一見すると華奢にしか見えないやせ形。身につけているのも皮鎧と鉄の剣という初心者装備でしかない。先ほどギルドの登録カウンターで冒険者登録をしたばかりのE級(かけだし)冒険者。しかし、その能力は到底かけだしの初心者とは思えない。


 俺は目を回したふりをしながら、「鑑定」スキルで改めてこの少年と、その横に立つ少女のステータスをチェックする。もちろん、気付かれないように「スキル隠蔽」の特殊スキルを使いながら。


マサキ・クレール

12歳 男 E級冒険者


レベル:23

HP :261

MP :223

力  :174

素早さ:241

器用度:239

耐久力:188

知力 :482

打撃力:224

魔撃力:532

防御力:238

魔防力:502


剣術 :ランク5

格闘 :ランク7

白魔法:ランク9

黒魔法:ランク9

召喚術:ランク4


特殊スキル

「鑑定」

「アイテムボックス」

「成長力上昇」

「獲得経験値上昇」

「パーティ強化 (経験値)」



リリア・ブランシュ

12歳 女 E級冒険者

レベル:5

HP :32

MP :64

力  :41

素早さ:66

器用度:71

耐久力:48

知力 :92

打撃力:61

魔撃力:122

防御力:68

魔防力:112


弓術 :ランク3

格闘 :ランク1

白魔法:ランク4

黒魔法:ランク3

精霊術:ランク4


特殊スキル

「直感」

「精霊の加護」


 ふむ、やはり典型的な「英雄」候補だな。E級のステータスじゃない。B級相当だな。女の子の方はE級冒険者としては少し良さ目のステータスだが、こちらも典型的な「聖女」候補をしてやがる。


 ちなみに、俺の()()()のステータスは、こんなモンだ。


ガルブレイズ・ノートン

41歳 男 C級冒険者


レベル:15

HP :201

MP :53

力  :162

素早さ:144

器用度:121

耐久力:173

知力 :43

打撃力:212

魔撃力:43

防御力:223

魔防力:143


剣術 :ランク3

棍棒術:ランク5

格闘 :ランク5

黒魔法:ランク1


特殊スキル

「威嚇」

「挑発」


 これでも、この「迷宮都市」(セント)ルイーズでは名のしれた冒険者だ。悪名だがな。ロクに依頼も受けず、この都市の異名の由来で、冒険者が集まる理由でもある迷宮にも潜らず、いつも酒場でクダを巻いている酔っ払い。粗暴だが、腕力とそれなりの実力はあるので駆け出しや半端な実力の持ち主では逆らえないという酒場の暴君。それが、俺だ。


 外見からして、筋骨隆々の巨漢だ。スキンヘッドに乱ぐい歯、片目は潰れて眼帯をしており、頬にも腕や足にも大きな傷跡が残っている。素人は俺がにらみつけただけで失禁して卒倒しかねない。「威嚇」スキルもあるしな。


 逆に言えば、その俺をぶっ飛ばせるようなヤツに喧嘩を売るのは、それこそ馬鹿という事になる。ここまで派手に「俺」をぶっ飛ばして見せたのだから、今後、変な連中がこいつらに絡むことは、あまり無いだろう。今回の任務(おしごと)はこれで完了だな。


 あん? 俺の特殊スキルに、さっき使ってた「スキル隠蔽」も「鑑定」も無いって? そりゃそうだ。このステータス自体が、特殊スキル「ステータス偽装」で偽っているモンだからな。


「あんたぁ、また馬鹿やったのかい!?」


 ドスドスドス、という重量感のある足音と共に女房のだみ声が聞こえてきた。


「うっせえ! おらぁなあ…」


「やかましいよ、この愚図が!」


 気絶から回復したように答えようとした俺だが、バゴン、と脳天に女房の拳骨が落ちたので、再び目を回した()()をする。目の前に居るのは俺の女房、同じくC級冒険者のジェーン・ノートンだ。身長こそ俺より低いものの、横幅は俺以上。バストは超巨乳だが、それ以上に腹の脂肪がたっぷりだ。昔は美貌だったと自称しているが、その痕跡は目元に少し残っているだけ。四重アゴに埋もれた首を含め、生半可な刃物は通じなさそうな脂肪のかたまり。この街で俺を御することができる、たった一人の女だ。()()()のステータスはこんな感じ。


