6、賽銭を投げなかったからって……
週末、フータとデートに行った。
私は自転車を持ってないから、パパのを借りて、フータと2つ隣の駅まで頑張って漕いだ。
「こんな、とぉーいの?足パンパンなんですけど」
早速、弱音を吐く私。
「もうですか?僕はまだ行けますけど」
「おかしいな、フータ足遅いのに……」
「なんか言いましたか?」
「言ってない」
よく、正月のテレビでやってる大きな寺だか、神社だかに来た。
「手、合わせようよ」
「お賽銭は投げるんですか?」
「私の笑顔で支払う。5円分の価値はあるはず」
「泣いた顔は20円分の価値がありました」
「4倍に跳ね上がるの?そっちの方が得じゃない?」
「「あははは」」
フータと話すの楽しい。
フータと居ると幸せ。
フータのこと好き。
「ここ、涼しくていいね」
水筒飲んじゃったから、手洗うところの水飲んだ。
「おにぎり食べましょう」
「玉子焼きも作ってくれたんでしょ?」
「はい。他におかず無いですけど、玉子焼きは甘いのとしょっぱいの、2種類あります」
「マジでー!サイコー!」
もう、私たちは一緒に住んでる、同棲だね。
エッチなことはしてないけど、フータはまだ高2だしね。
私も見た目はモテそうだけど、性格こんなだし、男性経験とか皆無だよね。
「帰り、自転車漕げます?」
「漕ぐしかない……」
「ダイエットと思って、頑張りましょう」
「私はダイエットなんて必要ないの」
「おっしゃる通りです」
「「あはははは」」
帰りは行きよりも車の量が多かった。
パパパパパ~!
大きなクラクションを鳴らされた。
あっ、ペロリンだっけ?ピロリンだっけ?
あの日、ほんの少しだけ会った顔、今、思い出した……
「え?」
なんで、こっちに突っ込んでくんの?
痛いじゃん!
フータ!
声が出ない。
「正子さん!」
フータ、危ないから。
こっち来なくていいよ。
賽銭ケチった罰かな……
ばち……あたったのかな……
●●●
「そんなこんなで、私は地獄に落ちたって分けですか?」
「お前、閻魔大王様にそんな口を聞いては……」
「だから!お前って言わないで!正子なの!」
「正子」
「何?」
「ここがどこだか分かっているのか?」
「地獄の入り口じゃない?」
「その通りだ。私は地獄の番人、閻魔だ」
そんなの秒で分かるし。
どこからどう見ても閻魔だし。
「で?」
「嘘をついている者の舌を抜く」
「いーじゃん!話、早いじゃん!」
嘘なんてついてないから、さっさと無実、証明して見せるし!
私は閻魔の近くまで走って行って、舌を「べぇ~」と出した。
「何をしてるんだ?」
「抜いてごらんよ!私、嘘ついてない!犯罪してない!」
それにしても閻魔ってデッカイ。
足の親指だけで、私の背と同じくらいあるんじゃない?
フータに教えてあげたいな。
「後悔するなよ」
「おっけ」
閻魔が爪の先で私のベロを引っ張ってる。
痛くも痒くもないって言いたいところだけど、若干、くすぐったい。
ウケる。フータに話したい。
「こ、れ、は……」
「ね?分かったでしょ?抜けないでしょ?」
小さな鬼が閻魔の近くでひそひそと話している。
「早く元に戻してよ」
「ちょっと待て」
どんだけ待たされるのかな。
閻魔も聴取の記録残したりするのかな。
パソコン入力な下手な警察官を思い出して、ちょっと笑った。
「お前は……正子は、ここに手違いがあって来たようだ」
小鬼の書類を見た閻魔が、怖い顔でこっちを見た。
「でしょ?謝らなくてもいいよ。閻魔が悪いんじゃないもんね。フータのところに戻してくれれば、それでいいから」
フータってば驚くだろうな。
私が地獄の入り口で閻魔に会ったって言ったら、なんて言うんだろ。
「正子は既に死んでいる」
「え?」
「だから、行き先は天国か地獄しかない。生き返ることはない」
やば
しろ
頭、真っ白。
いけな。なんにも考えられなかった。
でも、そーだよね。
ペロリンだかピロリンだかの車に引かれちゃったもんね。
「そっか、死んでるのか……なら……」
「なら?」
「もう、どっちでもいいよ」
「天国でも地獄でもいいと言うのか?」
「うん。どっちでもいいよ」
「なぜだ、正子」
「もうフータに会えないなら、そんなの関係ないし」
閻魔は大きな溜め息をついた。
溜め息をつきたいのは、こっちの方なんですけど。
「正子よ、投げやりな態度は後悔を招くぞ」
「私は投げやりなんかじゃないよ」
「どっちでもいいはずがないだろ?」
「ホントに、どっちでもいい。閻魔の都合のいい方で構わないよ」
閻魔はゴホンと大きな咳を一つした。
「一つ例外がある、がの……聞くか?」
「閻魔大王様!それは!!」
「黙れっ!わしの権限じゃ!」
閻魔の話を遮ろうとした小鬼が怒られた。
「それ、聞かせてよ」
「わしが冤罪を犯せば話は別だ」
「冤罪」
「そうだ、罪なき人を罪あり人として裁くことが唯一にして最大の罪となる」
「私のことを地獄に送ると言うと、閻魔が罪に問われるの?」
「ああ」
「で、私はどうなるの?」
「冤罪の罪をくらった者は少なくとも天国には行ける」
「少なくとも?」
「幸運の持ち主は生き返ることがあると聞いたことがある」
短いお話でしたが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!
明日で最終話となります。
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よろしくお願いします。
あおあん