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1、失われる意味、あるいは不要の理

全体的に暗いです。ジメジメ注意!!


 願いを叶えるために、何を差し出してもかまわなかった。

 ただ一つを叶えられたならば、こんな私にも、きっと


 意味を見つけられる。





 久しぶりに呼ばれて行けば、そこには魔術師と呼ぶには余りにも貧相な少女。

 どこか不安げでそわそわしているその姿は正に人間という生き物だった。


「あんたが、俺のマスターだな 」

 俺の言葉にそいつは小さく頷いた。

 ふと、血の匂いがして見れば魔法陣は血で書かれており、少女の手には包帯がまかれていた。

 己を代償にしての召還。それならば、俺が呼べたのも頷ける。


 本来、俺のような上級悪魔はよほどの魔力がなければ呼び出せない。

 しかし、それは己の躰と魂を代償にすればできないこともない。

 魂だけでなく躰もその対象に入れたなら対象の悪魔の階位は格段に上がる。

 なんせ俺たち悪魔は魂も欲しいが、地上を自由に移動できる躰もそれ以上に欲しいのだ。


 地上を自由に行き来できるならば、いちいち召還に応じて出向く必要もなくなる。

 生憎この少女の躰はまだ若く、使い勝手も良さそうだ。

「いいぜ、あんたの望みを言ってみな。大抵の願いなら叶えてやろう」

 俺の言葉を聞いて少女はこちらを見据えて、口を、開いた。


「私の父を、生き返らせて下さい」







 愛された記憶とか優しい笑顔とか、そういう物は知らなかった。

 ただひたすら実験に没頭する背中とか、神経質そうにビーカーを掴む手とかならば、物心ついた時から知っていたけれど。


 父は科学者として成功をおさめていたから生活に不自由はなかった。

 だけど母はいなくて、家で私はいつもひとりだった。

 会話は皆無。父の実験室はガラス越しにしか見たことがない。


 それでも私は父が好きだった、とても尊敬していた。

 あの人の娘である自分がとても誇らしかった。


 だから私は、父と同じ研究を学ぶことを決めた。

 少しでも父のやっていることがわかったならば近づけるかもしれない。

 そしていつか、私もあのガラスの向こう側へと行けるかも知れない、とそんな願いを抱いて。


 だけど知ったのは、私と父の間には決して超えられない壁があること。

 研究も技術も、結局私は凡人の域を脱せないままであちらになど行けないということ。



 そんな現実にうちひしがれていて、私はある日どうしようもない間違いを犯す。

 それは全てを呑み込む炎を生み出し、そして



 父を殺した。









 私の願いを聞いた悪魔は苦々しげな表情をした。

「それは、できないこともない、が」

「では、早くやって下さい 」



 父が生き返る瞬間に私はやっと自分の意味を見いだせるのだ。

 何もできない私、父を殺した私。それらは、その瞬間に赦される。


 私の全てと引き替えに、父を世界にかえしてあげよう。



 はぁ、とため息をついた悪魔は忌々しげに私を見た。

「だけどそれにはお前の差し出したものだけじゃ、足りねぇんだよ。その魂と躰だけでは人を生き返らせることは、できねぇ 」

「足りない…?」

 私の全てなどでは、何も、できない?




 瞬間、世界が暗闇に染まっていった。


 あぁ、そういえば血を流しすぎたのだった。

 でも私などもう、要らないのだ



 もう、なにも意味がないから。

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