6 赤の泉2
赤の泉は、なるほど、たしかに「赤」といわれるに相応しい場所だ。木が生い茂る森の一角に広い空間があり、そこから柔らかな光が漏れている。この光が、森の中にある灯りの発生源なのかもしれない。泉が強い光を発しているのがすぐにわかった。
光は上に上り、森の中に消えていくとともに透明な綺麗な光になっていっているが、泉から発せられる光は赤い色をしていた。それが木々を照らし、この空間全体が明るい赤に包まれている。純粋に、とても綺麗だと思った。
「綺麗……」
ポツリ、と呟いたディオスに同意するようにウィリアムが小さく頷いた。その目はまっすぐと赤の泉を見ている。
「ここで、リアンは命を落とした。……たった一人だったのかな」
ポツリと呟いたウィリアムの顔は今にも泣き出しそうに歪んでいた。
「……殿下は優しすぎます。……王弟でなければ幸せだったでしょうに」
ポツリと呟いたディオスの言葉にウィリアムはサッと顔を上げた。その目に強い光を見て、今の言葉が失言だった事を悟った。
「殿……」
「おれは、今の場所にあることを後悔した事も、嫌だと思った事も無い。それに、俺だけじゃない、クレアも……兄上だって優しい」
「そうですね。でも……二人は非常になりきれないあなたとは違う」
その言葉にウィリアムが目を見開く。そんな彼から目をそらしたディオスは赤の泉にそっと足をつける。
「殿下、いつか私たち異能者が自由を得ることが許される世界を、と言ってくださったこと、嬉しかったです。もっと色々あなたと話してみたかった」
ディオスの言葉で、彼女が生きて戻る事を考えていない事に気がついたウィリアムの表情が強張る。
「戻れ。絶対に、生きて戻ってきてくれ。頼む」
今にも泣き出しそうな強い願いが、ディオスの乾いた心を潤す。まるで、一筋の光が差したみたいに。
一瞬、嬉しそうに笑みをこぼしたディオスの体が、赤の泉に吸い込まれていく。強い、強い明かりが赤の泉から漏れ、ウィリアムの目を焼いた。
光が収まり、視力が戻ってきたウィリアムは、泉の方に目をやり、あっと小さく呟いた。
「ディオス!!」
ウィリアムの大声が森の中に、木霊となって響いた。それは、ほんの一瞬の出来事だった。