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呪われた帝国  作者: 白雪
第1部 黒の塔
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  6 失われた伝承1

 メルファンがマドンナと会っていた頃、ミラは一人の客人を迎え入れていた。メヒャーニク家当主とはいえ、有力貴族が集う議会への出席を兄にまかせきりにしているミラにとって、雲の上の存在。直接話したことどころか、近くで姿を見たことさえ無い。

「……話は判りました。伝承も調べてみます。後ほど結果をお伝えいたしますので今日はお引き取りください」

「悠長な事を言っている時間は無い。こちらの部下にも手伝わせる」

 有無を言わせぬ強い口調にもミラは怯まない。

「お断りします。あの場所に入れるのはメヒャーニク家当主とブロックウェイ家のオーナーのみ。同じ家の人ですらも入る事は許されません。そして、それに例外はありません。たとえ、レクス陛下であったとしても」

 ミラのきっぱりとした口調にセレスティアの若き王、レクスは盛大に顔を顰めた。

「時間が無い、と言っている」

「たとえどんな状況でも例外は認めません」

 きっぱりとした口調。一触即発の雰囲気が二人を包み込んだ。

「爵位を取り上げるとしてもか」

「もちろんです。その場合はあの図書館ごと火の海に沈めます。アレを許された人以外にさらす事はありえません。絶対に」

 レクスの表情が醜く歪んだ。思い通りにならない現状に歯噛みしているようですらある。

「半日です。半日だけ時間を下さい。半日で必ず成果をあげて見せます」

「たった一人で半日など……」

「一人ではありませんし、九十九パーセント可能です」

「そんな口約束など……」

 今にも飛び掛りそうな近衛を抑えたレクスの表情は苦々しげに歪んでいる。武力を使いはしないがミラの言い分に納得していないのだろう。そんな今にも小戦争が起こりそうな部屋の中にどこか緊張感を欠いた声が響いた。

「それで手を打てばいいじゃないんですか?レクス陛下。じゃないと無駄な時間が過ぎるだけで調査さえ出来ないと思いますけど?」

「……」

 まさか王にそんな口を聞ける人間が存在するとは思っていなかった。しかも、それが単なる使用人なのだから驚きもひとしおだ。ミラも、レクスもポカンと声のした方を見た。扉のすぐ前に侍女服に身を包んだ少女、メイビーナが立っている。恐れるどころかまっすぐと強い視線でレクスを睨みつけていた。

「メイ!!」

 一応敬語は使っているが、そこに尊敬や尊厳を一切持たないメイビーナにミラは顔面蒼白になった。彼女はミラにとって使用人であるだけでなく、幼馴染でもある。それ故にあまり畏まった態度を取らないでくれと頼んではいたが、だからと言って王に対してそれは無いと思う。

「な……無礼な……」

 怒鳴り声を張り上げようとした近衛をレクスが腕を振って止めた。

「いい。……わかった、半日だ。それ以上かかった場合は強制的に立ち入らせてもらう。現当主ではなく、メヒャーニク子爵であれば多少の融通は聞くかも知れないからな」

「半日で結果を出して見せます」

 きっぱりと言ったミラに動揺は一切見えなかった。本当にできるという自信を持っているように見える。

「……わかった。それにしても随分と面白い使用人を持っているな」

 チクリとした嫌味にはミラの顔が強張る。今ここで首がはねられなかっただけでもうけものだ。


「あなたね……王に対してアレは無いでしょうが」

 呆れたようなミラの声音にメイはクスクスと笑みをこぼした。

「でも、お陰で追い返せたじゃん」

「そうね……それは感謝するわ。アブニール」

 ミラが部屋の隅に呼びかけると、さっきまでまるで石像のように微動だにしなかった真っ赤に燃える鳥(燃えるといってもその炎は、普段は決して人や物を傷つけたりしないが)がのっそりと立ち上がった。大きさは大型犬ほどもある。それがミラの使い魔と知っていても警戒してしまう雰囲気なため、レクス達の前では全く動かなかったのだ。そうすることで、危害を加えるつもりは無いと伝えていた。動けばたちまち攻撃されてしまっただろう。現に近衛の一人はミラではなくアブニールの方ばかりを見ていた。

「今すぐメルファンを読んできて頂戴。奥の間で調べてもらわないと。……メイはヴィラとアルを。少しでも城の状況を把握したいわ」

「了解」

 アブニールとメイビーナが同時に飛び出して行く。

 メイビーナたちが出て行って約十分後にパッと光が弾け、二人の男女がミラの前に立った。仲良さそうに腕を組んでいて、まるで恋人同士のようにも見えるがこの二人は正真正銘の(きょう)(だい)だ。魔術師ではないアルシャークを連れてくるには手を繋ぐ必要がある……のは確かだが、だからといって腕を組む必要は無い。この二人のシスコン、ブラコンは筋金入りだ。見ているこっちが嫌になるくらいには。

「ミラ、どうかしたの?」

「黒の塔の出現で、城はどう動いてる?」

「魔術師団は殆ど機能していないわ。甘やかされた貴族が結構多いから、隠れているの。機能しているのは平民が多いチームだけ。でも、それも結構がたがた。私たち魔術師にとって神域は絶対的だから。騎士団は?」

「こっちは普通に動いている。一応町で何も無いか見回っている。俺もすぐに戻らないと」

「それで、王が直接動いているのね」

 貴族が多い城の内部の人間は皆おびえてしまったのだろう。それを埋める必要がある騎士団も結構キツイ。ゆえに王族が自分達で動かなければならなかったのだろう。

「陛下が来たの?」

「ええ。……ブロックウェイ家の書庫を開放しろだそうよ。それは無理だから調べて結果を伝えるとだけ言って追い返したけど……メイが」

「メイが?追い返しただって?一般庶民が陛下に楯突いたのか?お前でもきついだろうに」

「当たり前。私ですらやんわりと断ることしか出来ないのに……メイの行動力を誉めるべきなのか……怒るべきなのか、判らないわ」

「恐れ入ったわね……さすがメイ。あ、そうだ。異能者を動かすという話があるみたいだけど……」

「異能者を」

 嫌悪感を浮かべたミラに同じような表情でヴィラが頷いた。

「ええ、と言っても暫くは無理ね。番人は使いたくてうずうずしているみたいだけど、異能者を完全に動かせるのは王の命令のみ。勝手に動かせばどんな処罰が下るかわからないから。王は使う気は余りなさそうだし、今王サイドにお目通り願うのはあの番人の地位じゃ無理だもん」

「確かに……。ありがとう、助かったわ。もう戻っていいわ。……あと、何か動きがあったら伝えてくれる?」

「もちろん」

「了解」

 その返事が終わるよりも早く、ミラの目の前から二人の姿が消えた。

「メイ、私は図書館に行ってくるから、後よろしく」

 ミラもまた、慌てて部屋を飛び出して行く。


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