壊れたもの壊れた君壊れた僕
過度ではありませんが、残虐的な描写を含んであります。
苦手な方は閲覧をご遠慮願います。
神様 僕は罪を犯しました
神様 僕は大切なものを忘れてしまいました
神様 僕は僕の物語を捨ててしまいました
神様 だけれど僕は幸せです
ё ф Я й ю
一瞬にして頭は真っ白になった。
ああ、僕は、何をしてしまったのだろうか。
目の前に見える赤い、赤い……ああ、貴方は。
「リオ…助けて…リオ…」
血塗れのその手。
血塗れのその…銀の尖物。
「リオ…ねえ」
汚らわしい。触るな。触れるな。僕の目に映るな。
今まで――は何度――を蹴り倒してきたのですか?
今まで――は何度――を見捨てて、あざけ笑ってきたのですか?
僕の大切なものを、貴方は奪って、何を欲するのですか。
「ねえ、リオ……」
「それは何…?」
「……何のこと?」
「貴方の…その、右方に倒れてるのは…何ですか?」
「……ああ。玩具よ。でも間違って壊しちゃったの」
彼女はニヤリと笑った。
「ねえ、リオ。退屈で死にそうなの。ねえ、助けて」
僕は彼女を無視して、血塗れになったその…子猫に寄る。
深く切り刻まれた傷から、血はとどまる事も無く流れ続けていた。
首につけた黄色いリボン。
リボンに通した小さな鈴。
僕が、この子にあげた、首輪。
生まれた時すでに、この子の母親はこの子を助けて、野良犬によって殺された。
野良犬は、彼女に見つけられて、死んだ。
この子猫の様に切り刻まれて死んだ。
僕は彼女に知られないように、子猫を育てた。
なのにどうして。
ああ、きっと、彼女と僕はあまりにも似てるから「間違えてしまった」のだろう。
ごめんね。ごめんよ。
僕は子猫を抱きかかえて、部屋を出ようとした。
「リオ、私を置いていくの?」
彼女は、尖物を床に投げて、僕に駆け寄った。
「ねえ、リオ、私を見捨てるの?」
僕は彼女を見つめた。
「……すぐ、戻るよ………姉さん」
*** ****** * * *** * ** *
それは振り返るほどの過去の残骸物では無かった。
振り返るべき道の物語では無かった。
母さんはこの街で生まれ、
僕が母さんから生まれ、
母さんがこの街で死んでいった。
父さんはこの町で生まれ、
彼女が父さんの腕に抱えられて、
父さんがこの町で死んでいった。
それは寒い冬の日。
雪が降り続く、真っ白な。
僕と彼女は二人で大きな邸に住んだ。
けして心細くはなかった。
思った以上に彼女と僕はとても合った。
白が赤に変わるその日も。
「リオ……ねえ、壊してしまったの」
彼女は肌蹴たブラウスから露出する肌を隠しもせず
真っ白な細い腕にそぐわない、大きな尖物をぶら下げて
真っ白な頬を真っ赤に染めたその顔で僕をみた。
その傍に横たわる狂った男。ああ、彼は。
割れた酒瓶を頭に挿して、僕を見る。
「壊してしまったの。だって、貴方を罵倒するんだもの。
貴方はコレの為に必死で働いてくれてるのに、
コレは貴方を無残なものだというんだもの。
貴方はコレになにをしたというの?
貴方はコレに何かを言われる筋合いなんてないわ。
だって貴方は、コレの言う罵倒でさえも、黙っているんですもの。
だから壊してしまったの。壊してしまえば貴方は、笑ってくれるのでしょ?」
彼女は僕をずっとみていた。
モノをはっきりと映さない目で。
彼女は歌うように僕に言い聞かせた。
僕は彼女の代わりに傍で泣いた。
彼女を抱きしめて泣いた。
初めての愛に。初めての温もりに。
(ああ、目を背けていたのは僕かもしれない。)
壊れたものは僕を壊そうとした 現実へと。
壊れた君は壊れたものを壊そうとした 僕の為にと。
壊れた僕は壊れた物語を愛した 君を。
ずっとずっと。
僕らは繰り返す。
*** ****** * * *** * ** *
土の中で眠る茶色の毛並みの子猫。
木製で出来た十字架に黄色のリボンをつけて、眠りにつく。
その隣は子猫の母親。
その隣は子猫の母親を殺した犬。
その隣には子猫の母親を殺した犬の飼い主。
その隣には子猫の母親を殺した犬の飼い主の恋人。
その隣には……。
彼女は繰り返すだろう。
彼女は繰り返さなければならないのだろう。
僕は繰り返すだろう。
僕は繰り返さなければならないだろう。
僕は眺めた。
果てなく続く、棺の十字を。
彼女の優しい微笑みを。
ё ф Я й ю
「おかえりなさい、リオ」
ただいま、愛する人……――
壊れたもの壊れた私壊れた君の対になります。