間章 黒の塔のひととき
ドンッと大きな衝撃を体に感じ、イレウスはうっすらと目を開けた。どのくらい眠っていたのか知らないが、体中がぎしぎしと痛み、悲鳴を上げる。
「イレウス様」
聞こえてきた聞覚えのある声にイレウスは驚いたように目を瞬いた。
「レティシア!!」
イレウスは慌てて入口付近に立つレティシアのそばに駆け寄った。白の宮殿と黒の塔の繋がりを封じる要となっているレティシアは白の宮殿の奥、人が入れぬ場所にある透明の柩で眠っている。そこから魔力を供給し続ける事でこのシステムが成立する。
レティシアは時折イレウスの様子を見に来る……が、それは魔力の余波が造る意識体としてだ。だが、今ここにいる彼女には体がある。ほんの少し眠っている(……といっても恐らく数十年だが……)間に何があったのだろうか。
「すみません……封印が……」
切れ切れに言葉にするレティシアの口調は強い疲れが滲んでいて、それだけでもとんでもない事が起こっているのがわかる。
「何故……たとえ周囲にある筆頭魔術師の封印が解かれたとしても、レティシアの魔力を破るなんてこと出来るはずが……」
「……当時の私よりもよほど強い魔力を持つ人がいます」
レティシアの言葉にイレウスは目を閉じた。この世界に生きる全ての魔力を感じ取るように。そこに一際強い魔力を感じた。しかも……
「たしかに……だが、これは……ユシテル……と……」
呆然と呟いたイレウスの表情に色が刺す。驚きと、それを打ち消すほどの喜びが表情にありありと表れていた。
「イレウス様……?」
「リ……ア……ン……」
ハラハラと涙を流すイレウスは酷く苦しそうで、それでいてどこか嬉しそうなそんな不思議な表情をしていた。