7、全て私がやりました
なるほどねぇ。
ここでも運の要素が強いってことだよね。
ぶっちゃけ、運にはあんまり自信が無いんだよね。
「確認させて。私は最低でも天国、運が良ければ生き返るんだよね?」
「ああ」
「で、閻魔は?」
「わしか?」
「そう。閻魔はどうなるの?」
「わしは閻魔の職を解かれ、その後はどうなるかは分からない。地獄に落ちるのは間違いない。数年後に何かに生まれ変われれば運がいいと言えるだろう」
閻魔は大きな目でじっとこっちを見た。
「閻魔も生き返ることとかあんの?」
「元は人間だった」
「へぇ!閻魔になりたかったの?」
「まさか。この職を言い渡されて、やっているだけだ」
「閻魔も不運だね」
「ああ」
困ったなぁ。
フータには会いたいけど、運の要素に頼れない私としては、閻魔が気の毒に感じる。
「私がやりました」
閻魔が立ち上がりそうになった。
「もう一度、言え」
「実は……えっと、確信犯です。私はサギとか誘拐とか?暴行とかもやりました」
「何を言ってるのか分かっているのか?」
「もち。もう私の舌、抜けると思うよ、ほら」
くれてやるよ。
私のしょぼい人生なんて。
「そりゃ、抜けるだろうよ。正子は今、嘘をついたのだから」
「ほら、ほら」
そう言って、閻魔の足に飛び乗った。
「もうさ、一思いにいっちゃてよ!」
「ま、待て」
犬じゃないんだからさ、そうそう人に「待て」しないでくれない?
「判決にはそれなりの手順がある」
「あ、そゆこと?じゃ、待つよ」
しばらく手続きっぽいのをしてたけど、フータやパパに報告できないなら見ても意味ない。
「正子、そこに座りなさい」
いよいよ来たね。
おっけ、覚悟は出来てる。
これからは、フータとのこと思い返しながらやってくから、地獄でいいよ。
バンバン
木槌を打ち付ける音がした。
「判決を言い渡す」
裁判みたいなんだな。
「正子は地獄行きだ」
覚悟してたけど、なんか、やっぱ、ちょっと、ショックだな。
閻魔が立ち上がった。
ここからじゃ、顔とか見えないくらい大きい。
「え、閻魔大王様!」
私と同じくらいの小鬼が、閻魔の足の指にしがみ付いている。
「どうしたの?」
「冤罪を、冤罪の罪を認めようとされています!」
「はああああぁぁぁ?!!?!?」
私も閻魔にしがみ付いて、大きな声で言った。
「異議あり!異議あり!」
「なんだ、正子」
「閻魔さぁ、さっき私が言ったこと聞こえてなかったの?」
「聞こえた」
「私がやりましたって言ったの!罪を認めたんだよ?」
「ああ、だから有罪にした。だが、ここで冤罪を生み出す分けにはいかない、私も命をかけてこの仕事をしている」
「え、でも……それじゃ、閻魔が……」
「私の心配をしてくれたのは、正子、お前が初めてだ」
「ごめん」
「なぜ謝る?正子はそうやって、いつも自分を犠牲にし、他者をかばって来たのだろう」
「まさか!」
閻魔ってば、実はこの仕事キライなのかな?
だったら「命をかけて」とか言わないよね。
私は運が悪いから、行けても天国どまりだっつーの。
それじゃ、無意味だって―の。
「閻魔さ、考え直しなよ」
「考え直すべきは、正子、お前だ」
ああ。閻魔ったら。
どうしよう……
どんなにお礼を言っても足りないくらい、嬉しい。
私は生まれて初めて強運を引いた。
奇跡的に生き返り、フータとパパとまた会うことができた。
●● 15年後 ●●
今、私とフータは作付けに忙しい。
新潟に来て、米農家になったんだ。
もちろん簡単じゃない。でも、食いっぱぐれが少ない気がして、話し合って決めた。
でっかいお腹を抱えて、あぜ道を歩く。
「正子ちゃん、無理しないでねー」
パパももちろん一緒だ。
「大丈夫、大丈夫」
フータとパパにおにぎりを持ってきた。
「お昼にしよー!」
「正子さん!僕が行くから、そこにいてください!」
「はーい」
よっこいしょっと。
ちび達と一緒に日陰に座る。
敷物にたくさんの水筒が並ぶ。
「ママ、おにぎり!」
「まって、フータとパパが来てからね」
ハイハイしてるおちびを捕まえる。
あぁ、いい匂い。
あぁ、幸せ。
あの日、閻魔がくれたチャンスに心から感謝している。
たぶんだけど、閻魔も「ついてない人生」を送ってたんじゃないかな。
似た者同士な気がして、閻魔が生まれ変わるチャンスを、今度は私がお返しする。
閻魔だって、これまで一度も使って来なかった「運」が、たんまり残っているはずだ。
もうすぐ7人目が生まれる。
お腹に触れば、分かるんだ。
この子は絶対に男の子だ、勇ましくてゴツイ感じの。
ぶすっとした顔をしてるけど、正義感の強い優しい男の子に違いない。
6人の子宝を紹介するね。
お り え (織江)
か り ん (花梨)
え ま (恵麻)
り ん だ (りんだ)
な お い (直威)
さ ち お (幸男)
次の子の名前はなんにしようかな!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
過去に書いた全6話の短編「あれ?もしかしてグッピーになっちゃった?でも熱帯魚も悪くないかも……ま、幸せだから、何でもいっか。 」も、よろしければ読んでみてください!
明日からは「日記を書き換えたら……」という、全26話のお話を連載します。
大人の恋愛を書いてみたのですが……後半、ちょっとホラーっぽい(?)というか、書いててゾクッとしたりして……(*^▽^*)
またお会いできると嬉しいです!
あおあん