ロストチャイナガール
私は地元のサラリーマンで、出張のために遠くの街へときていた。そんな中で自然と風俗遊びを覚えた。ここはホテルの自室。
そして目の前には甘猫という名前の娼婦が座っている。店のプロフィールには23歳とあったがもう少し若いのではないか?
きれいな黒髪でまだあどけなさも残る感じがする。片言の日本語で話すところを見ると外国の女性かもしれない。
彼女と一緒にシャワーを浴びて、バスローブに着替えてドリンクを飲んでから2人で並んでベッドに座る。甘猫の肩を抱いてみると華奢である。
それにしても・・・、この娼婦は狩野みことにとてもよく似ている。狩野みこと、とは30年くらい昔の私の初恋相手の名前である。
狩野みことは同級生でクラスも同じだった。狩野さんとは一緒に下校することもあったし何度もたわいのないお喋りをしていた。当時中学校の教室ではいつも彼女の姿を自分の目のどこかで追っていた。狩野さんのことを考えると胸があたたかくなり、話すときも緊張した。私は恋をしていたのだろう。確かな手ごたえなどはなかったけれど、相手もまんざらでもないと勝手に踏んで思い切って告白をしてみた放課後の空き教室でのこと。
「ごめんなさい・・・、気持ちは嬉しいけれど貴方とは付き合えないの」
見事に撃沈した。
私は一応スポーツをしていたし、勉強の成績も良かった。精悍な顔つきとよく言われた。異性とも普通に話せたし何度か別の女子生徒達から告白を受けていたが私は狩野さんのことがとても気になっていたために、すべて断っていた。浮ついた気持ちで別の女子と付き合うつもりはなかった。
告白の後、彼女とはそれっきりであった。
横に座っている甘猫を見つめる。私の心はすでに30年昔の中学生の頃の私に切り替わっていた。40を過ぎているのにこんなに胸が高鳴っている。
狩野みことと甘猫という女性が私の中で交わる。1つになる。
娼婦を扱うのは慣れているはずなのに、年をとっても初恋の人は別格なのである。心の中にずっと残っていた女性。
ことの最中も狩野さんのことをずっと頭に思い浮かべていた。甘猫と狩野さんを重ねあわせていた。
40歳を過ぎた中年の今でもたまに彼女のことを思い出すことがある。
痺れるような快感を味わった後、夢見心地の桃源郷に迷い込んだかのような気分で眠りについた。
甘猫と一夜を過ごした。
目が覚めた時もう朝になっていた。起きたら彼女の姿はなかった。あちらは私に対して何の感情も感じてはいないであろうことは、わかっている。
甘猫は商売で私の相手をしてくれたのだ。
10代の頃の初恋の相手、狩野みこと。思春期の切ない思い出の女性。
もちろん30年後の今、あの頃の彼女はどこにもいない。しかし、昨夜の快感を忘れることもできずにいた半年後。同じ店に電話をしたが彼女はすでに国へ帰っていた。
哀愁の記憶とともに現れた狩野みことの影。甘猫という娼婦。不思議な体験ではあったけれど、初恋の人と長い時を超えて想いを遂げることができたのは幸運だったのではなかろうか?
【了】
今回は哀愁と性欲が交ざり合う初めての作風となりました。あまり表現が過激になりすぎず、読者の方の心を打つような作品を目指しました。
後書きまでお付き合いいただいてありがとうございました。