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第二話 死神

祖国を離れて数年の月日が流れた。


世はまさに群雄割拠。

多くの血が流れた。


私は隠遁して過ごそうと考えていた。


責務と言う名の重圧から逃げたかったのだ。


もう一生世に出ることはあるまい。


私はそんな事を考えつつ、とある村の片隅に居を構え

日々書物を読み、過ごしていた。






そんなある日のこと。


二人の憲兵が私の家を訪問してきた。


私は一瞬居留守を使うか悩んだが

それはただの先延ばしであると判断し、彼らを迎え入れた。


要件は簡潔である。


「国王様が直々にお会いしたいと申している。

 よろしければ出頭願いたい」


断れば、良くて追放。

悪ければ……処刑だろうか。

私に選択肢はなかった。






対峙する新たな王。

威厳のある風貌だがまだ若い。

顔つきからは聡明さを感じさせるが実態はどうだろうか。


私もただ漠然と日々を過ごしていたわけではない。

近隣諸国の情勢の分析は行っていた。


この国に住んでいたのは肥沃な土地があること。

また戦争からは遠いこと。

何より王が善政を敷いている。

平和な生活を送るのに最も適していると判断したからであった。



しかし人柄と政治は別だ。

私は頭の中で何を言われるかイメージして

王の言葉を待った。


そして開口一番、彼は私に言った。


「死神がこの国に何の用があって住んでいる?」




……明らかに敵意を剥き出しにした言葉。


死神。それは私が敵国からつけられた通り名だった。

それを今この場で持ち出す意味は明確だった。


「他国の命を受けてここにいるわけではございません」


まずは身の潔白は主張するべきだと判断した。

王は間髪いれずに答えた。


「それはもう調べはついている。

 私は何故住んでいると聞いている」


先程に続き、威圧するかのような声。

明らかに歓迎されてないのは明白だった。


「今や私はただの平民でございます。

 私は仙人ではございません。

 当たり前のように食事を取り……」


「そのようなことを聞いているのではない!」


怒号にも近い、力強い言葉。

王の言葉は続いた。


「率直に言おう。私はそなたを追放するか

 それとも処刑するか、考えている」


私は沈黙した。


答えに窮した訳では無い。


この王は嘘をついている。


何故なら本当にそのつもりならば、

私と謁見する意味などない。

既に実行されているだろう。


すると強気だった王は途端に声のトーンが変わった。




「神の手の異名は伊達ではないな。


 すでに理解しているのだろうが、

 私はお主を処刑するつもりはない。

 だが返答次第では追放する」


「で、王の不安は何でございましょう。

 状況的に隣国の事ではあると推察しますが」


「如何にも」


王はどっかりと背中を預けていた背中を

前のめりにさせて両手を合わせた。


「既に知っての通り、近年隣国が軍拡を進めておる。

 とはいえ、隣国は我が国の軍事力と比較すれば

 脅威とはなり得ないと私は考えている。

 が、念の為聞いておきたい。そなたの考えを述べよ」


聡明な王だ。

正確な現状把握をしている。

それでいて自分を絶対視していない。

そこから来る猜疑心が

私への警戒心にも繋がっているのだろうが……


私は少し考えたうえで発言した。


「恐れながら申し上げます。

 逆に何故隣国が軍拡を押し進めているのか。

 消去法で考えると答えは見えてきます」


王は唸った。


「確かに、かの国は周辺諸国と比較して

 我が国の次に規模が大きい。

 隣国が他国に攻め入るのであれば現状でも十分。

 それでも軍拡を進める理由となれば……」


王の声は腹から響くような声に代わり、

手は強く握りしめられていた。


私は半歩前に出た。


「考慮するべきは、隣国がこの国に拮抗する方法です

 十分な兵力を蓄えるのを待っているとは考えにくい」


「しかしそれは無理筋だ。

 どうしてくる?」


恫喝するかのような声。

私は目を見開いた。


「私が隣国の立場であれば合従軍を結成します」


「そうすれば一気に我が国を

 倒すだけの兵力が整うというわけか。

 ……ならば今すぐ討ち滅ぼしてしまおうか!」


王は怒りを隠そうとしなかった。

しかしそれに隣で聞いていた大臣が王に向かって発言した。


「恐れながら申し上げます。

 我が国は戦争を避けてきたことで

 ここまで発展を成し遂げてきました。

 優秀な人材も、戦争を忌避して我が国に集っています。

 ここで戦争となると、人材流出の懸念がございます」


大臣の言うことは最もだった。

事実として、私もここにいるのは

それが理由の一つである。


「……わかった。ならば一週間だ。

 神の手よ、お主の力があれば短期間で

 隣国を落とすことも容易かろう。

 代わりに我が国に滞在することを許可する。

 厚遇も約束しよう」


……この王は優秀だが結論を急ぎすぎる。




そして私はもう血を流す選択をしたくなかった。


「私から申し上げられることは二つです。

 一つは王が申された通り、短期間で攻め落とすこと。

 しかしこちらはおすすめいたしません」


王は顔をしかめた。

しかし私はそれを無視した。


「もう一つの案は連衡策れんこうさくでございます」


「連衡とな?」


王は更に前のめりになり私に回答を迫った。


「そうです。予め隣国に与する恐れのある国と

 強い国交を結び、同盟関係を築き、

 合従の成立を妨害するのです。

 さすれば隣国は必然的に合従軍を諦めざるを得ません」


「仮に隣国以外の国がこちらの交渉に応じなければどうする?」


「いえ、必ず応じます」


私は力強く答えた。

王は前のめりだった姿勢をもとに正して言った。


「何故言い切れる」


「王が敷いてきた善政と戦争を忌避する姿勢があるからです。

 そしてそのおかげでこの国は豊かで強大です。

 王がもし周辺諸国の立場として

 性急な軍拡を押し進め、戦争の匂いのする国と

 戦争を避けて評判の良い強国の二国が

 同時に同盟を申し出てきた時

 どちらと同盟を組みますか?」


「……なるほど」


王は深くため息を付く。


「死神といったのは失言だった。

 そなたは血が流れるのを避けようとしてる。

 もし良ければ私の配下としてこの国を……」


「申し訳ございませんが……

 私は王の近くにはいないほうが良いです。

 少しだけ時間を頂いた後

 この国からは出ていこうかと思います」


その言葉に大臣は声を荒らげた。


「貴様、王のご配慮を踏みにじるつもりか!」


それを王は片手で制した。


「よい、ただ理由を教えてくれぬか?」


私は深く息を吐いた。


「王は私が隣にいれば、いつか必ず

 どこかの国に弓を引く日が来るでしょう。

 その証拠に貴方は私を見て隣国への攻撃を命じた」


「ならぬか」


「王の優れた所は常に民草を大切にする、王道にあります。

 しかし私と共にいればいつか覇道を歩もうとするでしょう。

 それは王の良さを殺してしまう。

 私がいないほうが貴方は強い」


それだけ言うと私は立ち去ろうとした。

それを王の声は呼び止める。


「そなたの安寧を私は破壊してしまったのだな。

 済まなかった。だが何かに困ったときは

 いつでも戻って来るがよい。

 私はそなたをいつでも歓迎するぞ」


「もったいなきお言葉でございます」





その後、私がこの国に戻ることはなかったが

この国は戦国の時代に長く平和を享受することとなった。


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