間章 双子
「何か……御用でしょうか?」
強張った表情、強張った口調で問いかけるメイビーナを見る目はどこまでも冷たい。メイビーナは彼を知っているが、こんな冷たく、よどんだ瞳をするところなんて見た事が無かった。ほとんど敬語を使わないメイビーナでさえも普通に話す事が躊躇われるような雰囲気を彼は持っている。
「少し付き合ってもらえないだろうか?」
口調は若い印象を人に与えるが、その声はしわがれていて、たくさんの苦難を乗り越えてきた老成した人物を思わせる。
ゆらゆらと立ち上がる彼の空気にメイビーナは思わず後ろに下がった。ここは、神域近くに位置している。たとえ彼がどんな人であろうと魔法を使えるわけが無い。ここまで怖がる必要は無いとわかってはいるのに、湧き上がる恐怖を抑える事もできない。
「な……何を……?」
「ついてくれば良い。お前に断る権利なんて無いはずだ。メルファン・ブロックウェイ」
呼ばれるはずの無い本当の名前にメイビーナはギョッと目を見張った。未だ何の情報も与えなければごまかすことだって出来ただろうが、今となってはもう遅い。メイビーナが浮かべた一瞬の表情が彼の言葉が真実であると物語っている。
どこで、ばれた?ばれるようなヘマなんてしなかったはずだ。双子であることだけではなく、メルファンの本名すら彼は知っている。
「ついてきなさい、大切な、大切な双子の片割れを失いたくなければな」
ついて行っては駄目、と心の奥底で囁く。ついていけば碌な事にならない、と。だが、頭に浮かんだ片割れの姿が、メイビーナから彼に従う以外の選択肢を奪った。
「入りなさい」
クイッと腕を引かれ蔦の絡まる洞窟に入ったメイビーナは思わず立ちすくんだ。血のような、鉄の臭いが鼻を刺す。がらんとした洞窟の床が赤い水にぬれ、その中にかつて人だったモノが横たわっている。青白い顔で死んでいる三人の人の姿に、メイビーナは溢れてくる悲鳴を飲み込んだ。血の中央には大きな剣が刺さっていて、まるで血を吸ったかのように刀身が赤黒く輝いていた。
「な……」
突然背後から押され、メイビーナは剣の前につき飛ばされた。
とっさに掴んだ剣が難なく地面から抜ける。それと共に地面が大きく揺れた。何が起きたのか判らないメイビーナの視線の先に、もう、彼の姿は無かった。
《さあ、待っていたよ。僕の……半身》
耳に響いた声を最後に、メイビーナの意識は闇に閉ざされた。