ジェーン・ノートン

38歳 女 C級冒険者


レベル:17

HP :233

MP :77

力  :188

素早さ:66

器用度:143

耐久力:226

知力 :73

打撃力:238

魔撃力:73

防御力:276

魔防力:173


剣術 :ランク5

格闘 :ランク6

白魔法:ランク2


特殊スキル

「圧迫」

「マッピング」

「会計」

「接客」

「食いだめ」

「話術」


 外見こそ迫力満点だが、気さくで面倒見がよく明るい性格で、後輩冒険者からは慕われている。俺がロクに働きもせずに酒場で飲んだくれていられるのは、女房が働き者だからだ…と思われている。


「あんたたち、ごめんなさいね。またぞろウチの宿六(やどろく)が酔っ払ってからんだんでしょうけど」


 少年たちに謝る女房。その姿を見て、さすがに驚いたような顔をしていた少年だったが、すぐに我に返って答える。


「いや、別に被害は受けてないからかまわないさ。ちょっと、やり過ぎたかな? 骨が折れたかもしれない」


「かまわないよ。何度同じことをやっても反省しない馬鹿だからね。たまにはいい薬さ。骨折程度ならあたしが白魔法で治せるしね。それより、あんたたち冒険者になったばかりなのかい?」


「そうですけど」


 少しおどおどしながら少女が答える。


「不愉快な思いをさせてすまなかったねえ。お詫びと言っちゃあ何だけど、何か分からない事があったり、困ったことがあったら相談に乗るよ。あたしはジェーンってんだ。ジェーン・ノートン。よろしくね」


「私はリリア・ブランシュです」


「マサキ・クレールだ」


 女房の態度に安心したのだろう。少女の表情が柔らかくなり、少年の方も少し呆れ気味ながらも表情を緩める。


「すまないけど、この馬鹿を掘り起こして、掃除をしないとね。あたしは依頼を受けたり迷宮に潜ってなきゃ、だいたいこのあたりに居るから、何かあったら相談しておくれよ」


「わかった」


「ありがとうございます」


 女房の方は、上手くこいつらの警戒心を解けたようだ。これから、いろいろ相談に乗っていくことで、こいつらの信頼を得ていくことが、女房のこれからの任務(しごと)になる。


 去って行く少年少女を見送ってから、おもむろに女房は俺を持ち上げると酒場の外へ放り出し、壊れた食器や散らばった料理を片付けだした。俺は気絶したふりをしながら、女房の片付けが終わるのを路上で待っている。わざと食らって折れた骨が痛え。先に治してくれよ、ったく。ああ、頭っからかぶった酒が冷てえなあ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 今日もいつものように朝っぱらから酒を飲んでいると、酒場のギルド側の出入口からギルド職員が俺に向けてサインを送ってきた。任務(おしごと)かい。


 酔っ払ったふりをしながら、のそのそと歩いてギルドの方に入る。朝から酒は飲んでいるが、俺の特殊スキル「毒無効」の効果で体に悪影響が出ることはない。顔は赤く、息は酒臭くとも、精神や肉体のコントロールに影響はない。


 見ると、ギルドの依頼窓口の受付嬢のところで、若い冒険者が何やら騒いでいた。


「俺様の言うことが聞けないってのかよ!? 俺はC級冒険者だぞ! 村じゃあ一番の腕っこきだったんだ」


 ちょいとステータスを「鑑定」してみたら、こんな感じだった。


ガルシア・マルケルス

17歳 男 C級冒険者


レベル:13

HP :177

MP :86

力  :141

素早さ:138

器用度:144

耐久力:122

知力 :45

打撃力:191

魔撃力:65

防御力:172

魔防力:145


剣術 :ランク3

格闘 :ランク3

黒魔法:ランク3

白魔法:ランク1


特殊スキル

「魔法剣」


 なるほど、確かに年齢の割にはレベルもランクも高い。若手扱いのD級から、一人前と認められるC級に昇格して舞い上がってるんだな。魔法剣なんて珍しいスキルも持ってやがる。とはいえ、この迷宮都市や王都になら、この程度のヤツは掃いて捨てるほど居る。どうやら田舎村で天才とかもてはやされて勘違いした野郎のようだ。この迷宮都市で一旗上げようと思って出てきて、美人の受付嬢を見てのぼせ上がって口説こうとしたのに、相手にもされなかったんで逆上したって所か。


「うるっせぇぞ、クソガキ!!」


 ガゴン!!


