7 失われた伝承2
「兄上……異能を使う事は禁じられていたはずです」
真夏だと言うのに部屋に赤々と暖炉の火をともしているレクスにウィリアムは厳しい口調で問いただした。
「判っている。だが、今は非常事態だ」
レクスが疲れたような表情で火に手をかざす。クルクルと火が不思議な動きをしているのがわかったが、それが何を意味するのかウィリアムにはわからない。
「それで、何かわかったのですか?」
「いいや。さっきから試しているんだが……」
「こんな時期に火をたいている人など……」
「松明の灯りでもいいんだ。図書館にだって火種はある。幸いジーン・メヒャーニクが居るらしい一般開放の間は写る……が、それ以上奥を見ようとすると弾かれる」
「結界か何かを張っているのでは?」
「結界……じゃあお前でも見れないか?」
「試しても無駄でしょうね。兄上の異能すらも弾く魔術に私の魔術が通用するとは思えません。そんなに気になるなら直接行ったらいかがです?大体兄上はいつも通り高圧的に押さえつけたんでしょうけど、それが通用する相手では無いですよ。特にメヒャーニク伯爵には無意味です」
ウィリアムの言葉は最もだと思ったのか、レクスは苦々しげに息をついたが、すぐに暖炉の火を消し、腰を上げた。
「行ってくる。護衛は……最少人数だけ連れて行く」
「行ってらっしゃい、兄上」
ゆったりと頭を下げたウィリアムの声を背後にレクスは慌だたし気に城から出て行った。
パッと明るい光が図書館に溢れ、その場所にメルファンが現れた。彼女が図書館に来た時にそこに集っていたのは二人。ミラとジーンの兄妹だ。
「ミラ、呼んだ?」
不安気な様子のメルファンにミラが申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「さっき、陛下が家に来て、過去の伝承を調べて欲しいって」
いずれは来る、と思ってはいたが、随分と早く腰を上げたものだと思う。あの腰の重い貴族どもにしては中々なことだ。
「了解。そんな顔しないでよ。こういう時に役に立たなければレーセに存在意義はないでしょう?」
「そんなこと……。……途中まで一緒に行くわ。お兄様、人が来たらお願いしますね」
「ああ……メル、気をつけて」
軽く目を見張ったメルファンが嬉しそうに笑みを刻んだ。
「もちろん、私は大丈夫よ。レーセだもの」
メルファンはミラを連れて地下に続く道を降りていった。
「メル、さっき王が私から爵位を取り上げる事も出来ると脅しかけてきたのよ」
どこか面白そうな様子で話すミラの言葉にメルファンが呆れたような表情を浮かべる。
「それで、ジーンに継承させて許可を得る、って?」
「そ、判ってないわよね~~~、ここのオーナーはメルだってこと。私たちメヒャーニク家には決定権なんて無いのに」
「それに、例え王族であろうとも中に入っても出てきたときには廃人ね」
「確かに」
「じゃあ、黒の塔についての記録引っ張り出してくるわ」
ニッコリと笑ったメルファンが一番奥にある扉に手をかけた。扉の向こうは何も無いがらんとした部屋だ。メルファンがここに入った回数は数えるくらいだ。二年に一度、魔法陣のメンテナンスの為に足を踏み入れる。だが、その魔方陣を発動した事は一度も無い。
《我は、レーセ。初代の神よ、我の問いに答えよ。我は、黒の塔に関する情報を望む》
朗々と唱えた言葉はまるで風のように浮かんでは消え、話しているメルファンの耳にすら音が届かない。そもそもこれは人が使う音ではない。普通に話しているのに、聞こえてくる言葉が耳慣れたものでは無い事に慣れるまで随分とかかった。最近漸く慣れてきたところだ。
メルファンの言葉に反応して、強い魔力が部屋の中にはじける。魔方陣が床や壁を彩り、様々な情報が頭の中にぶち込まれる。溢れてくる情報にメルファンは思わず悲鳴を上げた。強い痛みと苦しみが体中を襲ってくるのを懸命に耐える。
漸く魔方陣が色を失うと、メルファンはその場にぐったりと倒れこんだ。青白い顔はまるで死んでいるようにも見える。




