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第五話 弔い合戦

後日。当然のように相手方の王は

侵略の準備を進めていた。


一方でアレだけ横柄な態度だった

王の姿は見る影もなく

狩られる側の獣のように

怯える表情を浮かべて日々を過ごした。


結局のところ、王には覚悟が足りなかった。

当然だ、嫉妬心程度の気持ちで軍を動かしたのだ。

相応しい罰が待っていただけのこと。


むしろ私が感心し、そして脅威に思ったのは

相手国側の王とその側近たちであった。


そもそも取り逃したこと自体も驚嘆に値する。

だがそれはまだいい。


私はすぐに怒りに駆られ、

軍を動かしてくるかと考えていた。


しかし敵はそうはしなかった。


着実に、しかし確実に息の根を止めるべく

粛々と、まるで平時かのように攻める準備を整えていた。


はじめから分かっていた。

相手はミスをしない。


戦ってはいけなかった。

もはや同盟は愚か、和睦すら困難であろう。

残された選択肢は二つ。

降伏か、徹底抗戦。


しかし降伏する場合、王の命を差し出すことはほぼ確定だろう。

この王がそんな事をするはずもなかった。

そして降伏した場合、謀を企てた

私の命も散る可能性は極めて高いだろう。


相手を冷静に分析する。

冷静ではあるが相手は怒っている。

これは間違いない。


感情抜きであれば、我が国との同盟が

成り立たなくとも放置すれば良い。


しかし相手は全力でこの国を滅ぼそうとしている。

私はほとんど置物と化した王に代わり

軍師時代のように指揮を取っていた。


「軍師殿、堅国の王より、

 同盟の件承諾したとの返答をいただきました」


「ご苦労さまです。引き続き他国とも同盟の件

 掛け合ってみてください」


「了解いたしました」


私は対抗するために他国との同盟を目指すことにした。

座して死を待つほど私も潔くはなかった。


「堅国が我が国と同盟とは……真か?」


久しぶりに山賊の王の目に光が宿った。


それもそうだろう、堅国といえば

穏健派ではあるものの

そこそこ規模が大きい国である。


軍事力ではこれで拮抗した。

堅国の国力を考慮すれば国力においてはこちらが上回った。


「どうやら、堅国王も、かの王に対して

 恐怖心を抱いていたようです。

 あの王はあまり動かないので、書状の文言には苦労しました」


「でかしたぞ、流石は神の手だ」


王の表情は急に明るくなった。

私の心の中とはまるで真逆だった。


この国が存続できる確率は五割未満ほどだろうか。

危険領域であることは変わらない。


そして月日は流れ、時は来た。






「報告します、敵国の軍がこちらに向かって進軍してるとのこと。

 兵数は約四万ほどです」


「同盟をもってしても進軍は防げなかったか……」


王はまだ狼狽していた。


私は迅速に指示を出した。


「こちらも迎撃体制を取れ! 直ちに出陣の準備だ!