 横合いから顔面にパンチを叩き込んだら、あっさり吹っ飛んでった。


「てめぇ、何しやが…」


 バキッ!!


 立ち上がって文句を言おうとした所を、更に問答無用で殴りつける。倒れた上にのし掛かると、そのままマウント状態で雨あられとパンチを降らせる。もちろん手加減はしているから骨折なんかはさせない。コブやアザは山ほどできるだろうけどな。


「や、やめ、やめろ…やめて…」


「半端モンが偉そうにわめくんじゃねぇ! 安酒がさらにマズくならぁ!!」


 命乞いをするのを無視してさらに殴りつけるが、そろそろ仲裁が欲しくなってきたぞ。女房は何してやがる。


 ゴン!!


「ぐぇっ!」


 突然、後頭部に強烈な打撃を食らったので、そのまま昏倒したふりをする。


「まあったく、懲りないんだから、このロクデナシは」


 女房の声だ。やっと来たのかよ。別に痛くも何ともないが、気配隠して奇襲すんなや。


「ほれ、立ちな、若いの。ウチのも悪かったけど、あんたも頭を冷やしなよ。こう言っちゃ何だけど、ウチの宿六(やどろく)なんぞは、このギルドのC級の中じゃあ下から数えた方が早い程度のヤツなんだからね。女の子にモテたいなら、もっと実力を磨きな。あんた田舎から出てきたばかりで一人(ソロ)なのかい? 何なら、あんたの実力に見合った仲間(パーティ)を紹介してやってもいいよ」


「あ、あんたは?」


「あたしはジェーンってお節介焼きなC級冒険者さ。こいつは…」


 この先は女房に任せとけばいいだろう。道を外れかけた若いモンを矯正するのも、あいつが得手とする任務(しごと)だからな。顔が広いし、面倒見てやった若手も多いから紹介できる仲間(パーティ)も多いだろう。こういうヤツの手綱をきちんと取れる若手のいい女を紹介してやれよ。


 女房が若いのを連れて去って行くのを待ってから、俺はヨロヨロと立ち上がり、周りをにらみつけて叫ぶ。


「んだコラァ! 見せモンじゃあねえぞ!!」


 威嚇してから、おもむろに元いた酒場の席の方に戻って、再び酒瓶を傾ける。次のお呼び出しが来るまでは、また酔えもしない酒を飲んだくれていようか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 お呼び出しがかかった。例によってギルド職員がサインを送ってきたので、カウンターの前に行ってみると、今度はヒョロヒョロの、まだ少年と言った方がいいような若い男が登録窓口で職員と話していた。


「どうしてもご登録なさいますか? あなたの力では危険性の方が高いと思われますが…」


「無理はしません。どうしても冒険者として働きたいんです!」


 なるほど、あのヒョロヒョロっぷりじゃあ、冒険者やるのは難しそうだ。一応「鑑定」してステータスを見てみようか。


アルバート・マクシムス

15歳 男


レベル:1

HP :12

MP :21

力  :7

素早さ:11

器用度:14

耐久力:6

知力 :21

打撃力:7

魔撃力:21

防御力:6

魔防力:21


薬剤術:ランク1


特殊スキル

「読解」

「薬草鑑定」

「製薬」


 …あかんわ、こりゃ。一応成人年齢の15歳にはなってるものの、まだ体がガキだ。薬の知識はありそうだが、冒険者としてやっていくには、致命的に体力が足りんし、レベルも低い。頭は良さそうなんで魔法でも勉強してりゃあ話は別かもしれんが、そっちの知識は無さそうだ。冒険者なんかやったら、薬草採取の仕事だって難しいだろう。最低クラスの魔物に襲われても死にそうだ。いくら冒険者になるのが夢だったとしても、これは断念させる方が慈悲ってモンだろう。


「おい、そこのヒョロヒョロ坊主!」


「は、はい?」


 突然、俺のような容貌魁偉(ようぼうかいい)な巨漢に話しかけられてビビるヒョロヒョロ男。俺は表に出している「威嚇」スキルを使った上で、さらに脅しをかける。


「テメエみてえな生っ白いヤツが冒険者になりたいなんてのは、片腹痛ぇんだよ!! 冒険者ってのはなあ、もっと腕っ節が強かったり、魔法が使えたり、すげえ技が使えるようなヤツでなきゃ、なれねえんだよ! お前みたいなのに『冒険者でござい』って面されるだけで、他の真っ当な冒険者にゃあ迷惑なんだ! 分かってんのか、オイ!!」


