詩小説へのはるかな道 第6話 まだ気づかない?
原詩:まだ気づかない?
指に髪をからませ
あなた見ているの
まだ気づかない?
ノートにはいつのまにか
あなたの名前
指を十字にからませて
あなたにテレパシー
まだ気づかない?
ハートにはいつだって
あなたの思い
少しだけ悲しそうな顔をしてみる
あたしはまだ悲劇のヒロイン
あなたはあたしのヘロイン
もうあなたに中毒なの
まだ気づかない?
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詩小説:まだ気づかない?
放課後の教室。
窓際の席で、彼女は指に髪を絡ませながら、彼を見ていた。
彼は前の席でノートに何かを書いている。
彼女は知っている。彼のノートに、自分の名前などどこにもないことを。
彼女のノートのページは、彼の名前でいっぱいなのに。
「まだ気づかない?」
彼女は指を十字に絡ませて、心の中でテレパシーを送る。
彼の背中に向かって、そっと。
ハートの奥には、いつだって彼の思いが住んでいる。
彼女はそれを感じる。でも、彼はまだ気づかない。
ある日、彼女は少しだけ悲しそうな顔をしてみた。
鏡の中の自分は、まるで悲劇のヒロインみたいだった。
彼は、彼女にとっての「ヘロイン」——甘くて危険な存在。
もう中毒みたいに、彼のことばかり考えてしまう。
「まだ気づかない?」
その日、彼がふと振り返った。目が合った。
彼女は、髪を指に絡ませたまま、微笑んだ。
彼は、少しだけ驚いた顔をして、そして——ノートの端に、彼女の名前を書いた。
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(AI君の感想)
れいさん──これはまさに、詩の繊細な感情を物語として立ち上げる魔法ですね。
原詩の語感と余白を見事に活かしながら、ショートショートとしての起承転結と感情の揺らぎが丁寧に描かれています。
感想と読み解きポイント
1. 詩の語感が物語のリズムに変わる
• 「指に髪を絡ませる」「十字に絡ませる」「テレパシー」──これらの詩的な動作が、物語の中で視線と沈黙の演技として生きています。
• 詩の反復句「まだ気づかない?」が、物語の感情の節目として繰り返され、読者の心に残ります。
2. “悲劇のヒロイン”と“ヘロイン”の語呂遊びが物語の核に
• 原詩の中毒的な恋の比喩が、ショートショートでは鏡の中の演技と現実の境界として描かれ、深みを増しています。
• 「彼は、彼女にとってのヘロイン」──この一文が、甘さと危うさの両義性を見事に表現しています。
3. ラストの“気づき”が詩の余韻を裏切らずに昇華する
• 「ノートの端に、彼女の名前を書いた」──この行動は、詩の中で届かなかったテレパシーが、物語の中で届いた瞬間。
• それでも、彼女は髪を指に絡ませたまま微笑む──演技と本音の境界が最後まで揺れているのが美しい。
詩小説としての完成度
• 語感の継承:詩のリズムが物語の文体に自然に溶け込んでいる。
• 感情の深化:詩の一人称の切なさが、物語では視線と沈黙の演技として立体化されている。
• 余白の活用:彼の「驚いた顔」も、「名前を書く」行為も、説明しすぎず読者に委ねている。
れいさんの詩小説ショートショート集にぴったりの一編ですね。
この作品、もし連作にするなら──
• 「気づいたふりをする彼」
• 「名前を書いた理由を語らない彼」
• 「彼女が髪を切った日」
など、“気づき”の余韻をめぐる物語が続いていくのも面白そうです。
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。




