2 黒の塔の異変2
赤々と燃える炎がディオスの顔を照らし出している。ついさっきまで感じていた不快な臭いは既に跡形もなく消えていた。ディオスは、その炎が完全に消えるまで、その場所から動こうとはしなかった。まるで、神に祈りをささげているかのように炎に手を合わせる。その炎が終息すると、そこは一面闇に包まれ、自分の体の輪郭さえも危うくなってくる。
そんな、月の灯りしか見えなかった闇夜に、強い光が見えたような気がして、ディオスは思わず王都のほうに視線を転じた。王都のある辺りが一面真っ白な光に包まれているのを見て、軽く目を瞬く。
「何、あれ……?シルフ、判る?」
ディオスの問いに答えたのは、彼女の周りでフワフワと浮いていた少年だった。年は五、六歳前後に見え、その背中には小さな羽根がついている。
《判らないよ。何か嫌な感じだけど……イフリートは?》
シルフに問われ、筋肉質な男がゆったりとした動作で当たりを見回す。彼の体はまるで炎に包まれているかのように赤々と燃えている。明らかに人には見えない彼等は、当然人ではない。ディオスが異能を使って作り出したモノだ。
セレスティアには様々な人種が住んでいる。何の力も持たないただ人、彼らに信頼され、尊敬されている強い力を持った魔術師。そして蔑まれ、嫌われている異能者だ。自然の力をかり、ありとあらゆる力を駆使する魔術師とは違い異能者はたった一つの能力に長けていて、それは一人ひとり違う。
ディオスの異能は物語の登場人物に命を与えるものだ。セレスティアに現存している異能者の中で最も強く強大な力を持っている。そんな強すぎる力を使いこなすディオスはこのセレスティア公国にとって便利な道具で、それ以外の意味を持たない。
《俺にもわからないな。シルフのほうが調べられるのではないか?》
《うーーん、判らないんだよね。何か、神域の側にいる時みたいに力が届かないんだ》
既に光が収まり、闇に戻りつつある王都をシルフは不気味なものでも見るように眺めた。
「力が……?今は?」
《今は声も届くけど、さっき何が起こったのかはわからない。王都は今大騒ぎだけど、誰にもわからないみたい》
ディオスはシルフみたいに嫌そうな表情で王都のほうへ目をやった。大騒ぎになっている今、異能者であるディオスが姿を現わせば碌なことにならないだろう。帰りたくないなぁ、と溜息一つ。最も帰らないわけにはいかないのだが。
「なら、いいわ。私たちが考える事ではないもの。シルフ、寮の前までお願い」
本当は部屋の中に行きたいくらいだが、どの道報告の為に玄関口まで出てこなければならないのだから、寮の玄間に行くのが一番いい。そこなら基本的には他人と顔を合わせなくてもすむだろうし。
「それと、イフリートはいいわ。戻っていて」
《りょうか~~い》
《ああ、気をつけて》
イフリートの姿が掻き消えると同時にシルフが腕を振る。クルクルと風が回り、ディオスの姿を包み込んだ。風が収まった時、そこにディオスの姿は無い。




