2、援助交際なんてするわけないでしょ
「僕んちに一緒に来ませんか?」
「なんで?」
「なんでって。ご飯をご馳走します」
「まじで?!」
フータが鞄を持ってくれて、一緒に帰った。
「おじゃましまーす」
私は、もう死んじゃった元々お婆ちゃんちだったところに住んでる。なかなかボロいんだけど、フータんちも負けてなかった。
「家は父子家庭なんだ」
「へえ、ママは?」
「10年くらい前に出て行った」
「へえ」
フータは制服の上にエプロンをして、冷蔵庫から肉と野菜を取り出した。
「でも、お父さんは働いてるから、食べ物ならあるんだ」
そう言って手際よく野菜を洗って切った。
「何か、手伝おっか?」
「じゃ、そこにあるお皿を出してください」
いい匂いがしてきて、また気が遠くなりかけた。
「もうできますから、正子先輩は座って待っててください」
「もうできるの?」
「ご飯はチンですけど、いいですか?」
「白飯?!めっちゃ嬉しい!」
野菜炒めとチンご飯、みそ汁をいただいた。
朝の残りだって、贅沢!
「うまっ!さいこー!」
「正子先輩、お腹減り過ぎて、何でも美味しいんだと思いますよ」
「いや!これはマジで、フータ天才!」
お代わりもしたかったけど、思いのほか量は食べられなくて、すぐに満腹になってしまった。また、何日か食べられないかと思うと、もっと食いだめをしておきたいところではあったけど……しょうがない。
「ただいま」
フータのパパが帰ってきた。
「お友達が来てるのか……お!女の子じゃないか!風太おまえ!彼女が出来たのか?!」
「違うよ。恥ずかしいから、そんなこと言わないでよ。学校の先輩だよ」
「そーか、そうだったのか。いやぁ、キレイな先輩だなぁ?!」
フータのパパは、フータとはちっとも似てない。
パパはイケメンだ。
「お邪魔してます。菜園部に入部したら、部長が夕飯をご馳走してくれました」
「そうでしたか。むさ苦しいところですみませんね。もう遅いから、風太、送って行きなさい……いや、高校生二人で歩かせる時間じゃないか。俺が送って行こう」
車に乗せてくれた。
「先輩ってことは、3年生か」
「はい」
「お母さんが心配してるだろう。連絡はしたのか?」
「ママは……家出しちゃって……パパは始めっからいないし、お婆ちゃんは、けっこー前に死んじゃったから……」
「一人で住んでるのか?」
「はい」
「……」
家の前は狭くて車が入れないから、一本前の通りで降ろしてもらった。
「もうすぐそこなので」
お礼を言って行こう落としたら、手を捕まれた。
「少ないけど、持って行きなさい」
二万円を握らせてくれた。
本当は受け取っちゃいけないって分かってるけど、今は、どうしてもお金がいる。
「必ずお返しします」
そう言って、深く頭を下げた。
●●●
「ちょっと、正子、援交の現場見られてたってよ!」
「はあ?」
「なんか、昨日、イケオジに手掴まれて、お金もらったらしいじゃん」
「何で知ってんの?」
「すごい噂だよぉ~」
フータのパパと一緒のところを見られたのか。
学年の違う階に行くと、先生に怒られちゃうんだけど、フータに謝っときたいから2年の教室に行った。
「フータいる?」
「あ……」
フータが走ってきた。
「なんか、ごめん」
「いえ。噂って、勘違いですよね。分かってます」
周りがザワザワとこっちを見てくるから、小さな声でしゃべろうと顔を近付けた。
「パパからお金借りたの。必ず返すからね」
「もらっちゃっていいんじゃないですか?」
「そうは行かないよ」
小柄なフータは私の陰に隠れて、取り巻きからは見えなかったと思う。
「あの、今日も部活来ますか?」
「やるの?行く」
放課後の約束をして教室に戻った。
借りた二万円で、なんとか今後も食いつないでいく方法を考えなくてはならない。
とりあえず、米がいるな、味噌と塩があれば、味付けはオッケーかな。
安くて、お腹に溜まるもの、栄養がありそうなもの、そんなことで私の頭はいっぱいだった。
「正子先輩、今日は水やって、雑草を抜きます」
「先輩はいらないよ。正子でいいよ」
「でも……」
「正子さん、でもいいよ」
「はい。正子さん」
どうやら、部員は私達だけらしい。
「けっこう広いですから、疲れたら休んでくださいね」
「うん。ありがとう」
校庭の端っこは、校舎の裏門に面していて、こっちから帰る生徒がジロジロ見てくる。
「正子さんって目立ちますよね」
「そーお?」
「美人な先輩って、有名です」
「有名税くれ」
「ははは。なんですかそれ、面白いですね。顔に似合わないセリフです」
「マジで。金に困ってるからね」
フータの言いたいことは何となく分かる。
昔から近寄りがたいってよく言われる。
美人だとも何度も言われたことがある。
そして、顔と性格が合ってないのだそうだ。
知ったこっちゃない。
見た目で性格が決まるわけないじゃん。
「フータは私といるの嫌じゃないの?」
「嫌?まさか、楽しいですよ」
「ほんと?ジロジロ見られても?」
「誰も僕のことは見てませんよ」
「そっか」
「……今日も夕飯……、一緒に食べますか?」
「わーい!」