転校
職員室から出た俺は急な転校話に少なからず動揺していた。何と言ってもいきなりの転校である。俺は母親に電話をした。しかし繋がらず、父親も同様だった。
「何でこんな肝心な時に・・・。」
などと愚痴ってみたものの繋がらないものは繋がらない。そんな事をしている内に俺は教室へとたどり着いた。
教室に戻り先生から貰ったプリントを見て俺は驚愕した。
転校の手続きについて
初夏に入り陽の光が益々強くなって来ている今日の候、皆様はどうお過ごしでしょうか。さて先月決まりました、三原優一君の転校の件ですが、以下の通りになっておりますので、御本人、先生方の御確認を宜しく御願い致します。
転校日時 7月5日
集合場所 上野原駅西口コンコース
集合時刻 午後1時
その他
集合時刻については厳守でお願いします。また、住居・家具・家電は当高校が用意致しますが、衣類・貴重品・その他の所有物については持参しても構いません。なお、御一人暮らしの場合(アパート、宿舎は除く)自宅は必ず施錠をし、当高校の窓口にお預けください。
私立白彩学院高等学校理事長 斎藤 敏明
色々ツッコミどころはあるが、まず集合時間。現在8時50分。つまり4時間10分で支度しろと言うことである。
(ヤバイ!集合時間まで4時間しかない!!)
俺は、教科書類をカバンに詰め込むと、教室を出た。出る前に、ふと教室の中を見て短い間だったか世話になったな。と思いつつ今度こそ教室を後にした。
自転車で坂を下り、俺はいつもよりかなり早い帰路へと着いた。街には平日だからか、サラリーマンやお年寄り、子供連れの親子しかいなかった。
家に着いた俺は、取り敢えず家にあったボストンバックとキャリアバックに、私服・通帳・小遣い・漫画などを詰め込み、家と自転車に施錠をし家を出た。
家を出てから1時間半、俺は集合時間前に集合場所である、この上野原駅西口コンコースに着いたのだが・・・
「此処でどうしろって言うんだ?」
プリントを見直すも集合場所しか書いておらず、取り敢えず1時まで待つことにした。
それにしても、周りは相変わらずお年寄りとサラリーマンと親子連れしかいない。確かに平日の午後だ。逆を言えば俺のような高校生が、こんな時間に私服でここに居ること自体がおかしいのだ。
そんなことを考えていると1人の女の子が目に入った。女の子と言っても大体俺より頭半分位身長が小さく、肩まで伸びた茶色味かかった髪は内側にハネており、白いミニのワンピースに黒のショートパンツ、ブラウンのブーツを履いた女子高校位の女の子が辺りをキョロキョロしていた。
(なんだか彼女も俺と同じ場違いな感じがするな・・・)
なんて思っていると、彼女は俺に気付いたのかこっちを見て、持っていた紙を見るとふっと微笑み、こっちにやってきたと思うと、
「ふにゃっ」
転んでいた。
いきなり自分の前から消えたのでビックリしたが、直ぐに駆け寄って手を貸した。
「だ、大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です。」
幸い怪我は無いようで、立ち上がると洋服をポンポンと叩き砂埃を落とし、こう言った。
「初めまして。美原悠一さんですよね?白彩学院2年の高瀬知奈です。これから私のパートナーとして一緒に頑張っていきましょう。よろしくお願いします。」
と言ったのだった。