5、共犯者なんていません
自慢の変顔は1日で元に戻ってしまった。
「正子さんは、人目を引きますよね」
菜園で水をやりながらフータが言った。
「お金、とろっかな」
「いくら?」
フータが笑いながら乗ってきた。
「賽銭くらいなら行けんじゃない?5円とか」
「いい線ですね」
「20人がチラ見したら、私に100円が入る」
「う~ん、いい商売、思いつきましたね」
「「あははは」」
昔から美人だって、よく言われた。
でも、得したことなんてない気がする。
「フータさ、美人好き?」
「はい」
「ふーん」
「正子さん、イケメン好きですか?」
「別に」
「そうですか」
植え直したニンジンは3分の1くらい復活に成功した。
「フータさ、今度私とデートしない?」
「します」
「どこ行く?」
「お金のかからないところにしましょう」
「じゃ、自転車乗って寺巡りでもするか」
「おにぎり持って行きましょう!」
●●●
その日の学校帰り、警察の人が正門の前に経っていた。
「あの、ちょっといいですか?」
「え?私ですか?」
名前を確認され、警察手帳を見せられた。
「ご自宅には何回も伺ったんですが、いつもお留守のようで」
「あ、あまり家には帰ってなくて。友達のところに……」
「ちょっと聞きたいことがあるので、署まで同行願えますか?」
「え。嫌です。ここで聞いてください」
警察官は困った顔をして、お互いを見ていた。
私は急に不安になって、フータの手を握った。
「君、先日、赤ちゃんの……」
「そうですけど。その件ですか?」
「いや、別件です。受け子のバイトに心当たりないかな?」
咄嗟にフータの手を放した。
「同行してもいいです」
「ご協力感謝します」
「正子さん……」
「ごめん、フータ。明日、話すね」
私は小さくフータに手を振った。
警察署では、パソコン入力がスーパー遅いオジサンが、私の言ったことを頑張ってタイピングしてた。
「ちょっと、まって、今のところ、もう一度」
「この家には、一人で行きました」
「一人で?確かなの?」
「はい。一人で行きました」
「えっと、一人で行きました……と、じゃ、次」
音声入力とかにすればいいのに。
「何をしに行ったんだっけ?」
「封筒を預かりに行きました」
「誰に頼まれて?」
「知りません」
「えっと、知らない人に頼まれて、封筒を受け取りに行った……と、合ってる?」
「はい」
警察官のくせに馬鹿なの?要領が悪い罪で罰せられればいいのに。
「おかしいと思わなかったの?」
「そういうバイトですから」
「お金貰ったの?」
「いいえ、頼まれた仕事出来てませんから」
「えっと、バイトで行ったが、仕事が完遂せず金銭の授受はなった……と、いいかな?」
なんか言ってないこと出てきた気がするけど、なんでJUJU?好きだけど。
「はあ」
「なんとなく分かって来たけどね、ここ大事だから、再度確認させてね」
(何が再度だよ!同じこともう、何十回も聞いてるじゃん。)
「一人で行ったのね?」
「だから『はい』って、さっきから何度も言ってるじゃないですか」
「かばってもいいことないよ?」
「誰をかばうって言うんですか?」
「……最後に内容を確認し、ここに署名をしてください」
結局、夜まで拘束された。
ヘロヘロでお腹空いてたし、フータとパパに会いたかったけど、迷惑かけちゃいけないから、仕方なくパトカーで送ってもらった自宅でお菓子食べて寝た。
●●●
「正子さん」
いつもは放課後まで声をかけたりしないのだけど、フータが3年生の教室まで来てくれた。
「昨日は、大丈夫でしたか?」
警察官が学校の前で待ってたこと、パトカーで連行され、夜まで警察署に居たこと、全てが噂になっていた。
「好奇心ってすごいね。なんで知ってんだろ?」
廊下の端っこで二人でしゃべった。
「こ、好奇心というか、すみません。不快でしたよね」
「あ、フータのことじゃないよ。フータ意外の人ね、みんな」
「フータには自分から言うつもりだったよ。長くなっちゃうから放課後でいい?」
「はい。では、菜園で」
「うん」
フータには包み隠さず話した。
受け子のバイトに手を出しちゃったけど、私がお金に困っていることはフータも知ってるから、困った顔で「もうしないでね」と言ってくれた。
警察は共犯者を探してるらしくて、私はペロリンだったか、ピロリンだったかとは、一旦落ち合ったけど、一緒に家に行ったわけじゃないし、アイツは車で待ってるはずだったのに、あっという間にどっかに行ってしまって、共犯にすらなりっこないと言った。
「もう顔も覚えてないんだもん。これ以上、聞かれたって困るし」
「そうだったんですね。ミッション失敗して良かったですね」
「ホント、それ」
警察署でのことを思い出したら、急に怖くなってきて、手が震えた。
「フータさ、また手繋いでくれる?」
「はい、どうぞ」
そう言って、フータは手を差し出してくれた。
向き合ってたから、握手のようになってしまったけど、フータの手はあったかくて柔らかかった。