Blog.観察日記【20XX.03.01】
第4回アルファポリスホラー小説大賞特別賞(初稿:2009年)
からだを洗っていてふと手のひらに違和感が生じた。右腕に異物が付着している。垢と一緒にそぎ落そうと強くこすれば、なにやら太い毛のようなものが生えついていることに気づく。皮膚がひっぱられ運動方向になびくのだ。泡を流して確認すると、僕の毛穴から柔緑の芽がとび出していた。
数日前から右腕が張っていたことを思い出す。どうやら原因はこの可愛げな植物らしい。小さな緑の子葉が申し訳なさそうにぽつりと顔を出している。片側の葉は欠けてしまっていて、これはたぶん僕が強くこすってしまったせいだろう。
かなり滑稽な画だ。さらさらと茂る体毛のその隙間に、細胞壁がこっそりと紛れ込んでいる。動物細胞による数の暴力、四面に楚歌を聞きながらこの命はなにを思うのか。
スイカの種を飲んだ覚えはない。梅干しの種を飲んだ覚えもない。種についてはもっぱら排出する側であり、芽吹いたことに心当たりはない。誰かが種を埋めたのだろうか。新種の寄生植物だろうか。エリイアン・アブダクションの可能性を検討する? SFオタクにすら笑われそうだ。現時点での推理は難しいが、好奇心が強く刺激されている。むやみに引き抜いて血を流すより、ゆっくり見守って行くほうが面白いのではなかろうか。病院で診てもらうつもりはない。リスクとエンタメのバランスは後者が優勢である。どれだけ深く生えているか確かめてみたくもなるが、茎だけ落ちて根が残れば次の機会まで退屈に耐えられないだろう。
日常は万事退屈である。僕は土気色の社会に染まり青さを失った。日常を反芻し、ゆるやかに記憶が展開する。……さいきんあったこと。何かあったこと。プロジェクト失敗の責任を取らされた。減給確定転職検討。あっさり彼女にフラれた。昼休みを延長して公園でふて寝した。子どもが泣いていた。幼い少女だった。木には風船。僕はそれを取ってやった。少女は喜んで僕に菓子をくれた。そこに老婆が通りすがった。僕はもはや、幼女と話せば通報される年齢だ。疑うような視線を浴びて、足早に会社へ戻った。社内の淀んだ空気。吸い殻の積ったデスク。ポケットから取り出した紅い飴。僕はそれを舌で転がしながら部下の尻をぬぐう。そういえばバレンタインデーだった。その日僕は携帯から彼女の写真を全部消した。恨みごとをつづるためにブログを開設した。そのまま放置していた。そして今日、方針を切り替えて「観察日記」をはじめるに至ったのだ。むろん観察対象は右腕の植物である。とりあえず飽きるまで続けられたらいい。新着ブログに載るこの記事くらいは、誰かに読んでもらえるだろうか。
(閲覧24 コメント3 トラックバック0)
[1]名無しさん
通りすがりです。この世にはほんとうに多種多様な症例がありますから、病院に行けば案外すぐに謎が解けるかもしれませんよ。ただの奇病(少し語弊がありますね)でしたら下手に悪化させるのはもったいないので、やはり僕としては切除をすすめますね。
[2]ユッケ
かたりかける 寄生ノ挨拶
[3]名無しさん
釣り乙。出だしから虚言まき散らしてちゃどうしようもない。電波系ブログでも目指してるんですかね。凡人の狂人ごっこほど痛々しいものはないよ。
>>1
病院に行く気は起きませんね。とりあえず寄生種ググりましたけど該当するものはなかったです。せいぜい皮膚が硬化する奇病とかそのあたり。病気というには美しすぎる気もしているんですよね。あなたの言う「ただの奇病」だったら次の報告でブログが完結しちゃいますし面白くない。もし仮に新しい病気だったとしても、研究対象としてからだをいじられちゃうじゃないですか。主観に過ぎませんが僕の症状は医学と相性が悪い気がします。インドのシャーマンに見せるんだったらアリかもしれませんね。
>>2
……。
>>3
嘘ではありません。信じられない気持ちもわかりますが。