 顔面蒼白になって震え上がるヒョロヒョロ男。ここで諦めて帰りな。せっかく薬剤術が使えるんだから、まっとうな薬剤師にでもなった方が、きっといい人生を送れるぞ。


 だが、俺のそんな心の声は聞こえないヒョロヒョロ男は、必死の形相で反論してきた。


「で、でも、僕はどうしても冒険者になりたいんです」


 ハア…なけなしの勇気を振り絞っちゃったのかい。俺の「威嚇」にも耐えて。その根性だけは認めてやるけどな。ステータス画面には勇気とか根性とかやる気ってのは表示されないんだが、実はそれが一番大事なんだ。もう一押し試してやるよ。


「俺の言ってることが分からねえってのか!? あ!?」


 両手で首をつかんでつり上げる。格闘術の一つにあるネック・ハンギング・ツリーって技だ。もともと顔面蒼白だったのが、さらに白い顔になって苦しむヒョロヒョロ男。殺すつもりはないが、死ぬと思うような目には合わせてやろう。それでもやる気が削がれないというなら…


「分か、り、ま…」


 どうだ、どっちだ!?


「…せん!!」


 最後の力を振り絞って、拒絶の言葉を吐いたヒョロヒョロ男。分かったよ。お前の根性だけは認めてやる。死んでもいいってんなら、もう止め立てはできねえしな。


 俺は、ヒョロヒョロ男を、近くに来ていた女房に向かって放り投げた。


「馬鹿が! テメエみてえなヒョロヒョロの死に損ないなんざぁ、殺す価値もねえ!! だがなあ、テメエみてえなヤツじゃあ冒険者にはなれねえんだよ! そこにいるお節介なババアにちったあ鍛えてもらえ。お人好しの馬鹿だから、テメエみてえな役立たずでも面倒見てくれるぜ」


「何だって、このロクデナシ!! いつも誰があんたの尻ぬぐいをしてやってると思ってるんだい!? いいよ、今回もケツを拭いてやるさ! この若いのを一人前の冒険者にしてやろうじゃないか!! アンタも、あの馬鹿の脅しに耐えたんだ、死ぬ気で頑張る気があるんなら、あたしの言うことを聞いて修行しな。そうすれば、ウチの馬鹿なんかとは違う、真っ当な冒険者になれるよ、いいね?」


「お、お願い、します」


 ヒョロヒョロ男は、苦しそうな声で、しかし、はっきりと女房の言葉に同意した。これから先は女房の任務(しごと)だ。大変だろうが、きちんと面倒見てやれよ。


 俺は女房とヒョロヒョロ男をその場に残して、酒場の定位置に足を向ける。さあ、飲み直しだ。酒には酔えない俺だが、今日はうまい酒が飲めそうだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ギルド長(ギルマス)がお呼びです」


「んだぁ? あのクソジジイめ、また説教かよ」


 珍しくギルド職員が直接呼びに来た。盛大に愚痴をこぼして見せながらギルド長(ギルマス)の部屋へ向かう。


「『天災級』が来た」


 部屋に入る早々に本題を言われた。ギルド長(ギルマス)は一見60くらい、白髪が頭の横に残っているだけの、ハゲでヒゲの枯れ木ジジイだ。外見は貧相だが、これでも元A級で、超一流の冒険者だった男だ。今でも、C級の若いの程度なら片手で(ひね)れるだろう。それにしても、言ってる内容は穏やかじゃねえな。


転生者(うまれかわり)か? 転移者(トリッパー)か?」


転移者(トリッパー)くさい。それも『日本』だ。田舎村で一気にC級まで上がって、大都市はここが初めてらしい」


 何と、そういう事かい。転生者(うまれかわり)にしろ転移者(トリッパー)にしろ、通常の人間に比べると異常に強力な、それこそ反則(チート)な能力を持ってることが多いんで厄介なんだ。それも「天災級」となると誇張なしに世界を壊しかねない力がある。少なくとも、国の一つや二つは崩壊させかねない存在だ。そして、大抵の場合は転移者(トリッパー)の方がより面倒だったりする。


