2 かつての賢者2
「お帰り~~、って、あんた何泣きそうな顔してるの?」
メイビーナと喧嘩別れのような別れ方をしてわき目も振らずに図書館に駆け込んだメルファンは叫びそうになったのをすんでのところで呑み込んだ。
「な……マドンナ!!なんで……」
「あんたがあんまりに意気消沈してるから、イレウス様がちょっと力を貸してくれたのよ。本来は黒の塔と白の神殿からは出られないんだけどね」
「は……?」
その言葉は、まるで意識があり、動く事ができるという前提の下の言葉のような気がしてメルファンはあんぐりと口を開いた。
思わずマドンナに伸ばした手は何にも触れることなく宙を切った。マドンナの体を素通りして。
「え……??なに??どういうこと??」
「触れないよ、実体じゃなくて意識体だから。私は……レティシア様もそうだったみたいだけど、定期的に意識体が目覚めて黒の塔と白の神殿なら自由に行き来できるの。その中でなら実体を持って物を食べたり持ったりもできるから結構普通に生活してるよ。心配しないでね」
驚きのあまり唖然としているメルファンの様子にマドンナは本当に楽しそうな笑みをこぼした。
「レーセでも知らないことってあるんだ。あの頃。話を聞いた時はなんでも知っているんだと思ってたんだけどね。……メルファン……ううん、メイビーナ、この鍵は黒の塔に通じる鍵」
今、世間一般で呼ばれている名ではなくて、本当の名を口にしたマドンナは手に持っていた……実体が無いはずなのに何故か手に持つ事が出来ていた鍵をメルファンの掌に落とした。それは、シンプルで、でも青い宝石がキラキラと光っている。
「その鍵を使えばレーセであるメイなら黒の塔に出入りできるって。それに……もしかしたら最後の最後に私に会うことも」
「え?」
「あ、ごめん、何でもない。とにかくさ、私の意識体が目覚めている時はこの鍵が青く光るから、そしたら、この鍵を使って奥の間に入って。そうすれば黒の塔に通じるらしいから……レーセであるメイにしか使えないから、他の人には内緒ね?」
「え……ちょ……マドンナ!!」
慌てて呼びかけるメルファンの言葉には一切意識を向けずに、マドンナの姿は掻き消えた。唖然としていたメルファンは慌てて立ち上がると、奥の間に駆け下りていった。
結果黒の塔へ繋がっているという事実は本当で、さっきの今で訊ねてきたメルファンをイレウスともども、マドンナが笑ってくれたのはまた、別の話。




