逆ハーとはなんなのか、それを知るため我々は異世界へと旅立ったのだった
逆ハーしてた転生ヒロインが逆ハーではないと申し開きをしています。
「婚約者もいるような男ばかりを篭絡し、侍らせておきながら誤解。
言いわけももうちょっとマシなのを用意されては?」
あたしは、お国のお偉いさんとご令嬢たちに詰められています。
なぜか乙女ゲームに転生したあたし。諸事情により色んな男性を篭絡した結果です。
なぜならあたしが篭絡した男性が王家主催の夜会で婚約破棄してやんよ! どーん! (どや顔付き)をやらかしました。
あたし聞いてない。
金魚かコイになった気分ではくはくするあたし。
王様が強制的に関係者を隔離、今に至る。手際がよろしい。
なお、この事態を引き起こした男性たちは別室監禁中。
「誤解なんです……そんなつもりなかったんです……」
他に言いようがない。
「お金ですの?」
「違います」
「顔?」
「よろしいですけど、違います」
「栄華? 覚悟がございまして?」
「ちがうんですーっ!」
恥も外聞もなく喚くしかない。
「お前ら俺を下に見過ぎんだろ! ばかにしやがってとハニートラップ仕掛けたらバタバタと引っかかっただけなんですーっ!
入れ食いでしたなんでーっ!」
ほんと、なんで。
静まり返った室内。困惑しきりといった感じの侯爵令嬢様が、なにがあったのかと尋ねてきました。
お優しい。女神みたい。
「あのですね。
あたし田舎の聖女候補でこの王都にある学院で学び、城など各所に呼ばれて力の行使、つまり修行することになってます」
「ええ、ほかの候補と同じように」
「違うんです……。あたしひとり、平民のド田舎出身なんです……。生まれも育ちも能力も馬鹿にされてかっとなって!」
「なんですって?」
どよめくご令嬢たち。
「礼法もなにもないところから来たんです。できないって前提は当たり前なのに、できないってことを責められるのっておかしくないですか!? そう言ったら怠惰な奴とか言ったんですよ! そこの宰相閣下のご子息! どういう教育してんです?」
「そ、それはすまない?」
「あと? お茶会ですか? 主催しろと言うくせに失敗を認めない王子様もいますし? 嫌味ばかりで飽き飽きします」
「貴族の娘なら子供のころから習っていて普通ですわ」
「違うって言ってんでしょうにっ!」
「……それはごめんなさいね」
「こころのない、謝罪がほんとそっくりですね」
王妃様が引きつった微笑みを浮かべているが知るもんか。
どうせ、牢屋行きだ。
あと誰にするかと思って視線をとめたのはいかつい男性。
「唯一の癒し枠、騎士団長様のご子息もちょっと人の体力無視して山登りに連れていくし。
脳筋止めてくれます?」
「無理だ!」
「知ってます!」
なんだかわかりあった同士の微笑みをその奥様としてしまった。
「その他、色々あって、好意というより、屈服させてやるよ、この命にかけてもと頑張ったら、なんか、あんなに……。出来心でした。トラウマの上でタップダンス踊ったのはよくなかった。反省しています」
王様がちょっと居心地悪そうにしている。
「つまり、嫌がらせにあった。だから、仕掛けたと。
正式に告発は、無理か、無理だな」
自己解決している。
田舎の小娘VS権力者の息子。勝負にならん。どちらかが正しいというものでもない。権力のある方が正しい。曲がりなりにも法治国家であった前世が懐かしい。ブラック労働はこっちにも存在するので法律ががばがばでない分、あっちのほうがましような気がしている。
弱者は弱者のままに虐げられるもんである。
強者になるには取り入って食い殺すくらいの覚悟がいるの。
使える権力? 使うでしょ!
「我が息子たちが悪かったことは認めよう。
しかし、やり方というのが……」
「さしすせそ、で落ちました。正直、免疫無さなすぎでは」
「さしすせそ?」
「さすが、知らなかった、素敵です、センスある、そうなんですね、です」
あとは前世知識を使って、俺はキャバ嬢、男を狩る女と思い込んで微笑みまくっていた。
健気? むしり取ってやるわっ! くらいの気概である。
面白いように顔を赤らめるようになり、俺の理解者はおまえだけだレベルに。正直国防的にヤバいんじゃないかと思う。
怪訝そうな顔をしている国王陛下にお試ししてみることにした。
「王様の手際の良さはさすがです」
「うむ?」
「陛下がこんなにりりしい方であるとは知りませんでした」
「そ、そうか」
「本当に素敵です」
「照れるな」
「今日のお召し物もセンスあります」
「これは妻が、選んでくれたもので、あいつはセンスがいい」
「そうなんですね。仲睦まじく羨ましいです」
「そう見えるか」
「ということです。皆さま」
少々アレンジはあるが、大体この感じである。
照れてれしていた王様が真顔になっている。周囲の冷ややかな目線と王妃様だけが仕方のないと言いたげな表情。まんざらでもなさそうだ。ちょっと心証良くなったらいいな。
「でも、過剰なスキンシップがあったと」
「そこはその……殿方同士の友情的なアレです! 異性としてのアレではありません!」
とっても苦しい言いわけ。そこはなにか、俺はキャバ嬢と思ってたらなんかつい。
さすがに白い目で見られた。あははは。
見逃してくれ……。
「こほん。
本来は男の側でも断るべきではあるな。一方的に悪かったとは言わぬが、なにも処罰せぬわけにもいかぬ」
「うちで、拾います」
即行挙手された。
騎士団長様の奥様。
そして、なんと、侯爵令嬢様。
火花を散らしているのはなぜ。
「うちの嫁に」
「では、うちの養子にもらって義妹にしてから嫁に」
がしっと手を握られたのはなぜ? あたしの意見は、と思ったけど、地下牢行きよりはまし……。
「あー、聖女認定は剥奪させてもらう。
今期最有力者が……」
嘆く王様を後目にあたしはお役人たちに事情聴取されることになった。
なんでも、一部貴族のやり様に不満が出ていたが、上位者過ぎて従うしかなかったそうな。そこを今回の件を皮切りに調べまくりたいらしい。王様も非を認めたところがあるし、やつらは乗り気過ぎた。
その結果、パワハラ、セクハラ、ブラック労働の山が出てきて、ここに新たなる労働改革をされることになるとはあたしも思わなかったのである。
その過程で侯爵令嬢様も転生者であったことが判明したのは余談だろう。
なお、騎士団長のご子息の婚約者の方からはありがとうっと両手で握り締められた。なんでも登山ツライ、わかってくれない、周囲もわかってくれない、ツライ、だったらしい。あれもな……。子犬みたいな外見してるから子犬のごとき体力と思われたのだろう。奴は体力お化けだ。子犬だって体力有り余って飼い主を振り回して爆走することもある。
そして、あたしはソレに振り回されるようだ。
数年後、
「ねーねー、ボール投げって、ほんとに僕がボールを拾ってくる遊びなの?」
「そうですよ。お父様もそんな感じでした」
可愛らしい幼児が爆速で拾ってくるので投げる腕が上達していたりしたのだった。
逆ハーじゃないんなら何かと言えば、屈服させて征服するのである。きゅんは死に絶えた。
そして、好感度が低いうちは攻略対象が塩対応は往年の乙女ゲーの鉄板……。