 転生者(うまれかわり)ってのは、その名の通り別世界で死んで、この世界に生まれ変わったヤツだ。前世の記憶や知識を持ってるんで、ここより高度な文明社会から転生してきた場合は、そこの知識を持ち込んできて、この世界に影響を与える事がある。俗に言う「内政チート」ってヤツだ。ただ、生まれたのはこの世界だから、親もいるし、幼なじみみたいに、生まれた後にできた関係者もいる。この世界の常識も一応は知っているはずだ。死ぬ前の人生経験も結構長くて、中年くらいまで生きてたヤツが多い。だから、無茶はしても無理はしない傾向がある。それだけの力があるにせよ、この世界そのものを壊そうとするようなヤツは少ない。また、最初から能力を持っているよりは、成長しながら力をつけていく成長型が多いんで、天災級になる前に発見できるのが普通だ。例えば、この前俺が殴られて見せたマサキってヤツも、確証はないが転生者くさい。あいつも、いずれは「天災級」まで上がるかもしれないが、今はまだ「天才級」の枠内だ。


 それに対して転移者(トリッパー)ってのは、死なないで、あるいは死んだとしても前にいた別世界と同じ人格を保持して、この世界に突然やって来るヤツだ。この世界に係累がない。転生者と同じように「内政チート」ができるが、この世界の常識を知らない分、より()影響がでかいことがある。まだ少年期の人生経験が浅い時に来ることも多いんだが、そういうヤツにはガキの正義感で世界をブッ壊しかねない危うさがある。いろいろな世界からやって来るヤツがいるが、「日本」から来るのもいる。今回、俺が呼ばれたのも、()()()()だろう。


「おうおう、久しぶりだねえ」


「別室に待たせてあるから、頼む」


「あいよ」


 軽く答えて、ギルド長(ギルマス)部屋に隣接する応接室に入る。そこには、20前とおぼしき男と、エルフの女、ドワーフの少女、猫獣人族の少女が並んで座っていた。もう「ハーレム」持ちかよ。顔は、そこそこハンサム程度だな。あのマサキってヤツはこっちの世界風の彫りの深い美少年顔してたが、同じ黒目黒髪でもこいつは典型的な日本人顔だ。なるほど転移者(トリッパー)くさい。


 挨拶もしないで、まず「スキル隠蔽」しつつ「鑑定」する。


リョート・パイン(松本 亮人)

18歳(41歳) 男 C級冒険者


レベル:26(263)

HP :303(3031)

MP :267(2677)

力  :295(2954)

素早さ:288(2882)

器用度:291(2917)

耐久力:305(3055)

知力 :318(3189)

打撃力:345(3454)

魔撃力:368(3689)

防御力:355(3555)

魔防力:368(3689)


剣術 :ランク5(9)

弓術 :ランク5(9)

格闘 :ランク5(9)

黒魔法:ランク5(9)

白魔法:ランク5(9)

召喚術:ランク5(9)

精霊術:ランク5(9)

薬草術:ランク5(9)

錬金術:ランク5(9)

鍛冶 :ランク5(9)


特殊スキル

(「異世界言語理解 (会話)」)

(「異世界言語理解 (読解)」)

(「鑑定」)

「アイテムボックス」

(「スキル隠蔽」)

(「ステータス偽装」)

(「成長力上昇」)

(「獲得経験値上昇」)

(「パーティ強化 (経験値)」)

(「パーティ強化 (ステータス)」)

(「毒無効」)

(「精神異常無効」)

(「呪詛無効」)

「剣術の才能」

「弓術の才能」

「格闘の才能」

「魔法の才能」

「召喚獣の魂」

「精霊の加護」

「製薬」

「錬金の才能」

「鍛冶の才能」

「HP回復 (小)」(「HP回復 (極大)」)

「MP回復 (小)」(「MP回復 (極大)」)

「魔法剣」

「二刀流」

「詠唱破棄」

「使用MP減少」

「マッピング」

「威嚇」(「威圧」)

「挑発」

(「話術」)

(「魔眼(未来視)」)

(「並列思考」)

(「時間停止(短)」)

(「重力制御」)

(「念動力」)

(「思考解読」)

(「記憶操作」)

(「洗脳」)

(「不老」)

(「絶倫」)


 …こりゃあ、本当に「天災級」だわ。俺と同じようにしっかりステータスも偽装してやがる。カッコ内が真のステータスだな。だが、これなら「()()」だ。元は中年で、偽装しても「天才級」の能力を誇示。「ハーレム」連れて、田舎でC級まで上げてる。これから話してみないと本当の所は分からんが、「世界を壊す」感じのヤツじゃあねえ。むしろ、シンプルに「俺Tueeee!」をやりたいタイプだな。


