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第四話 器量と犠牲

同盟の席には私も同席することとなった。


この王は実に良くも悪くも自分のことを理解していた。


おそらく相手の王が拒否するであろうギリギリのライン。

その限界量まで金品と兵糧を勝ち取り、同盟に結びつけたのであった。



そして開かれた宴席。

相手の王を私は見た。




私は全身に寒気が走った。


この王は危険だ。

私と同質の人間であると直感で理解した。

これ以上観察するのは危険だと本能が訴えている。


しかし敵を理解するのは自分にとっての呼吸同然であった。


私でなくても、誰でもわかる。

利発さと野心がその目に宿っている。

背は高くなく、外見が特別優れているわけではない。

が、何故か惹きつけられる。




ふと、その王は私の目線に気がつくと

まっすぐと私のもとに向かってきた。


「……どこに居るのか分からなかったが

 こんなところに居たのか」


その王は目を輝かせながら私を見ていた。


「初対面だとは思いますが……どこかでお会いしていましたか?」


その王は笑みを浮かべつつ言った。


「いや済まない、私が一方的に君に想いを向けていたのだ。

 神の手と呼ばれたお主を一度でいいから見てみたかった」


「恐れ多きお言葉です」


その時私は山賊の王の目が光るのを見た。

全ての王は例外なく猜疑心を持っている。

歴史書を紐解けばそれを非難する者もいるが

必要な才なのだ。


しかしこの王は場を選んだうえで発言した。


「もう少し私が早く君を見つけてさえいれば、

 臣下にしたかった。残念だ」


そんな私と王の間を割って入るように

一人の女性が現れた。


「王様、よろしければもっとお酒は如何かしら?」


あの女だ。

その笑顔に、私は一瞬だけ目を止めた。


そうしてその危険な王は離れていく。

その背後を並ではない、

凄まじき巨漢が静かに黙って連れ添っていた。




私が盃を口に運ぶとそこに山賊の王がやってきた。


「少しいいか? 場所を変えたい」

「わかりました」


王と私は宴の席を離れた。




そこはいつもの謁見の間とは違う小さな密室。


王は渋い顔をして言った。


「お前の策は素晴らしかった。

 全てはお前の知略のおかげだ」

「もったいなきお言葉……」

「だがな……」


王の顔は歪んでいた。


「あの王の態度は気に食わねぇ。

 俺のおんなをまるで自分の女のように見やがる」


この王らしい言い分だった。


「それにお前にまで色目を使ってやがった。

 最低限の道理と言うものがあるだろう?」


猜疑心というのは恐ろしい。

一度芽吹いてしまえばそれは肥大する一方で

収まることを知らない。


「恐れながら申し上げます。

 事前に申しました通り、敵対は避けるべきです。

 ここは何一つ我慢を……」


「ならん!」


王は恐らく怒鳴りたかったのだろう。

しかし静かに、しかし腹から響き渡る声を出した。


……つまり彼は本気だということだ。



「軍師よ、あの男を亡き者にしてしまおう」

「王よ、私から言えることは一つだけです」


私は軽く机を叩いて、

小さく、腹の奥底から声を絞り出した。


 「……覚悟はできていますか?」


その言葉に王は一瞬考え込んだ。

ここは分水嶺だ。

敵対は間違いなく下策。

それはこの王も理解しているはず。




しかし口から出た言葉は本能だった。




「ダメだ、許せねぇ」


私は流石にため息を我慢できなかった。

しかし王はそれを咎めることはなかった。


「王よ、あの者を仕留めるということは容易なことではありませぬ」

「そんな事はわかっている。

 だからお前に聞いている」


私は王の目をまっすぐ射抜くように見た。


「策は……あります。

 ですがいくつかの条件があります」


「なんだ、言ってみろ」


王の言葉はこころなしか少し弱々しかった。


「まず王の奥方様にあの男の夜伽をさせるのです」


王の顔は真っ赤になったがそれでも黙っていた。


「流石にその場になれば警備は最低限となります。

 しかし最後の難関があります。

 それがあの男の護衛です」


「あのものが尋常ではないのは俺にもわかる。

 どう突破する?」


震える声で王は問う。

私は変わらず目を見据えて答えた。


「あの護衛のもつ巨大な武器を没収しましょう。

 そうですね、宴席ですから酒を飲ませるのが良いでしょう」


「だがあの男、先程から一滴も飲んでおらんぞ」


「奥方様に飲むように仕向けてもらいましょう。

 さすれば相手の王自ら、護衛に飲むように勧めるでしょう」


王の顔色は平静さを取り戻していた。

この愚かな決断を私は止めようとは思わなかった。


むしろ自分よりよほど人間らしいとすら思った。


私は矛盾している。

同盟がなくなれば戦になる。

血が流れるのだ。


許せないと糾弾するべきなのだろうか。

しかししたところでこの山賊の王は止まらなかっただろう。

つまりいつも通り。

今日もまた必要なだけの、

命という名の供物を差し出すのだ。


「寝室には百名程度の

 兵士を伏兵として用意してください」


「本当にそれでうまくいくのだろうな?」


私は王を睨みつけるようにして言った。


「戦に絶対はございません。

 この作戦の成功率は七割強、といった所でしょうか」


「三割も負けるのか?」


私は更に語気を強めていった。


「勝つ気ならばそもそもこのような謀はするべきではない。

 それを許せないと断じたのは王です。

 決断は王に任せます」


王は再び顔を赤くし、眉間のシワを震わせた。


「……お前の言うとおりだ。わかった」







その後、相手の王の護衛は酒をのみ、

酔っ払って武器を手放した。

しかしそれでも酔いつぶれることがなく

王の側に付き添い続けていた。




そして夜が更けた。


寝室の燭台がそっと消えた時。


ついに戦いの火蓋は切って落とされた。




山賊の王の配下百名が同盟国の王に刃を向けた。


二対百。

常識で考えれば十割に近い勝率。









しかしあの護衛は凄まじかった。



結果はこちらの兵七名死亡。

三十名以上が手傷を負った。


敵方は救援に来た一名の増援を含む二名の死亡。

しかし増援は馬に乗っていたため、相手方の王は馬で逃亡してしまった。


相手の護衛は素手の上に泥酔状態にも関わらず

武装した兵士を素手で殴り倒し、武器を奪い取り

全身に致命傷を負いながらも君主を守り通し

彼は立ったまま絶命した……。


敵ながら見事としか言う他なかった。






戦果の報告を受け、私は今後について

次に起こるであろう、絶望的状況を想定していた。


もとより無理がある作戦だった。

私としては上出来だと考えていたが

それ以来、山賊の王は報復を恐れ

怯えるように日々を過ごすことになった。


いっそ相手の王を取り逃した事について

激情し、怒りに任せて、私を処断してくれればよかった。


しかし……それすら選べぬのが、

今のこの王の限界だった。


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