4 黒の塔の異変4
「どこへ行っていたのですか!!」
部屋に帰るなり聞こえてきた側近のバルレの怒鳴り声にウィリアムは勘弁してくれというように顔を顰めた。
「どこって、いつも通りだ。そんなことより、敬語は止めてくれと……」
「今はそれどころではありません。殿下も黒の塔の異変をご存知でしょう?」
バルレの言葉にウィリアムは視線を黒の塔のある方角に向けた。確かに黒の塔がはっきりと目に映るのは嫌な感じだ。
「黒の塔 蘇りし酷 暗黒の扉が開かれる……か。他に何か異変はあったのか?」
側近であり幼馴染でもあるバルレが、ウィリアムの言葉に顔を顰めた。ウィリアムの表情もまた、いつもの落ち着いた、おちゃらけているようにさえ見える表情から一転、親愛そうなものに変わった。
「あの光は恐らく白の宮殿から漏れたものです。しかも、その頃宮殿にかけていた結界が一時的にとはいえ破られています」
ウィリアムがギョッと目を見開く。暗黒の扉が開かれるという予言のある黒の塔の出現と、破壊神が封印されていると言われている白の宮殿の結界が破られたことが二つ重なったのが酷く恐ろしい。ウィリアムは、恐怖をやわらげるために大きく深呼吸した。それだけで大分落ち着いてくる。
「封印が解かれた、ということか?」
「はっきりとは判りません。今、陛下が緊急議会を召集しています。破られたのはヘクセレイ様がかけたもので、すぐに修復は済んでいます。今までにも結界を一時的に解いた事が無いわけではありませんが……」
「それに、謎の光と黒の塔の出現……か。何も無いと思うほうがおかしいな……」
「ええ」
「だが、暫くは兄上の指示待ちだろう?今ここで慌てても意味が無い」
ウィリアムは自分に言い聞かせるかのように宣言する。今ここで慌てても事態が解決するわけじゃないのはウィリアムにも、バルレにもわかっている。
「それはそうですが……、で、いつも以上に不機嫌そうな顔をしてどうしたんだ?」
ウィリアムの言う事も最もだと思ったのか、バルレは臣下の態度を捨て、幼馴染の顔になった。仕事の話はこれでお終いだ。
「人と会った」
「人?」
「異能者だ。ただ、他の異能者と違って人形の目をしていなかった。アレは意志がある人の目だ。そんな人間の尊厳さえも奪うなんて……」
ギリッと唇をかみ締めたウィリアムにバルレは諦めたような嘆息を漏らした。ウィリアムが異能者の現状を嫌い、そして変えたいと願っているのは知っている。そして、その考えは恐らく間違ってはいないだろう……が、今のセレスティアでは絶対に受け入れられないものである事も事実だ。
それにしても、未だ意志が残っている異能者とは珍しい。
「それで、その異能者と会話をしてきたのか?」
「ああ、グレーディル・サムソンに見つかってしまったけどな」
「…………」
バルレは絶句した。彼に見つかって、その異能者が無事であるとは思えない。
「咎めは無しにと言ってきたから……」
「な……お前、何を考えてるんだ!!そんなことをすれば、その異能者はサムソンにどんな目にあわされるか判ったものじゃないだろうが!!あいつ等が、異能者に情けなんてかけるものか!!」
バルレの怒鳴り声に、ウィリアムの顔色が土気色になっていく。良かれと思っての言葉が今、最低の言葉になってしまったような気がする。寮の前であった少女の顔が浮かんでは消えた。どうか、無事であってくれと、願う事しか今のウィリアムには出来ない。