 あん? 俺が「鑑定」したことに気付いたか。あっちも「スキル隠蔽」持ちだから分かったみたいだな。あっちも「スキル隠蔽」しながら「鑑定」してきたか。あっちも「ステータス偽装」持ちってことは、俺の()()ステータスも見られちまうかい。まあ、こいつなら問題無さそうだが。


 おう、顔色が一気に悪くなったな。ハーレムメンバーの前で面子を潰すのも何だから、ここは2人だけで話そうかね。特殊スキル「時間停止 (無限)」発動。相手も(短)とはいえ「時間停止」持ちだから話せるだろう。


「あなたも、転移者(トリッパー)なんですか?」


 いきなり直球だな。だが、俺も時間を無駄にはしたくないから都合がいい。


「俺は転生者(うまれかわり)だな。この世界に親もいたし、今じゃあ子も孫も、ひ孫もいる」


「なるほど、真の年齢が138歳ならひ孫どころかその下もいるでしょうね。これは前世からのカウントですか?」


「いや、この世界に生まれてからだな。お前さんのは、前世も含めてのカウントかい?」


「ええ、この世界に来たときに、肉体だけは若返ったんですけど、ステータスは変わらなくて」


「そんな丁寧な言葉遣いしなくてもいいぜ。俺は単なるC級冒険者だ。お前さんと同格だよ」


「真のステータス見てたら、そんなことできませんよ。何ですかレベル1200って。あらゆるステータスが俺の4倍以上あるじゃないですか」


「昔取った杵柄(きねづか)ってヤツさ。かつて世界を救ったこともあるが、今じゃあただの隠居だ。こうやって、暇にあかせて冒険者ギルドの用心棒(ポリスマン)をやるのが趣味のジジイだよ」


用心棒(ポリスマン)?」


「お前さん、日本出身だと思うが、いつ頃の日本だい? 俺も前世は日本なんだが、前世の時間軸とこっちの時間軸はずれてるらしくて、大昔から来るヤツもいれば、未来から来るヤツもいてな。話しを聞いた感じだと、昭和平成あたりに思えるんだが」


「平成ですね。20年代」


「んなら俺と同じだわ。その時に40台だったんなら、プロレスは知ってるか?」


「子供の頃に初代タイガーマスクとか維新軍とか見てましたね。Uや大仁田は大して興味なかったけど、三銃士四天王あたりまでは知ってます」


 同郷なだけでなく同時代人でもあったんなら話は早い。たとえ話ができるからな。俺の仕事を説明するのには、プロレスに例えるのがやりやすいんだ。


「なら十分だな。『ポリスマン』ってのはプロレス界の隠語だよ。団体に道場破りがやってきた時に撃退する役だな。あとは、入ってきた新人の憎まれ役になって鍛えたり、ふるい落としたりする役もあるし、増長してきた若手を締め直したり、他団体のレスラーが参戦したときに、最初にリング上で相手をして技量を測るような仕事もある。そいつが使えそうなヤツだったら、その後も継続して参戦させるために、まずは派手に負けてみせることも仕事の内だ。団体やプロレスの威信を守るためには、道場破りに負けるわけにいかないから弱いヤツには勤まらない。だからといって、団体を代表するようなエースにやらせるワケにもいかない。強いが、地味で目立たず人気がない前座レスラーの仕事さ」


「…なるほど。それと同じようなことを冒険者ギルドでやるのが『趣味』だと」


「そうさ。冒険者を嘗めてるような馬鹿や、少し腕が上がったからって増長してるようなヤツは締める。有望そうなヤツには逆にやられて見せて、そいつの格と株を上げて、他のヤツが余計な手出しをしないようにする。あるいは、どう考えても冒険者に向いてないような志願者を脅して諦めさせる。そいつが俺の任務(おしごと)だ」


「大変な仕事ですけど、見返りはあるんですか?」


「大した見返りはねえな。だけど、さっき言ったろう『世界を救ったこともある』って。爵位や領地をもらって殿様みたいな生活もした。お前さんみたいに美女をはべらせた事もある。うまいモン食って金銀財宝に埋もれる生活もした。子供も育てて、孫もかわいがった。やりたい事は全部やってきたんだよ。もう、古女房と仲良く余生を過ごせりゃそれでいいんだ。それ以外に大した欲なんてねぇな。しいて言えば、この、俺が楽しんできた世界を壊したくないってことぐらいかな。だから、『世界を壊せる』ようなヤツ、『天災級』の力の持ち主が現れた時には、こうやって見に来るワケだ」


