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呪われた帝国  作者: 白雪
第1部 黒の塔
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  5 赤の泉1

「離せ。バルレ、離せ」

 さっきまで喚いていたウィリアムが静かな声音でバルレに命じたのは黒の塔のある山から下りてすぐだった。ついさっきまでの素直な反応から一変して、冷たく、本気の怒りを感じた。

「何故、了承した?」

「それが一番早いからです。……殿下はたった二人の人間の代わりに、その二人をあわせた全員の命を奪うのですか?」

 それでは意味が無い、と問答無用で言い切ったディオスの言葉にウィリアムが息を呑む。

「だが……他に何か方法が……」

「無いと思う。相手は神と人とのハーフ。私たち魔術師じゃあどんなに逆立ちしても叶わない。イレウス様の力でさえも一人じゃ無理なのよ?私たちに何ができると言うの?」

 ウィリアム達を追うように少し遅れて山から下りてきたクレアの言葉に今度こそウィリアムは言葉を失った。

「バルレ、お兄様と一緒に王都に戻ってレクス兄様に今の事を伝えて」

「クレア様はどうなさるのですか?」

「ソレーユと一緒に赤の泉へ行くわ。……一人には出来ないし、結果がどうなったとしてもそれを王都に伝える必要があるから」

「なら、俺が行く」

 未だ納得がいっていないような表情を浮かべているウィリアムの言葉にクレアは冗談じゃないというように顔を顰めた。

「冗談は止めて。お兄様が行ったら……」

「俺は、生贄を認められない。だから、王都へは行かない。これが逃げだって事くらいわかっている。でも……俺には無理だ」

 今にも、泣き出しそうな、叫びだしそうなウィリアムからディオスは目を離すことが出来なかった。本当に、素直で優しい人。王族に生まれていなければもっと楽だっただろうに。

「それは、私に主を置いていけ、と言うことですか?」

「ああ。これは命令だ。それに、クレアとディオスだけはそれはそれで物騒だろうが。それならお前がクレアについていてくれる方が安心だ」

「は~~、判りました。でしたら王都へは私とクレア様で、赤の泉へはディオスと殿下で行きましょう」

「……殿下、邪魔しないで下さいね」

 それが不敬な言葉だと言う事はわかっている。それでも、言っておかなければならない。

「ソレーユ。気をつけて、それから……ごめん」

 抱きつかれ、悲しげな声音で告げられた言葉にディオスは声も無く頷いた。クレアを恨む理由なんて無い。

「クレア、ありがとう」

 小さく呟いた声が、彼女に届いたのかは、ディオスには判らない。






 魔法や異能が使えない領域から出た事はすぐにわかった。ウィリアムの足元に黒い猫が走り出てきたのだ。真っ赤な瞳をした猫なんて本来はありえない。これは、ウィリアムの使い魔だ。

「ウルラ。今から赤の泉に行くけど着いてくるか?」

「また、途中で置いていくってことか」

 ぶつぶつと文句を言うウルラをウィリアムは抱き上げて、あやす様にゆっくりと背中を撫でた。

「ウルラ、ごめん。でも、決めた事だから」

 きっぱりと言い切ったウィリアムにはこれ以上何を言っても無駄だと思ったのかウルラは恨めしそうに睨みはするものの、それ以上文句を言ったりはしなかった。

「ディオスは……大丈夫そうだな。クレアたちが話をつけてくれたのか」

 ウィリアムの言うとおり、覚悟していた痛みがディオスを襲う事は無かった。

「ええ。……ヘンデカ」

 ディオスの言葉に答えるかのように空気がクルクルと回り、一人の女性が姿を現した。古の森で魔法を使うのはやはり精霊王や魔法使い系の人物よりも彼女がいい。

《何?》

 冷たい声音と怪しい見掛けにウィリアムとウルラが一歩下がった。どこか警戒している雰囲気がある。

「ディオス、彼女は……」

「……私の異能の産物」

「ディオスの異能って……?」

「本の登場人物に命を与える」

「ああ、それでか」

「それで?」

「ディオスはさ、他の異能者とはどこか違うからさ。さっきまでクレアのお陰かなとも思っていたんだけど、どっちかって言うと情報源が多いから、かもしれないな」

「さあ、どうでしょう。……ヘンデカ、私たちを赤の泉の近くまで運んでくれない?」

《了解》

「ちょ……ま……」

 何かを言いかけたウィリアムの言葉が途中で途切れた。体が浮かび上がる感覚と共に景色が変わる。

 ディオスたちが連れてこられた場所は、やはり古の森の中だったが、さっきまでの薄暗い雰囲気が一変し、まるで木自身が発光しているかのように柔らかな光に包まれていた。

「赤の泉は……」

《あっち、すぐに私も、その使い魔も入れない領域に入るから》

「そう、ありがとう。戻ってて」

 ディオスの言葉に答えるようにヘンデカはすーーっと音も無く姿を消した。

「ウルラ。悪い」

「無事で戻れ。……二人とも」

 最後にディオスを見たウルラの表情はわからないが(猫だし)、本心で言っているような気がして、ディオスは軽く目を見張った。本当に主従揃ってお人よしな人達(いや、一人は、猫か?)だ。


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