 マルコはいるか?」


私はこの国で唯一交渉事が任せられるこの男を呼びつけた。


「今すぐ堅国王に謁見し、至急増援を申請しろ!」

「わかりました、直ちに出立いたします」


怯える目で王は私を見た。


「勝てるのか?」

「勝てます」


私はその場にいる者たちを見渡した。

この場にいる人間たちのどれだけが

最後まで立っていられるだろうか。


いやそんな事は考えてる余裕はない。


考えるんだ。


敵軍は四万。

かの国の総兵力は十万ほどと想定していた。


私は二、三万ほどの兵で来ると想定していたが

その数の大きさは本気度を示していた。


何故なら近々あの国はもっとでかい国との摩擦を抱えていたからだ。

ここで兵数をすり減らすのは明らかに下策。

故に必要最低限の数で来ると踏んでいたのだが

少しそこは読みを外したようだ。


しかしやることは変わらない。

我が国の兵力は二万人。

堅国には二万の増援を要求しているが……

おそらく一万強、いやここは最低限とみて一万と予測する。


増援を考慮して、こちら側が三万、相手が四万。

相手が至って平凡な国であれば造作もなく勝てただろう。

しかし相手は人材大国である。


平押しされればこちらが負けるが

こちらは防衛側である。

だが、果たして相手が無策で来るかと言われれば

それはないと断言できる。


「王よ、貴方の出番です。

 この戦は劣勢ですので王の出陣は指揮の維持のため必須となります」


「わかった……繰り返すが勝てるのだな?」

「戦に絶対はありません、ですが勝ちます」

「信じたぞ、そなたの言葉」




今回の戦は嫌な予感がする。

私は久しぶりに戦に従軍することにした。




相手は重装歩兵が前列を並べている。

ゆっくりと、しかし着実にこちらに進軍してきていた。

一方のこちらは殆どが軽装兵と軽騎兵。

しかも堅兵はまだ到着していない。


典型的な平押しの陣形。

当然だがこのまま当たれば負ける。


そこで王は吠えるように言った。


「よし、軽騎兵三千は俺に続け。

 騎馬で相手を撹乱して相手のペースを乱すぞ!」


山賊上がりが如何にも考えそうな策略だった。

だが考えが悪いわけではない。

普通の相手では十分に通用するだろう。

しかし今回は相手が悪い。

私は叫んだ。


「なりませぬ」

「何故だ、このまま行けば

 こちらはぺしゃんこになるぞ」

「恐らく罠です。相手方がこちらの動きを

 読んでいないとは考えにくいです」


そういうと王は不愉快なニヤけづらをして私を見た。


「ふん、お前は結局はあの王を仕留めそこねた男だ。

 策を練ることができてもタイミングを見計らうことができぬのか。

 いくぞおまえら、俺達の底力を見せつけてやろうぞ!」


大きな歓声に周囲は包まれ、高い士気を維持したまま

騎兵三千は飛び出していった。


しかし当たり前だがそれは読まれていた。

重装歩兵は呼応するように全速力で前進してくる。

そして騎兵との衝突するその瞬間であった。


我が軍の騎兵三千は凄まじい矢の嵐に包まれた。


――伏兵。戦術の初歩である。


どれだけ戻ってくるだろうか。

せめて王だけでも戻ってきてもらわねば困る。


結果、残存兵は二千四百、うち四百名が負傷。

開幕早々、千人も脱落した。


戦には勢いというものがある。

それは時に策すらも凌駕する。

敵はそれを見逃すような真似はしない。


重装歩兵は我が領地を犯し、更に進撃し続けている。

その有り様を見て敗走して来た王は呟いた。


「撤退だ……籠城すれば……」

「なりません」


私は王の言葉を切って捨てた。


「今こそ進軍の時です。全兵に進軍の号令を」


王は怒鳴った。


「馬鹿か貴様!たった今返り討ちにあったばかりで

 相手は勢いづいてる。この流れは押し戻せるものではない!」


「だからこそ今なのです。

 むしろ今でなければならない。

 失った兵の命を使うのは『今』しかない!

 全騎兵、全速力で敵兵へ突撃せよ!」



先程の王の鼓舞ほど士気は上がらなかったが

私の指揮に騎兵七千は突撃を開始した。


「馬鹿が……貴様、帰ったらそのクビを叩き切ってくれる」

「首を切るかどうかはこれを見てからにしてください」




その瞬間であった。

敵の重装歩兵を挟むように

堅国の騎兵の伏兵による攻撃が開始された。


敵は完全に統制を失い、そこに我が軍の騎兵が蹂躙した。




「貴様……この戦いは」


「そうです、貴方が負けたから勝てるのです。

 貴方の戦い方は相手の思うツボだった。

 だから相手はそれ以上はないと踏んだ。

 そして見てください」


もっとも私が指揮をしていればもっと被害は小さかったが。

たまには現場にもでてみるものだ。

その時にしかわからない息遣いみたいなものがある。


私たちは望遠鏡で戦況を見極めていた。


敵兵は撤退を開始しているが、前衛を張っている重装歩兵は

正面への攻撃力は高いが側面からの攻撃に弱く

加えてその装備の重さは撤退を困難にしていた。


「まぁ……五千程度でしょうかね。

 こちらの兵は恐らくほとんど減っていないはずです。

 兵の士気維持のため、

 帰還兵への称賛は徹底してください」




戦を前にして私は感傷に浸るどころか

淡々と、損耗と戦果を数え続けていた。


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