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呪われた帝国  作者: 白雪
第1部 黒の塔
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  2 封印の時2

「そなたが、ディオス……か?」

 ゆるゆると顔を上げたディオスの目に心配そうに眉を潜めているレクスの姿が目に入った。クレアとメルファンが魔法を使いながらマドンナを運び出していたが、どうやらレクスはついてはいかなかったらしい。

「へい……か……?」

 未だかすれる声で何とか答える。そっと首筋に手を触れると、首にくっきりと人の指のあとがついているのが判った。

「ディオス、今から私がやる事は他言無用で頼む」

「え……?」

 ディオスが答えるよりも前に、レクスがそっと首筋に触れる。そこから暖かな炎が上がったのを目の端で捕らえ、ディオスは唖然と目を見開いた。その炎は暖かいが、熱くは無く、どこか心地よい温度だ。普通の炎とは違う事がディオスにもわかった。レクスの手が離れるとディオスの喉の痛みが取れていた。首についていた指の跡も跡形も無い。

「え……?異能……?」

 さっきまでかすれていた声も、今はきちんと出ている。

「色々縛りがあるから、内緒にしてもらいたい。立てるならば、白の神殿へ行くか?」

「はい。ヘンデカ」

《今度はどこへ?》

「白の神殿のすぐそばへ」

《わかった》

 ヘンデカはレクスには視線一つよこさずに指を鳴らす。軽い浮遊感と共に神殿の側に落とされた。ディオスの横ではレクスも地面にしたたか体を打ちつけたらしく、軽く悶絶していた。

「大丈夫ですか?」

「ああ。……私は王だ。それなのに、見ていることしか出来ぬ」

 苦しげに顔をゆがめたレクスの視線が白の神殿を囲んでいる数多くの魔術師に注がれる。魔術師ではない……否、それどころか異能持ちであるレクスが今あの場所に近づく事は許されない。もちろんそれはディオスとて同じ事。

 ディオスは何かを願うようにジッとその一団を見た。その中にウィリアムとクレアの姿があるのを見て、重い溜息をついた。

「……どうか、無事で」

 それは、ディオスがはじめて願った、心からの願いだった。願い、見守る事しか出来ない自分がとても歯がゆく感じる。







「え……?ここ……白の神殿?」

 移動魔術を駆使して白の神殿の中まで移動した事にクレアはギョッと目を見開いた。神域で魔法を使える人なんて居るはずが無いという根底が覆されたような気がしたのだろう。

「そなたが、今代のレーセか……」

 神殿の奥から出てきたイレウスの言葉にメルファンが大きく一度頷いた。

「すべての条件は満たしたな。封印をするとしよう」

 イレウスが抱き上げていたレティシアの体をそっと床の上に降ろし、マドンナに近づく。

「マドンナ……。ごめん」

 ギュッと手を握り締めたメルファンが悲しげに目を伏せた。もう、止められない。それは判っているし、ここで反論すればマドンナを含めた全ての人間が姿を消す事も知っている。だが、マドンナはメルファン・ブロックウェイにとって唯一昔から側に居る友人なのだ。簡単に諦めるなんて出来ない。


   メルファン、大丈夫だよ。今までありがとう


 不意に耳に聞きなれた声が聞こえた気がした。意識が無いマドンナが言うはずが無いのを知っている……空耳なのも判っている。でも、メルファンは溢れてくる涙を止めることが出来なかった。

 もう、二度と彼女に会うことが出来ない。

「メルファン・ブロックウェイ。泣いている暇は無い。外で発せられた魔力を集めてマドンナに渡すのはそなたの役目だ。それは、神域で魔法を使う事が許されているレーセにしか出来ない」

 イレウスの言葉に、小さく頷いたメルファンが、目を閉じ軽く深呼吸をする。

「クレア、そなたは外に行っていっせいに魔力を白の宮殿に向かって放たせろ」

「はい」

 聞きたい事は多々あるのだろう。だが、クレアはよけいな事を口にはしないで、急ぎ足で白の神殿から出て行く。

 それを見送ったイレウスは、マドンナの体を透明の柩に入れ、それを神殿の奥に運ぶと、そっと蓋をした。

「そなたの中に溜まった魔力と我の持つ魔力を柩に送る。そのイメージをしっかりと捕らえろ」

 セレスティアの魔術はイメージや想像が大切で、ベテランでも失敗する事がある。だが、今の魔法は失敗は許されない。もし、失敗すればこの閉ざされた国は跡形も無く消えてしまうだろう。後には何も残らない。それが……先代までのレーセ達がセレスティアを『呪われた帝国』と呼ぶゆえんでもある。メルファンを含めたこの国に住む全ての人間が生きた証すらも掻き消えるかも知れない事実は、彼女に強い恐怖をもたらした。外国はセレスティアと言う国の存在を知らない。本当に……何にも……

「よけいな事を考えると失敗する。我もいるのだからさほど気負うな」

 グルグルと回る思考を打ち消したイレウスの様子は酷く落ち着き払っていた。神なのだからこの状況には慣れているのかも知れない。そんな、彼の顔を見ると、今までの焦りが嘘のように落ち着いてくる。焦っている時におちついている人の存在はとてもありがたいものなのだと、再認識した。

「はい。やります」

 メルファンが意識を集中させると、強い力が自分の中に溜まってくる事が判る。それを爆発させないようにマドンナが眠る柩へ送るイメージを確立した。大きな、強い力の渦が、まっすぐと柩に向かっていく。

 どのくらい続けていたのか、さっきまで押し返してくるのを感じていた圧迫感が消え、力がまっすぐに柩に注がれるようになった。

 パッと目の前で光が弾け、白の宮殿を飲み込んでいく。

「ユシテルの封印は終わった。次はもっと長く持つだろう。マドンナの魔力はそれだけ強い」

 その言葉を耳の奥に聞きながら、メルファンの意識は闇に沈んでいった。


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