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3、正当防衛だっつーの

「お前、弱みでも握られてんの?」


 クラスの男子に言われた。


「は?」

「2年に付き纏われて、うざくない?」

「うざくないよ」


「お前の方がうざい」って言いたいのをグッと堪えた。

 早く放課後にならないかなぁ、フータと過ごす時間が待ち遠しかった。


 やばいバイトは、私からやめるって言わなくても、もう声がかからなかった。

 毎回上手くいかないから、要領悪いって思われたんだろうな。

 逆にラッキーってことで。


 授業なんてつまんない。

 進学するわけじゃないし、ママがいなくなってすぐに退学しようかと思った。

 でも、もっと友達といたかったし、なんとなく通っていたら3年生になっちゃって……それでも、もう仕事しないと生きてけないから、辞めなきゃなんだけど……初めて入ったけど、部活って楽しいから、もう少し続けようかな。

 せめてトマトとニンジンの収穫までは、フータと学校にいるのも悪くないな。


「正子さん」

「フータ、今日はなにするの?」

「今日は雨なので、部活は休みです」

「そなの?水やりしなくても、雑草抜かないの?」

「ドロドロになっちゃいますよ」


 がっかり……


「あ、でも、観察は毎日した方がいいですよね」

「だよね!観察、大事だよね!虫とかついてるといけないし!」


 いつも誰もいない校庭の隅っこに、人が集まっていた。

 私とフータの菜園に、同じクラスの奴らが何人も。


「なにしてんの?」


 見たら、傘で菜園をほじくり返している。


「やめてよ!」


 傘を投げ捨てて走り出した。


「正子さん!」


 フータが追いかけてきた。

 足遅っ!


「何してんの?やめてよ!」

「正子が手伝わされて可哀想だからよ、ちょっと減らしてやろうと思って」

「そーそー、まびき、だよ。まびき」


 ニンジンの最前列がやられてた。


「部活だよ。手伝わされてなんかない」

「ま、正子さん」


 ぜえぜえ言いながらフータが来た。


「フータ、ごめん……」

「ブタ?お前、ブタって呼んでんの?」

「ふうた、だよ。お願いだから、構わないでくれる?」


 話が通じない、こいつら、マジで嫌い。


「ブタさ、正子のどんな秘密握ってんだよ」


 一人がフータのシャツを掴んで、首をねじり上げた。


「どうせ、援交とか、サギとかじゃね?」

「ひ、秘密なんて……ない……」

「そうだよ。なんにも無いってば」


 フータを掴んでる手を振りほどこうと近付いた。


 ドンッ


 押されて、菜園に尻もちを着いた。


「もう!なにするの?ニンジンが……」


 その瞬間、フータがクラスメイトに殴りかかった。

 体格差はあるし、フータは、お世辞にも強くはなさそう。


「て、めぇ」


 フータのパンチは当たらなくて、代わりに投げ飛ばされて、また他のニンジンが潰れた。


「もうっ!」


 せっかくここまで育てたのに!

 緑色の小さな葉っぱが、綺麗に並んで生えてきた!

 ちょっととげとげしてて、すごく可愛い草なのに!

 気に入ってたのに!めっちゃ楽しみにしてたのに!


 私は起き上がると同時に、右手をグーにしてそいつの顔に飛ばした。


(あーん、ぱーんち!)


 そいつは1メートルくらい吹っ飛んで、鼻血を出した。




 ●●●




 学校の先生が保護者に連絡をした。

 来てくれたのは、殴られた男の子のママと、フータのパパだけだった。


「殴ったのは私だけど、先にそっちが……」

「菜園を見てたら、急に殴りかかって来たんだ」


 そんな奴いるわけないじゃん。

 誰が信じるんだよ……と、鼻で笑ってたけど、皆、そいつを信じた。

 なんで?私がいきなり殴る理由が無くない?


「正子は何か言えないことがあって、秘密を握られて困ってるんだ」

「そうなの?」


 んなわけ無いじゃん。


「見れば分かるだろ?じゃなきゃ、正子が菜園なんてするように見えるかよ」


 はぁ?じゃぁ、どう見えてるって言うんだよ。


「先生に話してみなさい。相談に乗るから」


 話すことなんて、なんも無いってば。

 その時、フータと目が合った。


 怒ってるよね。

 菜園のニンジン、半分ダメになっちゃった……


「黙ってちゃ分からないでしょ?何か言って頂戴」


 先生もうざい。


「放っといて」

「え?」

「私のことは放っておいて!」


 手や顔に着いた泥が乾いて、ピキピキと痛い。

 ドロドロになった私とフータの制服。


「どうも、お騒がせしました」


 無表情で謝る、フータのパパ。

 胸が痛くて血が流れてるかと思った。

 でも、泥は付いてるけど、血は付いてなかった。


「とりあえず、謝ろうか?」


 先生に促され、私は棒読みのセリフのように言った。

 フータは、初めて日本語を話す外国人のようだった。


「どーもすいませんでした」

「ドーモスイマセンデシタ」


 とりあえず帰っていいと言われたのは、それから一時間も意味不明な説明を聞いてからだった。


「父さん、ごめん」

「パパ、ごめんね」

「いや、気にするな。どう見てもあっちが悪い。ただ、大人っていうのは悪いと思っていなくても謝らなきゃならない時もある。君たちは立派な大人の対応だった」


 それからフータの家に行って、お風呂借りて、夕飯をごちそうになった。

 正直、今日は一人になったら泣いちゃいそうだったから、一緒に居れてよかった。


「正子ちゃん、よかったら今日は泊って行きなさい」

「ありがとう」






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