「分かりました。それで、俺はどう見えましたか?」


 落ち着きを取り戻して問い返してきた。うん、やっぱりこいつは「安心」なタイプだ。


「昔の俺だあな。これから世の中をたっぷり楽しもうって寸法だろう。お前さんは、俺みたいな例外を除けば、もう既に世界に敵は無い。この世界を壊さない程度に楽しむといい。いや、お前さんの欲望の赴くままに、この世界をもっと住みやすい世界にしてやってくれ」


「いいんですか?」


「俺も来た道さ。止めることは俺自身の生きてきた道を否定することになっちまうよ。ただし、あまり変なことはするなよ。俺以外にも、同じような趣味をもって生きてる隠居は、結構いるんだからな」


「心しておきますよ」


「話はそれだけだ。邪魔したな」


 「時間停止」を解除して、話しかける。


「何だ、胸くその悪いガキだな、女はべらせやがって!」


「すみませんね、モテるのは人徳のなせるわざでして。それで、ご用は何でしょうか?」


ギルド長(ギルマス)に説教くらって帰るのにドア間違えただけだ! タダでさえ腹立ってんだからムカつく姿見せるんじゃねえ!!」


「それは失礼しました。お帰りはあちらですよ」


「言われないでも分かってらぁ! 説教くったばかりでなきゃ、ぶん殴ってるとこだぞ!!」


「おお怖い怖い。早くお引き取りくださいな」


「言われんでも行くぜ。ああ、胸くそ悪ぃ」


 言い捨ててギルド長(ギルマス)の部屋に戻る。待っていたギルド長(ギルマス)が声をかけてきた。


「見立ては?」


「『安心』だ。自分の欲望を満たしたいが、世界を壊すタイプじゃない。これから、あちこちで目立つ活躍をして『英雄』になっていくだろうよ」


「助かった。感謝する」


「いいってことよ。これが俺の任務(おしごと)だからな」


 言い置いて部屋を出ると、女房が立っていた。


「あんた、どうだったんだい?」


 俺が呼ばれるなんて事態は珍しいから心配したようだ。


「昔の俺がいたよ」


「へえ、そんなら『安心』かね?」


「ああ。今のうちに知り合いになっとけ」


「もう女の子たちとは知り合いだよ」


「さすがだな」


「あんたの女房だからね」


 そう言って去ろうとする女房を呼び止める。


「なあ、今夜はしばらくぶりに、どうだ?」


「あら、珍しいね」


「若いのが女はべらせてるのを見て、ちょっと昔を思い出してな」


「いいね。あたしもちょっと小腹がすいてたんで『肉』を食べたかったところさ」


「んじゃあ、家に帰ろうか」


 女房と連れだって、たまにしか帰らない家に向かう。こいつとも120年以上の付き合いだが、いまだに飽きることはない。俺も女房も「不老」スキル持ちだ。だから、こいつも「擬態」を解けば、いまだに18歳のピチピチの姿で、ケアにも気をつけているから4人も子供を産んだとは思えないボン・キュッ・ボンの体形と、かつて傾国とまでうたわれた美貌を維持してるからな。俺の方も久しぶりに「擬態」を解いて、女房としっぽり楽しむことにしようかね。

いろいろ転生物やトリップ物を読んでいて「とりあえず冒険者ギルドで絡まれる」という「お約束」パターンの雑魚役の人が、本当はメチャクチャ強かったりしたら、と思いついたのが発端です。

それと、以前に趣味だったプロレスで知っていた「ポリスマン」の存在が重なったので書いてみました。

楽しんでいただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 言いたい事のほとんどは他の方々が既に言ってらっしゃるので個人的な感想を。 以前、誰かが負けイベント云々言ってる方がおられましたがむしろ、 転移&転生者達の畢生(ひっせい)掛けて超えるべき最終…
[良い点] 発想、キャラ、展開、文章すべて良かったです。 素直に面白かったです。 [一言] レビューから飛んできたんですが、正直、想像以上の作品。 作品を発表してくれた作者に感謝。 そして、よくぞ2年…
[一言] 敵の居なくなった転生者のこの生き様、格好良く感じました。 RPGの中ボス級でよくある「強制負けイベントバトル」も、 転生者や転移者の多い世界だと、こんな感じの方が丸く収まりそうですね。
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