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4、誘拐なんてするわけない

 翌日は土曜日だった。

 一旦帰って、ジャージに着替えて学校で待ち合わせをした。


「フータ、お待たせ」

「僕も今、来ました」


 校舎の裏門をよじ登って学校に侵入した。


「また怒られっかな」

「今日の活動申請、月曜日に出しときます」

「さすが部長!」


 菜園は半分ぐちゃぐちゃだ。


「ねぇ、ニンジンもうダメ?」

「雨だったんで、根が乾ききってなければ、まだいけるかなぁって」

「マジで?!」


 お水をたくさん撒きながら、横になっちゃったニンジンの芽を植え直していった。


「正子さん、種の時より少し深めにしましょう」

「おっけ」


 黙々と作業した。たぶん3時間くらい。


「いっててぇ」


 立ち上がってグーンと腰を反らした。


「ずっと同じ体勢だと疲れますよね」


 フータがこっち見て笑った。


「もう、いい感じ?」

「そうですね。やれることはやりましたね」


 二人で来た道を戻る。

 途中のスーパーが私たちの分かれ道になる。


「正子さん、今日は帰りますか?」

「帰りたくないけど、毎日お邪魔しちゃ、さすがに悪くない?」

「僕も父さんも気にしませんけど、正子さんが気にするなら仕方ないです」

「気にしない!」


 即答だよね。


「買い物行こう!」


 フータとスーパーに入ろうとした時、なんでだろうな、視線が引っ張られた。てか、持ってかれた。


「ママ?」


 2年前に出てっちゃったママが、赤ちゃんを抱いてスーパーから出てきた。


「ごめん、フータ。やっぱり今日は帰る」


 私はママを追った。

 ママはスーパーの前に停めてある車に赤ちゃんを乗せた。

 それから、一人で反対側にあるパチンコ屋に入って行った。


「もう!」


 あんなのに子育てなんてできるわけないんだ。

 私が車を覗き込むと、赤ちゃんは寝てた。


「可愛い!」


 始めて見る、弟か妹か分かんないけど……黄色い服着た赤ちゃん、可愛いじゃん!


「ママが来るまで、お姉ちゃんが側にいてあげるね」


 隣に駐車してある車の陰に隠れて、携帯を取り出した。


「30分だけだからね。泣き声がしたら即アウトだから」


 ママへの怒りを堪えながら、警察に電話をする心の準備をして待った。

 20分経ったところで赤ちゃんの泣き声が聞こえて来た。


「もう!」


 私は車の窓にへばりついてベロベロバーをした。


「めっちゃ泣いてるじゃん!」


 車のドアを引っ張ってみた。


 ガンッ


 力いっぱい引っ張ったけど開かなくて、盗難防止のブザーが鳴り始めた。


「ゲッ!」


 うるさいよね。赤ちゃんはもっと泣いちゃった。


「ママ!」


 どうしよう、警察に電話したら、ママは育児放棄で捕まっちゃうんじゃない?

 そしたら、赤ちゃんの面倒は誰が見てくれるの?


 車のドアが開くんじゃないかって気がして、ガンガン引っ張った。


「おい!何してるんだ!」

「お、おまわり、さ、ん」


 なんだよ。すぐそこにいるなら、さっさと見付けてくれればよかったのに。


「あ、赤ちゃんが……」


 パトカーが2台、警察官が4人も来て大事になってきた。


 駐車場の騒ぎを聞きつけたのか、ママがパチンコ屋から出てきた。


「ま、さ、ちゃん?」

「マ、マ」


 警察官がママに近付いた。


「車の持ち主ですか?」

「はい」

「この子が車の中の赤ちゃんを見付けたようで」

「誘拐です」

「はぁ?」


 警察官は呆れた声を出したが、すぐに私を睨んだ。


「この子は別れた夫との娘で、私を恨んでます。ほんの一瞬、目を離した隙に……危なかったわ」


 ママ、何言ってるの?

 一瞬じゃないよ。

 20分は経ってたよ。


「大事には至ってないので、今回は大目に見てやってもらえないでしょうか」


 ママ?


「そうですね。未成年のようですし。今回は事件性は無いということでよろしいですか?」

「はい。お騒がせしました」


 なに、それ。


 警察官はパトカーに乗って行ってしまった。


「ママ、私、知って……」

「ママって呼ばないで」

「あ、ごめ。私、マ、パチンコ屋に入るとこ見かけて、20分は経ってたよ?」

「そんなわけないでしょ。ひがみ根性で私の後つけて、誘拐なんてしようとして!」

「誘拐なんてするわけないじゃん!」


 さっすがに頭にきた。


「あんたなんかに子育てできるわけないんだから!あんたなんかと一緒に居たら、この子が可哀想だよ!」


 私は大きな声で言って、走り出した。

 自分ちじゃなくて、フータんちに。


「フータ!フータ!」


 泣いてて鼻水出るし、走って息が切れるし、もう苦しくて、苦しくて……


「正子さん?」


 フータはすぐにドアを開けてくれた。


「誘拐犯って言われたぁ~なんでぇ~ママ、ひどいぃ~」

「ほら、タオル使って」


 泣き叫ぶ私を、フータはオロオロしながら慰めてくれた。

 私が泣き疲れて眠るまで、フータは頭を撫でてくれてた。




 ●●●




 日曜日の朝、泣き腫らして目が開かない私の顔を見て、フータが笑った。

 パパも、私に指をさして、お腹抱えて笑ってた。


「ひどい顔してるよ~正子ちゃん!」

「泣いたんで」

「普段キレイなだけに、この落差は……正子さん、面白すぎます!」

「え?楽しんで貰えて何よりです」


 私は歯を出して、ニッて笑った。


「「ギャハハハ~」」


 そんなに笑ってもらえるんなら、ずっとこのままでもいいや。






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